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胎動

ー/ー



 ホッホー! ホッホー!

 勇斗はフクロウの鳴き声に設定したアラームで目を覚ました。

 まだ眠いままスマートフォンに手を伸ばす。画面には、光太からメッセージが届いていた。

『ヒマなら神社の掃除を手伝ってほしい!』

 少し迷ったが、勇斗は『OK』のスタンプを返した。

 カーテンを開ける。外はよく晴れていた。

「勇斗ー、ごはんよー」

 階下から母の声が飛んでくる。勇斗は慌てて階段を下りた。

 朝食を食べながらテレビを見ていると、ニュースでは『刃物男、射殺される』というテロップが流れていた。警官がとっさに発砲したらしい。どこか遠い世界の話に思えた。

 食事を終えると、黄色いプルオーバーパーカーに着替え、家を出た。

「気をつけて、行ってらっしゃい」

 母の声を背に受け、勇斗は神社へ向かった。
 

 高日町は山に囲まれた小さな町だ。天陽山(てんようさん)の麓へ向かって歩くと、舗装路はやがて苔むした石畳に変わり、神社の石段が見えてくる。

「勇斗ー!」

 鳥居の下で、光太が手を振っていた。紺色のジャージを羽織り、首から白いお守りを下げている。

「悪いな、急に」

「ううん」

「真弘もいるし、さっさと終わらせて遊ぼうぜ」

「怪我はもういいの?」

「全然平気!」

 光太は笑って歩き出した。

 蔵は本殿の裏手、使われなくなった登山口の近くにある。

 銀杏の葉を見上げながら歩いているうちに、眠気がじわじわ戻ってきた。

「珍しいな。勇斗があくびするなんて」

「うん、あまり寝られなかった」

 昨夜の妙な出来事は口にしなかった。

「まだ美咲の言葉、気にしてるのか?」

 勇斗は足を止めた。

「別に、あいつの言うこと全部聞く必要ないって」

「でも……」

 勇斗は肩をすくめて俯いた。

 少しの沈黙のあと、両肩に手の感触を覚えた。顔を上げると、光太と目が合った。

「勇気ってさ、たぶん小さな一歩から始まるんだよ」

 光太は、白い歯を見せた。

 そのとき、悲鳴が響いた。本殿の裏からだった。

「真弘っ!」

 光太は顔色を変え、駆け出した。

 蔵の前で、真弘が小さくうずくまっていた。フードを深く被り、両手で頭を押さえて震えている。

「真弘!」

「に、にいちゃん。あ、あれ……」

 扉の上に大きな蜘蛛がいた。糸を垂らし、ぶらぶら揺れている。

「無理! あれ、どかして!」

 光太はため息をつき、立てかけてあった箒で蜘蛛を払った。

 蜘蛛が真弘の目の前に落ちた。

 真弘は絶叫し、大きく飛びのいた。その拍子に、ジーンズのポケットから何かが転がり落ちた。

「お前なあ。また誰かに絡まれたのかと思っただろ」

「おれは不良より虫のほうが嫌いなんだ!」

 真弘はフードを跳ね上げ、濁った目で兄を睨んだ。

「真弘くん、もういいよ」

 勇斗が一歩踏み出したとき、靴先が硬いものを弾いた。

 足元には、小さな紅いカケラが転がっていた。内側からじわりと光っている。見ただけで、背筋が粟立った。

「あっ、だめ!」

 真弘がすばやく拾い上げ、ポケットに押し込んだ。

「それ、何?」

「なんでもない。気にしないで」

 真弘はフードを深く被り直し、唇を噛んだ。
 

 蔵の中は薄暗く、埃っぽかった。小さな丸窓から差す光が、棚の古い品々をぼんやり照らしている。

 木の床を掃いていると、一か所だけ妙に色の違う場所があった。勇斗が足を止めた、その瞬間だった。

 目の前に真鍮の花瓶が落ちてきた。鈍い音が響く。

「だ、大丈夫か?」

 脚立から飛び降りた光太が駆け寄ってくる。

「う、うん。びっくりしただけ」

「悪い」

 光太が花瓶を拾い上げる。

 花瓶に傷はなかった。だが、その代わり床板に大きなひびが走っていた。

「にいちゃん、これ」

 真弘がしゃがみ込み、ひびの奥を指差した。

「なんだこれ?」

 光太が指を差し入れ、引っ張り出す。

 金属製の取っ手だった。

「こんなのあったっけ」

 光太はしゃがみ込み、笑った。

「開けてみようぜ」

「え、ちょっと」

 止める間もなく、光太が取っ手を引いた。

 重い音とともに床板が持ち上がる。埃が舞い、その下から梯子が現れた。

「地下……?」

 光太は暗がりをのぞき込み、目を輝かせた。

「行ってみようぜ」

「危ないよ」

「平気だって」

 光太は蔵の隅から懐中電灯を二本持ってきた。

「俺はスマホを使うから、お前たちはこれな」

 光太と真弘はためらいもなく降りていった。

