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Solispia Spring Short-stories応募作品

ー/ー



 奇人変人っていわれてたものね、昔から。まさか時間軸の話だとはね。
 まあいいけど。さて、と。千年ぶりの地上はどうなってるのかねえ。
 おっと失礼。私の名はダリスという。間違ってもダルいと酢の物を合わせた名じゃないと断っておこう。前時代の職業は研究魔導士といって、文字通り魔法の研究を行う機関にいたんだ。私の専攻は、一応環境だったがね。
 はてさて。聞き込みを経て大都市にやって来たが、町並みはあまり変わっていないように見える。
 ただ、行き交う人々の顔が暗い暗い。まるで魂が抜けた人形のじゃないの。まあ、野心あふれる馬鹿ばかりもかったるいんだが。
 どうやら、豊かになったのは表面上だけなのだろう。生活面は間違いなく向上しているからね。
 研究所があった場所は更地となり、今は立入禁止区域になっている。一体何が起こったのやら。爆発程度で建物が壊れたりしないはず。
 んま、寝起きがてら散歩して相棒を叩き起こしに行こう。今のところ悪意は感じられないし。
 やって来た先は城の地下室。何故私が入れたのかというと、こっそり侵入したからだ。研究員だけが知る秘密の入口ってヤツがあってねえ。さすがにここは潰されなかったみたいね。
 最奥まで到着すると大きなクリスタルが壁に貼りつけられていた。中にはとある剣が封印されてる、神聖な場所だ。
 「起きなさい。お時間よ」
 『まだねむい』
 「起きなさい。三度目はなくてよ」
 『ダリスか。相変わらず男だか女だか分からん奴だ』
 パリィン、と中央からひびが入り割れる音が響き渡る。決して私が殴ったわけじゃないから誤解しないで頂戴。
 「性別なんて大したことないでしょ。私は好きでこの格好してるの」
 『そうだな。そなたはそなただ。正体を隠すにも丁度良い』
 弱い光をまといながら、剣はフヨフヨと頼りなく私の方へ近寄ってくる。
 柄を掴むと、私の姿は一瞬にして剣士へと変わる。
 「おはよう。私が目覚めた原因は分かるか」
 『さあ。お前に起こされるまでは誰とも口を利いておらぬ』
 「口自体ついてないだろ、ってそんなことはどうでもいい」
 口調が変化してるのは気にしないで欲しい。これが本来の姿なんだ。
 「魔導士として潜り込んだ時はまあまあ平和だったぞ。だが、今は何かが起ころうとしてる」
 『勇者が目覚めなければならない程の、か。厄介な』
 「同感だ。悪いが、またしばらく一緒に回ってもらうぞ」
 『構わん。だがその前にあの娘を起こしに行った方が良い』
 「ダルい」
 『そう言うな。へそ曲げられた方が大変だろう』
 「確かにな。しゃあない。ここからだと南東だっけ」
 『ああ。近づけば我が分かる』
 剣を腰に下げると、チカチカと宝玉が光っていた。
 「嬉しそうだな」
 『ん? ああ、そうだな。また旅が出来ると思うと、な』
 「とりあえず、ここを出たら姿を替えるぞ。お前も杖に変化しろよ」
 『魔法剣士に転職しろ』
 「お前の時代じゃないんだから。我慢しろって」
 『この姿が一番格好良いのだ』
 人間好きの魔人様には困ったものだ。我がままなのは変わっていない。
 「さてっと。まずは旅の準備と行きますか。腹ごしらえに酸っぱいものでも食べるか」
 『いつも思うのだが。何でそれだけで腹が膨れるのだ』
 胃に入れれば何でも同じだろうに。
 「つべこべいうな。行くぞ」
 勇者なんざ都合のいい存在にすぎない。今回もきっとそうなのだろう。だが、これは私の贖罪でもある。
 新しい時代には何が待っているのか。
 私の罪は消えることはない。それでも、前に進むしかない。
 たまたまの起床が、単なる誤作動だったと、切に願う。


