第四十六話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
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グラニータッヒ王からもたらされた内容は、動きとともにアンブロー軍全体に知らされた。遠征組は文化の違いに戸惑うが、合流しているラヴェラ兵にとっては当然という反応である。前者に至っては、勝つだけなら、相手の兵力が少なくなっているときを狙うのが定石だからだろう。
なお、決戦に向けて人員配置も行われた。ヒエカプンキにいた連合軍は、ヤロとギルバート以外の全員がクリハーレンへと出発。この間の指揮はラヴェラ派の傭兵団長であるロシュが取っている。
残った二人は、ヤロは魔法でゼンベルトとともに行動するため、ギルバートは養生のために待機することになった。サークの結界が何故か彼の頭上だけ薄くなってしまい、魔法を受けてしまったのである。
また、ゼンベルトの孫であるレコとリク、アンブローに力を貸している魔法師サーク兄弟三人は、ラガンダの仕事を手伝うように命を受けて動いていた。
アンブロー軍が合流するまで約一週間と推測され、その間は両軍とも一切の争いを行わない協定を結ぶ。しかも、お互いが万全な状態で戦えるよう、水や食料などの相互生活扶助条約も交わされる徹底ぶりだ。
この辺りの交渉はランバルコーヤの文化に詳しいラヴェラ王子が代表となって取り決められたという。一部のアンブロー兵から反発が起こったが、ラヴェラ兵がそれぞれ説得に走り回り、大多数から同意を得ることに成功。中には渋る者も当然いたが、アマンダやヘイノら将軍クラスが直接話をしに行くという、前代未聞の騒ぎであった。
とはいえ、確かに他国から見たら、お家騒動の茶番につき合わされているようなもの。利害の一致や、何より短くても共に過ごした日々がなければ、受け入れられなかっただろう。
アンブロー軍が再びひとつの部隊になるのにあと五日となったとき、ようやく本隊も落ち着きを取り戻した。
グラニータッヒ王から接触があった日から、クリハーレンから少し離れたある一部が立ち入り禁止になった場所がある。特段重要な場所ではなく、単に砂地だけしか広がっていない、ごく普通の砂漠地帯である。
そこは興味を持って近づいた者が入ってこられないように、常にラヴェラ派兵士が見張っていた。本人たちもラヴェラ王子の鍛錬場とだけしか聞いておらず、何があって何をしているのかまでは知らされていないという。
とはいえ、今まで民のために動いていた君主を疑う者は、誰一人いなかった。
魔力を持っている人間にはくっきり見える水色をした円状の結界の中では、ラヴェラとリューデリアが対峙していた。
「そなたと相性が良いのは鞭のようだ。ラガンダ様と同じ火精の使役が良かろう」
「使役? 火の精霊を召喚するということか」
「うむ。魔法師にもタイプがある。私は魔力を弾丸のように放つのが得意なようにな」
「ふむふむ。やはり書物で読むのと体感するのとは天地の差だ」
ラヴェラは、手に鞭状の炎を出してみた。うねうねと動かすことは出来るようだが、肝心の精霊はいない。
「鞭での攻撃も可能だが、今の状況では威力はほとんどないと思う。捕縛は出来よう」
「相手が魔力を持っていない場合、燃えたりしないのかい」
「温度を抑えれば問題ない。私もこけおどしに使うぞ」
「脅しっつーモンじゃねえぞ、あれ」
「そうなのか?」
「まあね。燃えないってわかってても怖いって」
「あらま~、そうなのね~。ペシッって払えるのよ~、あれも」
「虫かよ」
「魔法師以外ムリだってば。あ、つづきどーぞ」
と、外野。結界の張り主であるサイヤの回りに、ヤロとイスモ、情報屋も集まっていた。傭兵組は魔法に対する学びを兼ねて、情報屋は単に興味があって覗きに来たらしい。
なお、アマンダとアードルフは、黙って眺めている。ちなみにヘイノは時間が空いたときに顔を出していた。
