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第九話

ー/ー



 男たちが背筋を軽く反らしている中、アマンダはゆっくりと毛布から出て、近くにある大樹へと向かう。
 「驚かしてしまってごめんなさいね~。私の名前はサイヤ。気づいてると思うけど、魔女よ~」
 「あんた、何してんだよ。魔法師じゃないヤツの体使って」
 「あなたの体を使ったら誰もわからないじゃないの~。それより、大変なことが起こったの」
 ま、たしかに、と情報屋。子供をさておき、サイヤは話し始める。
 事はふたつ起こった。まずはリューデリアにかけられた魔法が暴走しかけており、本人だけではとうとう抑えきれなくなりつつあること。
 もうひとつは、何とアマンダの精神がこちらに来てしまっているのだという。
 「このままじゃ危ないから、私が代わりに入ったんだけど~」
 「ちょちょ、ちょっと待ってよ。どーしてアマンダがそっちにいんだって」
 「さあ~。本人は声が聞こえたっていってるけど~」
 「おーい。オレらにも分かるように説明してくれや」
 と、ヤロ。アードルフとイスモも完全には飲み込めていないようだった。
 「えーっと。魔女にかけられたマホウが暴走して。自我が無くなりつつあるってことはわかったけど」
 「アマンダ様のことがわからない。何がどうなっている」
 アマンダの姿をしたサイヤは、あごに右人差し指を当てて、うーん、とうなった後、最悪なことになると、と言い、
 「精神、魂っていったほうがいいのかしら。体と魂がバラバラだと、まず肉体が死んじゃって戻れなくなっちゃうのよね~」
 「それじゃわかんねーってば。ん~と、命に関わるってコトだよ。ひらたくいうと」
 「何だとっ」
 「い、今すぐじゃねーよ。じきにだ、じきに」
 「十分大問題だ、どうすれば元に戻せる」
 「オ、オレにいわれても。み、見てみないとわかんないし」
 ふてぶてしい情報屋も、アードルフの気迫にたじたじになってしまっている。弟分たちも、若干引き気味になってしまった程だ。
 「彼女の命はすぐになくならないわよー。少なくても数ヶ月は持つようにしてある~」
 「だ、だってさ、おっさん。リューデリアを助ければ問題ねーって」
 彼が落ち着いたところで、サイヤは解決策を提案。今すぐリューデリアの近くに来てもらい、彼女救出のために動くのが一番良いとのことだ。
 サイヤいわく、リューデリアならアマンダを救えるらしい。
 「こりゃ神サマの悪戯かな。一本の線につながっちゃったよ」
 「時間がないの~。この木にマーキングするから、馬が逃げないようにして~」
 本当にそう思っているのか疑問の口調だが、情報屋が自分の馬を繋いだところから察するに、そういう性格のようだ。
 全員が終わったのを確認すると、サイヤは木に手をつけるように頼む。言われた通りにした一行は、アマンダの体が光り輝くのを見、意識が遠のいていく。
 景色が現実味を帯びる頃には、見知らぬ森の中に立っていた。
 「ここは、一体」
 「リューデリアの天幕の近くよ~」
 「サイヤ、魔法使っちまって大丈夫なの」
 「結界はってるから平気~。ほらほら、皆に魔法をかける~」
 「はいはい」
 独特のペースにはかなわないのか、情報屋は言われた通りアードルフたちに魔法を唱える。仕掛けた魔法の罠に掛からないようにするためのものらしい。
 「これで大丈夫ね~。私についてきて~」
 不安になる傭兵組は、重い足を引きずるように歩いていく。どこを歩いているのか分からなくなる程、彼女は右に左に行ったりきたりしていた。
 「サイヤ、だよね。ちゃんと目的地に着くわけ」
 「大丈夫~。罠を踏まないように遠回りしてるだけ~」
 「同じどころを回ってるけど」
 「無限回路なの~。抜けるには同じところを何度も通って、穴を開けなきゃいけないの~」
 「それが罠なんじゃなくて」
 「魔法でいうワナは、踏んだらダメージをくらうヤツのことをいうんだよ」
 「じゃあこれは何」
 「目くらまし、かな。シンニュウシャ対策」
