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第四十七話

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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 強化魔法を用いて戦うグラニータッヒに対し、対等の力で切り結ぶギルバート。お互いの腕に力を入れながら、王は何者かと問うた。
 「ギルバート。それ以外知らない」
 「知らぬだと」
 「記憶がなくてね」
 「ほお。しかし、その顔には見覚えがある」
 目を見開く傭兵の脳裏に、ラガンダの言葉が浮かぶ。そして、浮かんだのは記憶だけではなかった。剣をはじき返された彼の体に衝撃波が放たれたのである。
 「ぐぅ」
 「威力は弱いが、耐性が低い者には効果てきめん。さあ、茶番は終わりだ」
 軽々と、二メートル程の剣をラヴェラに対して剣先を向ける。
 「良い準備運動であった。褒めてつかわそう、アンブローの猛者達よ」
 砂にひざを付けたヘイノ、アードルフ、ギルバートは、圧倒的な戦力の前に苦虫を噛み潰したような顔をする。
 「相変わらずのようだな、グラニータッヒ」
 スラ、と鞘から獲物を抜きながら三人の前に立つゼンベルト。
 「以前は魔力の流れすら感じなかったというのに」
 「常に強くあろうとするのは当然の事よ。貴様もあの時、数百年前の決まり事など無視しておけば、そんな体にはならんかっただろうに。むしろわしの首すら取れたであろう」
 「戯けた事を。魔法というのは己が為に使うものではないと、何度も教えたはず」
 「はん、それこそ戯言よ。現に貴様の戦闘能力は著しく減退した。この国では力こそ正義」
 剣を天に振り上げると同時に、暴風が起こる。数秒で止まると、武器は薄紅色の膜に包まれていた。
 「アンブロー共々ここで潰してくれようっ」
 老執事に突進していくグラニータッヒ。一方、ゼンベルトは何もまとっていない剣を構え、防御体制に入った。
 ぶつかる直前、彼から黄土色のオーラが発せられる。
 金属音が響き渡ると同時に、二人は目も開けられない光に包まれる。小さな爆発が起こると、小柄な人間だと吹き飛ばされてしまうそうな風が巻き起こった。
 「な、何だこの生暖かい風は」
 「お、おそらく魔力の余波だと思います」
 「じょ、嬢ちゃんは平気なよう、だな」
 「ええ。耐性があるらしくて」
 「魔法ってのは厄介だな、ったくよ」
 アマンダが持っていた薬は特殊らしく、即効性に優れているという。この戦いに備えてサイヤが準備しておいたのだ。なお、ヤロが治療されている間、イスモはヘイノの傷を癒している。
 アマンダの瞳には、人工的に発生した台風の中心で剣技を繰り広げる二人の姿が映っていた。
 ふ、と、視線をずらした令嬢は、険しい顔で立っているラヴェラ王子を見る。戦闘中だから雰囲気が異なる、というより、まとっている空気がだんだん変わっていっている気がした。
 自らできることを精一杯やるしかないわ。
 「ヤロ、動けますか」
 「何とかな。どうする気だ」
 「ひとまず合流しましょう。肩、は、ええっと」
 「気持ちだけ貰っとくぜ。体格的に無理だろ、だっはっは」
 よっ、とひざに力を入れる傭兵を、苦笑いしながら見守る貴族の娘。体つきばかりは致し方ない。
 ヘイノたちと合流したはアマンダは、ヤロを頼み、アードルフたちのと所へと走る。
 「薬よ。自力で飲めるかしら」
 「ありがとうございます。私は軽いので先にギルバートを」
 「わかったわ。これあなたの分ね」
 いくつか渡すと、今度はギルバートの下へ。腕を使ってようやく身を起こせる状態であった。
 「薬です。飲めそうですか」
 「ありがとー。頭ぐわんぐわんしてるけど、水と一緒なら」
 と、道具入れから水筒を出す。アマンダは受け取って錠剤を落とした。カラカラと音がしなくなると、負傷者に渡す。
 「にがっ。ゲホゲホ」
