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第1話:光のひび割れ

ー/ー



夏の夜は、風が止まるときがいちばん静かだ。
星空 燈月は、考えごとをしながら歩いていた。
足音のリズムも、夜の気配も、意識の外にある。
ふと、視界がゆらりと歪んだ。
最初は、熱気のせいだと思った。
けれど、次の瞬間――
空気が、重く沈んだ。
胸の奥に、見えない手が触れたような感覚。
呼吸が浅くなる。
耳鳴りが、遠くでひぐらしが鳴くように響く。
「……え?」
言葉を出すより早く、
世界が音もなく暗転した。
落ちていく感覚もない。
ただ、静かに意識がほどけていく。
闇の底で、ひとひらの羽が舞った。
白銀のはずの羽は、なぜか漆黒に光っている。
その羽が触れた瞬間、
夏の夜の空気が震え、世界の理がかすかに軋んだ。
――来てはならぬ場所へ、来てしまったのですね。
澄んだ声が、闇の奥から響く。
ゆっくりと瞼を開けると、
そこは夜ではなかった。
光が降り積もるような白い空間。
漂う光は美しいのに、どこか冷たく、触れてはいけない気配を放っている。
燈月が一歩踏み出し、
その光に指先が触れた瞬間――
焼けるような痛みが走った。
「っ……!」
反射的に手を引く。
光は皮膚に触れたところから黒い影のように広がり、
胸の奥まで冷たい痛みが落ちてくる。
膝が震え、視界が白く滲む。
倒れそうになったそのとき、
背中を支える気配があった。
振り返ると、
白い衣をまとった女神が静かに立っていた。
長い髪は光の粒をこぼしながら揺れ、
その瞳は、どこか悲しげに燈月を見つめている。
「……あなたは?」
女神は静かに名乗った。
「私はマリア。
天界の理を守る者です。」
その声は、
夏の夜の風よりも静かで、
世界の終わりを告げる鐘のように澄んでいた。


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夏の夜は、風が止まるときがいちばん静かだ。
星空 燈月は、考えごとをしながら歩いていた。
足音のリズムも、夜の気配も、意識の外にある。
ふと、視界がゆらりと歪んだ。
最初は、熱気のせいだと思った。
けれど、次の瞬間――
空気が、重く沈んだ。
胸の奥に、見えない手が触れたような感覚。
呼吸が浅くなる。
耳鳴りが、遠くでひぐらしが鳴くように響く。
「……え?」
言葉を出すより早く、
世界が音もなく暗転した。
落ちていく感覚もない。
ただ、静かに意識がほどけていく。
闇の底で、ひとひらの羽が舞った。
白銀のはずの羽は、なぜか漆黒に光っている。
その羽が触れた瞬間、
夏の夜の空気が震え、世界の理がかすかに軋んだ。
――来てはならぬ場所へ、来てしまったのですね。
澄んだ声が、闇の奥から響く。
ゆっくりと瞼を開けると、
そこは夜ではなかった。
光が降り積もるような白い空間。
漂う光は美しいのに、どこか冷たく、触れてはいけない気配を放っている。
燈月が一歩踏み出し、
その光に指先が触れた瞬間――
焼けるような痛みが走った。
「っ……!」
反射的に手を引く。
光は皮膚に触れたところから黒い影のように広がり、
胸の奥まで冷たい痛みが落ちてくる。
膝が震え、視界が白く滲む。
倒れそうになったそのとき、
背中を支える気配があった。
振り返ると、
白い衣をまとった女神が静かに立っていた。
長い髪は光の粒をこぼしながら揺れ、
その瞳は、どこか悲しげに燈月を見つめている。
「……あなたは?」
女神は静かに名乗った。
「私はマリア。
天界の理を守る者です。」
その声は、
夏の夜の風よりも静かで、
世界の終わりを告げる鐘のように澄んでいた。