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第八話

ー/ー



 ふた部屋先にある応接室に通された一行は、ヘイノに渡された紙について話していた。
 「つまり、魔女の協力を得よってこと」
 「ええ。少なくとも魔法をおさえる方法を聞きだしてほしいそうなの」
 「何で嬢ちゃんに頼むんだ。自分で行けばいいじゃねえか」
 「外部とは関わりを持たない一族だ。だからアマンダ様にお願いしたのだろう」
 今回のように人同士の戦いで力を使われることを恐れた魔法師たちは、全員で島国へと移り住み、四名の代表と各国の主たちで協定した。幾度に渡る交渉の末に不可侵条約を結んでからというもの、少なくとも数百年は絶縁状態だったという。
 ライティア家が彼らと交流し始めたのもその時期で、現在では唯一の繋がりなのである。
 「コラレダが大きくなったのは魔法のおかげってもっぱらの話だし。傭兵部隊が大きくなったのもその頃からしいね」
 「そういやあローブを着たエラソーでひょろい奴らがたまにいるんだよな」
 よく小競り合いしてたぜ、とヤロ。イスモも首を縦に振った。
 「対抗したいのでしょう。少なくとも魔法が使えなくなれば盛り返せます」
 「そう、ね」
 「お嬢様、どうしたの」
 「え、ええ。気になることがあって」
 イスモに声を掛けられたアマンダは、生返事の後、素直に話し始める。
 「エスコ様はさきほど、わたしたち全員で、っておっしゃったわ。それが気になって」
 「危ねえからだろ」
 「魔法師の国へは誰も行ってはいけないの。わたしだけならまだわかるけど」
 アマンダいわく、ライティア家の直径血族とその配偶者なら彼ら彼女らの国へ行っても咎められることはないという。つまり、アマンダか母であるアイリのみが地に足を踏み入れることが可能なのだ。
 それなのにエスコは、ここにいる四人で、と言った。彼が事情を知らないだけなのか、あるいは別の何かがあるのか。令嬢には理解が出来なかったのである。
 「そういえば助っ人が来るとか言ってなかったっけ」
 「そうだな。アマンダ様、ヘイノ様が事情を存じ上げないという事はないでしょうから、詳しく聞いてみましょう」
 その言葉が合図だったかのようにノックされる扉をヘルガが開けると、訪ね人を通した。本人と、背が低く目深いフードをかぶった者だった。
 「旦那、ソイツは誰なんだ」
 「情報屋君だよ。幼いが腕は超一流でね」
 こんなガキがっ、と驚くヤロ。イスモの眉はつり上がったが、アードルフの表情は変わらない。
 「まさか、助っ人ってこの子じゃないよね、将軍殿」
 「そのまさかさ。魔法が使える知り合いがこの子しかいなくてね」
 「なんでオレがヨウジンボウしなきゃなんねーのか疑問だけど」
 「やっぱり、あのときの」
 ヘイノの隣にいた情報屋は、アマンダのほうを見た。手を挙げ、よぉ、と口にする。
 「お知り合いですか」
 「この前話した情報屋さんよ」
 「彼が、ですか」
 「オレ、男なんてひとこともいってねーけど」
 「おや、君は女性だったのか」
 「さあね~」
 笑いながら将軍に対し舌を出す情報屋。肩をすくませながら、
 「人で遊ぶのが好きみたいでね。だが、情報に関しての腕は私が保障しよう」
 「ヘイノ、時間がねーから早くたのむぜ」
 先程とは変わり、落ち着いたトーンの声で話した情報屋。幼いながらも、空気を掌握する力に長けているよう。
 ヘイノの表情も真面目になり、一枚の紙を取り出す。アマンダに対する命令書である。
 エコースに留置する軍を退け、率いる魔女を殺害せよ、という内容だった。
 ただし、これはあくまで公にするための文書であり、実際は説得して仲間に加える流れだという。
 ちなみにエコースとは、ラザンダールから北西方面に位置する砦のひとつ。以前はアンブロー軍の基地だったが、コラレダに奪われたのだ。