「ラガンダはちちう、いや、グラニータッヒは魔力を全て補助に回してると聞いたけど」
「無意識らしいがな。その代わり、先程見せた様な放出は出来ぬだろう」
「成程。それであの威力なのか」
「うむ。必要ならサイヤと代わろう」
「ありがとう。でも今はとにかく魔法で戦えるようにならないと」
「そうか。では、ゼンベルト様が来られるまでもう一度やろう」
「宜しくお願い致します」
「私にそう頭を下げずとも良い。同じ魔法師ではないか。では、行くぞっ」
リューデリアは後ろに飛んで距離を取ると、両手を上にし、周囲に大小様々な火の玉を生成。一方、ラヴェラは腰を深く落とし、腕を正面一杯に伸ばす。
魔女が右腕を左から右へ払うと、火の玉は王子の下へ飛んで行く。
ぶつかる瞬間、ラヴェラは赤色の盾を形成した。大きさによる衝撃の差はあるが、どれも重たく、柔らかい砂の上では踏ん張ることも難しいようだ。
新たに生み出された火の玉が送り出されると、王子の体は後ろへと投げ出されてしまった。
これで本気じゃないなんてね。物凄い力だ。魔法師が表舞台に姿を現さないようにしていた理由が良く分かる。
痺れた手足に活を入れると、ラヴェラはもう一度盾を作り出そうとする。しかし、ひし形に近い大盾の形は全体的にぼんやりとしており、あちこちに細かいヒビが入っている。
「さすがはラヴェラ王子。あの攻撃を受けても再び生成出来るとは」
と、男性の声。いつの間に来ていたのか、満足げの顔をしたゼンベルトが、リューデリアの隣に立っていた。
彼女は一礼をし、老執事も習う。
「この訓練は休み休みに行うのがコツですぞ」
と、手を差し伸べながら笑うゼンベルト。ラヴェラも、微笑みながら握り返した。
「まあ、本来ならこんな大量に浴びせたりしませぬが」
「そうなのか」
「左様でございます。この地方では子供の頃に遊びながら魔力をぶつけ合うのです」
「あ、遊び?」
「はっはっはっ。レコとリク、ラガンダ様がやっていた日干し煉瓦の投げ合いですよ。実はアレ、一見煉瓦の欠片のようですが、正体はただの砂なのです」
「そう言えば何か投げ合っていたような。周辺にある砂を魔力で固めたものだったのか」
「はい。砂なら怪我もありませんし、魔力が体にぶつかることで、魔力の衝撃にも耐えられるようになっていくのです」
「まるで筋力ならず魔力トレーニングだな。合理的だ」
お茶の準備をしていた外野と合流したラヴェラは、つかの間の休憩で羽根を伸ばした。
使者が送られてから八日後。クリハーレンの北側にアンブロー軍の分隊が到着。砂嵐に遭い若干の遅れが生じたが、条約によって軍は翌日に第二の首都の脇を無傷で通過した。
ようやくひとつの隊になったアンブロー軍を、回復したギルバートが迎える。
「おっ。元気になったようだな」
「ラガンダ様のおかげでねー。昨日、送ってもらったんだよー」
と、彼は分隊を指揮していたロシュと握手する。世間話をしながら、遠路はるばる帰って来た仲間に対して小さな宴が催された。精のつく料理が振舞われ、休息に徹して体力を戻すためだ。
傭兵たちの疲労具合を確認した後、アンブロー軍はグラニータッヒ王に使者を送り、その間、全面対決の準備を行う。
そして、使者が戻って来てから数日後、クリハーレンと野営地の中間で聖戦が行われることが正式に決まる。到着次第、信号弾を上げることになっており、それが合図であった。
決戦日。
約束の地に終結した両軍には、各国の旗が掲げられており、乾いた風がうっとうしそうにばたつかせている。
そして、アンブローからはラヴェラ、ゼンベルト、ヘイノ、アマンダ、アードルフ、ヤロ、イスモ、ギルバートが、ランバルコーヤからはグラニータッヒとその執事が、両軍の中間地点に立っていた。
「ほお。たったそれだけの手勢で良かったか」
「おっさん、いくら何でもオレたちを舐めすぎなんじゃねえのか」
「がっはっはっ、威勢の良い若造だな。若い者はそうでなくては」
まるで欲しいおもちゃを手にしたような表情のグラニータッヒ王。だが、血走った目は、まるで野生の獣のようである。
