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第七十一話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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 唐突に現れた暗殺者とゾンビたち。狙いはアマンダでほぼ間違いない。情報屋が受けた神託を知っている前提でフィリアに囮になってもらった所、すぐに食いついたからである。
 なお、全容を共有しているのは、文化の特性上魔法師だけ。将軍職に就いているヘイノとエスコらには、フィリアがそれとなく伝えている程度だ。
 暗殺者の襲撃が一旦途切れると、目の前で動く者は異形だけになった。結界内にいる暗殺者らには、ゾンビ化する魔法は届かないようだ。
 人外を良く見ると、戦いに適した服装ではない。特にアードルフ、ヤロ、イスモには見慣れていた、コラレダで良く着られる服でもあった。
 「さすがに、やり辛えな」
 「気持ちはわかるけどね。殺らなきゃ殺られるだけだよ」
 「殺すのではなく、解放だ。人として眠らせてやろう」
 年長の言葉に、弟分たちに力が入る。
 人外たちに視線を合わせながら、エスコは令嬢に、
 「アマンダ。君はどれぐらいの時間使える」
 「練習では数時間連続でいけました」
 「わかった。近くに失礼するよ。タイミングは自分でね」
 「はい」
 少女のいるソファーの横に座り込むエスコ。アマンダはハンナと目を合わせると、後者はこくりと頭を動かす。
 意識を集中させた将軍たちは、ゾンビに対抗する手段を手に入れる。片方は自らを分離させ、片方は本人と数名の白い鎧を纏った騎士を連れ、ゾンビの攻略を開始。生身の人間は、交代で結界の近くにいる敵を攻撃し始めた。
 なお、情報屋曰くゾンビはこの部屋をめがけて集まって来ているという。
 「どんどん増えてやがる。ワープで送ってるんだろーけど」
 「何か懸念があるのか」
 「前にもいったかもしれねーが、戦略はしらない。でも、妙な感じはする」
 「直接来たとしても、我らには四大魔法師の方々がいる。そう易々とは乗り込めまい」
 「機会をうかがってるってのか」
 「恐らくな。先での戦いを見るに、かなり警戒しているだろう」
 「ならいいけどな」
 「アルタリア様は」
 「きてくれるって。今、人数分の聖水の加工をしてるってさ」
 「そうか。この様な真夜中に申し訳ないが、我々では対処出来ない」
 様子を見る限り、この場はこちらが優勢ではある。しかし、相手の手の内が不透明な以上、警戒に越したことはない。そもそも、アマンダを狙う正確な理由すら判明していないのだ。
 決してライティア家の血筋を絶やすな。
 これは、アンブロー王国の軍を取り纏めるに就いた者に叩き込まれる、ある意味の常識である。しかし、内容については秘匿でもあった。
 とはいえ、魔法師に関わる何らかの事情だと察せられるが、口にする者はいない。公爵家である以前に、慕う人物を守りたいと思うのは、必然の心理だからだろう。誰かを守るのに、小難しい理屈など不要ではなかろうか。
 現に次期当主のアマンダは、構わず魔法を使い前線で戦っている。数年前まで血なまぐさいことを知らなかった少女が、復讐の為に剣を取り、ここまで歩いて来た。
 半透明な女将軍は、今では前線に立ち、三人の同じ透き通った白色の鎧をまとう青年らを指揮している。個人的な憎しみより、世の平和の為に武器を手にしているという。
 勿論、完全に憎悪の炎を消すことは出来ない。だが、本人も上手く口に出来ない様子だったが、現在を大事にするほうが、仇を討つより良い未来が待っているのではないか、とランバルコーヤにいた時に感じたそうだ。
 ふと頭によぎったヘイノは、現場を無事に乗り越え、解決する事に集中させる。
 数時間の攻防が行われている中、一行の前に広がる風景は変わる気配がない。倒せば結界で光へと還るのが救いだろうか。
 「おいおい、全然減ってねえじゃねえか」