 しかも、七日後にここにいる隊がラザンダールに攻めてくるらしい。
 「何としても食い止めてほしい」
 「大役だぜ、お嬢サマ。失敗したらアンブローは負けて、あんたのフクシュウもできなくなるだろーし」
 「あん、何のことだ。復讐って」
 「そういうことか」
 ヤロとイスモが同時に声を発する。情報屋の言葉を受けたアマンダは、目を大きくし相手を睨みつける。
 「よさないか情報屋。かなりの強行軍になってしまうが、アマンダ。君が一番適任でね」
 「わたくしが、ですか」
 「ああ。時間がない、準備は整えてあるから、すぐに出発してほしい」
 君を選んだ理由はこの子に聞いてくれ、と、ヘイノは情報屋の肩に手を置く。ため息をついた目深いフードをかぶった者は、令嬢たちに背を向けて、
 「早くいこうぜ。旅になれれてないヤツがいるんだから、急がないと」
 アマンダたち四人は顔を見合わせると頷き、彼の後を追おうとする。
 「そうだ、アマンダ。君にこれを」
 将軍はアマンダに歩み寄ると、ひとつの宝石を手渡す。エメラルドのネックレスだ。
 「君にアンブローの加護があるように」
 「あ、ありがとうございますっ」
 アクセサリーをつけながら、お礼を言ったアマンダは、他の者たちと共に部屋を出る。
 独り残されたヘイノは、
 「アマンダ、必ず帰ってきてくれ」
 と、頭を抱えながら言葉を漏らした。
 ヘルガに案内され、館の出入り口には五人分の馬と食料、必要な道具などが用意されていた。
 「こちらにいる馬は運搬用です。乗馬はできませんので、ご注意を」
 「わかりました。行ってまいります」
 「御武運を」
 急いで飛び乗り、一行は情報屋を先頭にして走り始めた。
 馬を動かすこと三十分程、
 「おい坊主っ、こっちはエコースからはずれるじゃねえかよ」
 「魔女はエコースにいねーんだ」
 「どういう事だ、囮か」
 「そうじゃない。魔女はあやつられてんだ、好きで軍をひいてるんじゃねーんだよ」
 ヤロの疑問から、情報屋とアードルフのやり取りに繋がる。その間、アマンダはついていくのにやっとの状態だった。
 「お嬢様、あまり足に力をいれると馬が勘違いするよ」
 「え、ええ」
 「手綱に気をつけて」
 変な合図を送らないように、とイスモ。アマンダは今まで習った馬術を総動員しているようだ。
 その様子を見ていた先頭は、
 「おっさん。大将はヨユウがねーみたいだから、あんたに伝えとく」
 口の悪さはどうにかならないのか、と思ったアードルフだが、分かった、とだけ返す。
 「たしかにエコースの本陣はとりでの近くにある。けど、魔女は戦いにでるのをイヤがったんだ。だから、より強い魔法をかけてカクリしてる」
 「成程。それで説得、ということか」
 「そ。アマンダが最適なのはライティア家だからさ。あんたも十年住んでりゃ伝説ぐらい知ってんだろ」
 眉を変形させた元傭兵だが、感情的になっても仕方がなかった。それよりも、ライティア家に仕える者としての誇りが勝っていたからだ。
 「恩あるライティア家の跡取りが、わざわざ出向いたとなれば成功率は高いだろうな」
 「そういうこった。ましてや魔女自身がはんぱつしてんだから、なおのことだし」
 「兄貴、さっぱりわかんねえんだけどよ」
 「後で説明する。とりあえず急ごう」
 個人的にはこれ以上スピードを上げたくはなかったが、距離が距離なので、馬の速度を上げる。情報屋、ヤロと続くが、アマンダはあたふたとしてしまう。
 「大丈夫、落ち着いて。一度降りて俺の馬に乗って」
 アマンダは言う通りにし、イスモの馬に乗って先頭を追いかける。すると、程なく先を走る集団に追いついた。
 「アマンダ様、申し訳ございません。もう少し先に進んだら休憩しましょう」
 「き、気にしないで。す、進めるだけ、進んで」
 疲労の色を隠せない彼女は、精一杯強がってみせた。
 馬の状態に合わせて走り続けること日没。強行から解放されたパーティーは、一人を除いて暖を取っていた。