 「め、目が覚めたようですね」
 「甘いのがいいなぁー」
 「効果が強いから全部にがいんですって。お砂糖ももってませんから、我慢してください」
 「もう怪我しないようにしないとー。うぇー」
 「呑気な事を言っている場合ではないだろう」
 と、ヘイノ。グラニータッヒから一番近い場所に皆が集まって来ていた。
 「想像以上ですね。もはや人間の域を超えています」
 「だが、長くは持つまい。長期戦に持ち込めば勝機はある」
 頷くアードルフとギルバート。グラニータッヒは剣の腕も超一流だが、それならこちらも同じである。しかも、数では上回っているのだ。
 「完全無欠な者など存在せん。必ず穴を開けるぞ」
 一行は肯定する動きをした。
 最前線では、息を切らしながら剣を構えるゼンベルトに対し、グラニータッヒは平然と大剣を肩にかついでいる。
 「年老いたな、ゼンベルト」
 「残念ながらな。お前もあと十年すれば分かる」
 「ふん。知りたくもないが、時とは残酷なものだからな」
 ぴくり、と老執事の眉が動く。気のせいか、一瞬だけ、王の表情が憂いを帯びたように見えた。
 「だが、わしに終焉などない。この命ある限り君臨し続けるのだ」
 「どんな事にも終わりはある。その身をもって知れっ」
 構え直したゼンベルトは、人目で確認出来ない程の薄い膜を剣に付加させる。真顔になった敵将は、珍しくその場で大剣を水平に持った。
 火花を散らした瞬間、
 「何度言わせる。茶番は終わりだっ」
 今まで右腕のみでしか使っていなかったゼンベルトが、始めて両手を柄にそえる。
 「無駄な足掻きを。使い物にならぬ腕など焼け石に水にもならんわ」
 再度剣に魔力を込めたグラニータッヒ。さすがに耐え切れず老執事は吹き飛ばされてしまう。
 「ゼンベルト。しっかり」
 「い、いけませぬ。少しでも温存しなければ」
 「馬鹿を申すな。早く治療しなければ手遅れになる。もう十分だ」
 ラヴェラ王子が回復魔法を唱える。その様子に、ほお、と、王は口にした。
 「ラヴェラ王子、あとはわたくしが」
 「しかし」
 「御心配召されるな。ここまで回復すれば薬でも間に合いますとも」
 眉間にしわを寄せる王子。
 「老人といえど命は惜しいのです。嘘を申しても意味ありますまい」
 「分かった。姫、後は頼みます」
 頷くアマンダ。ギルバートたちに使用した薬とは違う種類を取り出し、ゼンベルトの口に運ぶ。
 様子を見ていた第二王子は、敵将へと近づいて行った。
 「ようやく来たか。さあ。勝利の女神を射止めるのはどちらか、勝負せよ」
 剣先を勢い良く相手に向けたグラニータッヒ。目を細めたラヴェラは、深呼吸をすると、両足を肩幅と同等に開き、両腕の力を抜く。今度はグラニータッヒの眉が動いた。
 完全に閉ざされたまぶたが開かれたとき、ラヴェラの体が火の竜巻に包まれる。天高く上った炎は、一瞬空をも焦がす。
 火が四方に飛び散ると、彼の右手には炎の鞭が、頭上には炎をまとい羽の生えたトカゲらしき生き物が浮かんでいる。
 『よおよお。オレ様は何をすればいいんだい』
 「あの男を、奴を、跪かせる」
 と、指した。
 『ひざま? うーん、ぶちのめせばいいのかい』
 「うん。殺さない程度にね」
 『ありゃま。じゃあ黒コゲでおさえとく』
 「お願いね。彼がグラニータッヒだから」
 ピタッ、と火トカゲの動きが止まる。
 『あー。主がいってた人間か。りょかい』
 首を縦に振ったラヴェラは、火トカゲとともに敵将に向かい合う。
 口元を歪めたグラニータッヒは、
 「作戦会議は済んだか。さあ、掛かって来いっ」
 『なんだあいつ、ナマイキだなーっ』
 出鼻を挫かれた王子だが、改めて集中した。
 両手に頭程の火の玉を呼び出したラヴェラはひとつをグラニータッヒに投げつける。父王は左によけ、得物を地面と水平に構えて突撃して来た。
 残った火の玉を放り投げると、出現させた鞭を同時に放った。足元に炸裂した鞭は相手の動きを止め、迫る火の玉と激突はもはや避けられなかった。