 『ヤロ。斬ってる感覚はありますか』
 「あん? そりゃあ、まあな」
 『ほかの皆さんも?』
 彼女の問いかけに、不思議そうな表情で頷く面々。自らの手に視線を落とした令嬢は、一度肉体に戻ると伝える。
 「ご無理なさらず。結界があれば我々でも対処出来ます」
 『ありがとう、アードルフ。気をつけて』
 フッと姿を消した半透明のアマンダ。実体が目を開けると、とたん酷い倦怠感に襲われた。
 ハンナが魔法を掛けて生命力を回復させると、重たくなっていた頭が少し軽くなるのを感じる令嬢。
 「ありがとう。ねえ、ゾンビにわたしの攻撃はあまり効果がないみたいなの。原因は何かしら」
 「え。う、うーん。ほかの人たちはどうだったんですか」
 「見た限り対人間と同じような感じだと思うわ。わたしだけみたい」
 「なんだろう。霊体同士なら変わらないはずなんですけど。はじめからですか?」
 「ええ」
 「うーん、調べておきます。今は魔力ぎれに近い状態なので、とりあえず休んでください」
 「わかったわ、ありがとう」
 本来なら、魔法は魔法力を使って放つ技術。わたしの場合は生命力だから、力がはいらなくなってしまうのかもしれないわね。身を守るぐらいなら振るえると思ったのだけど。
 繰り広げられている戦いを視界に入れながら考える女将軍。ふと、隣に座っていたエスコも動き出した。
 「物騒な話が聞こえたけど。平気かい?」
 「はい。わたくしは戦わないほうがよさそうです」
 「そのようだ。にしても、いざ戦いとなるとやっぱり時間が短くなるね」
 「ええ。女神様の仰るとおりですわ」
 「これからは一緒に行動しようか。君は猪突猛進だから心配だよ」
 「んまっ」
 「ふふ、まあそう膨れないで。接近戦ができる人間がいてくれると助かるのもあるから」
 「そういうことでしたら構いませんっ」
 「頼りにしてるよ」
 コスティが聞いたら怒り狂うだろうな、と思いながら、エスコもハンナの力で次に備えた。
 二人が離脱してから十五分程。戦況を見守っているヘイノと情報屋の元に、タルを持ったアルタリアが現れる。
 「遅くなった。とりあえず、これがあれば、随分楽になる」
 「これは、聖水でしょうか」
 「そう。武器に付ければ、普通の人間と戦うのと、同じなる」
 「助かります。交代して付けていきます」
 「うん。ところで、フィリアは」
 「グランと一緒に外回りしてる」
 「外回り? どこの」
 「ここのだよここのっ。ボケかましてる場合じゃねーだろーが」
 困った顔をした水の魔法師。外にはゾンビ以外いなかったと告げ、四大魔法師同士ならすぐ存在に気づくと続ける。
 「森に、いる訳でもない」
 「ちょっと、待ってくれよ。どーいうコトだよ」
 「さ、さあ」
 首をかしげたアルタリアは、今までの説明を受けると、窓から空の様子を伺った。
 夜はまだ明けておらず、まるで深夜のように真っ暗である。
 青年は眉をひそめると、
 「おそらく、館ごと、魔力の中に閉じ込められている。多分、グランは、弾き出された」
 「はじき、って。そんな気配感じなかったぜ。フィリアは」
 「状態は、分からない。少なくとも、館周辺には、いない。消滅した訳でもない」
 「フィリアもグランも無事ってことだよな。マジでなにがしてーんだ、あいつらは」
 「暗殺者は、何が仕事? ゾンビを使ってでも、達成させたい事は」
 「アマンダの身柄確保、私とエスコの暗殺、でしょうか」
 タルを移動させて兵たちに託したヘイノ。引き抜いた剣は、うっすらと濡れている。
 「そうと仮定して、それをフィランダリア領内でやったら、どうなる」
 はっと表情筋を顔の外側に動かすフウリラ将軍。
 「ワープ、の気配が無かったのなら、使われていない。隠すことは、不可能だ」
 「そう、だよな。幻を使っても視界を誤魔化せるだけだもんな。魔力は残るし」
 「そう。でも、目的は、早急に達成させなければ、コラレダにとって、意味を成さない」
 「でも、フィランダリアじゃできねぇんだよな。……まさか」
