第七十二話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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フィランダリア大陸からコラレダ大陸に強制転送されたアマンダたち。駆けつけたアルタリア曰く、随分前から使われていない館だという。
ここは厳しい寒さに晒されながらも、独特の生態や幻想的な風景などが有名で、大陸の最北の観光地として栄えていた。しかし、コラレダが帝国になる前、当時王子だったタトゥの逆鱗に触れて滅ぼされてしまい、今となっては行き場の無い人々の最終地点となっている。多くの難民が静かな最期を求めてやって来る場所と化してしまったのである。
強引に連れて来られた今を生きる者たちは、未来へと向かう為、元の館に戻る対策を練った。幾つかのグループに別れて、障害となっている魔力の壁の源を破壊するのが目的だ。
それぞれ、アードルフとギルバート、ヤロとイスモ、アマンダとエスコが組み、単身でアルタリアが部屋から出て館の捜索をすることになった。
なお、ランバルコーヤの傭兵たちは、部屋でゾンビたちの相手をし、魔法師たちはサポートに回る。
「もし、魔法の仕掛けがあったら、私を呼んで。決して、触らないように」
「了解。よくわかんないモノがあったら連絡させてもらいますよ」
「うん。後、聖水の量も、気をつけて」
「ああ。普通の剣じゃあ戦えねえからな」
「これ凄いねー。さっき試したけど、これなら楽に戦えるー」
「あくまで自衛用だからな」
「分かってるよー」
と、笑顔で返すギルバート。他の傭兵は、ホントに大丈夫かコイツ、という視線を送る。
「僕らは時間制限があるから近場にさせてもらうけど。みんな、前に突っ込みすぎないように」
「大丈夫。逃げるのは得意だし」
「こんなとこで死にたかねえからな」
「同じくー」
「心得ます」
「気をつけて。また会いましょう」
アマンダの一言に、一同頷いた。
各々の準備が終わると、アルタリアが目の前にいるゾンビたちと対峙する。
彼は結界の外まで歩いて行き、右手を胸の高さまでゆっくりと動かした。
ゾンビは血肉を求めて襲い掛かるも、横に払われた腕から発せられた冷気に包まれてしまう。
入口近くまで、速度を変えずに足を動かす水の魔法師。到着すると、無表情で、おやすみ、とつぶやいた。
直後、人工氷岩は、いとも簡単に砕け散る。
中身は光となって消え、氷も不思議と蒸発してしまった様だ。
いたたまれない雰囲気を残しながら、ヘイノは、
「武運を祈る。頼んだ」
「行くぞ。すぐに次がやって来るかもしれん」
と、アードルフは普段のトーンで義弟たちに声を掛ける。意識がはっきりした面々は、部屋を駆け抜けた。アルタリアも、急ぎ足で続く。
「よし。アマンダ、行くよ」
「はい」
見送った二人は準備に取り掛かる。精神体になると、壁をすり抜け反対側の部屋へと向かった。
『不謹慎だけど、幽霊ってこんな感じなのかもね』
『非常時でなければ楽しめたかもしれませんね』
『そうだね。早く平和な世にしないと』
妻子のいるエスコは、より強く想うのかもしれない。
近場に目的物はさすがになく、お互いの状態を確認しながら隣へ、隣へと移動して行く。扉が閉まっているせいか、部屋にゾンビはいなかった。
しかし、とある一室は一変していた。密室であるにも関わらず、人外がひしめき合っているのである。中には骨だけになっている相手もいた。
こちらに気づいた一団は、ゆらゆらしながら近づいて来る。アマンダは白鎧(はくがい)の騎士たちを呼び、エスコは下がって弓を構える。
光の筋を伴った矢は、一番先頭にいるゾンビの頭を貫通すると、後ろにいる同類にも被弾。数体がまとめて倒れると、騎士数人は前に出て道を少しずつ斬りひらいていった。
だが、先刻と同じ様に、頭数が減らない。険しい表情をしたエスコは、一旦引くことも視野に入れる。
『これは、幻ですね。後ろにいるのは虚像ですわ』
