オタクな僕と彼女の交流
ー/ー 2020年夏。
入道雲が夏の始まりを到来させる風景に混じり、その情景に紛れて、小さな一軒家がポツンと建っていた。
こんなにも良い天気にも関わらず、その建物の部屋にて、籠城する一人の学生がいる。
そう、僕は引きこもりのゲームオタクだ。
──名前は磯浦豊。
肩まで伸びた黒髪で高校2年の17歳、背の高さは約160センチ。
特に普通でパッとしない平凡な体つきと顔つきで、名前の由来は親から『なに不自由なく、豊かな人生』を送ってほしい。
そういう願いをこめて名付けられた。
そんな僕が今では電気もつけない暗闇の自室で、恋愛ゲームをする毎日。
通っていた高校も不登校となり、昼夜を問わず、PC(パソコン)から映されるゲームの世界にのめり込んでいた。
──ゲームの世界にて、夕暮れの海岸線で夕焼けを眺める恋人通しの僕ら。
甘々でイチャイチャな雰囲気を楽しんでいる時、ふと、画面が止まり、真っ暗になるモニター。
「な、何だ、パソコンの故障か?」
僕はデスクトップに繋がれた配線や冷却ファンの具合などを確認したが、特に異常はない。
親が入学祝いとして購入してくれて、そんなに年月は経ってはいないのにおかし過ぎると頭を捻っていた。
それから数分後……。
『ハロハロ♪』
何の前触れもなく、再び画面が映り、さっきまで海外線でデートをしていた緑の長い髪の美少女が画面に現れ、いつもの挨拶をかけてくる。
『ハロハロ、亜沙美だよ。豊、元気にしてる?』
髪と同色の緑でもあり、たわわなビキニ姿による美少女からのいきなりの呼びかけに、僕は腰かけていたイスごとひっくり返った。
僕はあり得ない展開に仰天していた。
初めはこのゲームはフルボイスだから喋ったのはお馴染みだったが、まさか僕の名前を呼び、向こうから話しかけてくるとは……。
まるで、一昔前に流行った『ドキメギメモリアル』を思い出す。
あれも確かプレイヤーの名前を喋ってくれた。
だけど、結果的には不評だったらしく、売り上げは伸び悩んだうえ、以降はプレイヤーの名前を喋るゲームの発売はしなかった。
あれから随分と年月は過ぎたけど、このゲームは売り上げよりも中身を重視したようで、最近の恋愛ゲームは凄いなーと心の底から納得してしまう。
『それよりさ、いつもより元気ないけど何かあったの? 私で良かったら相談に乗るよ?』
どういうからくりかは知らないが、あの亜沙美が僕をじっと見つめ、話しかけてくる。
駄目だ……コミュニケーションが苦手な陰キャだし、愛らしい瞳で見つめられると照れくさくて、まともに会話が浮かばない。
『……それで今日も学校に行かないの?』
「あんな場所、行っても楽しくないから」
僕は正直に理由を告げた。
ついていけない勉強、根が暗いからの理由での陰湿なイジメ、気遣いすぎて神経をすり減らす人間関係など……。
僕は覚悟を決め、洗いざらい置かれている現状を彼女に話した。
亜沙美はそれらを真摯に受け止め、口出しもせずに、時々、頷きながら、最後まで黙って僕の言葉を聞いてくれた。
『なるほどね。よく分かったよ。それで豊はこのゲームに逃げてるんだ?』
「……だから、分かったような口をきくなよ」
『そんなことないよ……。私はいつも君のことを見ていたから』
「はっ、どこからだよ?」
『豊が通っている高校。今、放送室のパソコンからネットに繋いでるんだよ……』
僕は信じられない目つきで亜沙美を見る。
「そうか、今流行りのVチューバーか」
操作している人物の顔出しをせずに、架空のキャラでネットで活躍している二次元のアイドルによる動画コンテンツ、つまりVチューバーの事だ。
「……という事は、このゲームは同人作品になるのか」
ゲームの箱のパッケージをよく確認すると、確かに同人のロゴが入っている。
──ちなみにこれはゲームショップのワゴンにあったワンコイン500円の安売りセールで見つけた最後のPCソフトで、ずっと見ていると天真爛漫な絵柄で飛び出してきそうな女の子の姿が性癖に刺さり、購入した代物だ。
今さら、何があっても不思議ではないが、リアルタイムで女の子と会話ができるなんて夢のようだ。