 「そう。この館は、いつもの場所にない、という事になる」
 「お待ちを。建物ごと移動したと仰るのですか」
 「いや、中身だけ」
 「あー、つまり。どデカいワープを使って、中にいる人間を、魔力で創られた空間に強制移動させたってコトだ」
 「どういう事だ。ワープは使われていなかったのだろう」
 「ワープだけが移動手段じゃねぇよ。荷物をコンパクトに持ち運ぶために使う魔道具もある」
 アルタリアは話しかたこそたどたどしいが、四大魔法師の一人。しかも、実力は四人中トップの人物である。
 情報屋が補足して整理すると、暗殺者が参加する前は、ゾンビは魔道具で運ばれた。暗殺者が来てサンプサがフィリアとグランとの連絡を取った時が、ターニングポイントだったという。
 「話を聞いたときは、てっきりあっちが通信をきったんだと思ったけど、違う。きれたんだよ。話してる最中に法陣が壊れたから」
 模様が崩れると同時に発動されるよう仕組まれていた、と情報屋。それでも魔法師たちが気づかなかったのは、ワープを発動する前に何者かの魔力で館を覆った後で移動魔法が使われたから、らしい。例えるなら、外で花火を放っても光や音などで気づかれないよう内側に幕を張った、という感じだろう。
 精密で高度な技術が必要だが、理論上可能だと付け加えた。
 「では、アルタリア様はどの様にこちらへ」
 「この館の花壇や花瓶に、私の魔力を浸透させた水を、使っている。そこから来た」
 「実体をもってねえからデキる技だな。その場にある魔力から自分を生成させる、っつっても伝わんねぇよな」
 「残念ながら。だが、魔法にもちゃんとカラクリがあるのは理解出来た」
 「十分じゃねぇの。オレに騎士のことがわかんねぇのと同じだし。って、んなコトいってる場合じゃねぇや」
 「ああ。現状、フィリア様とグラン殿は戦線離脱。我々は魔力という名の牢獄に閉じ込められている」
 「おそらく、ゾンビは無限に近い。このままでは、消耗するだけ」
 「脱出するにも、ここがどこだかわかんねーもんな」
 「多分、コラレダ大陸の北東に位置する、古い館。今は、使われていない」
 「あの崖んトコ?」
 「そう」
 「うげ。でてもゾンビだらけじゃんか」
 「元の場所に戻る方法は?」
 「仕組みが見えないから、分からない」
 「成程。貴方様のお力で戻れませんか」
 「力づくで戻れは、する。でも、この辺りの地形が、変わってしまう」
 「それは危険ですね。タトゥに隙を与えることになる」
 「うん、厄介」
 お二人が弾かれた理由がこれか、とヘイノは考える。解決するには地道にやっていくしか道はなさそうだった。仕掛けがあるのなら、解除すれば良いのである。
 「ゾンビ以外でコラレダ側になるべく被害を出さず、かつ我々が戻る方法、ですが。何か良い案はございますか」
 「まずは、魔力の壁を、破壊する。安全を図ってから、私がワープを使う」
 「っつっても、本人どこにいんだかわかんねーじゃん」
 「本人は、いない。法陣が無くなったと同時に、発動したのなら、いなくても問題ない」
 「近くにいても問題ないのですか?」
 「大丈夫。今度は私の魔力で、建物を包むから、入れない」
 「ありがたいです。これで相手は手が出せないですね」
 この間、情報屋は水晶を手に取り、光らせていた。
 「どう」
 「ダメだ、全然映らねぇ」
 「そう。なら、虱(しらみ)潰しに、当たるしかない」
 ちなみに、アルタリアは捜索系の魔法を苦手としている。プール程のまとまった水があればどうにか出来る位だという。
 「大規模だから、どこかに魔道具が、あると思う。大きいのが一つか、小さいのが五つか六つ。あるいは両方を破壊すれば、おそらく壁が無くなる」
 「はじめの一つが見つかれば、探しやすくなるはずだぜ。ボーゼイ図形にのっとってるはずだ」
 「芒星図形……。資料にあった、星型の図形の事だな。分かった」
 「念の為、私以外の魔法師は、行かないほうが、良い。魔力に反応する罠が、あるかもしれない」
 「だとよ、ヘイノ。ここも守んなきゃなんねぇし」
 「そうだな」