 「私と情報屋だけならすぐに抜けられるけど~。魔法を使えない人だと、一生抜けられないんじゃないかしら~」
 「武器の使いかたもしらないでヨウヘーになるカンジ。たぶん」
 分かったような、分からないような例えだが、魔法が使えない者たちに合わせている、というのは伝わったらしい。
 ようやく天幕らしい先端が見えると、より体が現実味を帯びてきた。感覚が戻ったかのように地に足が着いたのだ。
 「お疲れさま~。中へどうぞ~」
 びっくりしないでね~、と意味深なことを口にする彼女。中には何もなく、ただ中央の柱に椅子があり、赤髪の女性が座っているだけだった。
 しかし床には、血のついたナイフが転がっており、据わっている女性には何重もの枷が巻かれている。
 入口付近で止まってしまっている男たちの間から、小柄な体をすべりこませ、中央に近づく人物がいた。
 「誰だ」
 「オレだよ。ずいぶん進行しちまってるな」
 「お主か。ぐっ」
 「おっととと」
 情報屋は女性の前に手をやり、青白い光を発生させる。すると、うつむいた彼女の顔は、再び前を向いた。
 「どう」
 「今は何とか持っておるが」
 「猶予はあと二日なの~」
 「あんたの魔法でもムリなのか」
 「かけて二日~」
 「やばいな」
 情報屋は現状を整理し、傭兵たちに伝える。
 リューデリアの枷は自らを抑えるためのもので、あることによって暴走しないですむという。ひとたび暴れだせば、魔法の力が強い彼女相手では、誰も手がつけられないからだ。
 元々大人しい性格をしているリューデリアだが、悪意ある者の魔法で正気を失わせ、敵を滅するような人格に変化させられそうになっているのである。
 「ひでえ話だな。戦いたくねえ奴を無理矢理戦わせるなんてよ」
 「傭兵なのに優しい~」
 「あのなあ」
 「情報屋、アマンダ様はどちらに」
 「ん、リューデリアのそばにいるじゃんか」
 「彼女以外いないけど」
 「いや、確かにここに金髪の少女がおるぞ」
 「あ。魔法が使えない人には見えてないのかも~」
 オレも見えねえ、とヤロ。どうやら、サイヤの言っていることは正しいようだ。
 「不思議な子だ。いくらライティア家の令嬢とはいえ、魔法を止める力など持ち合わせておらぬはずなのに」
 「どういうことなの~」
 「進行がかなり緩やかになるのだ。これなら、薬の量も少なくて済む」
 「そういえば、あの薬草はどれぐらい必要なわけ」
 「このカゴ一杯にほしい~」
 と、いつの間にか持っていた籠を差し出すサイヤ。兵士が使うかぶとと同じぐらいの大きさだ。
 「さすがにこんな量はねえじゃねえか」
 「実もついてるタイプのもほしいのよ~」
 「イスモ、あの薬草に実なんてついてたっけか」
 「ぶどうみたいに、赤いのがついてるのがある。毒だけど」
 「そのまま使ったらね~。使いかた次第よ~」
 「へぇ、そうなんだ」
 仕分けしないで大丈夫だから、採ってきて~、とサイヤ。了解したイスモは、籠を受け取る。
 「薬草はオレとイスモが取りに行けばいいのか」
 「いや、私とイスモで行こう。お前は残ってくれ」
 「オレがかい。別に構わねえけどよ」
 「力が一番強いお前が残ったほうが、女性や子供を守りやすい」
 「オレはガキじゃねーよっ」
 「そういう風に反応すること自体、子供な証拠~」
 笑いながらいう魔女に、情報屋は反発しそうになる。
 「ほらほら手伝って。この二人を目的地に飛ばすから~」
 「はいはい、わーったよっ」
 アードルフとイスモに天幕の中央まで移動するように伝え、情報屋とサイヤはテントの中にあった杖を持ち、二人を挟むように立つ。
 「力をおくるだけでいいの」
 「平気よ~。じゃあ、後はお願いね~」
 アマンダの姿をしたサイヤは、杖を天にかざし、情報屋は杖の先を地面に向け何かをつぶやく。
 白い円が彼らを包み込むと、光は無数の柱を生み出し、姿を覆った。
 「そうそう。カゴの中に水晶が入ってるの~。採取し終わったらそれを使って話しかけてね~」
 光が止んだとき、アードルフとイスモの姿は消えていた。
 「で、オレは何をすりゃいいんだ」
 「万が一リューデリアがあばれそうになったら、おさえてくれよ」