思いきって買って良かった。
「まさか、僕の身近でもやっている人がいるとは。世界は広いようで狭いな」
『豊は私とデートしながら、色んな話をしてくれたよね』
「まあ、そういうゲームだからな」
『だからね、今度は私から誘う番。明日、学校の放課後、放送室で待ってるね』
「わ、分かった。約束するよ」
僕は、はやる気持ちを抑えながらゲームのセーブをする。
「ひゃっほーい。僕は天下一番の幸せ者だー!!」
こんな見た目も平凡で年齢17歳、イコール彼女なしの僕にも素敵な春? がやって来た。
思わずベッドに飛び乗って、水泳のように足をバタバタさせてはしゃぐ。
つまらなかった学生生活が一変し、明日が楽しみでたまらない心境だ。
「おい、豊。うるさいぞ。こんな深夜に暴れるんじゃない!」
一緒に暮らす隣部屋で寝ていた親父から壁越しに叱られても、僕の心は宙に浮いていた。
****
ワシャワシャと蝉が鳴き、太陽の光が降り注ぐ翌日。
馬の耳に念仏のような授業を何とか受け流し、放課後……。
「よし、僕の熱い夏がやって来た♪」
周りから白い目で見られながらも、白のスクール鞄に教科書を詰め込む。
ちょうど一週間後は夏休み。
お荷物なアイテムは自宅に持って帰った方が良い。
それに教科書があれば、宿題で分からない問題が出てきた時に、そこを重点的に読めば役に立つ。
下手な参考書よりは、文部科学省が認知した教科書の方が信頼できるのだ。
もちろん、カビの生えた食パンやヨーグルトと化した牛乳などはご法度だ。
僕はそんな食材の無駄はしない。
昼ご飯は残さず食べる派だ。
それに明日から、僕の机の中は亜沙美との愛の巣だ。
交換日記とか手作りのお弁当とか、そういう大切な物と、ただの紙切れの造作物を一緒にされては困る。
恋愛に教科書はない。
恋愛のきっかけは自分自身で作るしかないのだ。
僕は廊下を走り抜け、一段飛ばしで階段を駆け上がり、三階にある放送室の扉に辿り着く。
そして荒い呼吸を整え、大きく深呼吸して心を落ち着かせ、その引き戸を一気に開け放った。
「……なっ、何だ、豊じゃないか?
この部屋に何の用だ?」
扉の先には僕の見知った男子同級生が、ハンカチのような布で放送用の黒いマイクを拭いていた。
「私が呼んだのよ。こうでもしないと学校に来ないでしょ」
すると、傍のパイプ椅子に座っていた140くらいの小柄で、黒のロングヘアーの眼鏡の女生徒が立ち上がり、その男子に説明する。
「君が亜沙美さん……?」
「そうだよ。草原亜沙美。気軽に亜沙美と呼んでいいから。それより奥に来なさいよ」
僕は手招きした亜沙美に誘われ、奥にある別室の真っ暗な一室に通された。
****
『豊っ!』
その暗闇から、突如聞こえる男女の声と一緒に、
『パパーン、パパーン!!』
周囲に響き渡る無数のクラッカーの破裂音。
『豊、18歳のお誕生日おめでとう!』
部屋の電灯が一斉につくと、周囲には僕のクラスメイトたちがにこやかに立っていた。
ざっと見て、クラスの大半以上がそこにいる。
そこには先ほどまで同じ教室にいた生徒もいた。
いつの間に僕に見つからないように教室を抜けてきたのだろう。
「みんな、わざわざありがとう」
僕はみんなに感謝の面持ちで頭を下げた。
そこには体格のよい、身長二メートルのスポーツ刈りの担任教師もいる。
「磯浦。お前は来年から受験もある。みんなも心配しているぞ」
「でも、僕は学校が嫌で……」
「その問題は俺が責任をもって摘み取る。勉強がなんだ、イジメがなんだ。俺はお前も一人の生徒として大切に思っている」
「だから、学校に来てね……」
亜沙美が微笑み、僕の両手を優しく掴む。
「みんな心配してるよ。それにもうすぐ修学旅行だよね。今からでも遅くない。これから、みんなと仲良くしていこ♪」
****
そう、僕は自分勝手に勘違いをしていた。
単なる自意識過剰であり、僕が想像していたことは絵空事だったのだ。
学校とは仲間と会話をしながら、勉強をしていく場所だ。
同じ人であり、考えも違う。
お互いに意見が合わないのも当然だ。
