第四十八話
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※書き下ろしなので、誤字脱字や展開など、今後内容が変更される恐れがあります。ご了承下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ゼンベルト様、あまり動かれないほうが」
「しかし、このままでは」
「お気持ちは分かりますが、ここは堪えて頂きたい。まだその時ではありませんよ」
と、ヘイノ。一同は今、老執事の下に集まり、火トカゲによる結界の中にいる。正確には、火トカゲを介したラガンダの結界であるが。
なお、召喚獣はラヴェラの傍にいた。
ヘイノはアマンダに、準備だけしておくように、と話す。令嬢は眉をひそめながら、剣柄を握った。
「そう、ならないように願うばかりです」
「相手はあのグラニータッヒですからな。正直、十中八九厳しいでしょう」
「何、負けを認めさせれば良いだけの話さ。ちゃんと文化に則っている」
「ヘイノ様の仰る通りです。力こそ正義とのたまうなら、異なる力を持って制しても同じ事でしょう」
「ええ。ラヴェラ王子の強さの証明出来る」
グラニータッヒは強力を、ラヴェラは協力を求めた。その結果が今、表れようとしている。
アマンダは、ランバルコーヤに来たとき聞かされたラガンダからの話を思い出し、表情をそのままに親子の決闘を見ていた。
肩で息をし始めたラヴェラに対し、グラニータッヒはほとんど変わっていない。だが、余裕があった表情は、既に真顔になっていた。
『大丈夫かい』
「何とか。それ、にしても、全然衰えない」
『そうでもないよ』
ふと、首を火トカゲのいるほうへと向ける。
『所詮は人で、物だ。いつかは壊れるが理。物質は有限だし、君たち王族とやらは表情を固めるのが得意じゃないか』
そう言えばゼンベルトが、歳には敵わない、とよくぼやいていたな。ラガンダも激しく同意していたし。
火トカゲの言葉を反芻(はんすう)した王子は、気持ちを切り替える。
そう、全てを抱え込む必要はない。ひとりで全てをまかなえる人間など、存在しない。
ラヴェラはフードを外してその辺に投げると、鞭を構えて魔力を溜める。得物を振るうと数え切れない炎の曲線が生まれ敵に向かわせた。同時に火の玉も生成して後を追わせる。
「まだこんな力が残っていたか」
グラニータッヒは柄を火の軍団に差し出し、両足に踏ん張りを利かせると、砂地に彼の後退した軌跡を残しながら五十メートル程で停止。風景が普段通りに戻ると、ラヴェラの片ひざが落ちてしまった。
「貴様が先だったな。これで終わりだっ」
か、回復スピードが遅い。魔力が足らないのか。
召喚獣から放たれた火は、ぶつかる直前にも関わらずラヴェラの体を覆っている。
敵将が剣を構えた瞬間、男の目の前に剣が飛び込んできた。反射的にはじき返すと、ヤロが普段使っている大剣を左手に持ちながら不敵な笑みを浮かべている。
鬼の形相になったグラニータッヒに、今度は鋼鉄線が体を縛りに掛かる。しかし、魔力まとって弾き飛ばすと、向かって来た刺客三人を同時に受け止めた。
「お、おのれ」
左手を棟に添え一瞬引き、反動を用いて連中に隙を作る。腹部を狙い切りつけようとした瞬間、パリンと何かが割れた音がした。グラニータッヒの柄頭に取り付けられていた魔道具が、女将軍の攻撃によって破壊されたのである。
砕けた魔道具の核とレイピアの欠片が、ゆっくり、ゆっくりと、アマンダの顔を横切っていく。
ふと、グラニータッヒの瞳に、昔憧れた女騎士の面影が重なった。
だが温かい幻想は一瞬で影によってかき消される。周囲には誰もおらず、代わりに太陽の様に燃え盛る巨大な火の矢が頭上に存在していた。
「うおおぉおぉおぉぉっ」
親子の雄たけびが重なり、ラヴェラが腕を振り下ろすと矢は敵を貫く。
爆発と轟音に包まれたランバルコーヤ王国の砂漠には、寂しげな夕日が降り注いだ。
さらさらした砂が、申し訳なさそうにクレーターへと落ちて行く。
中心にいたグラニータッヒは、両膝をついて、動かなかった。
