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第3章〜⑱〜

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事故未遂となった現場から戻ろう、と元いた場所に視線を移すと、歩道と駐輪場の敷地を隔てるブロック塀に、小嶋夏海が座り込んでいた。
 両腕を組んで、うつむく不自然なその姿勢に違和感を覚え、あわてて彼女のところに駆け寄ると、さらに驚いたことに、呼吸は乱れ、小刻みに身体が震えていた。

「おい、小嶋! 大丈夫か!?」

 彼女のそばで声を掛けると、ようやく、こちらに気付いたという感じで、

「あっ、坂井……ゴメン、ちょっと、気分が悪くなって……」

と、返事が返ってきた。
 しかし、その表情は、炎天下だというのに青ざめ、冷や汗だろうか、額には薄っすらと湿り気を帯びている。その場所に手を当ててみると、ひんやりとした感触があり、ただでさえ白い彼女の肌は蒼白ともいえる色に見える。

「とりあえず、モールの中に戻ろう! 自転車を駐輪場に戻してくるから、ちょっと、ここで待っててくれ」

 オレは、そう告げると、急いで二台の自転車を駐輪場のロック機構付きのサイクルラックに設置して、再び彼女のところに戻った。
 状態を確認するべく、顔色をうかがうと、呼吸の乱れや身体の震えは収まりつつあるようだが、表情は相変わらず青白く、体調が戻ったとは言えないようすだ。

「立って歩けるか? モールの中のベンチで休ませてもらおう」

 そう言うと、彼女はかすかにコクリとうなずき、立ち上がる。
 そうして歩き始めた足取りは、少し心もとなく感じられたものの、ショッピング・モールの中まで歩くには、支障のないようすだった。
 いつもより、ゆったりとしたテンポで、モール一階のベンチに移動すると、彼女をそこに座らせて、オレは、同じフロアにある巨大なスーパー・マーケットにミネラル・ウォーターを買いに走った。
 今の彼女のような症状の場合、常温のモノが良いのか、冷蔵されているモノが良いのか、判断がつかなかったが、体温が下がり気味だったことと、身体への負担が軽いと聞いたことがあったので、常温のミネラル・ウォーターを手に取り、レジ待ちの時間を惜しんで、セルフ会計機で支払いを済ませて、ベンチに戻る。
 彼女のそばに寄り、再び表情を確認すると、モールの外にいた時に比べると、幾分か顔色も戻り、落ち着いたようすに感じられた。