『実際の数は減ってる?』
『はい。このまま倒していってくださいますか。そうしたら、わたくしが光へと還します』
『君に危険がないならそうする』
『ご安心を。ライティア家を絶やす気はございませんもの』
と、微笑むアマンダ。レインバーグ将軍もつられると、
『了解。後援は任せてくれ』
話しながら再び弓を構え、騎士たちの頭上へと飛ばす。将軍は剣では届かない範囲のゾンビを攻撃し続け、白鎧たちはなるべく力を温存するかの如く動き、一撃で動けなくさせていた。
繰り返しの攻防を行っていると、そのうち味方の視界には体のラインが波打っているゾンビの数が増えている事に気づく。
全体がそうなると、アマンダはハンナの力を借りて浄化魔法を放った。室内にゆっくりと降り注ぐ光の粒は、鬱屈していた部屋の雰囲気を徐々に明るくさせて行く。
ああああああああああ
言葉にならない唸り声が、彼女たちの耳を貫く。重苦しい音は、やがて軽くなり、耳障りの良い音に変わって行った。
そして、部屋一杯になった光の一部は、アマンダを目掛けてすっ飛んで来る。まるで楽しく飛び回っている妖精の様に少女を囲む光の粒たち。数分後、ようやく落ち着いたのか、彼女の中に吸い込まれて行った。
エスコは目をパチパチさせながら、
『変化は、特にないよね』
『ええ。力になってくれるそうですわ』
『そ、そう。ならいいや』
全ての光源が消えた部屋はがらんとし、埃だけが舞っている。そんな中、一人の騎士が箱を見つけたらしく、剣で突いていた。
『特に反応はないから、空っぽだろう。入口が閉まっている限り安全だ』
『わかりました。念の為に戻りましょう』
『了解』
話した騎士の顔を見たエスコがポカンとしていると、目が合った騎士は、バレた、と言いながら、困り顔でクスクスと笑い消えて行く。
『まさか、クレメッティ様っ』
『そ、そうなのです。黙ってるようにといわれまして』
『はあ。ちょっと後で聞かせてもらうからね』
『は、はい』
と、娘もおろおろしまう。ため息をついたエスコは、でも口元が少し笑っている。
貴族たちは、一度回復のために下がる事にした。
他のグループはまだ戻っていなかったが、白鎧の騎士の正体以外を皆と共有し、アマンダたちは生命力を回復させると、先程の部屋に戻った。
警戒する必要がないと判断すると、中央を突っ切り、奥へと進む。
すると、紫色の煙の様なものを出しながら、模様が宙に浮いていた。どう見ても人工物ではない。
ライティア将軍は早速アルタリアに連絡を取る。数分後に現れた彼は、視界に入れるなり顔を歪める。
「これは、ゾンビを生成する為の、魔法陣だ」
『では、これを壊せば』
「少しは減る。規模的に、他にもまだ、あるはず」
『そんな』
『アマンダの魔法で浄化はできるようですが』
「頻繁に、やらない方がいい。無理矢理、使っている状態だから、反動が怖い」
『だそうだ。あくまで最終手段にしておこう』
『え、ええ』
悔しそうにする少女の肩に、手が添えられる。
『君の気持ちはわかる。救える人を確実に救っていこう』
ゆっくりと頷いたアマンダの目尻には、うっすらと水が溜まっていた。
「他に、何か気になった事は」
『今のところ、さっきの模様だけです。引き続き近場を調べます』
「うん。私もこの辺りだから、体を優先に」
『ありがとうございます。では、失礼します』
一礼した将軍たちは、隣の部屋へと移動した。
背中を見送ったアルタリアは、扉から外に出る。数体のゾンビに出くわすも、生成したショートソード一閃し、首を切り落とした。
まさかまた同じ事が繰り返されるなんて。
思わず力が入った柄からは、気のせいかみしみしと音がする。今では紙面上にしかない記録を記憶として持っている身からすれば、悪夢以外何者でもないのだろう。
魔法より武芸のほうが得意な彼は、どちらかと言うと騎士の戦闘スタイルに近い。魔法は主に対複数戦に使い、相手の実力次第では、武器だけで先程と同様に払うことが出来るのだ。
