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Solispia Spring Short-stories応募作品

ー/ー



 封印された禁書を求め、もう何年目になるんだろう。頭では望んではいけないと、わかってはいたんだ。
 引き寄せられるように、とある離島へとやってきたオレ。次の便は三ヶ月後だそうな。
 名もない島には通常、サバイバル生活を経験したり、修行で訪れる人が大半だ。なので、目的がバレないよう、前者の装いをして入りこんでる。
 「あんた、それ以上奥に行ったら危険だぞ。そっちは未開拓地なんだってさ」
 「ご忠告どうも。オレ、スリルを求めてきたから」
 「あ~、成程。若いもんな。ただ、気をつけなよ。死んじまったら何もないからさ。ええっと」
 「ユニ」
 「ユニか。俺はフィジル、また次の便で会おう」
 と、右手を差しだす男。おそらく、二十歳ぐらいだろう。握り返した手には、一般人とは違う感触があった。
 まあ、あいにく剣は使えない部類なので、詳しくは感じとれない。
 挨拶をかわすと、俺は木々茂るほうへと歩いていった。
 たまにいるんだよな、ああいう気さくな奴って。オレとは逆の性質だから眩しく見えちまう。兄ちゃんが生きてれば、同じぐらいか。
 決して忘れることなんてできない過去を思いだす。オレは伸びまくったツタに八つ当たりしながら前へと進んでいく。
 島の中央付近に近づくほど、おかしなことに気づいた。未開拓地にしてはツタの量に違いがあったのだ。それに、誰かが通った明らかな形跡がある。
 証拠に、より高い木々の枝は日の光を遮るほど伸びまくってるのに、足元にはほぼ新芽しかない。本当に誰も通っていないのなら、こんな風にはならないはず。
 「ダメ元できたけど。今回はホントに当たりかもしれないな」
 思わず独り言をつぶやいてしまうが、もう慣れた。一人旅をしてると多くなるんだと思う。
 一歩一歩、確実に歩いていくと、うっすらと張られた結界があった。魔法に携わってなければ素通りしてしまうぐらいに、薄い。目くらましの一種だ。たぶん、そのまま通過しようものならどこか別の場所に飛ばされて、無限ループに陥るタイプのヤツな。
 自分が通れるぐらいの隙間をつくり潜り抜けた先には、場違いな神殿があった。大都市にある王宮すら霞んでしまうだろう。
 とはいえ、あいにく建造物に興味はない。用があるのは本だけ。かなうはずのない願いをもかなえる禁書だけだ。
 神殿には誰もおらず、出入り自由らしい。犬みたいな置物があるが、ただの石像で魔法はかかっていない。
 ま、誤魔化してきたんだったらいらないよな、普通。にしても不用心だとは思うけど。
 発現していた魔法は至極簡単な構成だったので、勉強してる人間なら誰でも解ける。にしても、何かがひっかかる。
 知り合いのトレジャーハンターから聞いた話だが、お宝を守る罠は面倒なものか、ものすごく恐ろしいものらしいし。
 何かが飛んでこないか警戒しながら進むと、すぐに行き止まりになった。というか、祭壇しかない建物だったらしく、飾り気が全くない。どこまでいっても白い部屋だ。
 そんな中心には、本が規則正しく上下に動きながら浮いている。
 すぐにわかるぐらい、強い魔力が宿ってるな。間違いなさそうだ。
 どうやらようやく当たりを引けたらしい。今まではデマしかなかったけど。
 ゆっくりと、足音を立てないようにして近づいていく。
 手にとろうとした瞬間、周囲に魔法陣が現れ、直後闇に包まれた。
 目に光が戻ると、歓声が耳を貫いた。割れんばかりの声たちは、どうやらとある一点に注がれているようだ。
 周囲を見ると、円形状の建物の中心に男が二人、戦っていた。オレが立っているところは客席の中でも一番高い場所らしく、席が建物と同じ形で階段状に席在している。
 いわゆる、闘技場だった。しかし、今では法律で禁止されてる国が多いし、あったとしても死体がでる勝負は絶対にしない。
 「次が決勝か。楽しみだな」
 「ああ。それにしてもさ、戦える奴なんだから兵士にすりゃいいのにな」
 「それ思った。てか、皆そう考えてるだろ」
 「まあな。王様は何を考えてるのやら」
