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第3章〜⑯〜

ー/ー



大嶋裕美子の()()しのおかげで、ドロ沼の口論という事態を避けることができたため、小嶋夏海とオレは、先週と同じように、図書館から、さほど距離の離れていないショッピングモールのフードコートで昼食をとった。
 大嶋から聞かされた中嶋とツカサさんの件が頭から離れなかったオレは、会話の内容に困るのではないか、と危惧していたのだが、幸いなことに、今日の午前中は、調べものが捗ったらしく、実験および調査のパートナーが、饒舌に昼までの成果と今後の展望を語ってくれたので、ランチ後のトークは途切れることなく、間を保つことができた。
 小嶋夏海の機嫌が直ったこと、そして、自分も、ツカサさんが調査に協力している、ということに対して、余計な疑念を持つ必要がなくなったので、その点は、双方の誤解(?)を解いてくれた大嶋には感謝したいところではあるが……。
 友人たちのことを考えると悩ましく、午前中とは違った理由で、午後もスッキリと『夏休みの友』に向き合う気分にはなれないだろうな、などと考えながら、ショッピング・モールの駐輪場で自転車を取り出し、図書館に戻ろうと、愛車を手押しで転がしながら、道路に出る。
 駐輪場の出入り口付近は、モールの敷地に沿って、緩やかなカーブを描く市道には、幅の広い歩道も設けられているが、そのカーブの頂点に当たる部分が信号のあるT字路になっていて、南に向かう車道からは、見通しが利きづらくなっている箇所だった。
 自転車を漕ぐ体勢に入ろうと、ペダルに足を掛けた時、オレの横を小学生くらいの男の子が、猛スピードで駆け抜けた。少年が、歩道と車道をスムーズに移動できるように設けられたゆるやかなスロープを利用して、一気に市道に出た瞬間、

「あっ……!!」

と、オレの少し後方にいた小嶋夏海が声をあげた。
 ほぼ同時に、

「タカシくん!!」

背後から、母親らしい若い女性が、悲鳴に近い声を上げる。
 少年の前方に目をやると、青信号で直進した水色の乗用車が、ゆるやかなカーブを曲がり、自転車目掛けて進んで来ていた。

「ッ…………!!!!」

 その光景に、声を失いながらも、咄嗟に首に掛けていた『時のコカリナ』を手にする。
 そのまま、親指と人差し指でコカリナを持ったまま、吹き口から、一気に息を吹き込んだ。

==========Time Out==========

 コカリナの音色とともに、耳鳴りのような音を感じる。と、同時に、世界が静止した。
 乗用車は、少年と自転車の数メートル手前で停止している。
 自分と少年までの距離は、五〜六メートルほど。
 冷静な判断ができていれば、停止時間の長さと少年との距離を計算して、余裕を持って動き出すことも可能だっただろうが、今の自分にその心のゆとりは、なかった。
 愛車である自転車を放り出し、少年のそばに駆け寄る。

「おりゃ〜!!!!」

と、声を上げて、ハンドルに手をかけている少年を抱えあげて、自転車から引き離し、車道と歩道の間にある生け垣の段差に腰掛けさせた。さらに、乗用車との接触を避けるため、乗り手を失って倒れている自転車も歩道側に引きずりだす。
 自転車を車道の中央に近い位置から移動させると、緊張感と一気に動いた疲労感とで、腰が抜け、少年の隣で尻もちを着く格好になってしまった。
 しばらく動けそうにもなかったので、その体勢のまま、息を整えているとーーーーーー。

