第七十話
ー/ー
※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なっ。何者だ、貴様」
「お前に名乗る名なんて無いさ。とっととくたばりな」
闇色の黒装束を着た男の目には、彼女の動きは早過ぎた模様。間一髪の所でよけ、急いで距離を空ける。
女剣闘士の様な見た目。こいつ、もしかして。
「風の魔女か。どうしてこんな所に」
「アタシがどこにいたってお前達に関係ないだろ。ここにいる連中を把握して無いな」
ニヤリ、と怪しく笑う女性。どういう意味か問おうとすると、持っていた通信魔道具から悲鳴が聞こえて来る。
「何があった」
「ラ、ランバルコーヤの傭兵たちです。他にも視界に難あ、ぎゃあっ」
「こちらN班、突入してから体が動きません」
「こちらS班、魔法がかき消されます」
こちらこちら、と飛び交う報告。フィリアの耳にも、もちろん届いている。
「ふん、あの子の言った通りだな。大方失敗ばかりして焦ったんじゃないのかい」
「クソがっ。この女を捕らえろ」
部下らが風の魔女に襲い掛かる。が、ため息をついたライティア家の侍女は、頭に手を添えた。
数秒後には闇色の黒装束はただの布と化し、はためく風に煽らるだけになる。
そして女性が先を見るも、リーダー格の男の姿が無い。
再び大きな息を吐くと、侵入者の正体を全員に伝えた。
一方、狙われたアマンダは、天上に赴いたメンバーと共に食堂に来ていた。王族の別荘が故の広さで、かつ角部屋でもあるからだ。
なお、風の魔女と暗殺部隊とのやり取りは、情報屋の水晶を通して聞いている。
「お前の言った通りになったな」
「あんま嬉しくない。何でか知らないけど目の敵にされててさ」
「君は部隊長だったんだっけ」
「まあ」
「統率する奴に目の敵にされてたの?」
「そ」
「そ、そうなんだ」
と、エスコは思わずヘイノを見た。彼も同じだったらしく、親友と目が合う。
「気にしなくていいって。有能な部下に嫉妬する小物だってことだよ。器が知れる」
「そうだな。部下だった者に考えを読まれて先手を封じられているのではな」
「うわー。手厳しいですねー」
「そんなことないって。コスティのほうがもっと酷い毒を吐いたよ。しかも笑顔で」
「へえー。まあ、無能を無能呼ばわりしても問題ないと思いますよー。敵だし」
「き、君も大概だな」
「ぷっ。なんだか懐かしい感じがする」
いつでも戦える準備をしながらも、どこか余裕を感じられる一行。結界も展開されており、相手がここまで来れるのも怪しい戦力が集まっているのだが。
ラガンダを倒した魔法師が出て来る可能性がある以上、油断は出来ない。元々フィリアがアマンダの様子を見るために同行することになっているとはいえ、二人の得意分野は異なっている。風の魔女は、攻撃魔法はあまり得意ではなく、基本剣術で対応しているのだ。先だってのクロウフヴニだと、あまり相性が良くないのである。
とはいえ、内部構造は知られていると仮定しても、守りを固めればやり過ごせない事はない。問題は別の懸念だった。
やっぱり、神託の内容を知ってるとしか思えない。ヘイノやエスコを狙うのはわかるけど。奪われるわけにはいかない。
思わず情報屋の左手に力が入る。魔法師以外に全容は話していないが、この戦いを終わらせる鍵は、アマンダが持っているのである。
ちなみに本人は調子がよろしくなく、ソファーで横になっていて、近くにはアードルフが控えていた。
「く、くる」
「どうなさいましたか」
ゆっくり身を起こした令嬢の顔色が、すこぶる悪い。
「アードルフ。みなさん、をこの部屋に呼んで。死臭、っていうのかしら。それがするわ」
「死臭、ですか。情報屋」
「ん、なに」
歩いて来る情報屋に対し、死臭という単語を伝える。見る見るうちに口元が真一文字になると、水晶を出現させると同時に、戦闘準備していた将軍と傭兵が寄って来る。
「グラン、サンプサ。聞こえる」
何度か呼び掛けるも、応答が無い。少し焦りながらも反応を待つ。