 「兄貴。嬢ちゃんはどうだい」
 「よく眠っていらっしゃる。起こさないでおこう」
 まるで娘を見るかのごとく、毛布を掛けるアードルフ。食事が終わると、安心してしまったのか、アマンダはうとうとしてしまったのだ。
 「ったく。今後のことを話そうとおもったのに」
 「これほどの襲歩は初めてだからな。仕方がないだろう」
 あっそ、と情報屋。調査済みとはいえ、アマンダに対しての甘さには呆れてしまった模様。
 「しかしよお、イスモ。お前よく気づいたな」
 「貴族の相手はしょっちゅうしてたから。何となく」
 ふう、と、息を吐く彼。聞くんじゃないとばかりの態度に、ヤロは後頭部をかいた。はあ、と息を出した情報屋だが、年上たちを相手に今回の詳細を伝えに掛かる。
 エコース軍を率いている魔女の名は、リューデリア・アシカネイン。魔法を使う者たちの中でも飛びぬけた才能を持っており、火の魔法を最も得意としている。火が得意ということは、殲滅するのが得意な傾向があるらしく、要は相手を葬るには持ってこいなのである。
 「細かいことはともかく、対複数戦が得意なんだよ」
 「一網打尽に出来る、ということか」
 「たんじゅんに言うとな。そんな便利なモンじゃないけど」
 「確か魔法は、遠くからでも攻撃できるんじゃなかったっけ」
 「だとしたらどうやって魔女に近づくんだ。狙われるじゃねえか」
 「そのまま行けば、な。だからオレがついてきたんだよ」
 「何か策があるのか」
 「まあな。キョウリョクシャもいるから、近づくのは簡単だよ」
 「は、って。どういう意味なわけ」
 イスモの言葉に情報屋は口をニヤつかせ、懐から出した紙を広げる。
 「問題はリューデリアにかけられた魔法の解除方法。イスモ、あんたならこの薬草を知ってんだろ」
 放り投げられた紙を受け取り目を通す彼。馬鹿言え、と紙を握りつぶす。
 「不可能に決まってるだろ」
 「それができるんだな~。あとは、あんたが見つけられれば、のハナシ」
 「この薬草はこの辺りに生えてるもんじゃないんだ」
 「その場所に行ったら、見つけられワケ」
 「それはできるけど。一人じゃ難しいかもな」
 「コイツをつれていったら」
 「コイツって、てめえ」
 「ヤロ、見てみろよ」
 拳を作った相方に対し、持っていた紙を投げるイスモ。顔に当たった紙をしぶしぶ開くと、イスモと同じような反応をした。
 「このガキ、大人をからかうんじゃねえよ。こいつあコラレダの北部にある、山脈の麓にしか生えてねえんだぞ」
 「だから、そこにいったらとれるんだろ。あんたらなら」
 「今時期なら見つけやすいがよ」
 「だとよ。おっさん」
 説得をするには魔女に掛けられている魔法を解除する必要がある。そして、解除するにはコラレダにある薬草がいり、距離的に採取するのは不可能だと、ヤロとイスモは言う。しかし、情報屋はそれが可能だと言うのだが。
 アードルフには、流れは分かるが子供の話すことにいまいち要領を得なかった。
 「ヤロ、紙を見せてくれ」
 弟分から渡された紙には、彼も知っている薬草が書かれている。ここからだと、早馬でも数ヶ月はかかるだろう。
 「移動手段がある、ということか」
 「そ。二人なら何とかとばせる」
 「帰りはどうするつもりだ」
 「もちろん魔法でかいしゅうするさ」
 「荷物扱いかよ」
 「人もモノも同じようりょうで運べんの」
 「協力者がいる、と言っていたな。どういう方だ」
 「魔女。リューデリアの友だち」
 「お前との関係は」
 「さあね~」
 青い息をだしたアードルフは、これ以上の詮索は難しいと判断。自身のことは、口がどうなっても話さないのだろう。
 「確実に戻ってこれるから、二手にわかれたら~」
 声のした方向に、全員が目を動かした。その先には、毛布の中から目をこすりながら顔を出す、少女の姿が。
 「嬢ちゃん、起きてたのか」
 「起きていないわよ~。情報屋、私がわかる」
 「も、もしかして、サイヤ」