「亜沙美さん、お気遣い感謝するよ。これからもよろしく」
「あなた、気持ちは分かるけど、あまり手を握らないで……実は私、好きな人がいるから」
「はあ、ガチで?」
「……そうだよな。僕はモテないからな。おかしいと思ったよ」
まあ、亜沙美のおかげで学校に苦もなく通えるようになったから、結果オーライかな。
今年の夏は素晴らしい青春を送れそうだ。
亜沙美、わざわざありがとう。
「あなた、なに、壁に向かってニヤニヤしてるの? キモいわよ」
「キモい、上等! オタクをなめるなよ。
これからは僕が本物の彼女を振り向かせるんだからな。
僕に惚れるのも時間の問題だよ!」
「あのさ、そんな色恋の妄想より、受験勉強が大切なんじゃないの……?」
亜沙美が僕をジト目で見つめて、大きなイチゴのホールケーキを均等に切り始め、それからブツブツと小言を言い始める。
「……もう、あなたはもっとしっかりしてよね。いつものデートのように男らしくグイグイきてよ……ゲーム内の豊ではあんなにも素敵なのに……」
「……はあ、今、何か言ったかい?」
「もう、二度も言わせないでよ。このにぶたんが!」
怒って叫んだ亜沙美が僕に向かって、包丁を振り回す。
それに恐怖を察して慌てて逃げる僕に対して、生クリームを拭き取った包丁を片手に追いかけてくる亜沙美。
まさに、お魚くわえた黒猫の僕を素足で追いかける亜沙美。
「……待ちなさいよ。悪ふざけな発言もいい加減にしないと、その頭に風穴を空けるわよ!」
「……ぼ、僕はケーキもいいけど、白い食パンが食べたいんだな~♪」
「あなたはおむすびではなく、ランヂパックが好きな山中画伯かよ!」
「ちなみにあなたじゃなくて、呼び方は愛しの豊だろ?」
「だから、調子のいいこと言うな!」
そんな賑やかな夫婦漫才な喧騒の中、他のみんなは美味しいケーキを堪能するのだった……。
2020年夏。
ゲームを通じて、交流を深め、こんなオタクな僕にも素敵な彼女? ができました……。
Fin……。
入道雲が夏の始まりを到来させる風景に混じり、その情景に紛れて、小さな一軒家がポツンと建っていた。
こんなにも良い天気にも関わらず、その建物の部屋にて、籠城する一人の学生がいる。
そう、僕は引きこもりのゲームオタクだ。
──名前は磯浦豊。
肩まで伸びた黒髪で高校2年の17歳、背の高さは約160センチ。
特に普通でパッとしない平凡な体つきと顔つきで、名前の由来は親から『なに不自由なく、豊かな人生』を送ってほしい。
そういう願いをこめて名付けられた。
そんな僕が今では電気もつけない暗闇の自室で、恋愛ゲームをする毎日。
通っていた高校も不登校となり、昼夜を問わず、PC(パソコン)から映されるゲームの世界にのめり込んでいた。
──ゲームの世界にて、夕暮れの海岸線で夕焼けを眺める恋人通しの僕ら。
甘々でイチャイチャな雰囲気を楽しんでいる時、ふと、画面が止まり、真っ暗になるモニター。
「な、何だ、パソコンの故障か?」
僕はデスクトップに繋がれた配線や冷却ファンの具合などを確認したが、特に異常はない。
親が入学祝いとして購入してくれて、そんなに年月は経ってはいないのにおかし過ぎると頭を捻っていた。
それから数分後……。
『ハロハロ♪』
何の前触れもなく、再び画面が映り、さっきまで海外線でデートをしていた緑の長い髪の美少女が画面に現れ、いつもの挨拶をかけてくる。
『ハロハロ、亜沙美だよ。豊、元気にしてる?』
髪と同色の緑でもあり、たわわなビキニ姿による美少女からのいきなりの呼びかけに、僕は腰かけていたイスごとひっくり返った。
僕はあり得ない展開に仰天していた。
初めはこのゲームはフルボイスだから喋ったのはお馴染みだったが、まさか僕の名前を呼び、向こうから話しかけてくるとは……。
まるで、一昔前に流行った『ドキメギメモリアル』を思い出す。
あれも確かプレイヤーの名前を喋ってくれた。
だけど、結果的には不評だったらしく、売り上げは伸び悩んだうえ、以降はプレイヤーの名前を喋るゲームの発売はしなかった。
