9怪我
ー/ー 中間テストが終わって二日ほど経った頃、ようやく気分も晴れてきた。部活も板についてきたし、走るのがきついと感じる前に体が勝手に動くようになった。
夕方の校庭にはまだ日差しが残っていて、汗がまとわりつく。
季節はまた少しだけ前に進んでいた。
「加藤そっち行ったぞー!」
「ナイスパス!」
転がってきたボールを俺は足元に収める。
「前あいてる、そのまま走れ!」
先輩の声に俺は一気にスピードを上げた。
「右から来てるぞ!」
次の瞬間、横から伸びてきた足が俺の進路を塞ぐ。
「うわっ!」バランスを崩して体がぐらりと傾いた。
「立て!まだ生きてるぞ、ボール!」
俺は必死に踏ん張ろうとした瞬間「いってー!」激痛に叫んでしまった。
「どうした!?」
足を抑えてうずくまる俺に、みんなが慌てて駆け寄ってくる。
「捻ったか?」
顧問が俺の足を軽く触った。
「先生痛いって!」
「とりあえず保険室行こう。加藤連れてくから、中村は後のことよろしく」
先生は部長にそう言い残すと、俺を背負って歩きだす。足がズキズキ痛んで今日はもう治らない感じがした。ついてない。
その後保険室で診てもらうと捻挫と言われ、病院ではまず一週間は運動せず安静にしてね、と頑丈にテーピングをされた。迎えに来た母さんには「大事にならなくて良かったじゃない」と言われたけれど、しばらくは運動出来ません、と言われたのは結構ショックだった。
翌朝、足が気になって負担をかけないように歩いていたら遅刻寸前になった。教室に着くと、足を庇うようにゆっくりと椅子に座る。
「足どうかしたの?」
珍しく遅れてきて登校して、さらに歩き方も変な俺を怜が心配してくる。
「捻挫した」
怜は不安そうに足を覗いてきた。
「一週間は運動するなってさ。部活も休みだな」
「そっか。それなら僕も陽介と帰ろうかな」
怜はそういうと遠くを見た。
「部活あるだろ?」
「サボってる人結構いるよ」
「まじかよ!美術部やべーな」
怜から美術部での話は全く聞いていなかったが、そんなノリの部活だとは知らなかった。
まあ怜がサボりたいならいいか。俺達ははテストの日以来、久々に一緒に下校するとこにした。
怜が分かれ道に差し掛かった時「少し出かけない?」と珍しい誘いをしてくれた。俺も一人で過ごすと落ち込みそうだからありがたい誘いだ。
「いいな。でも遠くは無理だよ」
怜はうなずくと、カメラを持ってくると言って家に走っていった。戻ってきた怜にどこに行くのか確認すると、近くの河川に行くつもりらしい。
「天気もいいし、綺麗な夕日が撮れるかもって思って」
「怜らしいな」
俺達はのんびりいつもとは違う坂を下って河川の方に歩き出した。
「そいういえば、全然聞いてなかったけど部長とはどうなったの?」
歩きながら、教室では聞きづらかったことを聞いてみた。
「え?」
久しぶりに怜が動揺したのを見た。視線を落とし、なにか言おうか迷っている感じになる。
なんだか不穏だ。
「実は……」
あまりに言わないので焦れったくなる。
「なんだよ、怖いんだけど」
「き、キスした」
「はあ?」
カバンを落としそうになった。頭が真っ白になって足を止めた。
しばらく放置していた間にそんなに進展してたなんて。でもさすがにキスなんて早くないか?