 そうよ~、と、アマンダの姿をした何者かが答えた。


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 「つまり、魔女の協力を得よってこと」
 「ええ。少なくとも魔法をおさえる方法を聞きだしてほしいそうなの」
 「何で嬢ちゃんに頼むんだ。自分で行けばいいじゃねえか」
 「外部とは関わりを持たない一族だ。だからアマンダ様にお願いしたのだろう」
 今回のように人同士の戦いで力を使われることを恐れた魔法師たちは、全員で島国へと移り住み、四名の代表と各国の主たちで協定した。幾度に渡る交渉の末に不可侵条約を結んでからというもの、少なくとも数百年は絶縁状態だったという。
 ライティア家が彼らと交流し始めたのもその時期で、現在では唯一の繋がりなのである。
 「コラレダが大きくなったのは魔法のおかげってもっぱらの話だし。傭兵部隊が大きくなったのもその頃からしいね」
 「そういやあローブを着たエラソーでひょろい奴らがたまにいるんだよな」
 よく小競り合いしてたぜ、とヤロ。イスモも首を縦に振った。
 「対抗したいのでしょう。少なくとも魔法が使えなくなれば盛り返せます」
 「そう、ね」
 「お嬢様、どうしたの」
 「え、ええ。気になることがあって」
 イスモに声を掛けられたアマンダは、生返事の後、素直に話し始める。
 「エスコ様はさきほど、わたしたち全員で、っておっしゃったわ。それが気になって」
 「危ねえからだろ」
 「魔法師の国へは誰も行ってはいけないの。わたしだけならまだわかるけど」
 アマンダいわく、ライティア家の直径血族とその配偶者なら彼ら彼女らの国へ行っても咎められることはないという。つまり、アマンダか母であるアイリのみが地に足を踏み入れることが可能なのだ。
 それなのにエスコは、ここにいる四人で、と言った。彼が事情を知らないだけなのか、あるいは別の何かがあるのか。令嬢には理解が出来なかったのである。
 「そういえば助っ人が来るとか言ってなかったっけ」
 「そうだな。アマンダ様、ヘイノ様が事情を存じ上げないという事はないでしょうから、詳しく聞いてみましょう」
 その言葉が合図だったかのようにノックされる扉をヘルガが開けると、訪ね人を通した。本人と、背が低く目深いフードをかぶった者だった。
 「旦那、ソイツは誰なんだ」
 「情報屋君だよ。幼いが腕は超一流でね」
 こんなガキがっ、と驚くヤロ。イスモの眉はつり上がったが、アードルフの表情は変わらない。
 「まさか、助っ人ってこの子じゃないよね、将軍殿」
 「そのまさかさ。魔法が使える知り合いがこの子しかいなくてね」
 「なんでオレがヨウジンボウしなきゃなんねーのか疑問だけど」
 「やっぱり、あのときの」
 ヘイノの隣にいた情報屋は、アマンダのほうを見た。手を挙げ、よぉ、と口にする。
 「お知り合いですか」
 「この前話した情報屋さんよ」
 「彼が、ですか」
 「オレ、男なんてひとこともいってねーけど」
 「おや、君は女性だったのか」
 「さあね~」
 笑いながら将軍に対し舌を出す情報屋。肩をすくませながら、
 「人で遊ぶのが好きみたいでね。だが、情報に関しての腕は私が保障しよう」
 「ヘイノ、時間がねーから早くたのむぜ」
 先程とは変わり、落ち着いたトーンの声で話した情報屋。幼いながらも、空気を掌握する力に長けているよう。
 ヘイノの表情も真面目になり、一枚の紙を取り出す。アマンダに対する命令書である。
 エコースに留置する軍を退け、率いる魔女を殺害せよ、という内容だった。
 ただし、これはあくまで公にするための文書であり、実際は説得して仲間に加える流れだという。
 ちなみにエコースとは、ラザンダールから北西方面に位置する砦のひとつ。以前はアンブロー軍の基地だったが、コラレダに奪われたのだ。
 しかも、七日後にここにいる隊がラザンダールに攻めてくるらしい。