 「おう。ところで、嬢ちゃんは本当に無事なんだろうな」
 「大丈夫だって。リューデリアとはなしてるし」
 ヤロの目には難しい顔をしながら座っている、少し性格がきつそうな女性しか見えていない。
 しかし、そんな彼女も、たまに顔を上げ、あさっての方向に微笑むことがある。おそらく、そこにアマンダがいるのだろう。
 本人以外は聞こえない声で、
 「すまぬな。大恩あるライティア家の危機に何も出来んとは」
 『何をおっしゃるのですか。私のことより、あなたのことのほうが心配です』
 「私のは命に関わる事ではない故。しかし、どうしてここに来られたのだ」
 『お、お兄様の声がして』
 ついておいで、という声に従ったところ、気づいたらここに立っていたという。
 「兄君の、か」
 『リューデリア、どうなさったの』
 「いや、何でもない。とにかくこの状況を脱せねばな」
 『大丈夫ですよ。アードルフとイスモが何とかしてくれますわ』
 根拠のない半透明の笑顔に、懐かしい想いが蘇るリューデリアだが、今は余韻に浸っている場合ではない。襲ってくる悪意に対抗すべく、身体をうずくまらせる。
 サイヤが彼女の名前を呼びながらかけよると、魔女は恐ろしい形相でヤロに向かって魔法を放つ。
 「げっ」
 「ヤロ横にっ」
 声と共に出口付近へ身を躍らせるヤロ。同時に情報屋は、何かをつぶやき前に青く実態のない盾のようなものを生成。放たれた魔法は情報屋の前で防がれたが、創り出されたものも悲鳴をあげ、消えうせる。
 「いってぇっ。うう、シンゾウに悪すぎだっつーの」
 「お、おっかねえな」
 「傭兵さん。直撃したら死んじゃうから、結界の中にいてね~」
 と、彼の傍まで行き杖をかざす。先程と似たような光に包まれたヤロは、アードルフたちが早く帰ってくることを、心底願ったのだった。
 はたしてその願いはかなうのか。
 一方、遠い空で満天の星空と半月とが光り輝く中、ふたつの影が動いている。近くには山脈が連なっており、見方によっては不気味に立ち尽くしていた。
 「思ったより早く摘めそうだな」
 「運がよかったよ。普段ならこんなに生えてないから」
 月も出てたしね、とイスモ。見上げた月は、今にも泣き出しそうである。
 「兄貴、どうしてヤロを残してきたの」
 「お前なら察しているだろう。色々な意味がある」
 「さあ。俺は兄貴のように頭回らないから」
 「よく言う。物覚えが人一倍良かっただろう」
 命の恩人であり、憧れでもある人に褒められ、彼は口元が少し緩む。だが、冷え切った風のせいですぐに現実に戻ってしまう。
 「人質に俺の見張り、かな」
 「そう悪い事ばかり見るな。情報屋のこともある」
 「どういうことさ」
 アードルフは、情報屋とヘイノが繋がっていることを伝え、イスモとヤロのことを見張るように指示を受けている可能性がある、と話した。
 ちなみにヤロが人質というのは、もしイスモが逃げ出した場合、ということだ。いわゆる保険である。
 「ま、信頼されてないからしょうがないか」
 「それに、彼が相手ではアマンダ様も庇いきれないだろう」
 「あの子さ、昔からああなわけ」
 「ああ、とは」
 「お人好し。甘すぎるんじゃないの」
 「平穏の中でお育ちになったのだ、仕方がない」
 そればっかだね、とイスモ。手を動かしている分、つっけんどんになってしまうのだろうか。
 「兄貴、変わったよ。丸くなったっていうか」
 草をかき分ける音が響く。
 「そうかもな」
 彼の口は、嬉しそうに返事をした。


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 もうひとつは、何とアマンダの精神がこちらに来てしまっているのだという。
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 と、ヤロ。アードルフとイスモも完全には飲み込めていないようだった。
 「えーっと。魔女にかけられたマホウが暴走して。自我が無くなりつつあるってことはわかったけど」
 「アマンダ様のことがわからない。何がどうなっている」
