Solispia Spring Short-stories応募作品
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九歳で隣町まで行くには、まあまあな旅路になる。ましてや馬車ともなる、と。
まあ、当然こうなる。
「寝てて大丈夫ですよ。着いたら起こしますから」
「頼んでいいか。しかしまあ、何だってよりにもよってこんな子供に」
「そう言われましてもねえ。神様を呪ってください」
「完全に墓穴掘るじゃねえか。いいやもう、お休み」
と、ふて寝する、見た目だけのお坊ちゃん。中身は三十と一を越えた、早生まれ男である。
対して俺はというと、二十四の従者だ。実年齢は三十二。車で外回りしてたらあおり運転に遭い、事故に巻き込まれたっつー、不幸な男たちです、はい。
んーで、気づいたら異世界にやって来ていましたとさ。どこのおとぎ話だって話だよ、本気で。
ちなみにこいつとは幼馴染みなんだ。小学生以来でたまたま職場で再会したんだけど。
にしても、剣、かあ。剣道は習ってたけど、全然違うよな、きっと。
何もない事を願おう。
隣町は俺たちが住んでる町と同じ位の規模だった。都会程大きくはないが、駅前が栄えている地方都市みたいな感じだろう。もの凄く便利、ではないけど生活するには困らないレベルだ。
同僚を問答無用に叩き起こして馬車を降りる。目の前は宿屋だった。
予約されていた部屋の鍵を受け取り、室内へと入る。
「あ~、疲れだっ。体力なさすぎ」
「そりゃ子供じゃなあ」
「いいよなお前は。しっかし、どうやって元の世界に帰る」
「そもそも方法があるのかさえ疑問だぞ」
「冗談じゃねえって。オレ結婚したばかりだし」
と、愚痴る子供。この世界ではリールと呼ばれてる。
「たか、じゃない。ロウェルか。お前はどうすんだよ」
「俺は別に。どうでもいいかな」
「うわあ。やる気ゼロじゃん」
「ちゃんと方法は探すって。戻るかどうかを決めてないだけだ」
「ふうん。会計の子、何ていったっけ。結構かわいいよな」
思わず眉間に力が入る。ちょいと文句をいいかけた時、急に外が光り出した。
光がやむと、リールの姿がない。
「あ、あれ」
前髪が風で流れると、慌てて窓を見た。開いていないはずの扉が開け放たれ、カーテンもはためいてる。
下を覗き込むと、数人の男たちが走っていた。
げぇ。誘拐事件とか勘弁してくれよ。
急いで階段を駆けおり、男たちの後を追う。この人は随分と鍛えてるようで軽やかに動く。
たどり着いた先は、とある教会のような建物だった。この世界に現実社会の宗教がある訳ないし、そもそも誘拐自体が犯罪だし。
そおっと近づくと、先程の男たちと同じ格好をした連中がいた。
こういう場合、どうすりゃいいんだろ。本来なら警察、じゃない。警備隊に連絡するのが筋だったか。
まあ、来てしまったんだからしょうがない。どちらにしても助けないと。
ん、何だ。気のせいか。声が聞こえたような。
『いやあ、気のせいじゃないんだなこれが。ようやくボクの声聞ける人見つけたよ』
「そうなんだ。悪いけど、今それどころじゃあぁっ」
目の前にピョコっと現れた子供。多分、三つか四つぐらい。あ、頭から角が、生えてる。
「誰だ、そこにいるのはっ」
あ。つい大声を出しちまった。
『うるさいなあ、もう。あっち行ってよ』
小さな左手をかざすと光が圧縮されていき、バスケットボール並みの大きさになる。事もあろうにそれを目の前にいる男にぶつけ、焼き鳥のごとく連なり壁へと激突させた。
『これで静かになった。ところで君、お願いがあるんだけど』
「は、はあ」
もはや頭がついていかないんだが。
だが、黄色い光に包まれている子供は気にもとめず、
『あの建物の中にね。ボクの私物があるんだ。盗まれちゃて困ってて』
「い、今の力があれば取り返せるんじゃあ」
『条件がそろわないと使えないの。だから、一緒にいってほしくって』
ダメ? と上目遣いで頼んでくる。これは、確信犯だな。きっと。
「構わないよ。友人も中にいるみたいだから。逆に手伝ってもらえると俺も助かる」
『やったっ。いいよいいよ、戦いは任せて。打ち払いぐらいはできるでしょ』
「多分。あいにく、剣術は分からないんで」
あ、しまった。まあいいか、絶対人間じゃないし。
『あはは、正直だね。でも、そうだねえ』
顎に手を当てて思案する子。念のために、と、俺に向かって何かをつぶやいた。
次の瞬間、俺の体は先程とは違う光の色に包まれる。
『これで怪我しにくくなったよ。んじゃ、突撃お願いするね』
ふあり、と浮かび、頭の上に待機する幼児。何者なんだろうか。疑問はひとまず置いておいて、同僚を助けにいかなきゃ。
思考を切り替え、建物へと近づく。さすがに正面から突撃する勇気はないので、裏口から中に入った。
不用心だと思いながらも息を殺しながら歩き、いくつかの部屋を通りすぎた先には、礼拝堂があった。どうやら、持ち主というか管理人というか、責任者類はいないらしい。
代わりに、ゴロツキたちがいた。中には、縛られているリールの姿もある。
『あったあった。ボクの持ち物』
「どこにあるんだ」