 「何としても食い止めてほしい」
 「大役だぜ、お嬢サマ。失敗したらアンブローは負けて、あんたのフクシュウもできなくなるだろーし」
 「あん、何のことだ。復讐って」
 「そういうことか」
 ヤロとイスモが同時に声を発する。情報屋の言葉を受けたアマンダは、目を大きくし相手を睨みつける。
 「よさないか情報屋。かなりの強行軍になってしまうが、アマンダ。君が一番適任でね」
 「わたくしが、ですか」
 「ああ。時間がない、準備は整えてあるから、すぐに出発してほしい」
 君を選んだ理由はこの子に聞いてくれ、と、ヘイノは情報屋の肩に手を置く。ため息をついた目深いフードをかぶった者は、令嬢たちに背を向けて、
 「早くいこうぜ。旅になれれてないヤツがいるんだから、急がないと」
 アマンダたち四人は顔を見合わせると頷き、彼の後を追おうとする。
 「そうだ、アマンダ。君にこれを」
 将軍はアマンダに歩み寄ると、ひとつの宝石を手渡す。エメラルドのネックレスだ。
 「君にアンブローの加護があるように」
 「あ、ありがとうございますっ」
 アクセサリーをつけながら、お礼を言ったアマンダは、他の者たちと共に部屋を出る。
 独り残されたヘイノは、
 「アマンダ、必ず帰ってきてくれ」
 と、頭を抱えながら言葉を漏らした。
 ヘルガに案内され、館の出入り口には五人分の馬と食料、必要な道具などが用意されていた。
 「こちらにいる馬は運搬用です。乗馬はできませんので、ご注意を」
 「わかりました。行ってまいります」
 「御武運を」
 急いで飛び乗り、一行は情報屋を先頭にして走り始めた。
 馬を動かすこと三十分程、
 「おい坊主っ、こっちはエコースからはずれるじゃねえかよ」
 「魔女はエコースにいねーんだ」
 「どういう事だ、囮か」
 「そうじゃない。魔女はあやつられてんだ、好きで軍をひいてるんじゃねーんだよ」
 ヤロの疑問から、情報屋とアードルフのやり取りに繋がる。その間、アマンダはついていくのにやっとの状態だった。
 「お嬢様、あまり足に力をいれると馬が勘違いするよ」
 「え、ええ」
 「手綱に気をつけて」
 変な合図を送らないように、とイスモ。アマンダは今まで習った馬術を総動員しているようだ。
 その様子を見ていた先頭は、
 「おっさん。大将はヨユウがねーみたいだから、あんたに伝えとく」
 口の悪さはどうにかならないのか、と思ったアードルフだが、分かった、とだけ返す。
 「たしかにエコースの本陣はとりでの近くにある。けど、魔女は戦いにでるのをイヤがったんだ。だから、より強い魔法をかけてカクリしてる」
 「成程。それで説得、ということか」
 「そ。アマンダが最適なのはライティア家だからさ。あんたも十年住んでりゃ伝説ぐらい知ってんだろ」
 眉を変形させた元傭兵だが、感情的になっても仕方がなかった。それよりも、ライティア家に仕える者としての誇りが勝っていたからだ。
 「恩あるライティア家の跡取りが、わざわざ出向いたとなれば成功率は高いだろうな」
 「そういうこった。ましてや魔女自身がはんぱつしてんだから、なおのことだし」
 「兄貴、さっぱりわかんねえんだけどよ」
 「後で説明する。とりあえず急ごう」
 個人的にはこれ以上スピードを上げたくはなかったが、距離が距離なので、馬の速度を上げる。情報屋、ヤロと続くが、アマンダはあたふたとしてしまう。
 「大丈夫、落ち着いて。一度降りて俺の馬に乗って」
 アマンダは言う通りにし、イスモの馬に乗って先頭を追いかける。すると、程なく先を走る集団に追いついた。
 「アマンダ様、申し訳ございません。もう少し先に進んだら休憩しましょう」
 「き、気にしないで。す、進めるだけ、進んで」
 疲労の色を隠せない彼女は、精一杯強がってみせた。
 馬の状態に合わせて走り続けること日没。強行から解放されたパーティーは、一人を除いて暖を取っていた。
 「兄貴。嬢ちゃんはどうだい」
 「よく眠っていらっしゃる。起こさないでおこう」