 対してグラニータッヒは魔力を剣に集中させると目の前に薄紅色をした障壁を発現。しかし、火の玉は彼の数メートル前で急上昇し、高さ十数メートルまで止まると、突然破裂する。
 玉は無数の小さな小さな流星となり、グラニータッヒに降り注ぐ。
 いくら何でも、直撃すればダメージを受けるはず。
 ラヴェラは敵将の動きに注視した。だが、予想に反して、グラニータッヒは平然と立っているではないか。
 「ぐっふっふ、ようやく手応えを感じたわ。やはり戦いはこうでなくては、なっ」
 一瞬でラヴェラの前まで移動したグラニータッヒ。火トカゲが気づき、炎を吐いて召喚者を援護する。
 「何っ」
 「くっ」
 ラヴェラはとっさに魔力の塊を敵将にぶつけ距離を取った。
 魔法、じゃない。強化魔法が掛かってるとはいえ、何て脚力なんだ。
 思い返してみれば、父の武芸を近距離で見たのは初であった。訓練中は危ないから近づかないようにと、子供の頃に良く注意されていたのを思い出す。
 父上がこうまで力に固執するようになったのは、いつからだっただろうか。
 今の勢力対立が明確化したのは、およそ十年前。以降、父と兄とは疎遠な状態になった。
 戦いの真っ最中だというのに、親子三人で母に叱られた場面、剣ではいつも兄にか負けていた記憶、自分のために目の前で命を落とした兵士の顔、寝込んだときのお見舞い時の家族の表情など、過去の一部が次々へと入れ替わりながら流れて行く。
 武器による直接攻撃と魔法による遠距離が続く中、お互い決定打を決められないでいた。
 「どうした。貴様の覚悟はそんなものか」
 戦神とは本当に良い例えだ。障壁で防いでいるとはいえ、あちらは息ひとつ切らしていないなんて。
 「貴様らはわしの魔力切れを狙っておったのだろうが、残念だったな。聖戦に参加するのだ、さすがに無策では来ぬわ」
 「ぐっ」
 柄頭を向けられたラヴェラの体が急に崩れ落ちる。
 「ち、力が。まさか、魔道具」
 「そういう事だ。時間を掛けたのが貴様の敗因、経験不足だったな」
 「全くですよ。いい勉強になりました」
 ラヴェラは周囲に炎をまとい、体を覆う程の火柱を生成。火が消えると、何事もなかったように立ち上がった。
 近くにいた火トカゲの口からは、残り火が出ている。
 「ちっ。ラガンダの入れ知恵だな」
 「貴方が子供の頃、よく二人でいたずらしていたそうですね。思考が似ておられるのでしょう」
 「ふん。確かに魔法師なら自然から力を受け取ることは可能。だが、本人の精神力に依存する」
 「体力も同じ事でしょう。さて、どちらが最後まで立っていられますかね」
 「小僧が。舐めるでないわぁっ」
 グラニータッヒの唯一の弱点らしい弱点といえば、ときたま冷静さを欠くこと。負け知らずを支えているのは、砂地を粉砕するとうたわれる程の闘争心。要は極度の負けず嫌いなのである。
 ラヴェラは意地の悪い顔をしたラガンダを思い浮かべながら、彼ならどういう風に仕掛けるのかを、常に考えていた。
 自身に身体強化魔法を施し、紙一重で攻撃をかわす息子に対し、王は、だんだんイライラし始める。攻撃が当たらないからではなく、もっと別な、ドロドロした何かにだった。
 戦う前から、いや、もっと前から感じていたその何かの正体は不明。だが、ランバルコーヤ国王としてよりも大切な、表現しづらい何かが、ずっとグラニータッヒを支配している。
 その想いが強くなると、必ず妻の顔が浮かぶのが、彼にとっては不思議でならない。しかし、愛した女の瞳は、いつも何かを訴えていた。
 再び距離を空ける二人。
 風が双方の間に、びゅうぅっ、と吹いた。
 対決の場を複雑な気持ちで見つめるゼンベルト。執事にとっては弟子であり、息子と孫同然の二人。
 早く気づかぬか、馬鹿者が。
 ラガンダよりもおそらく親子とは距離が近いが故に見え隠れするお互いの心情。
 無意識であろうとも、引き返せる段階にある。かなり瀬戸際だが、まだあの日々に戻れるのだ。
 何を想い、何を考えているのか。
 欲や見栄、世情や立場といったモノが取り巻くと、人間はいくらでも複雑になれる。