「わしは女とて戦場に立つのなら容赦はせんぞ」
「承知の上ですわ。いかに強敵といえど、逃げるわけには参りません」
「ほほお、わしの視線に臆さんとは。肝の据わった姫君よ、気に入った」
アマンダは剣を抜き、構える。そして、周囲も武器を構えた。
「兵は兵同士、将は将同士で楽しもうではないか。サンプサ、貴様は下がって見届けるが良い」
「か、畏まりました」
三十代半ば位の執事は、剣を収めると戦線から離脱。
再びアンブロー勢に向き合ったグラニータッヒは、雄たけびを上げながら大剣を構えて突進して来る。
普段は相手の攻撃を受け止めてから反撃するヤロも、この攻撃だけは本能でかわした。彼のいた場所の砂は噴水のように数十メートル左右に舞い上がる。
「なんつうバカ力だ」
「砂漠でなければ裂け目が出来るが我が一撃。貴様、中々の勘の鋭さだ、なっ」
剣を切り返し腰辺りを狙う王。ヤロは受け止めるも、謎の衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
直後、イスモは敵将の首筋を狙いを定めて跳躍していた。だが、あと数センチというところで彼の右手首を掴むと、無造作に足場へと叩きつける。
とっさに受身を取った暗殺者は、相手の剣が振り上がる前に特別製のワイヤーを放出。装着された小手から繰り出された鋼線は、狙い通り首に絡まった。
解放されたイスモは、距離を取るといつものように力を込めて首を飛ばそうとする。
「小賢しい。だが、これもひとつの手段ではあるな」
と、王は力任せにワイヤーを引きちぎった。
「な、毒で動けないはずっ」
「愚か者が。そんな玩具がこのわしに効くかあっ」
反応が一瞬遅れた彼は、正拳突きをまともに食らって数十メートル先に吹っ飛ばされ、うずくまってしまう。
「これで二匹か」
敵将の言葉に、アマンダが反応した。グラニータッヒが想像していたよりも早く、そして鋭い剣先に感心するが。
「わしから見たら、その様な突きなど児戯に等しい。そなたは最後に料理してやる」
と、レイピアを掴み無造作に放り投げた。
様子を見ていたヘイノは、アマンダが投げられた方向に走り受け止める。
「あ、ありがとうございます」
「いや。それにしてもとんでもない化け物だ。全員で掛からなければ勝ち目はない」
「ヤロとイスモの様子を見てきます」
「頼む。薬は持っているな」
「はい」
「よし。まだアードルフ達もいる、私も時間を稼ごう」
一対複数など騎士道に反するが、もはや手段を選んではいられない。何としても勝たなければ、アンブローも滅ぼされてしまう。
再度剣を抜いたヘイノは、既に切り結んでいるアードルフとギルバートに加わり、猛攻を仕掛けた。
「即席の割には中々の連携。しかしっ」
叫び声を上げると、また謎の衝撃波が生まれた。ゼンベルトは障壁を張るが、とっさで全員まで手が回らない。
「何と。魔力を操れる様になっていたとは」
「ぐふふ、貴様から見れば拙かろうがな。ラヴェラよ、貴様はいつまで突っ立っているつもりだ。武術においてこのわしの右に出る者などおらぬこと位分かっていようが」
砂が悲鳴を上げる。
一方、衝撃波をまともに受けた三人だが、ヤロと異なりすぐに起き上がることが出来た。
「素晴らしい。魔力に多少の耐性があるようだな。面白い、面白いぞっ」
獲物を構えて突進してくる姿は、もはや獅子の如く。前にいる者たちは相手の言葉の意味など考えている余裕はなかった。
まずはギルバートが斬り掛かる。剣を交えた直後、アードルフとヘイノの一閃が両足に炸裂した。
しかし、薄紅(うすくれない)色の薄い膜によって片方ははじかれる。
「な、何だとっ」
怪しく笑うヘイノの剣には、浅緑色の何かがまとわれており、さらに力を込めると武具を破壊。敵将はヘイノの顎に蹴りを入れると、睨み付けた。
「貴様、まさか」
「ちょっとちょっとー」
ギルバートは負けじと体のばねを利かせて剣をはじき返すと、グラニータッヒは一度距離を取った。
だが、戦闘時における動揺は、命に関わる重大な隙。ここぞとばかりに傭兵は攻め立てて行く。