「勇斗ー。早く来いよー!」

 行くのは嫌だった。でも、このまま二人だけで行かせるのはもっと嫌だった。

 勇斗は唇を噛み、梯子に足をかけた。
 

 暗い中を、長い梯子が下へ続いていた。いつまで降りればいいのかわからない。息が上がったころ、ようやく足の裏に固い地面の感触が返ってきた。

 洞窟のような空間だった。懐中電灯の頼りない光が、岩肌を照らしている。

「奥に続いてるな」

 光太がスマートフォンのライトを通路に向けた。

 三人の足音が洞窟の中に響く。道は少しずつ狭くなっていった。

「この先に何があるのかな。お宝かなー?」

 光太の声が反響する。

「やっぱり戻ろうよ。誰か大人を呼んでからのほうがいいって」

 勇斗は震える声で言った。

「何言ってんだ。そんなことしたら怒られるだけだろ」

「勇斗にいちゃん、怖いの? おれは平気だよ」

 勇斗は何も言えず、二人の後ろをついていった。

 そのとき、不意に懐中電灯の光が消えた。

 足元で嫌な音がした。

 次の瞬間、床が抜けた。

 勇斗の体が落ちる。

 水しぶきが上がった。

 勇斗は、水面に浮かぶ大きな葉の上に投げ出されていた。何が起きたのか理解した瞬間、全身に恐怖が走った。

「助けて!」

 叫んでも、返事はなかった。

 あたりを見渡す。高い天井。岩壁に絡みつく無数の根。それらが、うっすら緑に光っていた。

 一瞬、見とれた。

 その拍子に葉が傾き、勇斗は水の中へ落ちた。

「うわっ」

 水は思ったより浅かった。勇斗は岩床に手をついて立ち上がる。服はずぶ濡れで、ポケットのスマートフォンも水浸しだった。

 少し歩くと、壁の穴の向こうから声が聞こえた。

 光太の声だ。

 勇斗は息をひそめ、穴を抜けた。

「怪我してないか?」

「だ、大丈夫。水の上に落ちたから」

「ラッキーだったな」

 光太は笑い、それから前を指した。

「それより、見ろよ」

 大きな石の扉があった。光太のスマートフォンの光に照らされた表面には、四芒星が刻まれていた。

 勇斗は思わず左手首を押さえた。

「開けてみるぞ」

 光太が両手で押す。だが扉はびくともしない。

「勇斗にいちゃん、やってみてよ」

「む、無理だよ」

「ものは試しだって」

 ここまで来て、また何もしないまま立ち尽くすのは嫌だった。

 勇斗は息を呑み、扉に手を伸ばした。

 その瞬間、左手首の痣がまばゆく光った。

「勇斗、何だよそれ」

「わ、わからない」

 鈍い音とともに、扉が開き始めた。

 唖然とする二人をよそに、真弘は扉の奥へ入っていく。

「ま、待てよ真弘!」
 

 扉の先は赤く染まっていた。

 部屋の中央の台座に、拳ほどの紅い球がのっている。表面には棘が生え、内側から脈打つように光っていた。ところどころ欠けている。

 見た瞬間、激しい頭痛と耳鳴りが襲ってきた。

 勇斗は頭を押さえてうずくまる。

「おい、真弘、触るなって!」

 痛みに耐えながら顔を上げると、真弘が球へ手を伸ばしていた。

 小さな手が触れた瞬間、地鳴りがした。

 部屋が揺れる。天井から砂と石が落ちてくる。

「う、嘘だろ! 逃げるぞ!」

 だが、真弘は台座の前で、何かに引かれるように両手を持ち上げていた。

 紅い球が、ふわりと浮く。

「真弘、何やってんだ!」

 空間が歪み始めた。揺れはさらに激しくなる。

「うおっ、なんだこれ!」

 白いお守りが光る。

 次の瞬間、光太は消えていた。青いスマートフォンだけが落ちていた。

「光太……?」

 歪みは次第に広がり、やがて部屋全体を包み込むほど巨大になった。
 

 気づくと、闇の上に立っていた。

「光太! 真弘くん!」

 勇斗の声は虚しく消えていった。

 ふと自分の体を見下ろすと、裸だった。華奢な体がむき出しになっていた。

 わけがわからない。

 その場にへたり込み、呆然とした。次第に涙が溢れ出してくる。

 どれくらい時間が経ったのかわからない。ふと顔を上げると、彼方に光が見えた。

 呼ばれている気がした。

 勇斗は歩き出した。闇が、水面のように揺れていた。水の上を歩いている感覚だった。

 光の正体は、立派な長剣と黄金色に輝く鎧だった。

 その傍に、裸の少年が倒れていた。さらさらとした茶色の髪に、あどけない顔立ち。

 勇斗は、大きく目を見張った。

 倒れている少年は、勇斗と瓜二つだった。

 顔立ちだけじゃない。鍛え抜かれた体つきを除けば、鏡を見ているようだった。ただ、四芒星の痣だけは違う。勇斗の痣は左手首にあるのに、倒れている少年の痣は右手首にあった。