あれから随分と年月は過ぎたけど、このゲームは売り上げよりも中身を重視したようで、最近の恋愛ゲームは凄いなーと心の底から納得してしまう。
『それよりさ、いつもより元気ないけど何かあったの? 私で良かったら相談に乗るよ?』
どういうからくりかは知らないが、あの亜沙美が僕をじっと見つめ、話しかけてくる。
駄目だ……コミュニケーションが苦手な陰キャだし、愛らしい瞳で見つめられると照れくさくて、まともに会話が浮かばない。
『……それで今日も学校に行かないの?』
「あんな場所、行っても楽しくないから」
僕は正直に理由を告げた。
ついていけない勉強、根が暗いからの理由での陰湿なイジメ、気遣いすぎて神経をすり減らす人間関係など……。
僕は覚悟を決め、洗いざらい置かれている現状を彼女に話した。
亜沙美はそれらを真摯に受け止め、口出しもせずに、時々、頷きながら、最後まで黙って僕の言葉を聞いてくれた。
『なるほどね。よく分かったよ。それで豊はこのゲームに逃げてるんだ?』
「……だから、分かったような口をきくなよ」
『そんなことないよ……。私はいつも君のことを見ていたから』
「はっ、どこからだよ?」
『豊が通っている高校。今、放送室のパソコンからネットに繋いでるんだよ……』
僕は信じられない目つきで亜沙美を見る。
「そうか、今流行りのVチューバーか」
操作している人物の顔出しをせずに、架空のキャラでネットで活躍している二次元のアイドルによる動画コンテンツ、つまりVチューバーの事だ。
「……という事は、このゲームは同人作品になるのか」
ゲームの箱のパッケージをよく確認すると、確かに同人のロゴが入っている。
──ちなみにこれはゲームショップのワゴンにあったワンコイン500円の安売りセールで見つけた最後のPCソフトで、ずっと見ていると天真爛漫な絵柄で飛び出してきそうな女の子の姿が性癖に刺さり、購入した代物だ。
今さら、何があっても不思議ではないが、リアルタイムで女の子と会話ができるなんて夢のようだ。
思いきって買って良かった。
「まさか、僕の身近でもやっている人がいるとは。世界は広いようで狭いな」
『豊は私とデートしながら、色んな話をしてくれたよね』
「まあ、そういうゲームだからな」
『だからね、今度は私から誘う番。明日、学校の放課後、放送室で待ってるね』
「わ、分かった。約束するよ」
僕は、はやる気持ちを抑えながらゲームのセーブをする。
「ひゃっほーい。僕は天下一番の幸せ者だー!!」
こんな見た目も平凡で年齢17歳、イコール彼女なしの僕にも素敵な春? がやって来た。
思わずベッドに飛び乗って、水泳のように足をバタバタさせてはしゃぐ。
つまらなかった学生生活が一変し、明日が楽しみでたまらない心境だ。
「おい、豊。うるさいぞ。こんな深夜に暴れるんじゃない!」
一緒に暮らす隣部屋で寝ていた親父から壁越しに叱られても、僕の心は宙に浮いていた。
****
ワシャワシャと蝉が鳴き、太陽の光が降り注ぐ翌日。
馬の耳に念仏のような授業を何とか受け流し、放課後……。
「よし、僕の熱い夏がやって来た♪」
周りから白い目で見られながらも、白のスクール鞄に教科書を詰め込む。
ちょうど一週間後は夏休み。
お荷物なアイテムは自宅に持って帰った方が良い。
それに教科書があれば、宿題で分からない問題が出てきた時に、そこを重点的に読めば役に立つ。
下手な参考書よりは、文部科学省が認知した教科書の方が信頼できるのだ。
もちろん、カビの生えた食パンやヨーグルトと化した牛乳などはご法度だ。
僕はそんな食材の無駄はしない。
昼ご飯は残さず食べる派だ。
それに明日から、僕の机の中は亜沙美との愛の巣だ。
交換日記とか手作りのお弁当とか、そういう大切な物と、ただの紙切れの造作物を一緒にされては困る。
恋愛に教科書はない。
恋愛のきっかけは自分自身で作るしかないのだ。
僕は廊下を走り抜け、一段飛ばしで階段を駆け上がり、三階にある放送室の扉に辿り着く。
そして荒い呼吸を整え、大きく深呼吸して心を落ち着かせ、その引き戸を一気に開け放った。
「……なっ、何だ、豊じゃないか?