 どうやらここ、何らかの戦いに巻きこまれてるようだな。面倒事は関わらないのが一番だが、ここがどこかを調べないと。
 「もしもし。つかぬことを伺いますが」
 「しっ。兵に聞かれたら首が飛ぶぞ」
 「そうだな。危ない危ない」
 「あの~、すみません」
 「お。もうそろそろ次の試合が始まるな」
 「回復係が優秀だな。ちょっと選手には気の毒だが、テンポがよくていい」
 シカトかよっ。イイ性格してんじゃないか。
 拳をうならせたい気持ちを抑え、別の人に話しかける。だが、結果は同様だった。
 まさか、気づかれてないのか。さっきの二人組はそこまで騒がしくなかったし。
 ふと自分の足元を見ると、影が存在していなかった。あの本、一体どこに飛ばしたんだ。
 手の甲をつねっても痛みを感じなかったので、おそらく夢でも見てるのだろう。とりあえず、様子を伺うことに。
 決勝戦は小柄な戦士がマッチョなモヒカンをぶっ飛ばして決着がついた。外壁に頭から激突したから無事ではなさそうだ。
 審判らしき人が近づいて、しばらくすると右手を上げた。直後、場内は先程よりも大きな狂喜に包まれる。
 『よくぞ激戦を潜り抜けた。褒美にその体を使ってやろう』
 響き渡るドスの利いた声は、人間のとは違う魔力を感じた。だが時すでに遅しで、優勝者は突如出現した黒い穴に吸いこまれてしまう。
 穴からでてきた血の量を見るからに、もう助からないだろう。阿鼻叫喚と化した闘技場は、我先にと逃げだす観客であふれかえる。
 『馬鹿な奴らだ。願いを叶えるには代償が必要だと言うのに』
 代償、か。確かにその通り、だよな。
 『そうだ小僧。貴様の願いは叶えられん。さしもの我も理を覆すことは出来ぬ』
 「っ。理不尽に殺されたってのにか」
 『人間如きの事情なぞ知らん。過ぎたる大望は身を滅ぼすだけではすまぬのだ。この国の様にな』
 「あんたは、一体」
 『名などとうの彼方に忘れたが。貴様の求める力の一端、とだけ伝えておこう』
 そう話すと、黒い穴は小さくなっていき、やがて消滅する。そして、気づけば元の場所に戻っていた。
 思わず周囲を見渡すと、何の変化もなさそうだった。
 『さあて。貴様は我に何を捧げるのだ』
 「叶わないなら捧げるもクソもあるか」
 『似たような願いならば叶えられるぞ』
 「似たような願いだって?」
 この本は何をいってるんだ。意味がわからない。
 『貴様はまだ若い。理解出来なくとも不思議ではないか』
 本から発せられた声は勝手に納得すると、ゆっくりと、天高く上っていく。
 強く光ったと思ったら、巨大な毛玉が現れた。びっしりと生えたワタゲみたいなモノは、小さな動物みたいな手足をだし、最後に頭を中から出現させた。ぬいぐるみみたく、可愛らしい外見だ。
 「せ、せい、じゅう、か。もしかして」
 『そう呼ばれる事もあったかもしれん』
 「せめて見た目と声のギャップ何とかしたら」
 『突っ込む所はそこじゃなかろうっ』
 いやいや、重要じゃないか。いかにも危険人物的な声なのに容姿がぬいぐるみっぽいって。
 『ったく。貴様の様な輩は後を絶たんが、最低条件をクリアしたのでな。故に使命を与えると同時に奥底に眠る願いを叶えてやろう』
 「条件?」
 『願いを叶えるには相応の代償が必要、という原理だ。それすら分からぬ阿呆が多くてな』
 はあ、とため息をつく毛玉。理解しかねるが、魔法を覚えたいなら体系を学ばないといけないのと同じだろうか。
 『それに、久々に人間共を見たくなった。ちゃんと過去から学んでいるのかを、な』
 ふよふよ、と近づいてくる毛玉。耳が長ければウサギかもしれない。
 『行くぞユニ。準備を済ませて待たせてある』
 「準備って」
 ってかいつの間にオレの名前を知ったんだよ。
 脳みそが停止してるので、とりあえずついてった。太陽の光が眩しく、手で目を覆ってしまう。
 慣れてくると、目の前に人が立っていた。確か、あの人は。
 「ご無沙汰しております」
 『うむ。息災の様だな』
 「はい。希望の地はございますか」
 『無い。こやつに任せる』
 「畏まりました」
 うやうやしいお辞儀が終わると、
 「三ヶ月ぶりだな。改めてよろしく」
 「フィジル、だったよな。どういう事なんだよ」