=========Time Out End=========

キキ、キキキキィーーーーーッ

と、甲高い音が鳴り、目の前で水色の乗用車が、急ブレーキを掛けたのがわかった。

「タカシくん! 大丈夫!?」

 母親らしき女性は、少年に駆け寄って来て、我が子の無事を確認する。
 急停車したあと、路肩に移動した乗用車からも、男性ドライバーが降りてきて、

「大丈夫ですか!?」

母子に声を掛ける。
 現場を通り掛かった数人の通行人も、集まってきた。


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大嶋裕美子の|執《と》り|成《な》しのおかげで、ドロ沼の口論という事態を避けることができたため、小嶋夏海とオレは、先週と同じように、図書館から、さほど距離の離れていないショッピングモールのフードコートで昼食をとった。
 大嶋から聞かされた中嶋とツカサさんの件が頭から離れなかったオレは、会話の内容に困るのではないか、と危惧していたのだが、幸いなことに、今日の午前中は、調べものが捗ったらしく、実験および調査のパートナーが、饒舌に昼までの成果と今後の展望を語ってくれたので、ランチ後のトークは途切れることなく、間を保つことができた。
 小嶋夏海の機嫌が直ったこと、そして、自分も、ツカサさんが調査に協力している、ということに対して、余計な疑念を持つ必要がなくなったので、その点は、双方の誤解(?)を解いてくれた大嶋には感謝したいところではあるが……。
 友人たちのことを考えると悩ましく、午前中とは違った理由で、午後もスッキリと『夏休みの友』に向き合う気分にはなれないだろうな、などと考えながら、ショッピング・モールの駐輪場で自転車を取り出し、図書館に戻ろうと、愛車を手押しで転がしながら、道路に出る。
 駐輪場の出入り口付近は、モールの敷地に沿って、緩やかなカーブを描く市道には、幅の広い歩道も設けられているが、そのカーブの頂点に当たる部分が信号のあるT字路になっていて、南に向かう車道からは、見通しが利きづらくなっている箇所だった。
 自転車を漕ぐ体勢に入ろうと、ペダルに足を掛けた時、オレの横を小学生くらいの男の子が、猛スピードで駆け抜けた。少年が、歩道と車道をスムーズに移動できるように設けられたゆるやかなスロープを利用して、一気に市道に出た瞬間、
「あっ……!!」
と、オレの少し後方にいた小嶋夏海が声をあげた。
 ほぼ同時に、
「タカシくん!!」
背後から、母親らしい若い女性が、悲鳴に近い声を上げる。
 少年の前方に目をやると、青信号で直進した水色の乗用車が、ゆるやかなカーブを曲がり、自転車目掛けて進んで来ていた。
「ッ…………!!!!」
 その光景に、声を失いながらも、咄嗟に首に掛けていた『時のコカリナ』を手にする。
 そのまま、親指と人差し指でコカリナを持ったまま、吹き口から、一気に息を吹き込んだ。
==========Time Out==========
 コカリナの音色とともに、耳鳴りのような音を感じる。と、同時に、世界が静止した。
 乗用車は、少年と自転車の数メートル手前で停止している。
 自分と少年までの距離は、五〜六メートルほど。
 冷静な判断ができていれば、停止時間の長さと少年との距離を計算して、余裕を持って動き出すことも可能だっただろうが、今の自分にその心のゆとりは、なかった。
 愛車である自転車を放り出し、少年のそばに駆け寄る。
「おりゃ〜!!!!」
と、声を上げて、ハンドルに手をかけている少年を抱えあげて、自転車から引き離し、車道と歩道の間にある生け垣の段差に腰掛けさせた。さらに、乗用車との接触を避けるため、乗り手を失って倒れている自転車も歩道側に引きずりだす。
 自転車を車道の中央に近い位置から移動させると、緊張感と一気に動いた疲労感とで、腰が抜け、少年の隣で尻もちを着く格好になってしまった。
 しばらく動けそうにもなかったので、その体勢のまま、息を整えているとーーーーーー。
=========Time Out End=========
キキ、キキキキィーーーーーッ
と、甲高い音が鳴り、目の前で水色の乗用車が、急ブレーキを掛けたのがわかった。
「タカシくん! 大丈夫!?」
 母親らしき女性は、少年に駆け寄って来て、我が子の無事を確認する。
 急停車したあと、路肩に移動した乗用車からも、男性ドライバーが降りてきて、
「大丈夫ですか!?」
母子に声を掛ける。
 現場を通り掛かった数人の通行人も、集まってきた。