『おお、済まぬな。奇妙な化け物が出てきよったので対応していた』
「奇妙なって。あんた叩きつぶしたワケ」
『当然よ。人型ならば頭を割れば良いと思ってな』
「うん、やっぱりあんたは大丈夫だな。ほかの人は」
『分からんな。サンプサには頭部を砕けと伝えるように申したが』
「直接つぶせるのはあんたぐらいだから、逃げたほうがいいぜ。基本、ゾンビっていうそいつらは魔法でしか対処できねぇ」
『引くにしても場所がなかろう。そちらに行けと申すか』
「そのまさか。結界を展開するからゾンビは入ってこれない」
『ならば侵入者を全員始末せねばなるまい。次から次へと沸いて来るぞ』
「はっ?」
思わず魔女たちに視線を送った情報屋。結界の準備をしていた二人は、顔を左右に振る。
オレもワープの気配は感じない。なのに、どこからわいてくる。
『ワープだったか。サンプサも首を傾げていたが。感知可能範囲より外にあると仮定するなら話は別』
「たしかに。フィリアに連絡する」
ガガション、と、水晶から音が聞こえると、
『うむ。部下にはそちらに向かうよう指示しよう。わしはその辺を回って来る』
再度重く鈍い音がすると、水晶の光が消えた。
「あのおっさん、とんでもねえ化け物だな」
「そんな人を平気でおっさん呼ばわりする、お前も大したもんだって」
「ゾンビ、は、わたしが何とかします」
きちんと座りなおしたアマンダ。眉間にしわが寄ってしまっている。
「気持ちは嬉しいが、そんな状態では」
「魔法に体が、慣れてないだけです。それに、建物内での魔法は威力が、落ちてしまいますわ」
「ああ、成程ね。僕たちの出番って訳か」
と、エスコ。彼の言葉に、アマンダは頷く。
「報告は聞いてる。生身の人間は不利だって」
「ああ。前回は大勢の傭兵達がいたから人海戦術で行けたが。君達が戦うと?」
「それが一番効果的だって事さ。魂だけの弓なら貫通できるはず」
「しかしアマンダは剣だ、危険極まりない」
少女は情報屋に顔を向ける。子供は、首を縦に振った。
「わたくしの場合、基本自ら戦うスタイルでは、ございません。契約を結んだ死者を呼んで、戦ってもらうのです」
「契約を結んだ者を?」
「はい。関係の深い方と、つながることができる、と」
その言葉を聞くとヘイノとエスコ、アードルフの表情が曇る。
「半年前の戦いで、わたくしを助けてくださった方々に、頼みます。彼らなら、通常どおりに戦えましょう」
「そう、か。君の負担はどうなのかな」
「辛くはありませんわ。天上にいたとき、ハンナと一緒に修行しましたの」
「アマンダ様のフォローは任せてください。制限時間はありますが、命にかかわることはないですよ」
「分かった。無理しない様に。エスコ、君もだ」
「ああ。限界になりそうだったら引かせてもらう」
頭を軽く下に動かしたヘイノ。傭兵たちを伺うと、彼らも同じ動作をする。
「そうだ。情報屋、こないだの液体はないの」
「液体?」
「何だっけ。ゾンビに効くヤツ」
「聖水のこと? もってねーよ」
「残念。楽できると思ったのに」
「あれは特殊な水だから、簡単に加工できねーんだよ」
「時間かかるのよ~」
と、結界の準備をしているサイヤ。この部屋だけにするので、こちらの時間は掛からないという。
また、報告を受けたフィリアから、束ねられた武器の差し入れがあった。魔女たちの近くに無造作に落ちて来たのだが、前者が武器庫から拝借したという。
道具の整理が終わったのか、リューデリアは入口の近くに歩いて行き、赤い色をした壁を張って侵入を防ぐ。魔法師以外には見えなくなっており、火に弱いゾンビは嫌がる結界だそうだ。
しかし、あくまで一時的な処置に過ぎず、サイヤが構築している結界には劣る。また、人間は通過可能にしてある為、暗殺部隊員の対処が必要だ。
窓側への視線も忘れず見張っていると、少しずつランバルコーヤの兵士が駆け込んで来る。面妖な敵に驚きながらも、サンプサによる情報管理のお陰か、どうにか切り抜けることに成功した模様。何故か倒れた暗殺者が化け物になって行く過程を見て、適当に足止めして持ち場から移動したそうだ。さしもの屈強な彼らでも、未知の敵には慎重になるのだろう。