「この力は。貴様、一体何者なのだ」
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グラニータッヒ王からもたらされた内容は、動きとともにアンブロー軍全体に知らされた。遠征組は文化の違いに戸惑うが、合流しているラヴェラ兵にとっては当然という反応である。前者に至っては、勝つだけなら、相手の兵力が少なくなっているときを狙うのが定石だからだろう。
なお、決戦に向けて人員配置も行われた。ヒエカプンキにいた連合軍は、ヤロとギルバート以外の全員がクリハーレンへと出発。この間の指揮はラヴェラ派の傭兵団長であるロシュが取っている。
残った二人は、ヤロは魔法でゼンベルトとともに行動するため、ギルバートは養生のために待機することになった。サークの結界が何故か彼の頭上だけ薄くなってしまい、魔法を受けてしまったのである。
また、ゼンベルトの孫であるレコとリク、アンブローに力を貸している魔法師サーク兄弟三人は、ラガンダの仕事を手伝うように命を受けて動いていた。
アンブロー軍が合流するまで約一週間と推測され、その間は両軍とも一切の争いを行わない協定を結ぶ。しかも、お互いが万全な状態で戦えるよう、水や食料などの相互生活扶助条約も交わされる徹底ぶりだ。
この辺りの交渉はランバルコーヤの文化に詳しいラヴェラ王子が代表となって取り決められたという。一部のアンブロー兵から反発が起こったが、ラヴェラ兵がそれぞれ説得に走り回り、大多数から同意を得ることに成功。中には渋る者も当然いたが、アマンダやヘイノら将軍クラスが直接話をしに行くという、前代未聞の騒ぎであった。
とはいえ、確かに他国から見たら、お家騒動の茶番につき合わされているようなもの。利害の一致や、何より短くても共に過ごした日々がなければ、受け入れられなかっただろう。
アンブロー軍が再びひとつの部隊になるのにあと五日となったとき、ようやく本隊も落ち着きを取り戻した。
グラニータッヒ王から接触があった日から、クリハーレンから少し離れたある一部が立ち入り禁止になった場所がある。特段重要な場所ではなく、単に砂地だけしか広がっていない、ごく普通の砂漠地帯である。
そこは興味を持って近づいた者が入ってこられないように、常にラヴェラ派兵士が見張っていた。本人たちもラヴェラ王子の鍛錬場とだけしか聞いておらず、何があって何をしているのかまでは知らされていないという。
とはいえ、今まで民のために動いていた君主を疑う者は、誰一人いなかった。
魔力を持っている人間にはくっきり見える水色をした円状の結界の中では、ラヴェラとリューデリアが対峙していた。
「そなたと相性が良いのは鞭のようだ。ラガンダ様と同じ火精の使役が良かろう」
「使役? 火の精霊を召喚するということか」
「うむ。魔法師にもタイプがある。私は魔力を弾丸のように放つのが得意なようにな」
「ふむふむ。やはり書物で読むのと体感するのとは天地の差だ」
ラヴェラは、手に鞭状の炎を出してみた。うねうねと動かすことは出来るようだが、肝心の精霊はいない。
「鞭での攻撃も可能だが、今の状況では威力はほとんどないと思う。捕縛は出来よう」
「相手が魔力を持っていない場合、燃えたりしないのかい」
「温度を抑えれば問題ない。私もこけおどしに使うぞ」
「脅しっつーモンじゃねえぞ、あれ」
「そうなのか?」
「まあね。燃えないってわかってても怖いって」
「あらま~、そうなのね~。ペシッって払えるのよ~、あれも」
「虫かよ」
「魔法師以外ムリだってば。あ、つづきどーぞ」
と、外野。結界の張り主であるサイヤの回りに、ヤロとイスモ、情報屋も集まっていた。傭兵組は魔法に対する学びを兼ねて、情報屋は単に興味があって覗きに来たらしい。
なお、アマンダとアードルフは、黙って眺めている。ちなみにヘイノは時間が空いたときに顔を出していた。
「ラガンダはちちう、いや、グラニータッヒは魔力を全て補助に回してると聞いたけど」