 まるで娘を見るかのごとく、毛布を掛けるアードルフ。食事が終わると、安心してしまったのか、アマンダはうとうとしてしまったのだ。
 「ったく。今後のことを話そうとおもったのに」
 「これほどの襲歩は初めてだからな。仕方がないだろう」
 あっそ、と情報屋。調査済みとはいえ、アマンダに対しての甘さには呆れてしまった模様。
 「しかしよお、イスモ。お前よく気づいたな」
 「貴族の相手はしょっちゅうしてたから。何となく」
 ふう、と、息を吐く彼。聞くんじゃないとばかりの態度に、ヤロは後頭部をかいた。はあ、と息を出した情報屋だが、年上たちを相手に今回の詳細を伝えに掛かる。
 エコース軍を率いている魔女の名は、リューデリア・アシカネイン。魔法を使う者たちの中でも飛びぬけた才能を持っており、火の魔法を最も得意としている。火が得意ということは、殲滅するのが得意な傾向があるらしく、要は相手を葬るには持ってこいなのである。
 「細かいことはともかく、対複数戦が得意なんだよ」
 「一網打尽に出来る、ということか」
 「たんじゅんに言うとな。そんな便利なモンじゃないけど」
 「確か魔法は、遠くからでも攻撃できるんじゃなかったっけ」
 「だとしたらどうやって魔女に近づくんだ。狙われるじゃねえか」
 「そのまま行けば、な。だからオレがついてきたんだよ」
 「何か策があるのか」
 「まあな。キョウリョクシャもいるから、近づくのは簡単だよ」
 「は、って。どういう意味なわけ」
 イスモの言葉に情報屋は口をニヤつかせ、懐から出した紙を広げる。
 「問題はリューデリアにかけられた魔法の解除方法。イスモ、あんたならこの薬草を知ってんだろ」
 放り投げられた紙を受け取り目を通す彼。馬鹿言え、と紙を握りつぶす。
 「不可能に決まってるだろ」
 「それができるんだな~。あとは、あんたが見つけられれば、のハナシ」
 「この薬草はこの辺りに生えてるもんじゃないんだ」
 「その場所に行ったら、見つけられワケ」
 「それはできるけど。一人じゃ難しいかもな」
 「コイツをつれていったら」
 「コイツって、てめえ」
 「ヤロ、見てみろよ」
 拳を作った相方に対し、持っていた紙を投げるイスモ。顔に当たった紙をしぶしぶ開くと、イスモと同じような反応をした。
 「このガキ、大人をからかうんじゃねえよ。こいつあコラレダの北部にある、山脈の麓にしか生えてねえんだぞ」
 「だから、そこにいったらとれるんだろ。あんたらなら」
 「今時期なら見つけやすいがよ」
 「だとよ。おっさん」
 説得をするには魔女に掛けられている魔法を解除する必要がある。そして、解除するにはコラレダにある薬草がいり、距離的に採取するのは不可能だと、ヤロとイスモは言う。しかし、情報屋はそれが可能だと言うのだが。
 アードルフには、流れは分かるが子供の話すことにいまいち要領を得なかった。
 「ヤロ、紙を見せてくれ」
 弟分から渡された紙には、彼も知っている薬草が書かれている。ここからだと、早馬でも数ヶ月はかかるだろう。
 「移動手段がある、ということか」
 「そ。二人なら何とかとばせる」
 「帰りはどうするつもりだ」
 「もちろん魔法でかいしゅうするさ」
 「荷物扱いかよ」
 「人もモノも同じようりょうで運べんの」
 「協力者がいる、と言っていたな。どういう方だ」
 「魔女。リューデリアの友だち」
 「お前との関係は」
 「さあね~」
 青い息をだしたアードルフは、これ以上の詮索は難しいと判断。自身のことは、口がどうなっても話さないのだろう。
 「確実に戻ってこれるから、二手にわかれたら~」
 声のした方向に、全員が目を動かした。その先には、毛布の中から目をこすりながら顔を出す、少女の姿が。
 「嬢ちゃん、起きてたのか」
 「起きていないわよ~。情報屋、私がわかる」
 「も、もしかして、サイヤ」
 そうよ~、と、アマンダの姿をした何者かが答えた。