サンプサとグランが最後に合流した連合部隊は、一人も欠ける事無く済んだ。
「死者の臭いがしたが。何なのだあれは。ゾンビ、だったか」
「死体を操り人形にする禁忌魔法ですよ。魔法師の間でも使われていません」
「元は人間、か。にしては随分と頑丈で力が異常だが、それも魔法による影響か」
「ええ。しかも夜に強くなりましてね」
「ほお。だが、わしより武器の方が疲弊しておる」
と、斧を持ち上げ刃を見るグラン。手入れをしながら持たせたらしいが、金属が変色していた。
「細事はともかく。ヘイノ殿、わしらは何をすれば良い」
「第一はライティア将軍の死守及び援護、第二は皆の安全確保だ」
「了解した。貴様らは防衛に徹せよ」
「はっ」
「うむ。サンプサ、この場は任せる」
「構いませんが。どうされるのです」
「何、表を歩いて来ようと思ってな。この場で機会を伺うだけなのも退屈だろう」
「畏まりました。外ならば大剣も使えますからね。ただし、布で鼻と口を覆って下さい」
「さすがに体内に入られては問題か。言う通りにしよう」
と、グランは、懐から白い布を出し、慣れた手付きで顔の半分を隠した。ランバルコーヤ兵も習って巻き付けると、サンプサを通じて状況の理解を図る。
準備が整うと元国王は部屋から退出。少し騒がしくなった入口付近は、すぐに静かになった。
しかし、しばらくすると、また動き出すのがゾンビである。入口に張られた結界に四苦八苦している死体の間から、生気ある人間が飛び出して来た。闇色の装束を身に着けている、暗殺者であった。
サイヤは侵入者を確認すると、結界を唱える。代わりに、入口に展開したものは解除された。
ひたひたとゾンビも歩いて来るが、入って数メートルの場所にある薄水色をした膜の前で消えてしまう。
「味方は襲わないのか」
と、あるランバルコーヤ兵が呟いた。
耳にしたサンプサは、
『ハンナ。ゾンビに知能はありましたかね』
『基本はありません。でも、なりたてのときは、意識がのこってることもあるそうです』
『成程。意図的に残すことは可能ですか』
『それは、わかりません。伝承には偶然とかいてありましたけど』
『ありがとうございます』
相手の動きを阻害しながらも、暗殺者らを止める彼。身軽な連中は頭上を飛び越えて奥に行こうとするが、投げ槍やナイフ、弓での応戦に加え、着地した瞬間を狙っての攻撃など、息の合ったコンビネーションで撃退されている。
「ヘイノ」
「ああ。これだけ多くの暗殺部隊が直接殴り込みに来ているのが不可解だ」
「確かにちょっとおかしいね。何か他の目的があるんじゃないの」
「目的?」
「暗殺部隊は部隊の支援にまわることもあるから。オトリ、とかね」
目を見開いた将軍たち。話を聞いていたランバルコーヤの執事は、グランに連絡を取る。
『おお、丁度良かった。見慣れぬ模様が館の外にあったぞ』
「模様、ですか」
『うむ。ゾンビが守る様に囲っておってな。誰ぞ魔法に詳しい者を寄越しても』
『良くやったグランッ』
シュン、という音と共にした声が。
『魔法師には感じ取れない細工をしたらしくてね。探すのに苦労したよ』
フィリア曰く、この地点からゾンビが現れているという。彼がたどり着いた理由を聞くと、ゾンビが群がっている場所が他にもないか探すことになった。
『悪いけど、あんた達は連中を引き付けてくれるかい。アタシらが外周を調べて法陣を解く』
「心得ました。皆様に共有しておきます」
『頼んだよ。外には出ないようにね。物理と魔法の両方を対処しなきゃならないし』
「え、それは」
と、詳しく伺おうをしたところ、通信が切れてしまう。短気な二人に、サンプサはため息をついた。
暗殺者からの襲撃が一段楽し、手に入れた情報が伝達される。
「足止めは分かるが。本当にそれだけなのか」
「さあ。でも、直接来れる奴がもうひとりいるぜ。そいつがここに現れたら終わる」
