第4章〜㉓〜
ー/ー時刻は、午前十一時四十五分ーーーーーー。
中嶋との会話を終えたオレは、校舎の生徒昇降口を飛び出し、校門へと向かう。
自分たちの通う高校から、空港行きのバスが出ている駅までは、徒歩二十分。
そして、バスの出発時刻は、正午ちょうどーーーーーー。
残暑の厳しさを気にせずにダッシュすれば、ギリギリ間に合うか、否か、というところだが……。
幸運なことに、オレの手元には、祖父さんから授けられた魔法の木製細工がある。
校門を出てすぐに、少しでも人目を避けるため、壁際に身体を隠したオレは、
(アイツが居なくなって、もう使うこともないかも知れないと思っていたが……)
そんなことを考えつつ、『時のコカリナ』の吹口を唇にあて、両手の指で六つの穴のすべてを塞ぐ。
小嶋夏海と交わした契約書には、この能力を使う時は、
『必ず双方の合意の元で行う』
と言う文言があったが、その契約書の有効期限は、夏休み終了とともに、終わりを告げている。
意識的に、そのことを確認し、コカリナの吹口から、思い切り息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
校庭に面した県道を走る自動車は、エンジン音とともに、一斉に動きを静止した。
これで、約十分弱は、時間が稼げる。
それでも、少しでも駅前のバス停への到着を早めるため、マスクを外して胸ポケットに入れたオレは、まだ、残暑が厳しい中、県道脇の歩道を駆け出した。
今日の天気が曇り空であることは、運が良かったのかも知れない。
周りのすべてが動きを止める中を駅前へと向かって駆ける間に、オレは、つい先ほどまでの中嶋由香との会話を思い出す。
教室を出た後、他の生徒の人目を避けて、廊下の隅にある階段の壁際に寄り、こちらが話しを聞く態勢が整ったことを確認して、語り出した。
「私が、坂井の想いをナツミに告げてほしい、と思ってるのは、あのコから、こんな話しを聞かせてもらったからなんだ……」
「ナツミには、ツカサ君のことについて、相談していたんだけど……私、周りに居る女の子の誰にでも優しくする彼を見てると、モヤモヤした気分になって、どうすれば良いのかわからなくなってたんだーーーーーーそのことをナツミに話したら、『それで、ユカは、ツカサさんを許せない、って感じる?』って聞いてきたんだよね」
「私が、『自分の気持ちをわかってほしい、とは思うけど……許せない、とは思わない』って、答えると、今度は、『モヤモヤした気持ちにさせられて、ツカサさんと距離を置きたいと思う? それとも、離れていると寂しい?』って、聞いてきたから、『寂しい想いのほうが強い』って答えたの。そうしたら、ナツミは、微笑みながら、『それなら、大丈夫だよ』って言って、お祖母ちゃんの話しをしてくれたの……」
「『私のお祖母ちゃんがね、こんなことを言ってたんだ。結婚相手を選ぶ時に大事なことが二つある、って……《一つ目は、どれだけ愛せるかで選ぶな。どれだけ許せるかで選びなさい》だって……ユカが、ツカサさんに対して想っていることが本当なら、私は大丈夫だと思う。素直に、ユカの気持ちを伝えたら、ツカサさんなら、わかってくれると思うよ』って……」
「ナツミのお祖母ちゃんの考え方が、正しいのかどうかは、私には、まだわからないけど……ナツミが、お祖母ちゃんの言ったことを、とても大切に感じていることだけはわかった。そのあと、『これって、結婚相手だけじゃなくて、色んな人間関係にもあてはまると思うよ……私は、この《大事な二つのこと》を守れなかった人たちを知ってるからね……』って、寂しそうに笑ってたから……それに、坂井も知ってるかもだけど、ナツミは、亡くなったお祖母ちゃんとの思い出をとても大事にしてたからね……」