大剣を利き手に持ち替えたヤロが様子を見に行こうかと提案するが、近くに来たラヴェラが制止する。
「あんなの食らって生きてるってのか」
「ええ。大きいだけで、耐性がある者に対しては大した威力はないでしょう」
アードルフ以外の男性陣は、穴を覗き込む。服の所々が焦げて、得物も足元にある状態の敵将が見えた。
なお、アマンダは反対側の縁に走って来ており、従者が合流した後、遅れながらも確認していた。
「お、おの、れ。このわしが、地に両のひざを、つける、など」
握りにくくなった武器を持ちながら、グラニータッヒは叫びながら立ち上がる。まるで獣の咆哮に魔力を乗せたような形となり、一行の身が吹き飛ばされた。
直後、跳躍した敵将は、ラヴェラに向かって斬撃を加えようとする。
王子は後ろに飛びのくと、練り込んでいた魔力を鞭へと流し、剣へと変貌させた。
越えなければならぬ壁に対し、ラヴェラは地面と水平に武器を構える。上から振り下ろされた大剣はただの金属の塊に過ぎず、もはや高温の武器には歯が立たなかった。
血走った目で砕けた剣を見るグラニータッヒ。直後、自らの胸部に違和感を覚えた。久しく見ていなかった自らの血液が噴出していたのだ。
生温い感覚が胸から腹部にかけて伝わる。長年の友が破壊されてから、おそらく時間にして数秒程だろう間に起こった出来事であった。
三、四歩、左手首に付けている金の腕輪を触りながら、よろめき後退する敵将。
「ば、馬鹿な。何故、魔力が、供給されん」
『無効化したからさ』
シュン、と、うずくまっているグラニータッヒの近くに、情報屋が現れる。
「あんた、タトゥをまるめこんで魔法師にそれと似たよーな腕輪をつけさせただろ。おかしーなって思ってさ」
「成程。貴様自身は身に付けないと踏んだが、まさかそこまで看破されるとはな」
「オレじゃない、ラガンダだよ。トシノコウってヤツじゃねーの」
「ふん。敵わんな、奴には」
吐血するグラニータッヒ。近づいて来たラヴェラに対し、不敵な笑みをする。
「さあ、止めを刺せ。千載一遇の好機ぞ」
眉をひそませた王子は、火の剣を消した。目を見開いたグラニータッヒは、
「貴様、どういうつもりだ」
「勝者が敗者の言う事を聞く必要がどこにあるのです。私は私のやり方で貴方に打ち勝った、我が命に従ってもらう」
「な、何だとっ」
「その身をもって罪を償わせる。まずは治療を受けると良い。その間に処遇を決める」
「ふざけるな、このわしに生き恥を晒せというのかっ。ここで殺せ、わしは戦士だぞっ。誇り高き戦民、ランバルコーヤの戦士なのだぞっ」
「存分に晒すと良い。時代の分かれ目の象徴としてな。それに、我とて誇り高きランバルコーヤの戦民。勝敗は勝敗だろう」
正論に歯軋りでしか返せないグラニータッヒ。ヘイノに敵将を託すと、ラヴェラは帯剣を引き抜き、将同士の戦いに魅入っていた兵たちの元へ歩いて行く。
ちょうど中間地点位にやって来ると、下げていた帯剣を抜き、空に掲げた。
「グラニータッヒは我ら連合軍が打ち倒した。我々の勝利だっ」
剣は、夕日の祝福を受けると、キラリを輝く。
周囲は歓喜と落胆で満ちあふれ、ラヴェラ派の兵士はグラニータッヒ兵をすぐに拘束、猿ぐつわを施した。抱き合って喜んでいたアンブロー兵たちも、慌てて同じ処置を行う。
ランバルコーヤ王国で起きた、約二十年に渡る戦乱は、第二王子によって夕日とともに地へと収まったのであった。
決戦の地に空いたクレーターは、砂嵐によって数日で塞がれた。だが、人々の心に空いた穴はそう簡単には消えず、それでもランバルコーヤ王国民は、賢明に復旧への道を歩んでいる。現在はクリハーレンが首都代わりとなり、ヒエカプンキの修復をはじめ、法整備や生活保障などの内政、外交に関する要人の入れ替えなど、激しく移り変わっている状態だ。
そんな中、グラニータッヒによって新設された法律によって強制徴兵された男性たちは家へと戻り、家族とともに日常をかみしめ、暗く静まり返っていた町は子供の笑顔を中心に潤いを取り戻しつつあった。