眉間にしわを寄せたヘイノは、情報屋の助言もあり、アルタリアに救援を要請する事にした。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なっ。何者だ、貴様」
「お前に名乗る名なんて無いさ。とっととくたばりな」
闇色の黒装束を着た男の目には、彼女の動きは早過ぎた模様。間一髪の所でよけ、急いで距離を空ける。
女剣闘士の様な見た目。こいつ、もしかして。
「風の魔女か。どうしてこんな所に」
「アタシがどこにいたってお前達に関係ないだろ。ここにいる連中を把握して無いな」
ニヤリ、と怪しく笑う女性。どういう意味か問おうとすると、持っていた通信魔道具から悲鳴が聞こえて来る。
「何があった」
「ラ、ランバルコーヤの傭兵たちです。他にも視界に難あ、ぎゃあっ」
「こちらN班、突入してから体が動きません」
「こちらS班、魔法がかき消されます」
こちらこちら、と飛び交う報告。フィリアの耳にも、もちろん届いている。
「ふん、あの子の言った通りだな。大方失敗ばかりして焦ったんじゃないのかい」
「クソがっ。この女を捕らえろ」
部下らが風の魔女に襲い掛かる。が、ため息をついたライティア家の侍女は、頭に手を添えた。
数秒後には闇色の黒装束はただの布と化し、はためく風に煽らるだけになる。
そして女性が先を見るも、リーダー格の男の姿が無い。
再び大きな息を吐くと、侵入者の正体を全員に伝えた。
一方、狙われたアマンダは、天上に赴いたメンバーと共に食堂に来ていた。王族の別荘が故の広さで、かつ角部屋でもあるからだ。
なお、風の魔女と暗殺部隊とのやり取りは、情報屋の水晶を通して聞いている。
「お前の言った通りになったな」
「あんま嬉しくない。何でか知らないけど目の敵にされててさ」
「君は部隊長だったんだっけ」
「まあ」
「統率する奴に目の敵にされてたの?」
「そ」
「そ、そうなんだ」
と、エスコは思わずヘイノを見た。彼も同じだったらしく、親友と目が合う。
「気にしなくていいって。有能な部下に嫉妬する小物だってことだよ。器が知れる」
「そうだな。部下だった者に考えを読まれて先手を封じられているのではな」
「うわー。手厳しいですねー」
「そんなことないって。コスティのほうがもっと酷い毒を吐いたよ。しかも笑顔で」
「へえー。まあ、無能を無能呼ばわりしても問題ないと思いますよー。敵だし」
「き、君も大概だな」
「ぷっ。なんだか懐かしい感じがする」
いつでも戦える準備をしながらも、どこか余裕を感じられる一行。結界も展開されており、相手がここまで来れるのも怪しい戦力が集まっているのだが。
ラガンダを倒した魔法師が出て来る可能性がある以上、油断は出来ない。元々フィリアがアマンダの様子を見るために同行することになっているとはいえ、二人の得意分野は異なっている。風の魔女は、攻撃魔法はあまり得意ではなく、基本剣術で対応しているのだ。先だってのクロウフヴニだと、あまり相性が良くないのである。
とはいえ、内部構造は知られていると仮定しても、守りを固めればやり過ごせない事はない。問題は別の懸念だった。
やっぱり、神託の内容を知ってるとしか思えない。ヘイノやエスコを狙うのはわかるけど。奪われるわけにはいかない。
思わず情報屋の左手に力が入る。魔法師以外に全容は話していないが、この戦いを終わらせる鍵は、アマンダが持っているのである。
ちなみに本人は調子がよろしくなく、ソファーで横になっていて、近くにはアードルフが控えていた。
「く、くる」
「どうなさいましたか」
ゆっくり身を起こした令嬢の顔色が、すこぶる悪い。
「アードルフ。みなさん、をこの部屋に呼んで。死臭、っていうのかしら。それがするわ」
「死臭、ですか。情報屋」
「ん、なに」
歩いて来る情報屋に対し、死臭という単語を伝える。見る見るうちに口元が真一文字になると、水晶を出現させると同時に、戦闘準備していた将軍と傭兵が寄って来る。
「グラン、サンプサ。聞こえる」
何度か呼び掛けるも、応答が無い。少し焦りながらも反応を待つ。
『おお、済まぬな。奇妙な化け物が出てきよったので対応していた』