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 奇人変人っていわれてたものね、昔から。まさか時間軸の話だとはね。
 まあいいけど。さて、と。千年ぶりの地上はどうなってるのかねえ。
 おっと失礼。私の名はダリスという。間違ってもダルいと酢の物を合わせた名じゃないと断っておこう。前時代の職業は研究魔導士といって、文字通り魔法の研究を行う機関にいたんだ。私の専攻は、一応環境だったがね。
 はてさて。聞き込みを経て大都市にやって来たが、町並みはあまり変わっていないように見える。
 ただ、行き交う人々の顔が暗い暗い。まるで魂が抜けた人形のじゃないの。まあ、野心あふれる馬鹿ばかりもかったるいんだが。
 どうやら、豊かになったのは表面上だけなのだろう。生活面は間違いなく向上しているからね。
 研究所があった場所は更地となり、今は立入禁止区域になっている。一体何が起こったのやら。爆発程度で建物が壊れたりしないはず。
 んま、寝起きがてら散歩して相棒を叩き起こしに行こう。今のところ悪意は感じられないし。
 やって来た先は城の地下室。何故私が入れたのかというと、こっそり侵入したからだ。研究員だけが知る秘密の入口ってヤツがあってねえ。さすがにここは潰されなかったみたいね。
 最奥まで到着すると大きなクリスタルが壁に貼りつけられていた。中にはとある剣が封印されてる、神聖な場所だ。
 「起きなさい。お時間よ」
 『まだねむい』
 「起きなさい。三度目はなくてよ」
 『ダリスか。相変わらず男だか女だか分からん奴だ』
 パリィン、と中央からひびが入り割れる音が響き渡る。決して私が殴ったわけじゃないから誤解しないで頂戴。
 「性別なんて大したことないでしょ。私は好きでこの格好してるの」
 『そうだな。そなたはそなただ。正体を隠すにも丁度良い』
 弱い光をまといながら、剣はフヨフヨと頼りなく私の方へ近寄ってくる。
 柄を掴むと、私の姿は一瞬にして剣士へと変わる。
 「おはよう。私が目覚めた原因は分かるか」
 『さあ。お前に起こされるまでは誰とも口を利いておらぬ』
 「口自体ついてないだろ、ってそんなことはどうでもいい」
 口調が変化してるのは気にしないで欲しい。これが本来の姿なんだ。
 「魔導士として潜り込んだ時はまあまあ平和だったぞ。だが、今は何かが起ころうとしてる」
 『勇者が目覚めなければならない程の、か。厄介な』
 「同感だ。悪いが、またしばらく一緒に回ってもらうぞ」
 『構わん。だがその前にあの娘を起こしに行った方が良い』
 「ダルい」
 『そう言うな。へそ曲げられた方が大変だろう』
 「確かにな。しゃあない。ここからだと南東だっけ」
 『ああ。近づけば我が分かる』
 剣を腰に下げると、チカチカと宝玉が光っていた。
 「嬉しそうだな」
 『ん? ああ、そうだな。また旅が出来ると思うと、な』
 「とりあえず、ここを出たら姿を替えるぞ。お前も杖に変化しろよ」
 『魔法剣士に転職しろ』
 「お前の時代じゃないんだから。我慢しろって」
 『この姿が一番格好良いのだ』
 人間好きの魔人様には困ったものだ。我がままなのは変わっていない。
 「さてっと。まずは旅の準備と行きますか。腹ごしらえに酸っぱいものでも食べるか」
 『いつも思うのだが。何でそれだけで腹が膨れるのだ』
 胃に入れれば何でも同じだろうに。
 「つべこべいうな。行くぞ」
 勇者なんざ都合のいい存在にすぎない。今回もきっとそうなのだろう。だが、これは私の贖罪でもある。
 新しい時代には何が待っているのか。
 私の罪は消えることはない。それでも、前に進むしかない。
 たまたまの起床が、単なる誤作動だったと、切に願う。