 アマンダの姿をしたサイヤは、あごに右人差し指を当てて、うーん、とうなった後、最悪なことになると、と言い、
 「精神、魂っていったほうがいいのかしら。体と魂がバラバラだと、まず肉体が死んじゃって戻れなくなっちゃうのよね~」
 「それじゃわかんねーってば。ん~と、命に関わるってコトだよ。ひらたくいうと」
 「何だとっ」
 「い、今すぐじゃねーよ。じきにだ、じきに」
 「十分大問題だ、どうすれば元に戻せる」
 「オ、オレにいわれても。み、見てみないとわかんないし」
 ふてぶてしい情報屋も、アードルフの気迫にたじたじになってしまっている。弟分たちも、若干引き気味になってしまった程だ。
 「彼女の命はすぐになくならないわよー。少なくても数ヶ月は持つようにしてある~」
 「だ、だってさ、おっさん。リューデリアを助ければ問題ねーって」
 彼が落ち着いたところで、サイヤは解決策を提案。今すぐリューデリアの近くに来てもらい、彼女救出のために動くのが一番良いとのことだ。
 サイヤいわく、リューデリアならアマンダを救えるらしい。
 「こりゃ神サマの悪戯かな。一本の線につながっちゃったよ」
 「時間がないの~。この木にマーキングするから、馬が逃げないようにして~」
 本当にそう思っているのか疑問の口調だが、情報屋が自分の馬を繋いだところから察するに、そういう性格のようだ。
 全員が終わったのを確認すると、サイヤは木に手をつけるように頼む。言われた通りにした一行は、アマンダの体が光り輝くのを見、意識が遠のいていく。
 景色が現実味を帯びる頃には、見知らぬ森の中に立っていた。
 「ここは、一体」
 「リューデリアの天幕の近くよ~」
 「サイヤ、魔法使っちまって大丈夫なの」
 「結界はってるから平気~。ほらほら、皆に魔法をかける~」
 「はいはい」
 独特のペースにはかなわないのか、情報屋は言われた通りアードルフたちに魔法を唱える。仕掛けた魔法の罠に掛からないようにするためのものらしい。
 「これで大丈夫ね~。私についてきて~」
 不安になる傭兵組は、重い足を引きずるように歩いていく。どこを歩いているのか分からなくなる程、彼女は右に左に行ったりきたりしていた。
 「サイヤ、だよね。ちゃんと目的地に着くわけ」
 「大丈夫~。罠を踏まないように遠回りしてるだけ~」
 「同じどころを回ってるけど」
 「無限回路なの~。抜けるには同じところを何度も通って、穴を開けなきゃいけないの~」
 「それが罠なんじゃなくて」
 「魔法でいうワナは、踏んだらダメージをくらうヤツのことをいうんだよ」
 「じゃあこれは何」
 「目くらまし、かな。シンニュウシャ対策」
 「私と情報屋だけならすぐに抜けられるけど~。魔法を使えない人だと、一生抜けられないんじゃないかしら~」
 「武器の使いかたもしらないでヨウヘーになるカンジ。たぶん」
 分かったような、分からないような例えだが、魔法が使えない者たちに合わせている、というのは伝わったらしい。
 ようやく天幕らしい先端が見えると、より体が現実味を帯びてきた。感覚が戻ったかのように地に足が着いたのだ。
 「お疲れさま~。中へどうぞ~」
 びっくりしないでね~、と意味深なことを口にする彼女。中には何もなく、ただ中央の柱に椅子があり、赤髪の女性が座っているだけだった。
 しかし床には、血のついたナイフが転がっており、据わっている女性には何重もの枷が巻かれている。
 入口付近で止まってしまっている男たちの間から、小柄な体をすべりこませ、中央に近づく人物がいた。
 「誰だ」
 「オレだよ。ずいぶん進行しちまってるな」
 「お主か。ぐっ」
 「おっととと」
 情報屋は女性の前に手をやり、青白い光を発生させる。すると、うつむいた彼女の顔は、再び前を向いた。
 「どう」
 「今は何とか持っておるが」
 「猶予はあと二日なの~」
 「あんたの魔法でもムリなのか」
 「かけて二日~」
 「やばいな」
 情報屋は現状を整理し、傭兵たちに伝える。
 リューデリアの枷は自らを抑えるためのもので、あることによって暴走しないですむという。ひとたび暴れだせば、魔法の力が強い彼女相手では、誰も手がつけられないからだ。
