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6話

ー/ー



 何秒?何分?何時間?
 一瞬のようで永遠のような時間が過ぎ去り、我に返った僕は少し慌てて、トウカの唇から離れる。トウカとキスをしたという興奮とも高揚とも取れる感覚を持ちながら、その反面トウカが不快じゃなかったか、とかちゃんと出来たのだろうかとか、そういった不安が急速に膨れ上がり、僕は恐る恐るトウカの顔を見た。
 トウカは嬉しそうな、それでいて少し不満があるような、なんとも言えない微妙な表情を浮かべ、しかし微笑みを浮かべて僕を見ていた。

「タツキ……やっと言える。私ね、タツキが好き。タツキと過ごす時間が、じゃなくてタツキが好き。」

 囁く様な小さな声。トウカの瞳が揺れていた。

「ぼ、僕は……、僕もトウカが好きだよ。」

 ちゃんと笑えてるのかわからない。ちゃんと声に出せたかもわからない。
 だけど僕はトウカのくれた、とても幸せで、とても嬉しい言葉に応える。
 僕は幸せものだ、これほどまでに大切な人と、触れ合うことが出来て。
 そしてその思いを聞くことが出来たのだから。

 僕はこの時、心の中に満たされていく幸せしか見えていなかった。
 その幸せという名の液体の中に、ほんの一滴だけ紛れ込んでいた異物に目を向けることが出来て居なかった。
 そしてその異物が、僕とトウカの関係を、少しづつ蝕んでいくことにも気がつくことが出来なかった。

 本格的な夏が来た。
 僕はバイトと課題と数少ない友人との交流で、トウカと過ごす時間をあまり多く取ることが出来なくなっていた。
 トウカも、数多くの友人に誘われて旅行に行ったり、バイトをしたりで僕との時間を捻出するのに苦労しているようだった。
 夏は長期休みがあり、それにより交際費が普段より格段にかかるようになりその捻出のために、バイトを行わなければならなくなる。悪循環を生み出しても居た。

 それでも僕たちは、必死でスケジューリングして、2週間に1回はデートを重ねるようにしていた。
 二人の関係は特に進展もせず、キスのあの日以来、していなかった。

「奥手すぎるだろ……一度キスしてるんだし、別れ際にとかに軽くすればいいじゃんか」

 と友人に冷やかされるが、僕から積極的に求めることはどうしても恥ずかしさが勝ち。そしてトウカもやっぱり勇気が出ないようで、いつも別れ際には少し寂しそうななにか言いたそうな、微妙な笑みを浮かべているけれども、だからといってなにかアクションを起こそうとするわけでもなく、いつもそのままサヨナラをしていた。
 デートの時はちゃんと手を繋いだり、時には指と指を絡ませた「恋人つなぎ」もしている。

 僕はトウカと一緒に過ごしていることに満足しているから、特に不満はないのだけれど友人からは理解は得られていないようだ。
 もっと押せと異口同音に言われてしまう。

 恋愛経験のない僕は、友人たちから悉くそう言われてしまうと、そう言うものなのかなと思ってしまう部分もあって、だから今日のデートの別れ際は、勇気を出そうと決めていた。

 余り時間が作れなかった日だったので、お互いのバイト上がりの時間に合わせて駅で待ち合わせて、その後友人から美味しいと聞いていた洋食屋に立ち寄って食事を楽しみ会えなかった時間でお互いが、どう過ごしていたかとか、バイト先はどうだったかとか他愛もない話で、笑いあい、良い時間になったからと店を出て駅まで歩く。

「お前そんな奥手だと、彼女から振られるぞ」

 何気ない友人の一言がずっと頭の中を巡っている。
 そればかりに意識を取られて、ふと気がついたらもう駅は眼の前になっていた。

「最近、なかなか会えないけど、また時間を合わせて、少しでも良いから会いたいね。」

 トウカが無邪気に笑いかけてくる。
 僕の目はトウカの唇から離れなかった。

「トウカ……」

 僕はそう呼びかけて、彼女の手を引き胸の中にトウカを抱き寄せた。

「えっ……、ぃやっ……」

 本当に小さな声。なぜ聞こえたのかわからないほどに小さな……拒絶の声。
 でもはっきり聞こえた。僕の動きが凍りつく。
 繋いでいたてから力が抜け、抱きしめようとした腕はだらしなく下がり、僕は驚いたままぎこちなくトウカを見る。

「あ……、ち、違うの、驚いて……驚いただけで……嫌なんじゃなくて!」

 トウカの顔から血の気が引いていく。切れ長の目は大きく見開かれ唇が小さく震えていた。
(嫌がっていた、拒絶された、早まった、やってしまった、嫌われた)
 否定的な、ネガティブな考えに支配され、僕は無意識に、震えながら一歩、また一歩と、トウカから離れてしまう。

「え……あ……ごめ……」

 うまく声が出ない。心臓は早鐘のようにドクドクとなっているのがわかる。

「タツ……キ、違うの。違うから……ね、お願い……話を聞いて……違うから」

 トウカの必死の声に、辛うじて僕の足は踏みとどまることを選んだ。
 その声がなければ、僕は全力で走り出していただろう。この場から逃げたくて。
 トウカから拒否されたという現実から逃避したくて……。