「ナツミが、ピアノや吹奏楽に打ち込んでたのは、坂井も知ってる? あの娘が、楽器の演奏に熱心だったのは、演奏会をするたびに、お父さんとお母さんが一緒に観に来てくれたから、って理由もあると思うんだ。『自分が、がんばって演奏すれば、両親も喜んでくれて、二人の仲も良くなるんじゃないか?』『そんな風に考えていたこともある』って言ってたから……」
「日曜日に、坂井にたずねたことは、私が、ナツミに聞かれた質問と同じこと。坂井がナツミに対して想っていることが変わっていないなら……あの娘には、坂井の気持ちが伝わるハズだよ。だから、坂井には、『自分の素直な気持ちをナツミに伝えてほしい』って、私は、そう思うんだ……」
ここまで話しを聞かせてもらって、中嶋の考えは理解できたが……。
しかし、この期に及んで、自分の想いを伝えたところで、小嶋夏海には負担になってしまうけではないか……。
自分の『意気地のなさ』からだけでなく、今なら、心の底から、そう思う。
だが、そのことを中嶋由香に伝えると、彼女は、これまで以上に真剣な眼差しで、
「坂井、今から、私が言うことを良く聞いて……」
と、切り出し、
「坂井が、自分の想いを伝える前に、ナツミに、こう言うの……」
そう言って、オレの左耳に顔を寄せ、中嶋由香が考えるところの『小嶋夏海を振り向かせることができる《必殺の一言》』をつぶやいた。
彼女の助言に、
「本当に、それだけでイイのか……?」
と、疑問をぶつけると、自信あり気な恋愛アドバイザーは、
「その一言を言う時に、どんな行動を取るかは、坂井に任せる……」
そう言って、穏やかに微笑んだ。
先ほどまでの会話を脳内で回想し終えると、これまで我が母校に面した県道を北向きの方角に向かって駆けて来た進路を、今度は東側に向ける。
本来、周囲のすべてが停止した世界では意識する必要も無いのだろうが、青信号と左右の確認を行ってから道路を横断し、先を急ぐ。
駆け足で、一◯◯メートルほど進み、私鉄の高架線路が視界に入ったところで、突如として、繁華街の喧騒が耳に飛び込んできた。
=========Time Out End=========
中嶋との会話を終えたオレは、校舎の生徒昇降口を飛び出し、校門へと向かう。
自分たちの通う高校から、空港行きのバスが出ている駅までは、徒歩二十分。
そして、バスの出発時刻は、正午ちょうどーーーーーー。
残暑の厳しさを気にせずにダッシュすれば、ギリギリ間に合うか、否か、というところだが……。
幸運なことに、オレの手元には、祖父さんから授けられた魔法の木製細工がある。
校門を出てすぐに、少しでも人目を避けるため、壁際に身体を隠したオレは、
(アイツが居なくなって、もう使うこともないかも知れないと思っていたが……)
そんなことを考えつつ、『時のコカリナ』の吹口を唇にあて、両手の指で六つの穴のすべてを塞ぐ。
小嶋夏海と交わした契約書には、この能力を使う時は、
『必ず双方の合意の元で行う』
と言う文言があったが、その契約書の有効期限は、夏休み終了とともに、終わりを告げている。
意識的に、そのことを確認し、コカリナの吹口から、思い切り息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
校庭に面した県道を走る自動車は、エンジン音とともに、一斉に動きを静止した。
これで、約十分弱は、時間が稼げる。
それでも、少しでも駅前のバス停への到着を早めるため、マスクを外して胸ポケットに入れたオレは、まだ、残暑が厳しい中、県道脇の歩道を駆け出した。
今日の天気が曇り空であることは、運が良かったのかも知れない。
周りのすべてが動きを止める中を駅前へと向かって駆ける間に、オレは、つい先ほどまでの中嶋由香との会話を思い出す。
教室を出た後、他の生徒の人目を避けて、廊下の隅にある階段の壁際に寄り、こちらが話しを聞く態勢が整ったことを確認して、語り出した。
「私が、坂井の想いをナツミに告げてほしい、と思ってるのは、あのコから、こんな話しを聞かせてもらったからなんだ……」