 それが、望みがたった一つだったとしても。
 雌雄を決する機会は、刻一刻と迫っていた。


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 強化魔法を用いて戦うグラニータッヒに対し、対等の力で切り結ぶギルバート。お互いの腕に力を入れながら、王は何者かと問うた。
 「ギルバート。それ以外知らない」
 「知らぬだと」
 「記憶がなくてね」
 「ほお。しかし、その顔には見覚えがある」
 目を見開く傭兵の脳裏に、ラガンダの言葉が浮かぶ。そして、浮かんだのは記憶だけではなかった。剣をはじき返された彼の体に衝撃波が放たれたのである。
 「ぐぅ」
 「威力は弱いが、耐性が低い者には効果てきめん。さあ、茶番は終わりだ」
 軽々と、二メートル程の剣をラヴェラに対して剣先を向ける。
 「良い準備運動であった。褒めてつかわそう、アンブローの猛者達よ」
 砂にひざを付けたヘイノ、アードルフ、ギルバートは、圧倒的な戦力の前に苦虫を噛み潰したような顔をする。
 「相変わらずのようだな、グラニータッヒ」
 スラ、と鞘から獲物を抜きながら三人の前に立つゼンベルト。
 「以前は魔力の流れすら感じなかったというのに」
 「常に強くあろうとするのは当然の事よ。貴様もあの時、数百年前の決まり事など無視しておけば、そんな体にはならんかっただろうに。むしろわしの首すら取れたであろう」
 「戯けた事を。魔法というのは己が為に使うものではないと、何度も教えたはず」
 「はん、それこそ戯言よ。現に貴様の戦闘能力は著しく減退した。この国では力こそ正義」
 剣を天に振り上げると同時に、暴風が起こる。数秒で止まると、武器は薄紅色の膜に包まれていた。
 「アンブロー共々ここで潰してくれようっ」
 老執事に突進していくグラニータッヒ。一方、ゼンベルトは何もまとっていない剣を構え、防御体制に入った。
 ぶつかる直前、彼から黄土色のオーラが発せられる。
 金属音が響き渡ると同時に、二人は目も開けられない光に包まれる。小さな爆発が起こると、小柄な人間だと吹き飛ばされてしまうそうな風が巻き起こった。
 「な、何だこの生暖かい風は」
 「お、おそらく魔力の余波だと思います」
 「じょ、嬢ちゃんは平気なよう、だな」
 「ええ。耐性があるらしくて」
 「魔法ってのは厄介だな、ったくよ」
 アマンダが持っていた薬は特殊らしく、即効性に優れているという。この戦いに備えてサイヤが準備しておいたのだ。なお、ヤロが治療されている間、イスモはヘイノの傷を癒している。
 アマンダの瞳には、人工的に発生した台風の中心で剣技を繰り広げる二人の姿が映っていた。
 ふ、と、視線をずらした令嬢は、険しい顔で立っているラヴェラ王子を見る。戦闘中だから雰囲気が異なる、というより、まとっている空気がだんだん変わっていっている気がした。
 自らできることを精一杯やるしかないわ。
 「ヤロ、動けますか」
 「何とかな。どうする気だ」
 「ひとまず合流しましょう。肩、は、ええっと」
 「気持ちだけ貰っとくぜ。体格的に無理だろ、だっはっは」
 よっ、とひざに力を入れる傭兵を、苦笑いしながら見守る貴族の娘。体つきばかりは致し方ない。
 ヘイノたちと合流したはアマンダは、ヤロを頼み、アードルフたちのと所へと走る。
 「薬よ。自力で飲めるかしら」
 「ありがとうございます。私は軽いので先にギルバートを」
 「わかったわ。これあなたの分ね」
 いくつか渡すと、今度はギルバートの下へ。腕を使ってようやく身を起こせる状態であった。
 「薬です。飲めそうですか」
 「ありがとー。頭ぐわんぐわんしてるけど、水と一緒なら」
 と、道具入れから水筒を出す。アマンダは受け取って錠剤を落とした。カラカラと音がしなくなると、負傷者に渡す。
 「にがっ。ゲホゲホ」
 「め、目が覚めたようですね」
 「甘いのがいいなぁー」
 「効果が強いから全部にがいんですって。お砂糖ももってませんから、我慢してください」
