7話

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 あれから僕たちは、駅前から少し離れたベンチに腰掛けていた。  どちらも何をいえば良いのか、探り合いを続けていたのでずっと沈黙が続いていた。 「あの……ね。私……昔にね……」  どのくらい時間が経ったのだろうか、沈黙が重すぎてどうすれば良いのか考えても答えが出なくて、帰ろうかと言おうと思った瞬間、トウカがようやく口を開いた。  トウカがまだ高校生だった頃、夏期講習帰りの帰宅路を歩いていた時の話。  トウカは高校生の頃から、人目を引く容姿とその人あたりの良さから、今と変わらぬ男性人気を獲得していたらしく、その日も家まで送ると食い下がる何人もの男子をなんとか振り切り、自宅への道を急いでいたらしい。  塾からずっとつけ回して、家を探ろうとする男も居たらしく、トウカはそれを避けるためいつも家から少し遠くて、少し見通しの悪い公園の中を突っ切っていたらしい。  そしてその日は、曇り空で月明かりも届かない夜だった。  いつものように、公園を急ぎ足で通り抜けようとしたトウカは、後ろから強く手を引かれ転倒してしまった。  何事が起きたのか分からず、一瞬呆然としたものの、次の瞬間には恐怖を感じ慌てて身を起こそうとした所で、誰かに馬乗りになられた。  恐怖と状況がわからないパニックで、どうすればいいか分からず体がすくんでしまったトウカに、馬乗りになっている人物が声をかける。 「やぁトウカちゃん……俺が何度も声をかけて、夜道は危険だから送ってあげるって言ってたのにそれを無視して、こんな道を通るなんて……馬鹿だなぁ」  その声を聞いて、トウカはその人物の正体を知る。  塾で初めてあったときから、毎日、送ってあげると声をかけずっとつきまとってきていた人物だと。  確か花澤と言ったか……。トウカは彼の投げかけてくる獲物を狙うような目つきが苦手でいつもよりキツめな言葉で彼を避けていた。それが逆効果だったらしい。  トウカのその態度が、彼の中の暗い炎を燃え上がせてしまったようだ。 「もうさ、分からせてあげたほうが早いかなって。俺がどれだけ丁寧に説明してあげてもさトウカちゃんは、全く理解できないようだからさ、ならもう体に分からせて上げたほうが早いでしょ……。トウカちゃんが誰の女で有るかをさ。」  男の手がブラウスに伸びる。声を上げようにも恐怖で声が出ない。  逃げなきゃと思うのに、体は逆に恐怖で萎縮してしまい、指先一つ動かせない。 「このまま……トウカちゃんの胸を堪能するのもいいけど……余り時間をかけるのもなぁそういった楽しみは、後々においておいて……さっさと俺のものだって刻印をつけてあげる方が良いのかなぁ……」  暗く低い声で、男はいう。  力ずくで彼女を汚せば、彼女が手に入るという幼稚で、短絡的で、身勝手な論理を振りかざす。  トウカのブラウス、胸のあたりに伸びていた男の手に力が入る。  ビリッっという音とともに、ボタンが2つ弾け飛んだ。 「トウカちゃん……いや、トウカ……お前は俺のものだ……俺のものにしてやる。」  獰猛な熱に浮かされた声で男はいう。この先起こるべきことを想像して  熱く荒い息を吐きながら、ゆっくりと無慈悲に、トウカのブラウスを引き裂こうとする。 (もうだめ……)  トウカがそう諦めかけた瞬間、真っ白な光が二人を包んだ。 「何してるんだ、貴様!」  怒声が聞こえる。トウカにのしかかっていた重みが消える。そしていくつかの足音が起きる。 「トウカ、大丈夫か!」  聞き馴染みのある声が聞こえ、硬直していた体が一気に弛緩する。  凍りついていた喉が熱を取り戻す。まばたきを忘れていた目が動き始める    嗚咽…… 「怖かったよ……お父さん……」