より高い威力を出力するのなら、特殊な武器に魔法を付与して攻撃すれば良い話だが、何分実用的ではない。過去に魔法師たちへ安全な土地を提供する為に、大陸の一部を分断させた程の威力だからだ。
とはいえ、魔法師内では、力の有無など関係なかった。むしろ、その力をどう生かしてどう社会に貢献するかを、大人たちは真摯に考え、そして教えてくれた。
しかし、他の種族は違う。歴史が示す通り、我欲に溺れた者に、魔法師は使い捨ての駒にされたのである。
だからこそ彼は、目の前にいる死者たちには同情心を抱いていた。せめて苦しまぬ様、一撃で葬るのは、せめてもの救いだと信じて。
ゾンビたちに意識があるのかどうかは、未だに不明だが、唸り声からは悲しみしか感じないからかもしれない。
アマンダたちの気配を気にしながら、アルタリアは一つ一つの部屋を開けて異常がないかを確認して行く。両手では数えられない部屋をのぞいたが、これといった変化はない。
『情報屋。聞こえる』
『うん。どしたの』
『転移する前、フィリアには、感じ取れなかったんだっけ』
『本人ってか魔法師っていってたよ』
『そう。困った、周辺の部屋には、何もない』
『アマンダたちにいってもらうように頼むよ』
『うん。別れた部屋から、反対側の通路を調べたと、伝えて』
『りょーかい』
探知能力の差ではなく、魔力自体に反応して隠蔽しているのなら、魔法師に何かを探すことは難しい。かといって、魔力を持っていない風にしては、ゾンビの対処が出来なくなる。
随分と手の込んだ仕掛けだと、アルタリアは改めて思った。
他のグループからの連絡も無いので、一旦部屋に戻ることにした水の魔法師。聖水の残量も問題なく、精神体のグループからも異常は見られなかったという。
礼を伝えた彼は、違う方角に進むことにした。
部屋から見て一番遠くにある方角に歩を進めると、だんだんとゾンビの姿が少なくなって行った。その代わり、妙な流れを感じたアルタリアは、自身の存在を希薄にし、様子を伺う。
とある広めの一室、おそらく厨房と食堂の続きと思われる場所に、問題を起こした闇色の装束を纏った連中が集まっている。
「ゾンビのお陰で時間稼げるからな。俺達はゆっくりと準備できる」
「ああ。死んでからも王家の役に立てるなんざ、愚民共にはありがたすぎるだろうよ」
ぎゃははは、と笑い合う男たち。目を細めた青年は、一度抑えて耳を傾ける。
「金髪のガキをさらうだけなのに、何故あの魔法師が手を貸すんだかな」
「確実に成功させたいかららしいぜ。将軍クラスの二人と、隊長が元部隊長も始末したいんだと」
「元部隊長? ああ、ヤンネ隊長のことか。意外に面倒見がよくて好きだったけどな」
「お前、隊長に聞かれないようにしろよ。あっという間に左遷だからな」
「へいへい。にしても暇だな。傭兵部隊はいつ来るんだか」
「さあな。急行してるって聞いたが」
「おーい、手の空いてる奴ら、外で死体掘り起こせってよ」
「もう使い切ったのかよ。アンブロー軍、やばくないか」
「ランバルコーヤの奴らもいるらしいが。それでも早過ぎるよな」
重い腰を上げた男たちは、近くにいる敵に気づかずに、その場を後にする。
奴らの目的は、ほぼこちらが思っていた通りか。死者への冒涜は許されるものじゃない。
アルタリアは部屋にマーキングをすると、近くの窓から外に出て暗殺者たちを尾行。案の定、簡易的に作られた墓を荒らしている連中と、何らかの力でゆっくりと動く死体の姿があった。
魔法師は一瞬で採掘所に移動すると、墓荒らしの手を含んだ下半身を冷たくない氷で覆う。敵が騒ぐ中、続いて雲を呼び寄せ、雨を降らせた。
すると、立っていた者たちが崩れ落ち、そのまま動かなくなる。これは広範囲の浄化魔法で、火事は火元を消せば良いのである。
「死にたくなければ、そこにいると良い」
普段穏やかなアルタリアからは考えられない冷たい視線は、暗殺者をただの人間に戻すのに十分だった模様。
仲間がいる場所に移動したアルタリアは、転がっていた死体をマーキングした部屋へと放り込むと、少し休む、と伝え、屋上へと歩いて行った。
