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第2話

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4月30日、松山港。
 かつての観光地の面影はなく、錆びついたクレーンが墓標のように並ぶその岸壁に、それは鎮座していた。
 帝国金融所有、豪華客船『エルドラド』。
 船体全体が黄金のナノマシン・コーティングで覆われ、夜の海を異常な光で照らしている。連行されてきた債務者たちの汚れた服や絶望した顔が、その眩い黄金の壁面に醜く反射していた。
​ 忠茂は黒服の男たちに背中を押され、タラップを上がる。海風が、合成ウィスキーの残り香を頬から剥ぎ取っていく。逃げ場はない、と本能で理解した。
船内に入った瞬間、網膜に赤い文字が走った。
『生体ID認証完了。貸付残高をチップに変換します。変換レート:1,000,000円=1枚』
 渡されたのは、鈍い光を放つクリスタルのプレートだ。三枚。指先に、思っていたより冷たい重みが乗る。
これ一枚で、人生が買い戻せる――そう、紙には書いてある。
——これが、俺の借金。これが、俺の命の値段か。
​ 大広間には、何百人もの「負け犬」が詰め込まれていた。
 怒号と泣き声が入り混じり、喧騒がピークに達したその時。
 正面のステージに、一人の老人が現れた。白髪を完璧に整え、仕立ての良いスーツに身を包んだ男――及川だ。
 債務者の一人がステージに詰め寄り、及川を罵倒しようと口を開いた。
​「おい、どういうことだ! 説明しやが……」
 言葉は最後まで続かなかった。及川が指先を少し動かすと、天井のドローンから放たれたスタン・ビームが男を床に沈めたからだ。
 「――Fuck you」
 老人の口から漏れた英語の罵倒は、紳士的な外見と噛み合わず、ぞっとするほど場違いだった。
「騒ぐなや、ゴミ共。耳ぃ、塞いで聞け」
及川の低い声が、高性能な音響システムを通じて脳に直接響く。
「他人のチップを奪え。チップは命だ。命を奪え」
及川は、にこりと笑った。
「そうすれば、もう一度『人間』に戻れる。——その権利を、貴様らに与えてやる」


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4月30日、松山港。 かつての観光地の面影はなく、錆びついたクレーンが墓標のように並ぶその岸壁に、それは鎮座していた。
 帝国金融所有、豪華客船『エルドラド』。
 船体全体が黄金のナノマシン・コーティングで覆われ、夜の海を異常な光で照らしている。連行されてきた債務者たちの汚れた服や絶望した顔が、その眩い黄金の壁面に醜く反射していた。
​ 忠茂は黒服の男たちに背中を押され、タラップを上がる。海風が、合成ウィスキーの残り香を頬から剥ぎ取っていく。逃げ場はない、と本能で理解した。
船内に入った瞬間、網膜に赤い文字が走った。
『生体ID認証完了。貸付残高をチップに変換します。変換レート:1,000,000円=1枚』
 渡されたのは、鈍い光を放つクリスタルのプレートだ。三枚。指先に、思っていたより冷たい重みが乗る。
これ一枚で、人生が買い戻せる――そう、紙には書いてある。
——これが、俺の借金。これが、俺の命の値段か。
​ 大広間には、何百人もの「負け犬」が詰め込まれていた。
 怒号と泣き声が入り混じり、喧騒がピークに達したその時。
 正面のステージに、一人の老人が現れた。白髪を完璧に整え、仕立ての良いスーツに身を包んだ男――及川だ。
 債務者の一人がステージに詰め寄り、及川を罵倒しようと口を開いた。
​「おい、どういうことだ! 説明しやが……」
 言葉は最後まで続かなかった。及川が指先を少し動かすと、天井のドローンから放たれたスタン・ビームが男を床に沈めたからだ。
 「――Fuck you」
 老人の口から漏れた英語の罵倒は、紳士的な外見と噛み合わず、ぞっとするほど場違いだった。
「騒ぐなや、ゴミ共。耳ぃ、塞いで聞け」
及川の低い声が、高性能な音響システムを通じて脳に直接響く。
「他人のチップを奪え。チップは命だ。命を奪え」
及川は、にこりと笑った。
「そうすれば、もう一度『人間』に戻れる。——その権利を、貴様らに与えてやる」