「奇妙なって。あんた叩きつぶしたワケ」
『当然よ。人型ならば頭を割れば良いと思ってな』
「うん、やっぱりあんたは大丈夫だな。ほかの人は」
『分からんな。サンプサには頭部を砕けと伝えるように申したが』
「直接つぶせるのはあんたぐらいだから、逃げたほうがいいぜ。基本、ゾンビっていうそいつらは魔法でしか対処できねぇ」
『引くにしても場所がなかろう。そちらに行けと申すか』
「そのまさか。結界を展開するからゾンビは入ってこれない」
『ならば侵入者を全員始末せねばなるまい。次から次へと沸いて来るぞ』
「はっ?」
思わず魔女たちに視線を送った情報屋。結界の準備をしていた二人は、顔を左右に振る。
オレもワープの気配は感じない。なのに、どこからわいてくる。
『ワープだったか。サンプサも首を傾げていたが。感知可能範囲より外にあると仮定するなら話は別』
「たしかに。フィリアに連絡する」
ガガション、と、水晶から音が聞こえると、
『うむ。部下にはそちらに向かうよう指示しよう。わしはその辺を回って来る』
再度重く鈍い音がすると、水晶の光が消えた。
「あのおっさん、とんでもねえ化け物だな」
「そんな人を平気でおっさん呼ばわりする、お前も大したもんだって」
「ゾンビ、は、わたしが何とかします」
きちんと座りなおしたアマンダ。眉間にしわが寄ってしまっている。
「気持ちは嬉しいが、そんな状態では」
「魔法に体が、慣れてないだけです。それに、建物内での魔法は威力が、落ちてしまいますわ」
「ああ、成程ね。僕たちの出番って訳か」
と、エスコ。彼の言葉に、アマンダは頷く。
「報告は聞いてる。生身の人間は不利だって」
「ああ。前回は大勢の傭兵達がいたから人海戦術で行けたが。君達が戦うと?」
「それが一番効果的だって事さ。魂だけの弓なら貫通できるはず」
「しかしアマンダは剣だ、危険極まりない」
少女は情報屋に顔を向ける。子供は、首を縦に振った。
「わたくしの場合、基本自ら戦うスタイルでは、ございません。契約を結んだ死者を呼んで、戦ってもらうのです」
「契約を結んだ者を?」
「はい。関係の深い方と、つながることができる、と」
その言葉を聞くとヘイノとエスコ、アードルフの表情が曇る。
「半年前の戦いで、わたくしを助けてくださった方々に、頼みます。彼らなら、通常どおりに戦えましょう」
「そう、か。君の負担はどうなのかな」
「辛くはありませんわ。天上にいたとき、ハンナと一緒に修行しましたの」
「アマンダ様のフォローは任せてください。制限時間はありますが、命にかかわることはないですよ」
「分かった。無理しない様に。エスコ、君もだ」
「ああ。限界になりそうだったら引かせてもらう」
頭を軽く下に動かしたヘイノ。傭兵たちを伺うと、彼らも同じ動作をする。
「そうだ。情報屋、こないだの液体はないの」
「液体?」
「何だっけ。ゾンビに効くヤツ」
「聖水のこと? もってねーよ」
「残念。楽できると思ったのに」
「あれは特殊な水だから、簡単に加工できねーんだよ」
「時間かかるのよ~」
と、結界の準備をしているサイヤ。この部屋だけにするので、こちらの時間は掛からないという。
また、報告を受けたフィリアから、束ねられた武器の差し入れがあった。魔女たちの近くに無造作に落ちて来たのだが、前者が武器庫から拝借したという。
道具の整理が終わったのか、リューデリアは入口の近くに歩いて行き、赤い色をした壁を張って侵入を防ぐ。魔法師以外には見えなくなっており、火に弱いゾンビは嫌がる結界だそうだ。
しかし、あくまで一時的な処置に過ぎず、サイヤが構築している結界には劣る。また、人間は通過可能にしてある為、暗殺部隊員の対処が必要だ。
窓側への視線も忘れず見張っていると、少しずつランバルコーヤの兵士が駆け込んで来る。面妖な敵に驚きながらも、サンプサによる情報管理のお陰か、どうにか切り抜けることに成功した模様。何故か倒れた暗殺者が化け物になって行く過程を見て、適当に足止めして持ち場から移動したそうだ。さしもの屈強な彼らでも、未知の敵には慎重になるのだろう。