「ナツミには、ツカサ君のことについて、相談していたんだけど……私、周りに居る女の子の誰にでも優しくする彼を見てると、モヤモヤした気分になって、どうすれば良いのかわからなくなってたんだーーーーーーそのことをナツミに話したら、『それで、ユカは、ツカサさんを許せない、って感じる?』って聞いてきたんだよね」
「私が、『自分の気持ちをわかってほしい、とは思うけど……許せない、とは思わない』って、答えると、今度は、『モヤモヤした気持ちにさせられて、ツカサさんと距離を置きたいと思う? それとも、離れていると寂しい?』って、聞いてきたから、『寂しい想いのほうが強い』って答えたの。そうしたら、ナツミは、微笑みながら、『それなら、大丈夫だよ』って言って、お祖母ちゃんの話しをしてくれたの……」
「『私のお祖母ちゃんがね、こんなことを言ってたんだ。結婚相手を選ぶ時に大事なことが二つある、って……《一つ目は、どれだけ愛せるかで選ぶな。どれだけ許せるかで選びなさい》だって……ユカが、ツカサさんに対して想っていることが本当なら、私は大丈夫だと思う。素直に、ユカの気持ちを伝えたら、ツカサさんなら、わかってくれると思うよ』って……」
「ナツミのお祖母ちゃんの考え方が、正しいのかどうかは、私には、まだわからないけど……ナツミが、お祖母ちゃんの言ったことを、とても大切に感じていることだけはわかった。そのあと、『これって、結婚相手だけじゃなくて、色んな人間関係にもあてはまると思うよ……私は、この《大事な二つのこと》を守れなかった人たちを知ってるからね……』って、寂しそうに笑ってたから……それに、坂井も知ってるかもだけど、ナツミは、亡くなったお祖母ちゃんとの思い出をとても大事にしてたからね……」
「ナツミが、ピアノや吹奏楽に打ち込んでたのは、坂井も知ってる? あの娘が、楽器の演奏に熱心だったのは、演奏会をするたびに、お父さんとお母さんが一緒に観に来てくれたから、って理由もあると思うんだ。『自分が、がんばって演奏すれば、両親も喜んでくれて、二人の仲も良くなるんじゃないか?』『そんな風に考えていたこともある』って言ってたから……」
「日曜日に、坂井にたずねたことは、私が、ナツミに聞かれた質問と同じこと。坂井がナツミに対して想っていることが変わっていないなら……あの娘には、坂井の気持ちが伝わるハズだよ。だから、坂井には、『自分の素直な気持ちをナツミに伝えてほしい』って、私は、そう思うんだ……」
ここまで話しを聞かせてもらって、中嶋の考えは理解できたが……。
しかし、この期に及んで、自分の想いを伝えたところで、小嶋夏海には負担になってしまうけではないか……。
自分の『意気地のなさ』からだけでなく、今なら、心の底から、そう思う。
だが、そのことを中嶋由香に伝えると、彼女は、これまで以上に真剣な眼差しで、
「坂井、今から、私が言うことを良く聞いて……」
と、切り出し、
「坂井が、自分の想いを伝える前に、ナツミに、こう言うの……」
そう言って、オレの左耳に顔を寄せ、中嶋由香が考えるところの『小嶋夏海を振り向かせることができる《必殺の一言》』をつぶやいた。
彼女の助言に、
「本当に、それだけでイイのか……?」
と、疑問をぶつけると、自信あり気な恋愛アドバイザーは、
「その一言を言う時に、どんな行動を取るかは、坂井に任せる……」
そう言って、穏やかに微笑んだ。
先ほどまでの会話を脳内で回想し終えると、これまで我が母校に面した県道を北向きの方角に向かって駆けて来た進路を、今度は東側に向ける。
本来、周囲のすべてが停止した世界では意識する必要も無いのだろうが、青信号と左右の確認を行ってから道路を横断し、先を急ぐ。
駆け足で、一◯◯メートルほど進み、私鉄の高架線路が視界に入ったところで、突如として、繁華街の喧騒が耳に飛び込んできた。
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