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ゴールデンウィークのススメ

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 黒いローブを身にまとった、青みのある銀髪の女性と、金髪を三つ編みに結んだ少女が、宿屋の食堂で朝食を取っていた。安価で冒険者に人気のこの宿では、冒険者が出立前に朝食を摂っているのはよくある光景なのだが、早朝にしては浮かない顔をしている金髪の少女に、銀髪の女性は心配そうに顔を覗いた。
「調子悪い?」
 たずねられた途端に、少女ははじけたように女性の方に顔を向けた。
「いえ、私は特に不調ではないのですが……さっき、ライラがアインを呼びに行こうと部屋に行ったら、すでにいなかったんです。ミーシャ、何か聞いてますか?」
 銀髪の女性は、ライラと名乗った少女の問いに目を瞬かせた。
「あれ? 聞いてない? 黄金週間(ゴールデンウィーク)だからって、しばらく不在にするんだって。まったく、ライラにも教えてあげたらいいのに」
「……黄金週間(ゴールデンウィーク)?」
 ライラは聞き慣れない単語に首を傾げた。
「この時期に長めの休暇を取るときにそう言うんだって。なんでも、『ニホン』の文化だとか」
 ミーシャは、毎朝飲んでいるジュースを飲みながら頷いた。
「ああ、なるほど、そちらの。ニホンでは、お休みのことを金に例えるんですか。不思議な文化ですね」
「変な文化の間違いじゃない? なんでこの時期に? って聞いたら、『そうと決まってるから!』としか返ってこなかったわよ」
「はは……まあ、アインってそういうところありますから」
「ライラってばいつもそうなんだから」
 どうやら、ミーシャはライラの返答が気に入らなかったようだ。ライラはむくれているミーシャに、ただただ「すみません」と苦笑した。
 ゴールデンウィークと口にした通り、二人が話題に上げているアインは、ニホンという地域からやってきた――という建前で、転生してきた者の一人である。
 ミーシャとライラは、ひょんなことから『ニホンという地方からやってきた』アインとパーティーを組んでいる。アインが盾役で、ミーシャが攻撃魔法。そしてライラが癒やし手と接近戦を担う、戦当面においてはそれなりに連携の取れているパーティーだ。
 しかし、その一方、アインが異世界からやってきた人間であるせいで、おのおのの認識だとか、そもそもの性格の違いから、主にミーシャが彼の自由奔放さにときどき振り回されている。ライラはというと、ニホンの異文化について質問するのが楽しいあまりに、何かとアインの肩を持ってしまうので、ここ最近は二人の不和に関してはあまり触れないようにしている。
 もっとも、ミーシャが機嫌を損ねる理由も分かってはいるので、こうやって苦言を呈するミーシャに対して、無下にすることもできないのだが。
「でも、そうなると、ニホンからやってきた人って、みんなお休みするってことですか?」
「そうなのかしら?」
「ライラ、依頼書見てきます!」
 ライラは椅子から立ち上がると、ぱたぱたと宿屋の入り口へと駆けていった。それからすぐに席に戻ってくる。その顔はやけに嬉しそうだ。
「ミーシャ! いつもより依頼が減ってないです! いっぱいあります!」
「じゃあ、本当にみんなゴールデンウィークを満喫してるのかしら?」
「そうかもしれないです。ここ最近、ニホンから来た人が手練れだったって話、いっぱい聞きますし」
「もしかして……今のうちに依頼、たくさんこなせるってことよね? せっかくアインもいないことだし、受ける?」
 ライラはその提案に、今度こそ目を輝かせた。
「わー! 依頼、受けたいです!」
「よし来た。二人でも受けれそうな依頼、たくさん受けましょ!」
 意見がまとまった二人は、こうしてはいられないと手元のジュースを飲み干し、食べかけのパンを口に入れた。


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 黒いローブを身にまとった、青みのある銀髪の女性と、金髪を三つ編みに結んだ少女が、宿屋の食堂で朝食を取っていた。安価で冒険者に人気のこの宿では、冒険者が出立前に朝食を摂っているのはよくある光景なのだが、早朝にしては浮かない顔をしている金髪の少女に、銀髪の女性は心配そうに顔を覗いた。
「調子悪い?」
 たずねられた途端に、少女ははじけたように女性の方に顔を向けた。
「いえ、私は特に不調ではないのですが……さっき、ライラがアインを呼びに行こうと部屋に行ったら、すでにいなかったんです。ミーシャ、何か聞いてますか?」
 銀髪の女性は、ライラと名乗った少女の問いに目を瞬かせた。
「あれ? 聞いてない? |黄金週間《ゴールデンウィーク》だからって、しばらく不在にするんだって。まったく、ライラにも教えてあげたらいいのに」
「……|黄金週間《ゴールデンウィーク》?」
 ライラは聞き慣れない単語に首を傾げた。
「この時期に長めの休暇を取るときにそう言うんだって。なんでも、『ニホン』の文化だとか」
 ミーシャは、毎朝飲んでいるジュースを飲みながら頷いた。
「ああ、なるほど、そちらの。ニホンでは、お休みのことを金に例えるんですか。不思議な文化ですね」
「変な文化の間違いじゃない? なんでこの時期に? って聞いたら、『そうと決まってるから!』としか返ってこなかったわよ」
「はは……まあ、アインってそういうところありますから」
「ライラってばいつもそうなんだから」
 どうやら、ミーシャはライラの返答が気に入らなかったようだ。ライラはむくれているミーシャに、ただただ「すみません」と苦笑した。
 ゴールデンウィークと口にした通り、二人が話題に上げているアインは、ニホンという地域からやってきた――という建前で、転生してきた者の一人である。
 ミーシャとライラは、ひょんなことから『ニホンという地方からやってきた』アインとパーティーを組んでいる。アインが盾役で、ミーシャが攻撃魔法。そしてライラが癒やし手と接近戦を担う、戦当面においてはそれなりに連携の取れているパーティーだ。
 しかし、その一方、アインが異世界からやってきた人間であるせいで、おのおのの認識だとか、そもそもの性格の違いから、主にミーシャが彼の自由奔放さにときどき振り回されている。ライラはというと、ニホンの異文化について質問するのが楽しいあまりに、何かとアインの肩を持ってしまうので、ここ最近は二人の不和に関してはあまり触れないようにしている。
 もっとも、ミーシャが機嫌を損ねる理由も分かってはいるので、こうやって苦言を呈するミーシャに対して、無下にすることもできないのだが。
「でも、そうなると、ニホンからやってきた人って、みんなお休みするってことですか?」
「そうなのかしら?」
「ライラ、依頼書見てきます!」
 ライラは椅子から立ち上がると、ぱたぱたと宿屋の入り口へと駆けていった。それからすぐに席に戻ってくる。その顔はやけに嬉しそうだ。
「ミーシャ! いつもより依頼が減ってないです! いっぱいあります!」
「じゃあ、本当にみんなゴールデンウィークを満喫してるのかしら?」
「そうかもしれないです。ここ最近、ニホンから来た人が手練れだったって話、いっぱい聞きますし」
「もしかして……今のうちに依頼、たくさんこなせるってことよね? せっかくアインもいないことだし、受ける?」
 ライラはその提案に、今度こそ目を輝かせた。
「わー! 依頼、受けたいです!」
「よし来た。二人でも受けれそうな依頼、たくさん受けましょ!」
 意見がまとまった二人は、こうしてはいられないと手元のジュースを飲み干し、食べかけのパンを口に入れた。