 「もう怪我しないようにしないとー。うぇー」
 「呑気な事を言っている場合ではないだろう」
 と、ヘイノ。グラニータッヒから一番近い場所に皆が集まって来ていた。
 「想像以上ですね。もはや人間の域を超えています」
 「だが、長くは持つまい。長期戦に持ち込めば勝機はある」
 頷くアードルフとギルバート。グラニータッヒは剣の腕も超一流だが、それならこちらも同じである。しかも、数では上回っているのだ。
 「完全無欠な者など存在せん。必ず穴を開けるぞ」
 一行は肯定する動きをした。
 最前線では、息を切らしながら剣を構えるゼンベルトに対し、グラニータッヒは平然と大剣を肩にかついでいる。
 「年老いたな、ゼンベルト」
 「残念ながらな。お前もあと十年すれば分かる」
 「ふん。知りたくもないが、時とは残酷なものだからな」
 ぴくり、と老執事の眉が動く。気のせいか、一瞬だけ、王の表情が憂いを帯びたように見えた。
 「だが、わしに終焉などない。この命ある限り君臨し続けるのだ」
 「どんな事にも終わりはある。その身をもって知れっ」
 構え直したゼンベルトは、人目で確認出来ない程の薄い膜を剣に付加させる。真顔になった敵将は、珍しくその場で大剣を水平に持った。
 火花を散らした瞬間、
 「何度言わせる。茶番は終わりだっ」
 今まで右腕のみでしか使っていなかったゼンベルトが、始めて両手を柄にそえる。
 「無駄な足掻きを。使い物にならぬ腕など焼け石に水にもならんわ」
 再度剣に魔力を込めたグラニータッヒ。さすがに耐え切れず老執事は吹き飛ばされてしまう。
 「ゼンベルト。しっかり」
 「い、いけませぬ。少しでも温存しなければ」
 「馬鹿を申すな。早く治療しなければ手遅れになる。もう十分だ」
 ラヴェラ王子が回復魔法を唱える。その様子に、ほお、と、王は口にした。
 「ラヴェラ王子、あとはわたくしが」
 「しかし」
 「御心配召されるな。ここまで回復すれば薬でも間に合いますとも」
 眉間にしわを寄せる王子。
 「老人といえど命は惜しいのです。嘘を申しても意味ありますまい」
 「分かった。姫、後は頼みます」
 頷くアマンダ。ギルバートたちに使用した薬とは違う種類を取り出し、ゼンベルトの口に運ぶ。
 様子を見ていた第二王子は、敵将へと近づいて行った。
 「ようやく来たか。さあ。勝利の女神を射止めるのはどちらか、勝負せよ」
 剣先を勢い良く相手に向けたグラニータッヒ。目を細めたラヴェラは、深呼吸をすると、両足を肩幅と同等に開き、両腕の力を抜く。今度はグラニータッヒの眉が動いた。
 完全に閉ざされたまぶたが開かれたとき、ラヴェラの体が火の竜巻に包まれる。天高く上った炎は、一瞬空をも焦がす。
 火が四方に飛び散ると、彼の右手には炎の鞭が、頭上には炎をまとい羽の生えたトカゲらしき生き物が浮かんでいる。
 『よおよお。オレ様は何をすればいいんだい』
 「あの男を、奴を、跪かせる」
 と、指した。
 『ひざま? うーん、ぶちのめせばいいのかい』
 「うん。殺さない程度にね」
 『ありゃま。じゃあ黒コゲでおさえとく』
 「お願いね。彼がグラニータッヒだから」
 ピタッ、と火トカゲの動きが止まる。
 『あー。主がいってた人間か。りょかい』
 首を縦に振ったラヴェラは、火トカゲとともに敵将に向かい合う。
 口元を歪めたグラニータッヒは、
 「作戦会議は済んだか。さあ、掛かって来いっ」
 『なんだあいつ、ナマイキだなーっ』
 出鼻を挫かれた王子だが、改めて集中した。
 両手に頭程の火の玉を呼び出したラヴェラはひとつをグラニータッヒに投げつける。父王は左によけ、得物を地面と水平に構えて突撃して来た。
 残った火の玉を放り投げると、出現させた鞭を同時に放った。足元に炸裂した鞭は相手の動きを止め、迫る火の玉と激突はもはや避けられなかった。
 対してグラニータッヒは魔力を剣に集中させると目の前に薄紅色をした障壁を発現。しかし、火の玉は彼の数メートル前で急上昇し、高さ十数メートルまで止まると、突然破裂する。