 おそるおそる、勇斗は少年の手に触れた。

 触れたとたん、お互いの痣が光り出した。

「えっ」

 光が、弾けた。


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 ホッホー! ホッホー!
 勇斗はフクロウの鳴き声に設定したアラームで目を覚ました。
 まだ眠いままスマートフォンに手を伸ばす。画面には、光太からメッセージが届いていた。
『ヒマなら神社の掃除を手伝ってほしい!』
 少し迷ったが、勇斗は『OK』のスタンプを返した。
 カーテンを開ける。外はよく晴れていた。
「勇斗ー、ごはんよー」
 階下から母の声が飛んでくる。勇斗は慌てて階段を下りた。
 朝食を食べながらテレビを見ていると、ニュースでは『刃物男、射殺される』というテロップが流れていた。警官がとっさに発砲したらしい。どこか遠い世界の話に思えた。
 食事を終えると、黄色いプルオーバーパーカーに着替え、家を出た。
「気をつけて、行ってらっしゃい」
 母の声を背に受け、勇斗は神社へ向かった。
 高日町は山に囲まれた小さな町だ。|天陽山《てんようさん》の麓へ向かって歩くと、舗装路はやがて苔むした石畳に変わり、神社の石段が見えてくる。
「勇斗ー!」
 鳥居の下で、光太が手を振っていた。紺色のジャージを羽織り、首から白いお守りを下げている。
「悪いな、急に」
「ううん」
「真弘もいるし、さっさと終わらせて遊ぼうぜ」
「怪我はもういいの?」
「全然平気!」
 光太は笑って歩き出した。
 蔵は本殿の裏手、使われなくなった登山口の近くにある。
 銀杏の葉を見上げながら歩いているうちに、眠気がじわじわ戻ってきた。
「珍しいな。勇斗があくびするなんて」
「うん、あまり寝られなかった」
 昨夜の妙な出来事は口にしなかった。
「まだ美咲の言葉、気にしてるのか?」
 勇斗は足を止めた。
「別に、あいつの言うこと全部聞く必要ないって」
「でも……」
 勇斗は肩をすくめて俯いた。
 少しの沈黙のあと、両肩に手の感触を覚えた。顔を上げると、光太と目が合った。
「勇気ってさ、たぶん小さな一歩から始まるんだよ」
 光太は、白い歯を見せた。
 そのとき、悲鳴が響いた。本殿の裏からだった。
「真弘っ!」
 光太は顔色を変え、駆け出した。
 蔵の前で、真弘が小さくうずくまっていた。フードを深く被り、両手で頭を押さえて震えている。
「真弘!」
「に、にいちゃん。あ、あれ……」
 扉の上に大きな蜘蛛がいた。糸を垂らし、ぶらぶら揺れている。
「無理! あれ、どかして!」
 光太はため息をつき、立てかけてあった箒で蜘蛛を払った。
 蜘蛛が真弘の目の前に落ちた。
 真弘は絶叫し、大きく飛びのいた。その拍子に、ジーンズのポケットから何かが転がり落ちた。
「お前なあ。また誰かに絡まれたのかと思っただろ」
「おれは不良より虫のほうが嫌いなんだ!」
 真弘はフードを跳ね上げ、濁った目で兄を睨んだ。
「真弘くん、もういいよ」
 勇斗が一歩踏み出したとき、靴先が硬いものを弾いた。