『あの像の中から感じるよ』
ちょっと待て。それって壊さなきゃならないヤツじゃないだろうな。
『ただの石工でバレないとでも思ってたのかなあ。低俗な奴が隠したんだな、きっと』
んなマイペースにいわれても。
『ま、いいか。先にあの子を助けようか。そうじゃないと落ち着いて話できないし』
「そうだな。頼めるかい。ええっと」
『ナマエってヤツ? ないんだ、ボク。さあ、援護するから突っ込んじゃってよ』
ドンッ、と背中に衝撃が走る。さすがに耐えきれず、前にでてしまった。当然、連中には気づかれて襲撃されてしまう。
慌てて剣を引き抜き受け止めはしたんだが。
「何だこいつ。護衛のクセにビビってやがんのか、よっ」
ゴロツキとはいえ、真剣を握り慣れてる様子の相手。これは、腹くくらないと本気でマズい事になるな。
深呼吸をし、重心をへその下にすえる。足を前後に開き、剣先は男の視線の前に置いた。
複数人、動く。右から一人、左から二人。
床を見ると、腹から血を流して倒れてる連中がいた。うめいてる辺り、急所は外したと思う。体が反応した感じだ。
「な。い、一瞬で。ええい、全員でかかれっ」
さすがに数十人はきついぞ。体に傷を負わせる訳にはいかないのに。
『ずっこいねえ。ならこうだっ』
ガタガタと後方で何かが揺れる音がした。何事かと振り返ると、石像が揺れてた。
そして、台座からぽっきり折れた像は宙に浮き、男集団の中へと頭から突進していく。
当然、野郎どもは悲鳴をあげてさけ、色々と騒ぎながら逃げだしていった。
『誰がバケモノだ、失敬な。ったく』
いやいや、勝手にモノが動いたら誰でも怖いって。つーか、俺に対していったんじゃないのか。
実のところあまり気にとめていなさそうな子供は、粉々に砕けて散乱した破片の中にある、地球儀ぐらいの大きさをした宝石の元へ。売ったらかなりの額になりそうだ。
子供が触れると、宝石は吸い込まれて消えてく。
『ありがとね。やっぱり君だったんだ』
「何が」
『んん、こっちの話。あ、ほら』
「おーい。ロウェルーッ」
と、手を振りながら元気に駆け寄ってくるリール。外傷はないようだ。
「無事でよかった」
「お陰様でな。誘拐犯は来てくれた警備隊が捕まえて連れてったぞ。お前は大丈夫か」
「ああ」
「そりゃよかった。んで、コレはどういう状況」
「ああ、それはこの子が」
「この子? どの子だよ。お前以外誰もいないけど」
『あー。このリールってコには見えてないよ。特殊な人じゃないとダメなんだ』
何だそれ。どう説明すればいいのやら。
「あいつらが暴れて壊したんだ」
「ふうん。んじゃ、そういっとく。ここ最近騒がせてた奴ららしいから、すんなり通るだろ」
いいのか、それで。まあしょうがないか。
「任せろ任せろ。落としてくるから」
左上腕を右手で叩くと戻っていくリール。あいつのトークなら問題ない。あ、ちなみに俺は広告作成者として同行してたんだよ。元の世界では。
『不思議な子だねえ。当たり前か、召喚者だし』
「今、何て」
『この世界に呼ばれた人間の事だよ。君やあの子みたいな、ね』
「ってことは、戻る方法もあるんだろっ」
『あるよ。最近は全員挫折してこの世界で生涯を終えたけどね』
「なっ」
冗談じゃない。それって強制拉致と同じじゃないか。
『勘違いしないで貰いたいんだけどさ。ちゃんと達成すれば戻れるんだよ。何もしないで文句だけ言ってた奴が帰れないだけで』
「目標が高すぎれば心折れるだろ」
『高いかどうかは本人次第じゃないの。クリアしてる人もいるんだから』
「た、確かに」
『あくまでボクが感じたコトだけど。惰性で生きるかそうじゃないかの違いっぽいよ。多分ね』
ふうん。つまり、誰かがだす課題を越えれば元の世界に戻れるわけか。誰かってのが気になるけど。
『んま、君たちのは決まってるみたいだからね。ボクはあくまでサポートするだけだから』
「サポートって。一体」
『まずは君たちの家の近くにある神殿に行くといいよ。あの子と一緒にね』
話はそれからだね、と子供。それじゃあ、また後で、と口にすると、姿を消してしまった。
RPG感満載じゃないか。とりあえずリールに話してみるか。
頭をかきながらため息をついた俺は、彼が向かった方向へと足を運ぶ。
そして一週間後。リールと一緒に例の神殿らしき場所にやってくる。
「うっわぁ、ボロッボロじゃん。肝試しみたい」
「昼でよかったな」
「同感。オレ暗いトコ苦手だし」
「陽キャだもんな」
「黙れ陰キャ」
「口下手なだけで断じて陰キャじゃない」
「堂々とはしてんもんな。で。奥に行きゃあいいのか」
「だと思う。とりあえず入ってみるか」
「はあ。まさか自分がプレイヤーになるとは」
「全くだな。行くぞ」
俺は剣、リールは本を用いた魔法で対応するが、どうなることやら。
おっさんたちの冒険は、ここから始まった。
「おっさんじゃねーだろ、ロウェルッ。お兄さんだ。お、に、い、さ、んっ」
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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