一方、アンブロー王国兵は休養を兼ねた帰国の準備に追われていた。
とある場所の緑あふれ、少し肌寒い風が吹く土地にて。アマンダは消失した細剣を手にすべく、フィリアとラガンダとともにこの地を訪れていた。火の魔法師いわく、専門武器を渡したいという。
「やっぱり強度も専門のものじゃないと、耐え切れなくて壊れちまうからな」
「だねえ。先端に砕いた魔法石を取り付けて破壊させるなんざ、よく思いついたモンだ」
「そうでもしねぇとグランを止められなかったからな。よくやってくれたぜ」
「い、いえ」
「謙遜すんなって。武器って重さが変わると振りづらいんだろ。練習したとはいえ、ほぼぶっつけ本番の一撃勝負だったんだからさ」
「相手も動いてるし、中々出来る事じゃあないんだよ」
くしゃくしゃ、と髪型が崩れない程度にアマンダを撫でるフィリア。はにかみながら、令嬢はお礼を言う。
「ところで、どこに向かってるのでしょう」
「金物屋さ。魔法師専門のな」
目を丸くしたアマンダに対し、子供の姿をしたラガンダは、ついたついた、と走って行く。
「ならここは魔法師の国なのっ」
「ああ。だからアードルフは連れて来られなかったのさ。だからアタシが来たんだよ。ラガンダは材料調達の為さ」
フィリアに案内されたところは、規模的には村位の集落である。ここでは生活必需品の包丁や斧、魔道具の作成などを担っているという。魔法の国自体の面積は小さいが、材料や作られる物によっていくつかに分かれているのだ。
ちなみに、情報屋が以前ゾンビ対策に持って来た液体を生成したのも、ここである。
「よお、お邪魔するぜ」
「いらっしゃい、ラガンダ様。準備できてますよ」
「さすがぁ。材料はオレに任してくれ。一番イイヤツを頼む」
「了解しました。ああ、いらっしゃいましたね」
と、頭巾を外して女性たちを迎え入れる職人。お互い一礼をすると、一行を奥へと案内した。簡素な客室には花が添えられており、一般家庭のリビングのようだ。
親方の妻がお茶と菓子を出して皆で談笑した後、夫婦とアマンダはそのまま残り、親方は彼女の手を取ると、ずっと見つめる。
座ったままの姿勢が、数時間続いていた。
「エスコの様子はどうだ」
「左指が少し動くようになったね。でも、もう戦場には立てないよ」
「そ、か。生きてるだけでも奇跡だったらしいしな」
「ああ。元通りの生活に戻れる可能性も低いって話さ。弓兵全体の指揮はセイラックがやってる」
「隠居生活返上か。複雑だろうな」
「だね。もうひと踏ん張りしてもらうしかないけど。そっちはどうだい」
「戦後処理が続いて、すんげーてんてこまいだ。お前は演説聞いたんだっけ」
「聞いたよ。見事な治め方だったじゃないか」
「あの演説に関してオレは何もしてねぇよ。全部ラヴェラがやったんだ」
「へえーっ、そうだったのかい。んま、グランにはイイ薬だったろうさ」
「だんだん策士になってきてるからな。楽しみだぜ」
ニヤリ、とする火の魔導士に、風の魔女はジト目でため息をつく。
「ああ、策士で思い出したけど。ランバルコーヤに現れた魔法師の正体は分かったのかい」
「いや。入国記録に載ってなかったんだと」
「結界をすり抜けたってのかい」
「そういうこった。エレンに報告して今調べてもらってる」
各国にはそれぞれに属している四大魔法師と、エレノオーラの魔力を混ぜた特殊な結界が張られている。移動系魔法を使える者は関所を通らずに行き来可能なため、彼ら彼女らの入出を管理するために張られたものだ。魔法師が通れば必ず痕跡が残るはずなのである。
「まさか、ね」
「何か心当たりあんのか」
「無くはないけど、確証も無い。アタシで気づくんだ、あんたも薄々と分かってんだろ」
ラガンダは、眉をひそませて黙る。息を吐き出し頭をかくと、
「オレには確認しようがねぇ。頼めるか」
「いいよ。この事は誰に」
「アルタリアとエレンだけだな。内密にしたほうがいい」
「分かった。その間、アマンダを頼んだよ」
「オッケ。アンブロー軍が自国に帰るまではオレが見る」
「助かる。そんなにかからないと思うから、それまでには戻る」