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フィランダリア大陸からコラレダ大陸に強制転送されたアマンダたち。駆けつけたアルタリア曰く、随分前から使われていない館だという。
ここは厳しい寒さに晒されながらも、独特の生態や幻想的な風景などが有名で、大陸の最北の観光地として栄えていた。しかし、コラレダが帝国になる前、当時王子だったタトゥの逆鱗に触れて滅ぼされてしまい、今となっては行き場の無い人々の最終地点となっている。多くの難民が静かな最期を求めてやって来る場所と化してしまったのである。
強引に連れて来られた今を生きる者たちは、未来へと向かう為、元の館に戻る対策を練った。幾つかのグループに別れて、障害となっている魔力の壁の源を破壊するのが目的だ。
それぞれ、アードルフとギルバート、ヤロとイスモ、アマンダとエスコが組み、単身でアルタリアが部屋から出て館の捜索をすることになった。
なお、ランバルコーヤの傭兵たちは、部屋でゾンビたちの相手をし、魔法師たちはサポートに回る。
「もし、魔法の仕掛けがあったら、私を呼んで。決して、触らないように」
「了解。よくわかんないモノがあったら連絡させてもらいますよ」
「うん。後、聖水の量も、気をつけて」
「ああ。普通の剣じゃあ戦えねえからな」
「これ凄いねー。さっき試したけど、これなら楽に戦えるー」
「あくまで自衛用だからな」
「分かってるよー」
と、笑顔で返すギルバート。他の傭兵は、ホントに大丈夫かコイツ、という視線を送る。
「僕らは時間制限があるから近場にさせてもらうけど。みんな、前に突っ込みすぎないように」
「大丈夫。逃げるのは得意だし」
「こんなとこで死にたかねえからな」
「同じくー」
「心得ます」
「気をつけて。また会いましょう」
アマンダの一言に、一同頷いた。
各々の準備が終わると、アルタリアが目の前にいるゾンビたちと対峙する。
彼は結界の外まで歩いて行き、右手を胸の高さまでゆっくりと動かした。
ゾンビは血肉を求めて襲い掛かるも、横に払われた腕から発せられた冷気に包まれてしまう。
入口近くまで、速度を変えずに足を動かす水の魔法師。到着すると、無表情で、おやすみ、とつぶやいた。
直後、人工氷岩は、いとも簡単に砕け散る。
中身は光となって消え、氷も不思議と蒸発してしまった様だ。
いたたまれない雰囲気を残しながら、ヘイノは、
「武運を祈る。頼んだ」
「行くぞ。すぐに次がやって来るかもしれん」
と、アードルフは普段のトーンで義弟たちに声を掛ける。意識がはっきりした面々は、部屋を駆け抜けた。アルタリアも、急ぎ足で続く。
「よし。アマンダ、行くよ」
「はい」
見送った二人は準備に取り掛かる。精神体になると、壁をすり抜け反対側の部屋へと向かった。
『不謹慎だけど、幽霊ってこんな感じなのかもね』
『非常時でなければ楽しめたかもしれませんね』
『そうだね。早く平和な世にしないと』
妻子のいるエスコは、より強く想うのかもしれない。
近場に目的物はさすがになく、お互いの状態を確認しながら隣へ、隣へと移動して行く。扉が閉まっているせいか、部屋にゾンビはいなかった。
しかし、とある一室は一変していた。密室であるにも関わらず、人外がひしめき合っているのである。中には骨だけになっている相手もいた。
こちらに気づいた一団は、ゆらゆらしながら近づいて来る。アマンダは白鎧(はくがい)の騎士たちを呼び、エスコは下がって弓を構える。
光の筋を伴った矢は、一番先頭にいるゾンビの頭を貫通すると、後ろにいる同類にも被弾。数体がまとめて倒れると、騎士数人は前に出て道を少しずつ斬りひらいていった。
だが、先刻と同じ様に、頭数が減らない。険しい表情をしたエスコは、一旦引くことも視野に入れる。
『これは、幻ですね。後ろにいるのは虚像ですわ』
『実際の数は減ってる?』