 逆も然りで、万が一のことを考えて動かなければならない。幸い、この場にいる魔法師たちは協力的だ。
 ヘイノはエスコとアマンダの元に行き、人選を考える事にした。


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 なお、全容を共有しているのは、文化の特性上魔法師だけ。将軍職に就いているヘイノとエスコらには、フィリアがそれとなく伝えている程度だ。
 暗殺者の襲撃が一旦途切れると、目の前で動く者は異形だけになった。結界内にいる暗殺者らには、ゾンビ化する魔法は届かないようだ。
 人外を良く見ると、戦いに適した服装ではない。特にアードルフ、ヤロ、イスモには見慣れていた、コラレダで良く着られる服でもあった。
 「さすがに、やり辛えな」
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 「殺すのではなく、解放だ。人として眠らせてやろう」
 年長の言葉に、弟分たちに力が入る。
 人外たちに視線を合わせながら、エスコは令嬢に、
 「アマンダ。君はどれぐらいの時間使える」
 「練習では数時間連続でいけました」
 「わかった。近くに失礼するよ。タイミングは自分でね」
 「はい」
 少女のいるソファーの横に座り込むエスコ。アマンダはハンナと目を合わせると、後者はこくりと頭を動かす。
 意識を集中させた将軍たちは、ゾンビに対抗する手段を手に入れる。片方は自らを分離させ、片方は本人と数名の白い鎧を纏った騎士を連れ、ゾンビの攻略を開始。生身の人間は、交代で結界の近くにいる敵を攻撃し始めた。
 なお、情報屋曰くゾンビはこの部屋をめがけて集まって来ているという。
 「どんどん増えてやがる。ワープで送ってるんだろーけど」
 「何か懸念があるのか」
 「前にもいったかもしれねーが、戦略はしらない。でも、妙な感じはする」
 「直接来たとしても、我らには四大魔法師の方々がいる。そう易々とは乗り込めまい」
 「機会をうかがってるってのか」
 「恐らくな。先での戦いを見るに、かなり警戒しているだろう」
 「ならいいけどな」
 「アルタリア様は」
 「きてくれるって。今、人数分の聖水の加工をしてるってさ」
 「そうか。この様な真夜中に申し訳ないが、我々では対処出来ない」
 様子を見る限り、この場はこちらが優勢ではある。しかし、相手の手の内が不透明な以上、警戒に越したことはない。そもそも、アマンダを狙う正確な理由すら判明していないのだ。
 決してライティア家の血筋を絶やすな。
 これは、アンブロー王国の軍を取り纏めるに就いた者に叩き込まれる、ある意味の常識である。しかし、内容については秘匿でもあった。
 とはいえ、魔法師に関わる何らかの事情だと察せられるが、口にする者はいない。公爵家である以前に、慕う人物を守りたいと思うのは、必然の心理だからだろう。誰かを守るのに、小難しい理屈など不要ではなかろうか。
 現に次期当主のアマンダは、構わず魔法を使い前線で戦っている。数年前まで血なまぐさいことを知らなかった少女が、復讐の為に剣を取り、ここまで歩いて来た。
 半透明な女将軍は、今では前線に立ち、三人の同じ透き通った白色の鎧をまとう青年らを指揮している。個人的な憎しみより、世の平和の為に武器を手にしているという。
 勿論、完全に憎悪の炎を消すことは出来ない。だが、本人も上手く口に出来ない様子だったが、現在を大事にするほうが、仇を討つより良い未来が待っているのではないか、とランバルコーヤにいた時に感じたそうだ。
 ふと頭によぎったヘイノは、現場を無事に乗り越え、解決する事に集中させる。
 数時間の攻防が行われている中、一行の前に広がる風景は変わる気配がない。倒せば結界で光へと還るのが救いだろうか。
 「おいおい、全然減ってねえじゃねえか」
 『ヤロ。斬ってる感覚はありますか』
 「あん? そりゃあ、まあな」
 『ほかの皆さんも?』
 彼女の問いかけに、不思議そうな表情で頷く面々。自らの手に視線を落とした令嬢は、一度肉体に戻ると伝える。