「ああ」
頷いたフィリアは姿を消し、ラガンダは何食わぬ顔で金物屋の家へと戻って行った。
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「しかし、このままでは」
「お気持ちは分かりますが、ここは堪えて頂きたい。まだその時ではありませんよ」
と、ヘイノ。一同は今、老執事の下に集まり、火トカゲによる結界の中にいる。正確には、火トカゲを介したラガンダの結界であるが。
なお、召喚獣はラヴェラの傍にいた。
ヘイノはアマンダに、準備だけしておくように、と話す。令嬢は眉をひそめながら、剣柄を握った。
「そう、ならないように願うばかりです」
「相手はあのグラニータッヒですからな。正直、十中八九厳しいでしょう」
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「ヘイノ様の仰る通りです。力こそ正義とのたまうなら、異なる力を持って制しても同じ事でしょう」
「ええ。ラヴェラ王子の強さの証明出来る」
グラニータッヒは強力を、ラヴェラは協力を求めた。その結果が今、表れようとしている。
アマンダは、ランバルコーヤに来たとき聞かされたラガンダからの話を思い出し、表情をそのままに親子の決闘を見ていた。
肩で息をし始めたラヴェラに対し、グラニータッヒはほとんど変わっていない。だが、余裕があった表情は、既に真顔になっていた。
『大丈夫かい』
「何とか。それ、にしても、全然衰えない」
『そうでもないよ』
ふと、首を火トカゲのいるほうへと向ける。
『所詮は人で、物だ。いつかは壊れるが理。物質は有限だし、君たち王族とやらは表情を固めるのが得意じゃないか』
そう言えばゼンベルトが、歳には敵わない、とよくぼやいていたな。ラガンダも激しく同意していたし。
火トカゲの言葉を反芻(はんすう)した王子は、気持ちを切り替える。
そう、全てを抱え込む必要はない。ひとりで全てをまかなえる人間など、存在しない。
ラヴェラはフードを外してその辺に投げると、鞭を構えて魔力を溜める。得物を振るうと数え切れない炎の曲線が生まれ敵に向かわせた。同時に火の玉も生成して後を追わせる。
「まだこんな力が残っていたか」
グラニータッヒは柄を火の軍団に差し出し、両足に踏ん張りを利かせると、砂地に彼の後退した軌跡を残しながら五十メートル程で停止。風景が普段通りに戻ると、ラヴェラの片ひざが落ちてしまった。
「貴様が先だったな。これで終わりだっ」
か、回復スピードが遅い。魔力が足らないのか。
召喚獣から放たれた火は、ぶつかる直前にも関わらずラヴェラの体を覆っている。
敵将が剣を構えた瞬間、男の目の前に剣が飛び込んできた。反射的にはじき返すと、ヤロが普段使っている大剣を左手に持ちながら不敵な笑みを浮かべている。
鬼の形相になったグラニータッヒに、今度は鋼鉄線が体を縛りに掛かる。しかし、魔力まとって弾き飛ばすと、向かって来た刺客三人を同時に受け止めた。
「お、おのれ」
左手を棟に添え一瞬引き、反動を用いて連中に隙を作る。腹部を狙い切りつけようとした瞬間、パリンと何かが割れた音がした。グラニータッヒの柄頭に取り付けられていた魔道具が、女将軍の攻撃によって破壊されたのである。
砕けた魔道具の核とレイピアの欠片が、ゆっくり、ゆっくりと、アマンダの顔を横切っていく。
ふと、グラニータッヒの瞳に、昔憧れた女騎士の面影が重なった。
だが温かい幻想は一瞬で影によってかき消される。周囲には誰もおらず、代わりに太陽の様に燃え盛る巨大な火の矢が頭上に存在していた。
「うおおぉおぉおぉぉっ」
親子の雄たけびが重なり、ラヴェラが腕を振り下ろすと矢は敵を貫く。
爆発と轟音に包まれたランバルコーヤ王国の砂漠には、寂しげな夕日が降り注いだ。
さらさらした砂が、申し訳なさそうにクレーターへと落ちて行く。
中心にいたグラニータッヒは、両膝をついて、動かなかった。
大剣を利き手に持ち替えたヤロが様子を見に行こうかと提案するが、近くに来たラヴェラが制止する。