 「このお方は六大属性の一柱だ。御名(みな)は言えないが」
 「は? この毛玉がっ」
 『誰が毛玉だ無礼者っ』
 「あー、落ち着いてください。彼に悪気はないですから。ともかくだ。これからあんたは、世界を回って人助けをするんだ。俺はお目付け役だよ」
 「ちょっと待ってくれよ。そんな勝手に」
 『どうせやる事無いのだろう。ならば見識を広める為に旅するが良い』
 我を目覚めさせたのが運の尽きだ、と毛玉。これも力を求めた代償、ってヤツなのかね。
 「本来は代々の神官が務めていたが。とうの昔に滅んでしまったからな。代わりを頼みたい」
 「代わりっていわれてもなあ」
 「俺も手伝うから。どちらにしても船がもうすぐ到着する。そこまで移動しよう」
 まあ、禁書がなくなったんならこの島には用ないしな。
 何ともいえない心情で船に乗りこむ。今や地平線上に見える島は、夕日に照らされていた。
 「ほれ」
 声とともに差しだされた飲み物。お礼を伝え、のどを潤す。
 「これからどうするんだ」
 「どうするっつってもなあ」
 「行きたい場所とかは」
 「うーん、特には」
 「じゃあ行ったことない場所は」
 「西側はないけど」
 「ならそちらを回ってみようか。多少なら案内できるし」
 「え。どうやって許可とるんだよ」
 「北部にある国境国家に知り合いがいるんだ。事情を話せば行き来できると思う」
 「あの、光翼族(こうよくぞく)と闇翼族(あんよくぞく)がこちゃ混ぜに住んでるっていうところ?」
 「そうだ。混血が多いせいか、寛容な国でさ。昔世話になったんだ」
 「昔って」
 どう見ても二十代前後なんだが。ただ、闇翼族のお偉いさんは寿命が長い。もしかしたら、血がはいってるのかもしれないな。もちろん、プライバシーに関するから黙っておく。
 「ふふ。君とは仲良くなれそうだ。風邪ひかないようにな」
 と、言い残して戻るフィジル。毛玉は部屋で寝てるのかもしれない。
 ひょんなきっかけから、旅が続く事になるとは思わなかったけど。まあ、これはこれで面白くなる、かは知らんけど。せめてそうなってくれ。
 沈んでいく太陽がまた昇ってくるように、人生もできてるのかもしれない。


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 引き寄せられるように、とある離島へとやってきたオレ。次の便は三ヶ月後だそうな。
 名もない島には通常、サバイバル生活を経験したり、修行で訪れる人が大半だ。なので、目的がバレないよう、前者の装いをして入りこんでる。
 「あんた、それ以上奥に行ったら危険だぞ。そっちは未開拓地なんだってさ」
 「ご忠告どうも。オレ、スリルを求めてきたから」
 「あ~、成程。若いもんな。ただ、気をつけなよ。死んじまったら何もないからさ。ええっと」
 「ユニ」
 「ユニか。俺はフィジル、また次の便で会おう」
 と、右手を差しだす男。おそらく、二十歳ぐらいだろう。握り返した手には、一般人とは違う感触があった。
 まあ、あいにく剣は使えない部類なので、詳しくは感じとれない。
 挨拶をかわすと、俺は木々茂るほうへと歩いていった。
 たまにいるんだよな、ああいう気さくな奴って。オレとは逆の性質だから眩しく見えちまう。兄ちゃんが生きてれば、同じぐらいか。
 決して忘れることなんてできない過去を思いだす。オレは伸びまくったツタに八つ当たりしながら前へと進んでいく。
 島の中央付近に近づくほど、おかしなことに気づいた。未開拓地にしてはツタの量に違いがあったのだ。それに、誰かが通った明らかな形跡がある。
 証拠に、より高い木々の枝は日の光を遮るほど伸びまくってるのに、足元にはほぼ新芽しかない。本当に誰も通っていないのなら、こんな風にはならないはず。
 「ダメ元できたけど。今回はホントに当たりかもしれないな」
 思わず独り言をつぶやいてしまうが、もう慣れた。一人旅をしてると多くなるんだと思う。
 一歩一歩、確実に歩いていくと、うっすらと張られた結界があった。魔法に携わってなければ素通りしてしまうぐらいに、薄い。目くらましの一種だ。たぶん、そのまま通過しようものならどこか別の場所に飛ばされて、無限ループに陥るタイプのヤツな。