 「ご無理なさらず。結界があれば我々でも対処出来ます」
 『ありがとう、アードルフ。気をつけて』
 フッと姿を消した半透明のアマンダ。実体が目を開けると、とたん酷い倦怠感に襲われた。
 ハンナが魔法を掛けて生命力を回復させると、重たくなっていた頭が少し軽くなるのを感じる令嬢。
 「ありがとう。ねえ、ゾンビにわたしの攻撃はあまり効果がないみたいなの。原因は何かしら」
 「え。う、うーん。ほかの人たちはどうだったんですか」
 「見た限り対人間と同じような感じだと思うわ。わたしだけみたい」
 「なんだろう。霊体同士なら変わらないはずなんですけど。はじめからですか?」
 「ええ」
 「うーん、調べておきます。今は魔力ぎれに近い状態なので、とりあえず休んでください」
 「わかったわ、ありがとう」
 本来なら、魔法は魔法力を使って放つ技術。わたしの場合は生命力だから、力がはいらなくなってしまうのかもしれないわね。身を守るぐらいなら振るえると思ったのだけど。
 繰り広げられている戦いを視界に入れながら考える女将軍。ふと、隣に座っていたエスコも動き出した。
 「物騒な話が聞こえたけど。平気かい?」
 「はい。わたくしは戦わないほうがよさそうです」
 「そのようだ。にしても、いざ戦いとなるとやっぱり時間が短くなるね」
 「ええ。女神様の仰るとおりですわ」
 「これからは一緒に行動しようか。君は猪突猛進だから心配だよ」
 「んまっ」
 「ふふ、まあそう膨れないで。接近戦ができる人間がいてくれると助かるのもあるから」
 「そういうことでしたら構いませんっ」
 「頼りにしてるよ」
 コスティが聞いたら怒り狂うだろうな、と思いながら、エスコもハンナの力で次に備えた。
 二人が離脱してから十五分程。戦況を見守っているヘイノと情報屋の元に、タルを持ったアルタリアが現れる。
 「遅くなった。とりあえず、これがあれば、随分楽になる」
 「これは、聖水でしょうか」
 「そう。武器に付ければ、普通の人間と戦うのと、同じなる」
 「助かります。交代して付けていきます」
 「うん。ところで、フィリアは」
 「グランと一緒に外回りしてる」
 「外回り? どこの」
 「ここのだよここのっ。ボケかましてる場合じゃねーだろーが」
 困った顔をした水の魔法師。外にはゾンビ以外いなかったと告げ、四大魔法師同士ならすぐ存在に気づくと続ける。
 「森に、いる訳でもない」
 「ちょっと、待ってくれよ。どーいうコトだよ」
 「さ、さあ」
 首をかしげたアルタリアは、今までの説明を受けると、窓から空の様子を伺った。
 夜はまだ明けておらず、まるで深夜のように真っ暗である。
 青年は眉をひそめると、
 「おそらく、館ごと、魔力の中に閉じ込められている。多分、グランは、弾き出された」
 「はじき、って。そんな気配感じなかったぜ。フィリアは」
 「状態は、分からない。少なくとも、館周辺には、いない。消滅した訳でもない」
 「フィリアもグランも無事ってことだよな。マジでなにがしてーんだ、あいつらは」
 「暗殺者は、何が仕事? ゾンビを使ってでも、達成させたい事は」
 「アマンダの身柄確保、私とエスコの暗殺、でしょうか」
 タルを移動させて兵たちに託したヘイノ。引き抜いた剣は、うっすらと濡れている。
 「そうと仮定して、それをフィランダリア領内でやったら、どうなる」
 はっと表情筋を顔の外側に動かすフウリラ将軍。
 「ワープ、の気配が無かったのなら、使われていない。隠すことは、不可能だ」
 「そう、だよな。幻を使っても視界を誤魔化せるだけだもんな。魔力は残るし」
 「そう。でも、目的は、早急に達成させなければ、コラレダにとって、意味を成さない」
 「でも、フィランダリアじゃできねぇんだよな。……まさか」
 「そう。この館は、いつもの場所にない、という事になる」
 「お待ちを。建物ごと移動したと仰るのですか」
 「いや、中身だけ」