『はい。このまま倒していってくださいますか。そうしたら、わたくしが光へと還します』
『君に危険がないならそうする』
『ご安心を。ライティア家を絶やす気はございませんもの』
と、微笑むアマンダ。レインバーグ将軍もつられると、
『了解。後援は任せてくれ』
話しながら再び弓を構え、騎士たちの頭上へと飛ばす。将軍は剣では届かない範囲のゾンビを攻撃し続け、白鎧たちはなるべく力を温存するかの如く動き、一撃で動けなくさせていた。
繰り返しの攻防を行っていると、そのうち味方の視界には体のラインが波打っているゾンビの数が増えている事に気づく。
全体がそうなると、アマンダはハンナの力を借りて浄化魔法を放った。室内にゆっくりと降り注ぐ光の粒は、鬱屈していた部屋の雰囲気を徐々に明るくさせて行く。
ああああああああああ
言葉にならない唸り声が、彼女たちの耳を貫く。重苦しい音は、やがて軽くなり、耳障りの良い音に変わって行った。
そして、部屋一杯になった光の一部は、アマンダを目掛けてすっ飛んで来る。まるで楽しく飛び回っている妖精の様に少女を囲む光の粒たち。数分後、ようやく落ち着いたのか、彼女の中に吸い込まれて行った。
エスコは目をパチパチさせながら、
『変化は、特にないよね』
『ええ。力になってくれるそうですわ』
『そ、そう。ならいいや』
全ての光源が消えた部屋はがらんとし、埃だけが舞っている。そんな中、一人の騎士が箱を見つけたらしく、剣で突いていた。
『特に反応はないから、空っぽだろう。入口が閉まっている限り安全だ』
『わかりました。念の為に戻りましょう』
『了解』
話した騎士の顔を見たエスコがポカンとしていると、目が合った騎士は、バレた、と言いながら、困り顔でクスクスと笑い消えて行く。
『まさか、クレメッティ様っ』
『そ、そうなのです。黙ってるようにといわれまして』
『はあ。ちょっと後で聞かせてもらうからね』
『は、はい』
と、娘もおろおろしまう。ため息をついたエスコは、でも口元が少し笑っている。
貴族たちは、一度回復のために下がる事にした。
他のグループはまだ戻っていなかったが、白鎧の騎士の正体以外を皆と共有し、アマンダたちは生命力を回復させると、先程の部屋に戻った。
警戒する必要がないと判断すると、中央を突っ切り、奥へと進む。
すると、紫色の煙の様なものを出しながら、模様が宙に浮いていた。どう見ても人工物ではない。
ライティア将軍は早速アルタリアに連絡を取る。数分後に現れた彼は、視界に入れるなり顔を歪める。
「これは、ゾンビを生成する為の、魔法陣だ」
『では、これを壊せば』
「少しは減る。規模的に、他にもまだ、あるはず」
『そんな』
『アマンダの魔法で浄化はできるようですが』
「頻繁に、やらない方がいい。無理矢理、使っている状態だから、反動が怖い」
『だそうだ。あくまで最終手段にしておこう』
『え、ええ』
悔しそうにする少女の肩に、手が添えられる。
『君の気持ちはわかる。救える人を確実に救っていこう』
ゆっくりと頷いたアマンダの目尻には、うっすらと水が溜まっていた。
「他に、何か気になった事は」
『今のところ、さっきの模様だけです。引き続き近場を調べます』
「うん。私もこの辺りだから、体を優先に」
『ありがとうございます。では、失礼します』
一礼した将軍たちは、隣の部屋へと移動した。
背中を見送ったアルタリアは、扉から外に出る。数体のゾンビに出くわすも、生成したショートソード一閃し、首を切り落とした。
まさかまた同じ事が繰り返されるなんて。
思わず力が入った柄からは、気のせいかみしみしと音がする。今では紙面上にしかない記録を記憶として持っている身からすれば、悪夢以外何者でもないのだろう。
魔法より武芸のほうが得意な彼は、どちらかと言うと騎士の戦闘スタイルに近い。魔法は主に対複数戦に使い、相手の実力次第では、武器だけで先程と同様に払うことが出来るのだ。