 自分が通れるぐらいの隙間をつくり潜り抜けた先には、場違いな神殿があった。大都市にある王宮すら霞んでしまうだろう。
 とはいえ、あいにく建造物に興味はない。用があるのは本だけ。かなうはずのない願いをもかなえる禁書だけだ。
 神殿には誰もおらず、出入り自由らしい。犬みたいな置物があるが、ただの石像で魔法はかかっていない。
 ま、誤魔化してきたんだったらいらないよな、普通。にしても不用心だとは思うけど。
 発現していた魔法は至極簡単な構成だったので、勉強してる人間なら誰でも解ける。にしても、何かがひっかかる。
 知り合いのトレジャーハンターから聞いた話だが、お宝を守る罠は面倒なものか、ものすごく恐ろしいものらしいし。
 何かが飛んでこないか警戒しながら進むと、すぐに行き止まりになった。というか、祭壇しかない建物だったらしく、飾り気が全くない。どこまでいっても白い部屋だ。
 そんな中心には、本が規則正しく上下に動きながら浮いている。
 すぐにわかるぐらい、強い魔力が宿ってるな。間違いなさそうだ。
 どうやらようやく当たりを引けたらしい。今まではデマしかなかったけど。
 ゆっくりと、足音を立てないようにして近づいていく。
 手にとろうとした瞬間、周囲に魔法陣が現れ、直後闇に包まれた。
 目に光が戻ると、歓声が耳を貫いた。割れんばかりの声たちは、どうやらとある一点に注がれているようだ。
 周囲を見ると、円形状の建物の中心に男が二人、戦っていた。オレが立っているところは客席の中でも一番高い場所らしく、席が建物と同じ形で階段状に席在している。
 いわゆる、闘技場だった。しかし、今では法律で禁止されてる国が多いし、あったとしても死体がでる勝負は絶対にしない。
 「次が決勝か。楽しみだな」
 「ああ。それにしてもさ、戦える奴なんだから兵士にすりゃいいのにな」
 「それ思った。てか、皆そう考えてるだろ」
 「まあな。王様は何を考えてるのやら」
 どうやらここ、何らかの戦いに巻きこまれてるようだな。面倒事は関わらないのが一番だが、ここがどこかを調べないと。
 「もしもし。つかぬことを伺いますが」
 「しっ。兵に聞かれたら首が飛ぶぞ」
 「そうだな。危ない危ない」
 「あの~、すみません」
 「お。もうそろそろ次の試合が始まるな」
 「回復係が優秀だな。ちょっと選手には気の毒だが、テンポがよくていい」
 シカトかよっ。イイ性格してんじゃないか。
 拳をうならせたい気持ちを抑え、別の人に話しかける。だが、結果は同様だった。
 まさか、気づかれてないのか。さっきの二人組はそこまで騒がしくなかったし。
 ふと自分の足元を見ると、影が存在していなかった。あの本、一体どこに飛ばしたんだ。
 手の甲をつねっても痛みを感じなかったので、おそらく夢でも見てるのだろう。とりあえず、様子を伺うことに。
 決勝戦は小柄な戦士がマッチョなモヒカンをぶっ飛ばして決着がついた。外壁に頭から激突したから無事ではなさそうだ。
 審判らしき人が近づいて、しばらくすると右手を上げた。直後、場内は先程よりも大きな狂喜に包まれる。
 『よくぞ激戦を潜り抜けた。褒美にその体を使ってやろう』
 響き渡るドスの利いた声は、人間のとは違う魔力を感じた。だが時すでに遅しで、優勝者は突如出現した黒い穴に吸いこまれてしまう。
 穴からでてきた血の量を見るからに、もう助からないだろう。阿鼻叫喚と化した闘技場は、我先にと逃げだす観客であふれかえる。
 『馬鹿な奴らだ。願いを叶えるには代償が必要だと言うのに』
 代償、か。確かにその通り、だよな。
 『そうだ小僧。貴様の願いは叶えられん。さしもの我も理を覆すことは出来ぬ』
 「っ。理不尽に殺されたってのにか」
 『人間如きの事情なぞ知らん。過ぎたる大望は身を滅ぼすだけではすまぬのだ。この国の様にな』
 「あんたは、一体」
 『名などとうの彼方に忘れたが。貴様の求める力の一端、とだけ伝えておこう』
 そう話すと、黒い穴は小さくなっていき、やがて消滅する。そして、気づけば元の場所に戻っていた。
 思わず周囲を見渡すと、何の変化もなさそうだった。
 『さあて。貴様は我に何を捧げるのだ』