サンプサとグランが最後に合流した連合部隊は、一人も欠ける事無く済んだ。
「死者の臭いがしたが。何なのだあれは。ゾンビ、だったか」
「死体を操り人形にする禁忌魔法ですよ。魔法師の間でも使われていません」
「元は人間、か。にしては随分と頑丈で力が異常だが、それも魔法による影響か」
「ええ。しかも夜に強くなりましてね」
「ほお。だが、わしより武器の方が疲弊しておる」
と、斧を持ち上げ刃を見るグラン。手入れをしながら持たせたらしいが、金属が変色していた。
「細事はともかく。ヘイノ殿、わしらは何をすれば良い」
「第一はライティア将軍の死守及び援護、第二は皆の安全確保だ」
「了解した。貴様らは防衛に徹せよ」
「はっ」
「うむ。サンプサ、この場は任せる」
「構いませんが。どうされるのです」
「何、表を歩いて来ようと思ってな。この場で機会を伺うだけなのも退屈だろう」
「畏まりました。外ならば大剣も使えますからね。ただし、布で鼻と口を覆って下さい」
「さすがに体内に入られては問題か。言う通りにしよう」
と、グランは、懐から白い布を出し、慣れた手付きで顔の半分を隠した。ランバルコーヤ兵も習って巻き付けると、サンプサを通じて状況の理解を図る。
準備が整うと元国王は部屋から退出。少し騒がしくなった入口付近は、すぐに静かになった。
しかし、しばらくすると、また動き出すのがゾンビである。入口に張られた結界に四苦八苦している死体の間から、生気ある人間が飛び出して来た。闇色の装束を身に着けている、暗殺者であった。
サイヤは侵入者を確認すると、結界を唱える。代わりに、入口に展開したものは解除された。
ひたひたとゾンビも歩いて来るが、入って数メートルの場所にある薄水色をした膜の前で消えてしまう。
「味方は襲わないのか」
と、あるランバルコーヤ兵が呟いた。
耳にしたサンプサは、
『ハンナ。ゾンビに知能はありましたかね』
『基本はありません。でも、なりたてのときは、意識がのこってることもあるそうです』
『成程。意図的に残すことは可能ですか』
『それは、わかりません。伝承には偶然とかいてありましたけど』
『ありがとうございます』
相手の動きを阻害しながらも、暗殺者らを止める彼。身軽な連中は頭上を飛び越えて奥に行こうとするが、投げ槍やナイフ、弓での応戦に加え、着地した瞬間を狙っての攻撃など、息の合ったコンビネーションで撃退されている。
「ヘイノ」
「ああ。これだけ多くの暗殺部隊が直接殴り込みに来ているのが不可解だ」
「確かにちょっとおかしいね。何か他の目的があるんじゃないの」
「目的?」
「暗殺部隊は部隊の支援にまわることもあるから。オトリ、とかね」
目を見開いた将軍たち。話を聞いていたランバルコーヤの執事は、グランに連絡を取る。
『おお、丁度良かった。見慣れぬ模様が館の外にあったぞ』
「模様、ですか」
『うむ。ゾンビが守る様に囲っておってな。誰ぞ魔法に詳しい者を寄越しても』
『良くやったグランッ』
シュン、という音と共にした声が。
『魔法師には感じ取れない細工をしたらしくてね。探すのに苦労したよ』
フィリア曰く、この地点からゾンビが現れているという。彼がたどり着いた理由を聞くと、ゾンビが群がっている場所が他にもないか探すことになった。
『悪いけど、あんた達は連中を引き付けてくれるかい。アタシらが外周を調べて法陣を解く』
「心得ました。皆様に共有しておきます」
『頼んだよ。外には出ないようにね。物理と魔法の両方を対処しなきゃならないし』
「え、それは」
と、詳しく伺おうをしたところ、通信が切れてしまう。短気な二人に、サンプサはため息をついた。
暗殺者からの襲撃が一段楽し、手に入れた情報が伝達される。
「足止めは分かるが。本当にそれだけなのか」
「さあ。でも、直接来れる奴がもうひとりいるぜ。そいつがここに現れたら終わる」
眉間にしわを寄せたヘイノは、情報屋の助言もあり、アルタリアに救援を要請する事にした。