より高い威力を出力するのなら、特殊な武器に魔法を付与して攻撃すれば良い話だが、何分実用的ではない。過去に魔法師たちへ安全な土地を提供する為に、大陸の一部を分断させた程の威力だからだ。
とはいえ、魔法師内では、力の有無など関係なかった。むしろ、その力をどう生かしてどう社会に貢献するかを、大人たちは真摯に考え、そして教えてくれた。
しかし、他の種族は違う。歴史が示す通り、我欲に溺れた者に、魔法師は使い捨ての駒にされたのである。
だからこそ彼は、目の前にいる死者たちには同情心を抱いていた。せめて苦しまぬ様、一撃で葬るのは、せめてもの救いだと信じて。
ゾンビたちに意識があるのかどうかは、未だに不明だが、唸り声からは悲しみしか感じないからかもしれない。
アマンダたちの気配を気にしながら、アルタリアは一つ一つの部屋を開けて異常がないかを確認して行く。両手では数えられない部屋をのぞいたが、これといった変化はない。
『情報屋。聞こえる』
『うん。どしたの』
『転移する前、フィリアには、感じ取れなかったんだっけ』
『本人ってか魔法師っていってたよ』
『そう。困った、周辺の部屋には、何もない』
『アマンダたちにいってもらうように頼むよ』
『うん。別れた部屋から、反対側の通路を調べたと、伝えて』
『りょーかい』
探知能力の差ではなく、魔力自体に反応して隠蔽しているのなら、魔法師に何かを探すことは難しい。かといって、魔力を持っていない風にしては、ゾンビの対処が出来なくなる。
随分と手の込んだ仕掛けだと、アルタリアは改めて思った。
他のグループからの連絡も無いので、一旦部屋に戻ることにした水の魔法師。聖水の残量も問題なく、精神体のグループからも異常は見られなかったという。
礼を伝えた彼は、違う方角に進むことにした。
部屋から見て一番遠くにある方角に歩を進めると、だんだんとゾンビの姿が少なくなって行った。その代わり、妙な流れを感じたアルタリアは、自身の存在を希薄にし、様子を伺う。
とある広めの一室、おそらく厨房と食堂の続きと思われる場所に、問題を起こした闇色の装束を纏った連中が集まっている。
「ゾンビのお陰で時間稼げるからな。俺達はゆっくりと準備できる」
「ああ。死んでからも王家の役に立てるなんざ、愚民共にはありがたすぎるだろうよ」
ぎゃははは、と笑い合う男たち。目を細めた青年は、一度抑えて耳を傾ける。
「金髪のガキをさらうだけなのに、何故あの魔法師が手を貸すんだかな」
「確実に成功させたいかららしいぜ。将軍クラスの二人と、隊長が元部隊長も始末したいんだと」
「元部隊長? ああ、ヤンネ隊長のことか。意外に面倒見がよくて好きだったけどな」
「お前、隊長に聞かれないようにしろよ。あっという間に左遷だからな」
「へいへい。にしても暇だな。傭兵部隊はいつ来るんだか」
「さあな。急行してるって聞いたが」
「おーい、手の空いてる奴ら、外で死体掘り起こせってよ」
「もう使い切ったのかよ。アンブロー軍、やばくないか」
「ランバルコーヤの奴らもいるらしいが。それでも早過ぎるよな」
重い腰を上げた男たちは、近くにいる敵に気づかずに、その場を後にする。
奴らの目的は、ほぼこちらが思っていた通りか。死者への冒涜は許されるものじゃない。
アルタリアは部屋にマーキングをすると、近くの窓から外に出て暗殺者たちを尾行。案の定、簡易的に作られた墓を荒らしている連中と、何らかの力でゆっくりと動く死体の姿があった。
魔法師は一瞬で採掘所に移動すると、墓荒らしの手を含んだ下半身を冷たくない氷で覆う。敵が騒ぐ中、続いて雲を呼び寄せ、雨を降らせた。
すると、立っていた者たちが崩れ落ち、そのまま動かなくなる。これは広範囲の浄化魔法で、火事は火元を消せば良いのである。
「死にたくなければ、そこにいると良い」
普段穏やかなアルタリアからは考えられない冷たい視線は、暗殺者をただの人間に戻すのに十分だった模様。
仲間がいる場所に移動したアルタリアは、転がっていた死体をマーキングした部屋へと放り込むと、少し休む、と伝え、屋上へと歩いて行った。