「無意識らしいがな。その代わり、先程見せた様な放出は出来ぬだろう」
「成程。それであの威力なのか」
「うむ。必要ならサイヤと代わろう」
「ありがとう。でも今はとにかく魔法で戦えるようにならないと」
「そうか。では、ゼンベルト様が来られるまでもう一度やろう」
「宜しくお願い致します」
「私にそう頭を下げずとも良い。同じ魔法師ではないか。では、行くぞっ」
リューデリアは後ろに飛んで距離を取ると、両手を上にし、周囲に大小様々な火の玉を生成。一方、ラヴェラは腰を深く落とし、腕を正面一杯に伸ばす。
魔女が右腕を左から右へ払うと、火の玉は王子の下へ飛んで行く。
ぶつかる瞬間、ラヴェラは赤色の盾を形成した。大きさによる衝撃の差はあるが、どれも重たく、柔らかい砂の上では踏ん張ることも難しいようだ。
新たに生み出された火の玉が送り出されると、王子の体は後ろへと投げ出されてしまった。
これで本気じゃないなんてね。物凄い力だ。魔法師が表舞台に姿を現さないようにしていた理由が良く分かる。
痺れた手足に活を入れると、ラヴェラはもう一度盾を作り出そうとする。しかし、ひし形に近い大盾の形は全体的にぼんやりとしており、あちこちに細かいヒビが入っている。
「さすがはラヴェラ王子。あの攻撃を受けても再び生成出来るとは」
と、男性の声。いつの間に来ていたのか、満足げの顔をしたゼンベルトが、リューデリアの隣に立っていた。
彼女は一礼をし、老執事も習う。
「この訓練は休み休みに行うのがコツですぞ」
と、手を差し伸べながら笑うゼンベルト。ラヴェラも、微笑みながら握り返した。
「まあ、本来ならこんな大量に浴びせたりしませぬが」
「そうなのか」
「左様でございます。この地方では子供の頃に遊びながら魔力をぶつけ合うのです」
「あ、遊び?」
「はっはっはっ。レコとリク、ラガンダ様がやっていた日干し煉瓦の投げ合いですよ。実はアレ、一見煉瓦の欠片のようですが、正体はただの砂なのです」
「そう言えば何か投げ合っていたような。周辺にある砂を魔力で固めたものだったのか」
「はい。砂なら怪我もありませんし、魔力が体にぶつかることで、魔力の衝撃にも耐えられるようになっていくのです」
「まるで筋力ならず魔力トレーニングだな。合理的だ」
お茶の準備をしていた外野と合流したラヴェラは、つかの間の休憩で羽根を伸ばした。
使者が送られてから八日後。クリハーレンの北側にアンブロー軍の分隊が到着。砂嵐に遭い若干の遅れが生じたが、条約によって軍は翌日に第二の首都の脇を無傷で通過した。
ようやくひとつの隊になったアンブロー軍を、回復したギルバートが迎える。
「おっ。元気になったようだな」
「ラガンダ様のおかげでねー。昨日、送ってもらったんだよー」
と、彼は分隊を指揮していたロシュと握手する。世間話をしながら、遠路はるばる帰って来た仲間に対して小さな宴が催された。精のつく料理が振舞われ、休息に徹して体力を戻すためだ。
傭兵たちの疲労具合を確認した後、アンブロー軍はグラニータッヒ王に使者を送り、その間、全面対決の準備を行う。
そして、使者が戻って来てから数日後、クリハーレンと野営地の中間で聖戦が行われることが正式に決まる。到着次第、信号弾を上げることになっており、それが合図であった。
決戦日。
約束の地に終結した両軍には、各国の旗が掲げられており、乾いた風がうっとうしそうにばたつかせている。
そして、アンブローからはラヴェラ、ゼンベルト、ヘイノ、アマンダ、アードルフ、ヤロ、イスモ、ギルバートが、ランバルコーヤからはグラニータッヒとその執事が、両軍の中間地点に立っていた。
「ほお。たったそれだけの手勢で良かったか」
「おっさん、いくら何でもオレたちを舐めすぎなんじゃねえのか」
「がっはっはっ、威勢の良い若造だな。若い者はそうでなくては」
まるで欲しいおもちゃを手にしたような表情のグラニータッヒ王。だが、血走った目は、まるで野生の獣のようである。
「わしは女とて戦場に立つのなら容赦はせんぞ」