「あんなの食らって生きてるってのか」
「ええ。大きいだけで、耐性がある者に対しては大した威力はないでしょう」
アードルフ以外の男性陣は、穴を覗き込む。服の所々が焦げて、得物も足元にある状態の敵将が見えた。
なお、アマンダは反対側の縁に走って来ており、従者が合流した後、遅れながらも確認していた。
「お、おの、れ。このわしが、地に両のひざを、つける、など」
握りにくくなった武器を持ちながら、グラニータッヒは叫びながら立ち上がる。まるで獣の咆哮に魔力を乗せたような形となり、一行の身が吹き飛ばされた。
直後、跳躍した敵将は、ラヴェラに向かって斬撃を加えようとする。
王子は後ろに飛びのくと、練り込んでいた魔力を鞭へと流し、剣へと変貌させた。
越えなければならぬ壁に対し、ラヴェラは地面と水平に武器を構える。上から振り下ろされた大剣はただの金属の塊に過ぎず、もはや高温の武器には歯が立たなかった。
血走った目で砕けた剣を見るグラニータッヒ。直後、自らの胸部に違和感を覚えた。久しく見ていなかった自らの血液が噴出していたのだ。
生温い感覚が胸から腹部にかけて伝わる。長年の友が破壊されてから、おそらく時間にして数秒程だろう間に起こった出来事であった。
三、四歩、左手首に付けている金の腕輪を触りながら、よろめき後退する敵将。
「ば、馬鹿な。何故、魔力が、供給されん」
『無効化したからさ』
シュン、と、うずくまっているグラニータッヒの近くに、情報屋が現れる。
「あんた、タトゥをまるめこんで魔法師にそれと似たよーな腕輪をつけさせただろ。おかしーなって思ってさ」
「成程。貴様自身は身に付けないと踏んだが、まさかそこまで看破されるとはな」
「オレじゃない、ラガンダだよ。トシノコウってヤツじゃねーの」
「ふん。敵わんな、奴には」
吐血するグラニータッヒ。近づいて来たラヴェラに対し、不敵な笑みをする。
「さあ、止めを刺せ。千載一遇の好機ぞ」
眉をひそませた王子は、火の剣を消した。目を見開いたグラニータッヒは、
「貴様、どういうつもりだ」
「勝者が敗者の言う事を聞く必要がどこにあるのです。私は私のやり方で貴方に打ち勝った、我が命に従ってもらう」
「な、何だとっ」
「その身をもって罪を償わせる。まずは治療を受けると良い。その間に処遇を決める」
「ふざけるな、このわしに生き恥を晒せというのかっ。ここで殺せ、わしは戦士だぞっ。誇り高き戦民、ランバルコーヤの戦士なのだぞっ」
「存分に晒すと良い。時代の分かれ目の象徴としてな。それに、我とて誇り高きランバルコーヤの戦民。勝敗は勝敗だろう」
正論に歯軋りでしか返せないグラニータッヒ。ヘイノに敵将を託すと、ラヴェラは帯剣を引き抜き、将同士の戦いに魅入っていた兵たちの元へ歩いて行く。
ちょうど中間地点位にやって来ると、下げていた帯剣を抜き、空に掲げた。
「グラニータッヒは我ら連合軍が打ち倒した。我々の勝利だっ」
剣は、夕日の祝福を受けると、キラリを輝く。
周囲は歓喜と落胆で満ちあふれ、ラヴェラ派の兵士はグラニータッヒ兵をすぐに拘束、猿ぐつわを施した。抱き合って喜んでいたアンブロー兵たちも、慌てて同じ処置を行う。
ランバルコーヤ王国で起きた、約二十年に渡る戦乱は、第二王子によって夕日とともに地へと収まったのであった。
決戦の地に空いたクレーターは、砂嵐によって数日で塞がれた。だが、人々の心に空いた穴はそう簡単には消えず、それでもランバルコーヤ王国民は、賢明に復旧への道を歩んでいる。現在はクリハーレンが首都代わりとなり、ヒエカプンキの修復をはじめ、法整備や生活保障などの内政、外交に関する要人の入れ替えなど、激しく移り変わっている状態だ。
そんな中、グラニータッヒによって新設された法律によって強制徴兵された男性たちは家へと戻り、家族とともに日常をかみしめ、暗く静まり返っていた町は子供の笑顔を中心に潤いを取り戻しつつあった。
一方、アンブロー王国兵は休養を兼ねた帰国の準備に追われていた。