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 あれから僕たちは、駅前から少し離れたベンチに腰掛けていた。  どちらも何をいえば良いのか、探り合いを続けていたのでずっと沈黙が続いていた。 「あの……ね。私……昔にね……」  どのくらい時間が経ったのだろうか、沈黙が重すぎてどうすれば良いのか考えても答えが出なくて、帰ろうかと言おうと思った瞬間、トウカがようやく口を開いた。  トウカがまだ高校生だった頃、夏期講習帰りの帰宅路を歩いていた時の話。  トウカは高校生の頃から、人目を引く容姿とその人あたりの良さから、今と変わらぬ男性人気を獲得していたらしく、その日も家まで送ると食い下がる何人もの男子をなんとか振り切り、自宅への道を急いでいたらしい。  塾からずっとつけ回して、家を探ろうとする男も居たらしく、トウカはそれを避けるためいつも家から少し遠くて、少し見通しの悪い公園の中を突っ切っていたらしい。  そしてその日は、曇り空で月明かりも届かない夜だった。  いつものように、公園を急ぎ足で通り抜けようとしたトウカは、後ろから強く手を引かれ転倒してしまった。  何事が起きたのか分からず、一瞬呆然としたものの、次の瞬間には恐怖を感じ慌てて身を起こそうとした所で、誰かに馬乗りになられた。  恐怖と状況がわからないパニックで、どうすればいいか分からず体がすくんでしまったトウカに、馬乗りになっている人物が声をかける。 「やぁトウカちゃん……俺が何度も声をかけて、夜道は危険だから送ってあげるって言ってたのにそれを無視して、こんな道を通るなんて……馬鹿だなぁ」  その声を聞いて、トウカはその人物の正体を知る。  塾で初めてあったときから、毎日、送ってあげると声をかけずっとつきまとってきていた人物だと。  確か花澤と言ったか……。トウカは彼の投げかけてくる獲物を狙うような目つきが苦手でいつもよりキツめな言葉で彼を避けていた。それが逆効果だったらしい。  トウカのその態度が、彼の中の暗い炎を燃え上がせてしまったようだ。 「もうさ、分からせてあげたほうが早いかなって。俺がどれだけ丁寧に説明してあげてもさトウカちゃんは、全く理解できないようだからさ、ならもう体に分からせて上げたほうが早いでしょ……。トウカちゃんが誰の女で有るかをさ。」  男の手がブラウスに伸びる。声を上げようにも恐怖で声が出ない。  逃げなきゃと思うのに、体は逆に恐怖で萎縮してしまい、指先一つ動かせない。 「このまま……トウカちゃんの胸を堪能するのもいいけど……余り時間をかけるのもなぁそういった楽しみは、後々においておいて……さっさと俺のものだって刻印をつけてあげる方が良いのかなぁ……」  暗く低い声で、男はいう。  力ずくで彼女を汚せば、彼女が手に入るという幼稚で、短絡的で、身勝手な論理を振りかざす。  トウカのブラウス、胸のあたりに伸びていた男の手に力が入る。  ビリッっという音とともに、ボタンが2つ弾け飛んだ。 「トウカちゃん……いや、トウカ……お前は俺のものだ……俺のものにしてやる。」  獰猛な熱に浮かされた声で男はいう。この先起こるべきことを想像して  熱く荒い息を吐きながら、ゆっくりと無慈悲に、トウカのブラウスを引き裂こうとする。 (もうだめ……)  トウカがそう諦めかけた瞬間、真っ白な光が二人を包んだ。 「何してるんだ、貴様!」  怒声が聞こえる。トウカにのしかかっていた重みが消える。そしていくつかの足音が起きる。 「トウカ、大丈夫か!」  聞き馴染みのある声が聞こえ、硬直していた体が一気に弛緩する。  凍りついていた喉が熱を取り戻す。まばたきを忘れていた目が動き始める    嗚咽…… 「怖かったよ……お父さん……」



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