「承知の上ですわ。いかに強敵といえど、逃げるわけには参りません」
「ほほお、わしの視線に臆さんとは。肝の据わった姫君よ、気に入った」
アマンダは剣を抜き、構える。そして、周囲も武器を構えた。
「兵は兵同士、将は将同士で楽しもうではないか。サンプサ、貴様は下がって見届けるが良い」
「か、畏まりました」
三十代半ば位の執事は、剣を収めると戦線から離脱。
再びアンブロー勢に向き合ったグラニータッヒは、雄たけびを上げながら大剣を構えて突進して来る。
普段は相手の攻撃を受け止めてから反撃するヤロも、この攻撃だけは本能でかわした。彼のいた場所の砂は噴水のように数十メートル左右に舞い上がる。
「なんつうバカ力だ」
「砂漠でなければ裂け目が出来るが我が一撃。貴様、中々の勘の鋭さだ、なっ」
剣を切り返し腰辺りを狙う王。ヤロは受け止めるも、謎の衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
直後、イスモは敵将の首筋を狙いを定めて跳躍していた。だが、あと数センチというところで彼の右手首を掴むと、無造作に足場へと叩きつける。
とっさに受身を取った暗殺者は、相手の剣が振り上がる前に特別製のワイヤーを放出。装着された小手から繰り出された鋼線は、狙い通り首に絡まった。
解放されたイスモは、距離を取るといつものように力を込めて首を飛ばそうとする。
「小賢しい。だが、これもひとつの手段ではあるな」
と、王は力任せにワイヤーを引きちぎった。
「な、毒で動けないはずっ」
「愚か者が。そんな玩具がこのわしに効くかあっ」
反応が一瞬遅れた彼は、正拳突きをまともに食らって数十メートル先に吹っ飛ばされ、うずくまってしまう。
「これで二匹か」
敵将の言葉に、アマンダが反応した。グラニータッヒが想像していたよりも早く、そして鋭い剣先に感心するが。
「わしから見たら、その様な突きなど児戯に等しい。そなたは最後に料理してやる」
と、レイピアを掴み無造作に放り投げた。
様子を見ていたヘイノは、アマンダが投げられた方向に走り受け止める。
「あ、ありがとうございます」
「いや。それにしてもとんでもない化け物だ。全員で掛からなければ勝ち目はない」
「ヤロとイスモの様子を見てきます」
「頼む。薬は持っているな」
「はい」
「よし。まだアードルフ達もいる、私も時間を稼ごう」
一対複数など騎士道に反するが、もはや手段を選んではいられない。何としても勝たなければ、アンブローも滅ぼされてしまう。
再度剣を抜いたヘイノは、既に切り結んでいるアードルフとギルバートに加わり、猛攻を仕掛けた。
「即席の割には中々の連携。しかしっ」
叫び声を上げると、また謎の衝撃波が生まれた。ゼンベルトは障壁を張るが、とっさで全員まで手が回らない。
「何と。魔力を操れる様になっていたとは」
「ぐふふ、貴様から見れば拙かろうがな。ラヴェラよ、貴様はいつまで突っ立っているつもりだ。武術においてこのわしの右に出る者などおらぬこと位分かっていようが」
砂が悲鳴を上げる。
一方、衝撃波をまともに受けた三人だが、ヤロと異なりすぐに起き上がることが出来た。
「素晴らしい。魔力に多少の耐性があるようだな。面白い、面白いぞっ」
獲物を構えて突進してくる姿は、もはや獅子の如く。前にいる者たちは相手の言葉の意味など考えている余裕はなかった。
まずはギルバートが斬り掛かる。剣を交えた直後、アードルフとヘイノの一閃が両足に炸裂した。
しかし、薄紅(うすくれない)色の薄い膜によって片方ははじかれる。
「な、何だとっ」
怪しく笑うヘイノの剣には、浅緑色の何かがまとわれており、さらに力を込めると武具を破壊。敵将はヘイノの顎に蹴りを入れると、睨み付けた。
「貴様、まさか」
「ちょっとちょっとー」
ギルバートは負けじと体のばねを利かせて剣をはじき返すと、グラニータッヒは一度距離を取った。
だが、戦闘時における動揺は、命に関わる重大な隙。ここぞとばかりに傭兵は攻め立てて行く。
「この力は。貴様、一体何者なのだ」