この部屋に何の用だ?」
扉の先には僕の見知った男子同級生が、ハンカチのような布で放送用の黒いマイクを拭いていた。
「私が呼んだのよ。こうでもしないと学校に来ないでしょ」
すると、傍のパイプ椅子に座っていた140くらいの小柄で、黒のロングヘアーの眼鏡の女生徒が立ち上がり、その男子に説明する。
「君が亜沙美さん……?」
「そうだよ。草原亜沙美。気軽に亜沙美と呼んでいいから。それより奥に来なさいよ」
僕は手招きした亜沙美に誘われ、奥にある別室の真っ暗な一室に通された。
****
『豊っ!』
その暗闇から、突如聞こえる男女の声と一緒に、
『パパーン、パパーン!!』
周囲に響き渡る無数のクラッカーの破裂音。
『豊、18歳のお誕生日おめでとう!』
部屋の電灯が一斉につくと、周囲には僕のクラスメイトたちがにこやかに立っていた。
ざっと見て、クラスの大半以上がそこにいる。
そこには先ほどまで同じ教室にいた生徒もいた。
いつの間に僕に見つからないように教室を抜けてきたのだろう。
「みんな、わざわざありがとう」
僕はみんなに感謝の面持ちで頭を下げた。
そこには体格のよい、身長二メートルのスポーツ刈りの担任教師もいる。
「磯浦。お前は来年から受験もある。みんなも心配しているぞ」
「でも、僕は学校が嫌で……」
「その問題は俺が責任をもって摘み取る。勉強がなんだ、イジメがなんだ。俺はお前も一人の生徒として大切に思っている」
「だから、学校に来てね……」
亜沙美が微笑み、僕の両手を優しく掴む。
「みんな心配してるよ。それにもうすぐ修学旅行だよね。今からでも遅くない。これから、みんなと仲良くしていこ♪」
****
そう、僕は自分勝手に勘違いをしていた。
単なる自意識過剰であり、僕が想像していたことは絵空事だったのだ。
学校とは仲間と会話をしながら、勉強をしていく場所だ。
同じ人であり、考えも違う。
お互いに意見が合わないのも当然だ。
「亜沙美さん、お気遣い感謝するよ。これからもよろしく」
「あなた、気持ちは分かるけど、あまり手を握らないで……実は私、好きな人がいるから」
「はあ、ガチで?」
「……そうだよな。僕はモテないからな。おかしいと思ったよ」
まあ、亜沙美のおかげで学校に苦もなく通えるようになったから、結果オーライかな。
今年の夏は素晴らしい青春を送れそうだ。
亜沙美、わざわざありがとう。
「あなた、なに、壁に向かってニヤニヤしてるの? キモいわよ」
「キモい、上等! オタクをなめるなよ。
これからは僕が本物の彼女を振り向かせるんだからな。
僕に惚れるのも時間の問題だよ!」
「あのさ、そんな色恋の妄想より、受験勉強が大切なんじゃないの……?」
亜沙美が僕をジト目で見つめて、大きなイチゴのホールケーキを均等に切り始め、それからブツブツと小言を言い始める。
「……もう、あなたはもっとしっかりしてよね。いつものデートのように男らしくグイグイきてよ……ゲーム内の豊ではあんなにも素敵なのに……」
「……はあ、今、何か言ったかい?」
「もう、二度も言わせないでよ。このにぶたんが!」
怒って叫んだ亜沙美が僕に向かって、包丁を振り回す。
それに恐怖を察して慌てて逃げる僕に対して、生クリームを拭き取った包丁を片手に追いかけてくる亜沙美。
まさに、お魚くわえた黒猫の僕を素足で追いかける亜沙美。
「……待ちなさいよ。悪ふざけな発言もいい加減にしないと、その頭に風穴を空けるわよ!」
「……ぼ、僕はケーキもいいけど、白い食パンが食べたいんだな~♪」
「あなたはおむすびではなく、ランヂパックが好きな山中画伯かよ!」
「ちなみにあなたじゃなくて、呼び方は愛しの豊だろ?」
「だから、調子のいいこと言うな!」
そんな賑やかな夫婦漫才な喧騒の中、他のみんなは美味しいケーキを堪能するのだった……。
2020年夏。
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