「ありがとう。もう大丈夫だと思うから……」

 そう言って、微笑もうとする彼女に、

「わかった。けど、無理はするなよ……とりあえず、落ち着いたら、これでも飲んでくれ」

と言って、常温のミネラル・ウォーターが入ったペットボトルを手渡す。

「常温にしてくれたんだ……坂井にしては気が利くじゃない?」

 今度は、いつものように、少し余裕のある笑みに感じられた。

「それだけ言えたら、大丈夫なのかもな……まぁ、無理せず、しばらく、ここで休ませてもらおうぜ。幸い、いつもの夏休みよりは、人出も少なそうだしな」

 着席禁止の印がある席を避けてベンチに腰掛けながら語ると、彼女も、

「そうね……そうさせてもらおうかな」

と、か細い声でつぶやきながら、ペットボトルを開封する。
 彼女の言葉に、「あぁ……」と、返答したあとオレは、

「そう言えば、さっきの件だが、小嶋の了承なしに勝手にコカリナの能力を使って悪かったな……けど、緊急事態だったってことで、ノーカウントにしてくれないか?」

と、問い掛けた。
 その言葉に、口をつけようとしていたペットボトルを口元から離して、

「当たり前じゃない! あの時、坂井がコカリナを使ってなかったら、あの男の子が、どうなっていたか……」

 彼女は、やや声を荒らげてそう言うと、また辛そうに表情をこわばらせる。
 突然、声を上げたようすに、こちらが驚いたのを見て取ったのか、

「あ、ゴメン……」

と、申し訳なさそうにつぶやいた。

「いや、こっちこそ済まない……」

 こちらも、謝罪の言葉を口にすると、彼女は、無言で首を横に振る。
 そうして、

「今日は、ちょっと、気分が優れないから、このまま帰らせてもらって良いかな? 坂井は、そのまま、学習室で課題を続けてくれて良いから……」

と、自身の体調に関する内容とともに、こちらに対する気遣いを伝えてきた。

「いや、オレも今日は色々あって、宿題は手につかなそうだし……小嶋が良ければ、家まで送らせてくれないか?」

 そう提案すると、彼女は、一瞬、考えたあと、

「迷惑を掛けて申し訳ないけど、そうしてくれるなら――――――」

と、少しホッとしたような表情で、こちらの申し出を受け入れてくれた。


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事故未遂となった現場から戻ろう、と元いた場所に視線を移すと、歩道と駐輪場の敷地を隔てるブロック塀に、小嶋夏海が座り込んでいた。
 両腕を組んで、うつむく不自然なその姿勢に違和感を覚え、あわてて彼女のところに駆け寄ると、さらに驚いたことに、呼吸は乱れ、小刻みに身体が震えていた。
「おい、小嶋! 大丈夫か!?」
 彼女のそばで声を掛けると、ようやく、こちらに気付いたという感じで、
「あっ、坂井……ゴメン、ちょっと、気分が悪くなって……」
と、返事が返ってきた。
 しかし、その表情は、炎天下だというのに青ざめ、冷や汗だろうか、額には薄っすらと湿り気を帯びている。その場所に手を当ててみると、ひんやりとした感触があり、ただでさえ白い彼女の肌は蒼白ともいえる色に見える。
「とりあえず、モールの中に戻ろう! 自転車を駐輪場に戻してくるから、ちょっと、ここで待っててくれ」
 オレは、そう告げると、急いで二台の自転車を駐輪場のロック機構付きのサイクルラックに設置して、再び彼女のところに戻った。
 状態を確認するべく、顔色をうかがうと、呼吸の乱れや身体の震えは収まりつつあるようだが、表情は相変わらず青白く、体調が戻ったとは言えないようすだ。
「立って歩けるか? モールの中のベンチで休ませてもらおう」
 そう言うと、彼女はかすかにコクリとうなずき、立ち上がる。
 そうして歩き始めた足取りは、少し心もとなく感じられたものの、ショッピング・モールの中まで歩くには、支障のないようすだった。
 いつもより、ゆったりとしたテンポで、モール一階のベンチに移動すると、彼女をそこに座らせて、オレは、同じフロアにある巨大なスーパー・マーケットにミネラル・ウォーターを買いに走った。
 今の彼女のような症状の場合、常温のモノが良いのか、冷蔵されているモノが良いのか、判断がつかなかったが、体温が下がり気味だったことと、身体への負担が軽いと聞いたことがあったので、常温のミネラル・ウォーターを手に取り、レジ待ちの時間を惜しんで、セルフ会計機で支払いを済ませて、ベンチに戻る。
 彼女のそばに寄り、再び表情を確認すると、モールの外にいた時に比べると、幾分か顔色も戻り、落ち着いたようすに感じられた。
「ありがとう。もう大丈夫だと思うから……」
 そう言って、微笑もうとする彼女に、
「わかった。けど、無理はするなよ……とりあえず、落ち着いたら、これでも飲んでくれ」
と言って、常温のミネラル・ウォーターが入ったペットボトルを手渡す。
「常温にしてくれたんだ……坂井にしては気が利くじゃない?」
 今度は、いつものように、少し余裕のある笑みに感じられた。
「それだけ言えたら、大丈夫なのかもな……まぁ、無理せず、しばらく、ここで休ませてもらおうぜ。幸い、いつもの夏休みよりは、人出も少なそうだしな」
 着席禁止の印がある席を避けてベンチに腰掛けながら語ると、彼女も、
「そうね……そうさせてもらおうかな」
と、か細い声でつぶやきながら、ペットボトルを開封する。
 彼女の言葉に、「あぁ……」と、返答したあとオレは、
「そう言えば、さっきの件だが、小嶋の了承なしに勝手にコカリナの能力を使って悪かったな……けど、緊急事態だったってことで、ノーカウントにしてくれないか?」
と、問い掛けた。
 その言葉に、口をつけようとしていたペットボトルを口元から離して、
「当たり前じゃない! あの時、坂井がコカリナを使ってなかったら、あの男の子が、どうなっていたか……」
 彼女は、やや声を荒らげてそう言うと、また辛そうに表情をこわばらせる。
 突然、声を上げたようすに、こちらが驚いたのを見て取ったのか、
「あ、ゴメン……」
と、申し訳なさそうにつぶやいた。
「いや、こっちこそ済まない……」
 こちらも、謝罪の言葉を口にすると、彼女は、無言で首を横に振る。
 そうして、
「今日は、ちょっと、気分が優れないから、このまま帰らせてもらって良いかな? 坂井は、そのまま、学習室で課題を続けてくれて良いから……」
と、自身の体調に関する内容とともに、こちらに対する気遣いを伝えてきた。
「いや、オレも今日は色々あって、宿題は手につかなそうだし……小嶋が良ければ、家まで送らせてくれないか?」
 そう提案すると、彼女は、一瞬、考えたあと、
「迷惑を掛けて申し訳ないけど、そうしてくれるなら――――――」
と、少しホッとしたような表情で、こちらの申し出を受け入れてくれた。