 玉は無数の小さな小さな流星となり、グラニータッヒに降り注ぐ。
 いくら何でも、直撃すればダメージを受けるはず。
 ラヴェラは敵将の動きに注視した。だが、予想に反して、グラニータッヒは平然と立っているではないか。
 「ぐっふっふ、ようやく手応えを感じたわ。やはり戦いはこうでなくては、なっ」
 一瞬でラヴェラの前まで移動したグラニータッヒ。火トカゲが気づき、炎を吐いて召喚者を援護する。
 「何っ」
 「くっ」
 ラヴェラはとっさに魔力の塊を敵将にぶつけ距離を取った。
 魔法、じゃない。強化魔法が掛かってるとはいえ、何て脚力なんだ。
 思い返してみれば、父の武芸を近距離で見たのは初であった。訓練中は危ないから近づかないようにと、子供の頃に良く注意されていたのを思い出す。
 父上がこうまで力に固執するようになったのは、いつからだっただろうか。
 今の勢力対立が明確化したのは、およそ十年前。以降、父と兄とは疎遠な状態になった。
 戦いの真っ最中だというのに、親子三人で母に叱られた場面、剣ではいつも兄にか負けていた記憶、自分のために目の前で命を落とした兵士の顔、寝込んだときのお見舞い時の家族の表情など、過去の一部が次々へと入れ替わりながら流れて行く。
 武器による直接攻撃と魔法による遠距離が続く中、お互い決定打を決められないでいた。
 「どうした。貴様の覚悟はそんなものか」
 戦神とは本当に良い例えだ。障壁で防いでいるとはいえ、あちらは息ひとつ切らしていないなんて。
 「貴様らはわしの魔力切れを狙っておったのだろうが、残念だったな。聖戦に参加するのだ、さすがに無策では来ぬわ」
 「ぐっ」
 柄頭を向けられたラヴェラの体が急に崩れ落ちる。
 「ち、力が。まさか、魔道具」
 「そういう事だ。時間を掛けたのが貴様の敗因、経験不足だったな」
 「全くですよ。いい勉強になりました」
 ラヴェラは周囲に炎をまとい、体を覆う程の火柱を生成。火が消えると、何事もなかったように立ち上がった。
 近くにいた火トカゲの口からは、残り火が出ている。
 「ちっ。ラガンダの入れ知恵だな」
 「貴方が子供の頃、よく二人でいたずらしていたそうですね。思考が似ておられるのでしょう」
 「ふん。確かに魔法師なら自然から力を受け取ることは可能。だが、本人の精神力に依存する」
 「体力も同じ事でしょう。さて、どちらが最後まで立っていられますかね」
 「小僧が。舐めるでないわぁっ」
 グラニータッヒの唯一の弱点らしい弱点といえば、ときたま冷静さを欠くこと。負け知らずを支えているのは、砂地を粉砕するとうたわれる程の闘争心。要は極度の負けず嫌いなのである。
 ラヴェラは意地の悪い顔をしたラガンダを思い浮かべながら、彼ならどういう風に仕掛けるのかを、常に考えていた。
 自身に身体強化魔法を施し、紙一重で攻撃をかわす息子に対し、王は、だんだんイライラし始める。攻撃が当たらないからではなく、もっと別な、ドロドロした何かにだった。
 戦う前から、いや、もっと前から感じていたその何かの正体は不明。だが、ランバルコーヤ国王としてよりも大切な、表現しづらい何かが、ずっとグラニータッヒを支配している。
 その想いが強くなると、必ず妻の顔が浮かぶのが、彼にとっては不思議でならない。しかし、愛した女の瞳は、いつも何かを訴えていた。
 再び距離を空ける二人。
 風が双方の間に、びゅうぅっ、と吹いた。
 対決の場を複雑な気持ちで見つめるゼンベルト。執事にとっては弟子であり、息子と孫同然の二人。
 早く気づかぬか、馬鹿者が。
 ラガンダよりもおそらく親子とは距離が近いが故に見え隠れするお互いの心情。
 無意識であろうとも、引き返せる段階にある。かなり瀬戸際だが、まだあの日々に戻れるのだ。
 何を想い、何を考えているのか。
 欲や見栄、世情や立場といったモノが取り巻くと、人間はいくらでも複雑になれる。
 それが、望みがたった一つだったとしても。
 雌雄を決する機会は、刻一刻と迫っていた。