「ね、タツキ。話すから。全部話すから。お願いだから……逃げないで。話を聞いて」

 トウカの声が徐々に湿り気を帯び始め、その声がか細く震えていく。
 トウカは……泣いていた。


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 何秒?何分?何時間?
 一瞬のようで永遠のような時間が過ぎ去り、我に返った僕は少し慌てて、トウカの唇から離れる。トウカとキスをしたという興奮とも高揚とも取れる感覚を持ちながら、その反面トウカが不快じゃなかったか、とかちゃんと出来たのだろうかとか、そういった不安が急速に膨れ上がり、僕は恐る恐るトウカの顔を見た。
 トウカは嬉しそうな、それでいて少し不満があるような、なんとも言えない微妙な表情を浮かべ、しかし微笑みを浮かべて僕を見ていた。
「タツキ……やっと言える。私ね、タツキが好き。タツキと過ごす時間が、じゃなくてタツキが好き。」
 囁く様な小さな声。トウカの瞳が揺れていた。
「ぼ、僕は……、僕もトウカが好きだよ。」
 ちゃんと笑えてるのかわからない。ちゃんと声に出せたかもわからない。
 だけど僕はトウカのくれた、とても幸せで、とても嬉しい言葉に応える。
 僕は幸せものだ、これほどまでに大切な人と、触れ合うことが出来て。
 そしてその思いを聞くことが出来たのだから。
 僕はこの時、心の中に満たされていく幸せしか見えていなかった。
 その幸せという名の液体の中に、ほんの一滴だけ紛れ込んでいた異物に目を向けることが出来て居なかった。
 そしてその異物が、僕とトウカの関係を、少しづつ蝕んでいくことにも気がつくことが出来なかった。
 本格的な夏が来た。
 僕はバイトと課題と数少ない友人との交流で、トウカと過ごす時間をあまり多く取ることが出来なくなっていた。
 トウカも、数多くの友人に誘われて旅行に行ったり、バイトをしたりで僕との時間を捻出するのに苦労しているようだった。
 夏は長期休みがあり、それにより交際費が普段より格段にかかるようになりその捻出のために、バイトを行わなければならなくなる。悪循環を生み出しても居た。
 それでも僕たちは、必死でスケジューリングして、2週間に1回はデートを重ねるようにしていた。
 二人の関係は特に進展もせず、キスのあの日以来、していなかった。
「奥手すぎるだろ……一度キスしてるんだし、別れ際にとかに軽くすればいいじゃんか」
 と友人に冷やかされるが、僕から積極的に求めることはどうしても恥ずかしさが勝ち。そしてトウカもやっぱり勇気が出ないようで、いつも別れ際には少し寂しそうななにか言いたそうな、微妙な笑みを浮かべているけれども、だからといってなにかアクションを起こそうとするわけでもなく、いつもそのままサヨナラをしていた。
 デートの時はちゃんと手を繋いだり、時には指と指を絡ませた「恋人つなぎ」もしている。
 僕はトウカと一緒に過ごしていることに満足しているから、特に不満はないのだけれど友人からは理解は得られていないようだ。
 もっと押せと異口同音に言われてしまう。
 恋愛経験のない僕は、友人たちから悉くそう言われてしまうと、そう言うものなのかなと思ってしまう部分もあって、だから今日のデートの別れ際は、勇気を出そうと決めていた。
 余り時間が作れなかった日だったので、お互いのバイト上がりの時間に合わせて駅で待ち合わせて、その後友人から美味しいと聞いていた洋食屋に立ち寄って食事を楽しみ会えなかった時間でお互いが、どう過ごしていたかとか、バイト先はどうだったかとか他愛もない話で、笑いあい、良い時間になったからと店を出て駅まで歩く。
「お前そんな奥手だと、彼女から振られるぞ」
 何気ない友人の一言がずっと頭の中を巡っている。
 そればかりに意識を取られて、ふと気がついたらもう駅は眼の前になっていた。
「最近、なかなか会えないけど、また時間を合わせて、少しでも良いから会いたいね。」
 トウカが無邪気に笑いかけてくる。
 僕の目はトウカの唇から離れなかった。
「トウカ……」
 僕はそう呼びかけて、彼女の手を引き胸の中にトウカを抱き寄せた。
「えっ……、ぃやっ……」
 本当に小さな声。なぜ聞こえたのかわからないほどに小さな……拒絶の声。
 でもはっきり聞こえた。僕の動きが凍りつく。
 繋いでいたてから力が抜け、抱きしめようとした腕はだらしなく下がり、僕は驚いたままぎこちなくトウカを見る。
「あ……、ち、違うの、驚いて……驚いただけで……嫌なんじゃなくて!」
 トウカの顔から血の気が引いていく。切れ長の目は大きく見開かれ唇が小さく震えていた。
(嫌がっていた、拒絶された、早まった、やってしまった、嫌われた)
 否定的な、ネガティブな考えに支配され、僕は無意識に、震えながら一歩、また一歩と、トウカから離れてしまう。
「え……あ……ごめ……」
 うまく声が出ない。心臓は早鐘のようにドクドクとなっているのがわかる。
「タツ……キ、違うの。違うから……ね、お願い……話を聞いて……違うから」
 トウカの必死の声に、辛うじて僕の足は踏みとどまることを選んだ。
 その声がなければ、僕は全力で走り出していただろう。この場から逃げたくて。
 トウカから拒否されたという現実から逃避したくて……。
「ね、タツキ。話すから。全部話すから。お願いだから……逃げないで。話を聞いて」
 トウカの声が徐々に湿り気を帯び始め、その声がか細く震えていく。
 トウカは……泣いていた。