「お前がしたの?」
怜は首を振る。あの部長がそんなことするなんて信じられない。今二人はどういう状況なんだろうか。
「全然会ってなかったじゃん、いつの間に仲良くなったんだよ」
「いつって言われても……」
怜は少し考えて視線を彷徨わせた。
「最近たまに会ってくれるから。この前もうちに勉強教えに来てくれたし」
「ん?」
わざわざ部長が怜の勉強見に来た?どういう状況なんだろうか。
「お願い聞いてくれるなんて優しいよね」
怜は口元に手を置き思い返すように目を細めると少しニヤけた。
「それでその時に、キスしてくれたんだ」
頭が痛い。これは怜の方から部長を呼んだって口ぶりに聞こえる。俺が思ってるより、怜の押しが強いのだろうか。しかもそれで怜の部屋でキスしたっていうのもあまり想像したくない。
「もしこれ以上進んだらどうしよう」
困ってるような口ぶりでなのに、嬉しそうなのは期待してるからか。これ以上がどういうことか……具体的に考えようとして、途中でやめた。それ以上は想像したくない。
「まてまて!そんなに進んでるのかよ!?」
「わかんないじゃん。二人きりになったら、そういうこともあるかもしれないじゃん」
そんな成り行きでなるものなのか、気が遠くなってよろめいた。
「ついてけねぇ……」
「変なことこと想像しないでよ」
「お前が言ったんだろ……つまり、中村部長は怜をちゃんと恋人として扱ってくれてるんだな?」
「うん」
キスするってぐらいなんだから、曖昧な態度だった部長に心境の変化でもあったのだろうか。あまり赤裸々に聞きたい話ではないし、部長がちゃんと恋人として扱ってくれるなら、もう俺は首を突っ込まない方がいいのかもしれない。
これ以上は何を言えばいいかわからず黙って歩いた。
そうしているうちに河川に着く。水辺の風は少し涼しく感じで心地いい。
怜は機嫌良さそうにカメラを構え、シャッターを切った。
「足まだ痛い?」
「テーピングないと痛すぎて歩けないぞ」
俺は足をさすった。痛みを想像したのか怜が顔をしかめる。
「捻挫って癖になるらしいし、ちょっとやだよなー」
サッカーずっとやっていきたいけど、こうやって急にダメになることもあるんだよな。そう思うと心がざわつく。
「また怪我したら一緒に写真撮りにくればいいんじゃない?」
「……怖いこと言うなよ」
俺は頭を抱えた。
「冗談だよ」
怜はため息をつきまた何かを撮った。
土手の上からぼんやり反対の土手を眺めていると、ランニングしている人や帰宅中の学生が見えた。普段ならこの時間は部活だから見ることのない景色だ。
何となく疎外感を感じる。
「陽介、落ち込んでるの?」
「そりゃな。こうしてる間もみんなに置いてかれてるわけだし」
「陽介らしくないね。僕たちまだ一年生だよ、大丈夫だって」
「怜はほんと呑気だよな……こんないきなり下手こいてたら、普通に舐められるだろ」
「陽介は、気にしすぎだと思う」
怜は俺の隣に腰を下ろして小石を投げる。土手のコンクリに当たり、跳ね返って水に落ちた。
「ノーコン」
「うるさい」
そのまま特に喋るでもなく、日が傾くまでぼんやりした。周囲がオレンジ色に染まって、川の先に沈みかける。怜がそれを撮影して本日はお開きとなった。
夕方の校庭にはまだ日差しが残っていて、汗がまとわりつく。
季節はまた少しだけ前に進んでいた。
「加藤そっち行ったぞー!」
「ナイスパス!」
転がってきたボールを俺は足元に収める。
「前あいてる、そのまま走れ!」
先輩の声に俺は一気にスピードを上げた。
「右から来てるぞ!」
次の瞬間、横から伸びてきた足が俺の進路を塞ぐ。
「うわっ!」バランスを崩して体がぐらりと傾いた。
「立て!まだ生きてるぞ、ボール!」
俺は必死に踏ん張ろうとした瞬間「いってー!」激痛に叫んでしまった。
「どうした!?」
足を抑えてうずくまる俺に、みんなが慌てて駆け寄ってくる。
「捻ったか?」
顧問が俺の足を軽く触った。
「先生痛いって!」
「とりあえず保険室行こう。加藤連れてくから、中村は後のことよろしく」
先生は部長にそう言い残すと、俺を背負って歩きだす。足がズキズキ痛んで今日はもう治らない感じがした。ついてない。
その後保険室で診てもらうと捻挫と言われ、病院ではまず一週間は運動せず安静にしてね、と頑丈にテーピングをされた。迎えに来た母さんには「大事にならなくて良かったじゃない」と言われたけれど、しばらくは運動出来ません、と言われたのは結構ショックだった。
翌朝、足が気になって負担をかけないように歩いていたら遅刻寸前になった。教室に着くと、足を庇うようにゆっくりと椅子に座る。
「足どうかしたの?」
珍しく遅れてきて登校して、さらに歩き方も変な俺を怜が心配してくる。
「捻挫した」
怜は不安そうに足を覗いてきた。
「一週間は運動するなってさ。部活も休みだな」
「そっか。それなら僕も陽介と帰ろうかな」
怜はそういうと遠くを見た。
「部活あるだろ?」
「サボってる人結構いるよ」
「まじかよ!美術部やべーな」
怜から美術部での話は全く聞いていなかったが、そんなノリの部活だとは知らなかった。
まあ怜がサボりたいならいいか。俺達ははテストの日以来、久々に一緒に下校するとこにした。
怜が分かれ道に差し掛かった時「少し出かけない?」と珍しい誘いをしてくれた。俺も一人で過ごすと落ち込みそうだからありがたい誘いだ。
「いいな。でも遠くは無理だよ」
怜はうなずくと、カメラを持ってくると言って家に走っていった。戻ってきた怜にどこに行くのか確認すると、近くの河川に行くつもりらしい。
「天気もいいし、綺麗な夕日が撮れるかもって思って」
「怜らしいな」
俺達はのんびりいつもとは違う坂を下って河川の方に歩き出した。
「そいういえば、全然聞いてなかったけど部長とはどうなったの?」
歩きながら、教室では聞きづらかったことを聞いてみた。
「え?」
久しぶりに怜が動揺したのを見た。視線を落とし、なにか言おうか迷っている感じになる。
なんだか不穏だ。
「実は……」
あまりに言わないので焦れったくなる。
「なんだよ、怖いんだけど」
「き、キスした」
「はあ?」
カバンを落としそうになった。頭が真っ白になって足を止めた。
しばらく放置していた間にそんなに進展してたなんて。でもさすがにキスなんて早くないか?