 「あー、つまり。どデカいワープを使って、中にいる人間を、魔力で創られた空間に強制移動させたってコトだ」
 「どういう事だ。ワープは使われていなかったのだろう」
 「ワープだけが移動手段じゃねぇよ。荷物をコンパクトに持ち運ぶために使う魔道具もある」
 アルタリアは話しかたこそたどたどしいが、四大魔法師の一人。しかも、実力は四人中トップの人物である。
 情報屋が補足して整理すると、暗殺者が参加する前は、ゾンビは魔道具で運ばれた。暗殺者が来てサンプサがフィリアとグランとの連絡を取った時が、ターニングポイントだったという。
 「話を聞いたときは、てっきりあっちが通信をきったんだと思ったけど、違う。きれたんだよ。話してる最中に法陣が壊れたから」
 模様が崩れると同時に発動されるよう仕組まれていた、と情報屋。それでも魔法師たちが気づかなかったのは、ワープを発動する前に何者かの魔力で館を覆った後で移動魔法が使われたから、らしい。例えるなら、外で花火を放っても光や音などで気づかれないよう内側に幕を張った、という感じだろう。
 精密で高度な技術が必要だが、理論上可能だと付け加えた。
 「では、アルタリア様はどの様にこちらへ」
 「この館の花壇や花瓶に、私の魔力を浸透させた水を、使っている。そこから来た」
 「実体をもってねえからデキる技だな。その場にある魔力から自分を生成させる、っつっても伝わんねぇよな」
 「残念ながら。だが、魔法にもちゃんとカラクリがあるのは理解出来た」
 「十分じゃねぇの。オレに騎士のことがわかんねぇのと同じだし。って、んなコトいってる場合じゃねぇや」
 「ああ。現状、フィリア様とグラン殿は戦線離脱。我々は魔力という名の牢獄に閉じ込められている」
 「おそらく、ゾンビは無限に近い。このままでは、消耗するだけ」
 「脱出するにも、ここがどこだかわかんねーもんな」
 「多分、コラレダ大陸の北東に位置する、古い館。今は、使われていない」
 「あの崖んトコ?」
 「そう」
 「うげ。でてもゾンビだらけじゃんか」
 「元の場所に戻る方法は?」
 「仕組みが見えないから、分からない」
 「成程。貴方様のお力で戻れませんか」
 「力づくで戻れは、する。でも、この辺りの地形が、変わってしまう」
 「それは危険ですね。タトゥに隙を与えることになる」
 「うん、厄介」
 お二人が弾かれた理由がこれか、とヘイノは考える。解決するには地道にやっていくしか道はなさそうだった。仕掛けがあるのなら、解除すれば良いのである。
 「ゾンビ以外でコラレダ側になるべく被害を出さず、かつ我々が戻る方法、ですが。何か良い案はございますか」
 「まずは、魔力の壁を、破壊する。安全を図ってから、私がワープを使う」
 「っつっても、本人どこにいんだかわかんねーじゃん」
 「本人は、いない。法陣が無くなったと同時に、発動したのなら、いなくても問題ない」
 「近くにいても問題ないのですか?」
 「大丈夫。今度は私の魔力で、建物を包むから、入れない」
 「ありがたいです。これで相手は手が出せないですね」
 この間、情報屋は水晶を手に取り、光らせていた。
 「どう」
 「ダメだ、全然映らねぇ」
 「そう。なら、虱(しらみ)潰しに、当たるしかない」
 ちなみに、アルタリアは捜索系の魔法を苦手としている。プール程のまとまった水があればどうにか出来る位だという。
 「大規模だから、どこかに魔道具が、あると思う。大きいのが一つか、小さいのが五つか六つ。あるいは両方を破壊すれば、おそらく壁が無くなる」
 「はじめの一つが見つかれば、探しやすくなるはずだぜ。ボーゼイ図形にのっとってるはずだ」
 「芒星図形……。資料にあった、星型の図形の事だな。分かった」
 「念の為、私以外の魔法師は、行かないほうが、良い。魔力に反応する罠が、あるかもしれない」
 「だとよ、ヘイノ。ここも守んなきゃなんねぇし」
 「そうだな」
 逆も然りで、万が一のことを考えて動かなければならない。幸い、この場にいる魔法師たちは協力的だ。
 ヘイノはエスコとアマンダの元に行き、人選を考える事にした。