 足元には、小さな紅いカケラが転がっていた。内側からじわりと光っている。見ただけで、背筋が粟立った。
「あっ、だめ!」
 真弘がすばやく拾い上げ、ポケットに押し込んだ。
「それ、何?」
「なんでもない。気にしないで」
 真弘はフードを深く被り直し、唇を噛んだ。
 蔵の中は薄暗く、埃っぽかった。小さな丸窓から差す光が、棚の古い品々をぼんやり照らしている。
 木の床を掃いていると、一か所だけ妙に色の違う場所があった。勇斗が足を止めた、その瞬間だった。
 目の前に真鍮の花瓶が落ちてきた。鈍い音が響く。
「だ、大丈夫か?」
 脚立から飛び降りた光太が駆け寄ってくる。
「う、うん。びっくりしただけ」
「悪い」
 光太が花瓶を拾い上げる。
 花瓶に傷はなかった。だが、その代わり床板に大きなひびが走っていた。
「にいちゃん、これ」
 真弘がしゃがみ込み、ひびの奥を指差した。
「なんだこれ?」
 光太が指を差し入れ、引っ張り出す。
 金属製の取っ手だった。
「こんなのあったっけ」
 光太はしゃがみ込み、笑った。
「開けてみようぜ」
「え、ちょっと」
 止める間もなく、光太が取っ手を引いた。
 重い音とともに床板が持ち上がる。埃が舞い、その下から梯子が現れた。
「地下……?」
 光太は暗がりをのぞき込み、目を輝かせた。
「行ってみようぜ」
「危ないよ」
「平気だって」
 光太は蔵の隅から懐中電灯を二本持ってきた。
「俺はスマホを使うから、お前たちはこれな」
 光太と真弘はためらいもなく降りていった。
「勇斗ー。早く来いよー!」
 行くのは嫌だった。でも、このまま二人だけで行かせるのはもっと嫌だった。
 勇斗は唇を噛み、梯子に足をかけた。
 暗い中を、長い梯子が下へ続いていた。いつまで降りればいいのかわからない。息が上がったころ、ようやく足の裏に固い地面の感触が返ってきた。
 洞窟のような空間だった。懐中電灯の頼りない光が、岩肌を照らしている。
「奥に続いてるな」
 光太がスマートフォンのライトを通路に向けた。
 三人の足音が洞窟の中に響く。道は少しずつ狭くなっていった。
「この先に何があるのかな。お宝かなー?」
 光太の声が反響する。
「やっぱり戻ろうよ。誰か大人を呼んでからのほうがいいって」
 勇斗は震える声で言った。
「何言ってんだ。そんなことしたら怒られるだけだろ」
「勇斗にいちゃん、怖いの? おれは平気だよ」
 勇斗は何も言えず、二人の後ろをついていった。
 そのとき、不意に懐中電灯の光が消えた。
 足元で嫌な音がした。
 次の瞬間、床が抜けた。
 勇斗の体が落ちる。
 水しぶきが上がった。
 勇斗は、水面に浮かぶ大きな葉の上に投げ出されていた。何が起きたのか理解した瞬間、全身に恐怖が走った。
「助けて!」
 叫んでも、返事はなかった。
 あたりを見渡す。高い天井。岩壁に絡みつく無数の根。それらが、うっすら緑に光っていた。
 一瞬、見とれた。
 その拍子に葉が傾き、勇斗は水の中へ落ちた。
「うわっ」