「お前がしたの?」
怜は首を振る。あの部長がそんなことするなんて信じられない。今二人はどういう状況なんだろうか。
「全然会ってなかったじゃん、いつの間に仲良くなったんだよ」
「いつって言われても……」
怜は少し考えて視線を彷徨わせた。
「最近たまに会ってくれるから。この前もうちに勉強教えに来てくれたし」
「ん?」
わざわざ部長が怜の勉強見に来た?どういう状況なんだろうか。
「お願い聞いてくれるなんて優しいよね」
怜は口元に手を置き思い返すように目を細めると少しニヤけた。
「それでその時に、キスしてくれたんだ」
頭が痛い。これは怜の方から部長を呼んだって口ぶりに聞こえる。俺が思ってるより、怜の押しが強いのだろうか。しかもそれで怜の部屋でキスしたっていうのもあまり想像したくない。
「もしこれ以上進んだらどうしよう」
困ってるような口ぶりでなのに、嬉しそうなのは期待してるからか。これ以上がどういうことか……具体的に考えようとして、途中でやめた。それ以上は想像したくない。
「まてまて!そんなに進んでるのかよ!?」
「わかんないじゃん。二人きりになったら、そういうこともあるかもしれないじゃん」
そんな成り行きでなるものなのか、気が遠くなってよろめいた。
「ついてけねぇ……」
「変なことこと想像しないでよ」
「お前が言ったんだろ……つまり、中村部長は怜をちゃんと恋人として扱ってくれてるんだな?」
「うん」
キスするってぐらいなんだから、曖昧な態度だった部長に心境の変化でもあったのだろうか。あまり赤裸々に聞きたい話ではないし、部長がちゃんと恋人として扱ってくれるなら、もう俺は首を突っ込まない方がいいのかもしれない。
これ以上は何を言えばいいかわからず黙って歩いた。
そうしているうちに河川に着く。水辺の風は少し涼しく感じで心地いい。
怜は機嫌良さそうにカメラを構え、シャッターを切った。
「足まだ痛い?」
「テーピングないと痛すぎて歩けないぞ」
俺は足をさすった。痛みを想像したのか怜が顔をしかめる。
「捻挫って癖になるらしいし、ちょっとやだよなー」
サッカーずっとやっていきたいけど、こうやって急にダメになることもあるんだよな。そう思うと心がざわつく。
「また怪我したら一緒に写真撮りにくればいいんじゃない?」
「……怖いこと言うなよ」
俺は頭を抱えた。
「冗談だよ」
怜はため息をつきまた何かを撮った。
土手の上からぼんやり反対の土手を眺めていると、ランニングしている人や帰宅中の学生が見えた。普段ならこの時間は部活だから見ることのない景色だ。
何となく疎外感を感じる。
「陽介、落ち込んでるの?」
「そりゃな。こうしてる間もみんなに置いてかれてるわけだし」
「陽介らしくないね。僕たちまだ一年生だよ、大丈夫だって」
「怜はほんと呑気だよな……こんないきなり下手こいてたら、普通に舐められるだろ」
「陽介は、気にしすぎだと思う」
怜は俺の隣に腰を下ろして小石を投げる。土手のコンクリに当たり、跳ね返って水に落ちた。
「ノーコン」
「うるさい」
そのまま特に喋るでもなく、日が傾くまでぼんやりした。周囲がオレンジ色に染まって、川の先に沈みかける。怜がそれを撮影して本日はお開きとなった。
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