 「叶わないなら捧げるもクソもあるか」
 『似たような願いならば叶えられるぞ』
 「似たような願いだって?」
 この本は何をいってるんだ。意味がわからない。
 『貴様はまだ若い。理解出来なくとも不思議ではないか』
 本から発せられた声は勝手に納得すると、ゆっくりと、天高く上っていく。
 強く光ったと思ったら、巨大な毛玉が現れた。びっしりと生えたワタゲみたいなモノは、小さな動物みたいな手足をだし、最後に頭を中から出現させた。ぬいぐるみみたく、可愛らしい外見だ。
 「せ、せい、じゅう、か。もしかして」
 『そう呼ばれる事もあったかもしれん』
 「せめて見た目と声のギャップ何とかしたら」
 『突っ込む所はそこじゃなかろうっ』
 いやいや、重要じゃないか。いかにも危険人物的な声なのに容姿がぬいぐるみっぽいって。
 『ったく。貴様の様な輩は後を絶たんが、最低条件をクリアしたのでな。故に使命を与えると同時に奥底に眠る願いを叶えてやろう』
 「条件?」
 『願いを叶えるには相応の代償が必要、という原理だ。それすら分からぬ阿呆が多くてな』
 はあ、とため息をつく毛玉。理解しかねるが、魔法を覚えたいなら体系を学ばないといけないのと同じだろうか。
 『それに、久々に人間共を見たくなった。ちゃんと過去から学んでいるのかを、な』
 ふよふよ、と近づいてくる毛玉。耳が長ければウサギかもしれない。
 『行くぞユニ。準備を済ませて待たせてある』
 「準備って」
 ってかいつの間にオレの名前を知ったんだよ。
 脳みそが停止してるので、とりあえずついてった。太陽の光が眩しく、手で目を覆ってしまう。
 慣れてくると、目の前に人が立っていた。確か、あの人は。
 「ご無沙汰しております」
 『うむ。息災の様だな』
 「はい。希望の地はございますか」
 『無い。こやつに任せる』
 「畏まりました」
 うやうやしいお辞儀が終わると、
 「三ヶ月ぶりだな。改めてよろしく」
 「フィジル、だったよな。どういう事なんだよ」
 「このお方は六大属性の一柱だ。御名(みな)は言えないが」
 「は? この毛玉がっ」
 『誰が毛玉だ無礼者っ』
 「あー、落ち着いてください。彼に悪気はないですから。ともかくだ。これからあんたは、世界を回って人助けをするんだ。俺はお目付け役だよ」
 「ちょっと待ってくれよ。そんな勝手に」
 『どうせやる事無いのだろう。ならば見識を広める為に旅するが良い』
 我を目覚めさせたのが運の尽きだ、と毛玉。これも力を求めた代償、ってヤツなのかね。
 「本来は代々の神官が務めていたが。とうの昔に滅んでしまったからな。代わりを頼みたい」
 「代わりっていわれてもなあ」
 「俺も手伝うから。どちらにしても船がもうすぐ到着する。そこまで移動しよう」
 まあ、禁書がなくなったんならこの島には用ないしな。
 何ともいえない心情で船に乗りこむ。今や地平線上に見える島は、夕日に照らされていた。
 「ほれ」
 声とともに差しだされた飲み物。お礼を伝え、のどを潤す。
 「これからどうするんだ」
 「どうするっつってもなあ」
 「行きたい場所とかは」
 「うーん、特には」
 「じゃあ行ったことない場所は」
 「西側はないけど」
 「ならそちらを回ってみようか。多少なら案内できるし」
 「え。どうやって許可とるんだよ」
 「北部にある国境国家に知り合いがいるんだ。事情を話せば行き来できると思う」
 「あの、光翼族(こうよくぞく)と闇翼族(あんよくぞく)がこちゃ混ぜに住んでるっていうところ?」
 「そうだ。混血が多いせいか、寛容な国でさ。昔世話になったんだ」
 「昔って」
 どう見ても二十代前後なんだが。ただ、闇翼族のお偉いさんは寿命が長い。もしかしたら、血がはいってるのかもしれないな。もちろん、プライバシーに関するから黙っておく。
 「ふふ。君とは仲良くなれそうだ。風邪ひかないようにな」
 と、言い残して戻るフィジル。毛玉は部屋で寝てるのかもしれない。
 ひょんなきっかけから、旅が続く事になるとは思わなかったけど。まあ、これはこれで面白くなる、かは知らんけど。せめてそうなってくれ。
 沈んでいく太陽がまた昇ってくるように、人生もできてるのかもしれない。