とある場所の緑あふれ、少し肌寒い風が吹く土地にて。アマンダは消失した細剣を手にすべく、フィリアとラガンダとともにこの地を訪れていた。火の魔法師いわく、専門武器を渡したいという。
「やっぱり強度も専門のものじゃないと、耐え切れなくて壊れちまうからな」
「だねえ。先端に砕いた魔法石を取り付けて破壊させるなんざ、よく思いついたモンだ」
「そうでもしねぇとグランを止められなかったからな。よくやってくれたぜ」
「い、いえ」
「謙遜すんなって。武器って重さが変わると振りづらいんだろ。練習したとはいえ、ほぼぶっつけ本番の一撃勝負だったんだからさ」
「相手も動いてるし、中々出来る事じゃあないんだよ」
くしゃくしゃ、と髪型が崩れない程度にアマンダを撫でるフィリア。はにかみながら、令嬢はお礼を言う。
「ところで、どこに向かってるのでしょう」
「金物屋さ。魔法師専門のな」
目を丸くしたアマンダに対し、子供の姿をしたラガンダは、ついたついた、と走って行く。
「ならここは魔法師の国なのっ」
「ああ。だからアードルフは連れて来られなかったのさ。だからアタシが来たんだよ。ラガンダは材料調達の為さ」
フィリアに案内されたところは、規模的には村位の集落である。ここでは生活必需品の包丁や斧、魔道具の作成などを担っているという。魔法の国自体の面積は小さいが、材料や作られる物によっていくつかに分かれているのだ。
ちなみに、情報屋が以前ゾンビ対策に持って来た液体を生成したのも、ここである。
「よお、お邪魔するぜ」
「いらっしゃい、ラガンダ様。準備できてますよ」
「さすがぁ。材料はオレに任してくれ。一番イイヤツを頼む」
「了解しました。ああ、いらっしゃいましたね」
と、頭巾を外して女性たちを迎え入れる職人。お互い一礼をすると、一行を奥へと案内した。簡素な客室には花が添えられており、一般家庭のリビングのようだ。
親方の妻がお茶と菓子を出して皆で談笑した後、夫婦とアマンダはそのまま残り、親方は彼女の手を取ると、ずっと見つめる。
座ったままの姿勢が、数時間続いていた。
「エスコの様子はどうだ」
「左指が少し動くようになったね。でも、もう戦場には立てないよ」
「そ、か。生きてるだけでも奇跡だったらしいしな」
「ああ。元通りの生活に戻れる可能性も低いって話さ。弓兵全体の指揮はセイラックがやってる」
「隠居生活返上か。複雑だろうな」
「だね。もうひと踏ん張りしてもらうしかないけど。そっちはどうだい」
「戦後処理が続いて、すんげーてんてこまいだ。お前は演説聞いたんだっけ」
「聞いたよ。見事な治め方だったじゃないか」
「あの演説に関してオレは何もしてねぇよ。全部ラヴェラがやったんだ」
「へえーっ、そうだったのかい。んま、グランにはイイ薬だったろうさ」
「だんだん策士になってきてるからな。楽しみだぜ」
ニヤリ、とする火の魔導士に、風の魔女はジト目でため息をつく。
「ああ、策士で思い出したけど。ランバルコーヤに現れた魔法師の正体は分かったのかい」
「いや。入国記録に載ってなかったんだと」
「結界をすり抜けたってのかい」
「そういうこった。エレンに報告して今調べてもらってる」
各国にはそれぞれに属している四大魔法師と、エレノオーラの魔力を混ぜた特殊な結界が張られている。移動系魔法を使える者は関所を通らずに行き来可能なため、彼ら彼女らの入出を管理するために張られたものだ。魔法師が通れば必ず痕跡が残るはずなのである。
「まさか、ね」
「何か心当たりあんのか」
「無くはないけど、確証も無い。アタシで気づくんだ、あんたも薄々と分かってんだろ」
ラガンダは、眉をひそませて黙る。息を吐き出し頭をかくと、
「オレには確認しようがねぇ。頼めるか」
「いいよ。この事は誰に」
「アルタリアとエレンだけだな。内密にしたほうがいい」
「分かった。その間、アマンダを頼んだよ」
「オッケ。アンブロー軍が自国に帰るまではオレが見る」
「助かる。そんなにかからないと思うから、それまでには戻る」
「ああ」
頷いたフィリアは姿を消し、ラガンダは何食わぬ顔で金物屋の家へと戻って行った。