 水は思ったより浅かった。勇斗は岩床に手をついて立ち上がる。服はずぶ濡れで、ポケットのスマートフォンも水浸しだった。
 少し歩くと、壁の穴の向こうから声が聞こえた。
 光太の声だ。
 勇斗は息をひそめ、穴を抜けた。
「怪我してないか?」
「だ、大丈夫。水の上に落ちたから」
「ラッキーだったな」
 光太は笑い、それから前を指した。
「それより、見ろよ」
 大きな石の扉があった。光太のスマートフォンの光に照らされた表面には、四芒星が刻まれていた。
 勇斗は思わず左手首を押さえた。
「開けてみるぞ」
 光太が両手で押す。だが扉はびくともしない。
「勇斗にいちゃん、やってみてよ」
「む、無理だよ」
「ものは試しだって」
 ここまで来て、また何もしないまま立ち尽くすのは嫌だった。
 勇斗は息を呑み、扉に手を伸ばした。
 その瞬間、左手首の痣がまばゆく光った。
「勇斗、何だよそれ」
「わ、わからない」
 鈍い音とともに、扉が開き始めた。
 唖然とする二人をよそに、真弘は扉の奥へ入っていく。
「ま、待てよ真弘!」
 扉の先は赤く染まっていた。
 部屋の中央の台座に、拳ほどの紅い球がのっている。表面には棘が生え、内側から脈打つように光っていた。ところどころ欠けている。
 見た瞬間、激しい頭痛と耳鳴りが襲ってきた。
 勇斗は頭を押さえてうずくまる。
「おい、真弘、触るなって!」
 痛みに耐えながら顔を上げると、真弘が球へ手を伸ばしていた。
 小さな手が触れた瞬間、地鳴りがした。
 部屋が揺れる。天井から砂と石が落ちてくる。
「う、嘘だろ! 逃げるぞ!」
 だが、真弘は台座の前で、何かに引かれるように両手を持ち上げていた。
 紅い球が、ふわりと浮く。
「真弘、何やってんだ!」
 空間が歪み始めた。揺れはさらに激しくなる。
「うおっ、なんだこれ!」
 白いお守りが光る。
 次の瞬間、光太は消えていた。青いスマートフォンだけが落ちていた。
「光太……?」
 歪みは次第に広がり、やがて部屋全体を包み込むほど巨大になった。
 気づくと、闇の上に立っていた。
「光太! 真弘くん!」
 勇斗の声は虚しく消えていった。
 ふと自分の体を見下ろすと、裸だった。華奢な体がむき出しになっていた。
 わけがわからない。
 その場にへたり込み、呆然とした。次第に涙が溢れ出してくる。
 どれくらい時間が経ったのかわからない。ふと顔を上げると、彼方に光が見えた。
 呼ばれている気がした。
 勇斗は歩き出した。闇が、水面のように揺れていた。水の上を歩いている感覚だった。
 光の正体は、立派な長剣と黄金色に輝く鎧だった。
 その傍に、裸の少年が倒れていた。さらさらとした茶色の髪に、あどけない顔立ち。
 勇斗は、大きく目を見張った。
 倒れている少年は、勇斗と瓜二つだった。
 顔立ちだけじゃない。鍛え抜かれた体つきを除けば、鏡を見ているようだった。ただ、四芒星の痣だけは違う。勇斗の痣は左手首にあるのに、倒れている少年の痣は右手首にあった。
 おそるおそる、勇斗は少年の手に触れた。
 触れたとたん、お互いの痣が光り出した。
「えっ」
 光が、弾けた。