 元々大人しい性格をしているリューデリアだが、悪意ある者の魔法で正気を失わせ、敵を滅するような人格に変化させられそうになっているのである。
 「ひでえ話だな。戦いたくねえ奴を無理矢理戦わせるなんてよ」
 「傭兵なのに優しい~」
 「あのなあ」
 「情報屋、アマンダ様はどちらに」
 「ん、リューデリアのそばにいるじゃんか」
 「彼女以外いないけど」
 「いや、確かにここに金髪の少女がおるぞ」
 「あ。魔法が使えない人には見えてないのかも~」
 オレも見えねえ、とヤロ。どうやら、サイヤの言っていることは正しいようだ。
 「不思議な子だ。いくらライティア家の令嬢とはいえ、魔法を止める力など持ち合わせておらぬはずなのに」
 「どういうことなの~」
 「進行がかなり緩やかになるのだ。これなら、薬の量も少なくて済む」
 「そういえば、あの薬草はどれぐらい必要なわけ」
 「このカゴ一杯にほしい~」
 と、いつの間にか持っていた籠を差し出すサイヤ。兵士が使うかぶとと同じぐらいの大きさだ。
 「さすがにこんな量はねえじゃねえか」
 「実もついてるタイプのもほしいのよ~」
 「イスモ、あの薬草に実なんてついてたっけか」
 「ぶどうみたいに、赤いのがついてるのがある。毒だけど」
 「そのまま使ったらね~。使いかた次第よ~」
 「へぇ、そうなんだ」
 仕分けしないで大丈夫だから、採ってきて~、とサイヤ。了解したイスモは、籠を受け取る。
 「薬草はオレとイスモが取りに行けばいいのか」
 「いや、私とイスモで行こう。お前は残ってくれ」
 「オレがかい。別に構わねえけどよ」
 「力が一番強いお前が残ったほうが、女性や子供を守りやすい」
 「オレはガキじゃねーよっ」
 「そういう風に反応すること自体、子供な証拠~」
 笑いながらいう魔女に、情報屋は反発しそうになる。
 「ほらほら手伝って。この二人を目的地に飛ばすから~」
 「はいはい、わーったよっ」
 アードルフとイスモに天幕の中央まで移動するように伝え、情報屋とサイヤはテントの中にあった杖を持ち、二人を挟むように立つ。
 「力をおくるだけでいいの」
 「平気よ~。じゃあ、後はお願いね~」
 アマンダの姿をしたサイヤは、杖を天にかざし、情報屋は杖の先を地面に向け何かをつぶやく。
 白い円が彼らを包み込むと、光は無数の柱を生み出し、姿を覆った。
 「そうそう。カゴの中に水晶が入ってるの~。採取し終わったらそれを使って話しかけてね~」
 光が止んだとき、アードルフとイスモの姿は消えていた。
 「で、オレは何をすりゃいいんだ」
 「万が一リューデリアがあばれそうになったら、おさえてくれよ」
 「おう。ところで、嬢ちゃんは本当に無事なんだろうな」
 「大丈夫だって。リューデリアとはなしてるし」
 ヤロの目には難しい顔をしながら座っている、少し性格がきつそうな女性しか見えていない。
 しかし、そんな彼女も、たまに顔を上げ、あさっての方向に微笑むことがある。おそらく、そこにアマンダがいるのだろう。
 本人以外は聞こえない声で、
 「すまぬな。大恩あるライティア家の危機に何も出来んとは」
 『何をおっしゃるのですか。私のことより、あなたのことのほうが心配です』
 「私のは命に関わる事ではない故。しかし、どうしてここに来られたのだ」
 『お、お兄様の声がして』
 ついておいで、という声に従ったところ、気づいたらここに立っていたという。
 「兄君の、か」
 『リューデリア、どうなさったの』
 「いや、何でもない。とにかくこの状況を脱せねばな」
 『大丈夫ですよ。アードルフとイスモが何とかしてくれますわ』
 根拠のない半透明の笑顔に、懐かしい想いが蘇るリューデリアだが、今は余韻に浸っている場合ではない。襲ってくる悪意に対抗すべく、身体をうずくまらせる。
 サイヤが彼女の名前を呼びながらかけよると、魔女は恐ろしい形相でヤロに向かって魔法を放つ。
 「げっ」
 「ヤロ横にっ」
 声と共に出口付近へ身を躍らせるヤロ。同時に情報屋は、何かをつぶやき前に青く実態のない盾のようなものを生成。放たれた魔法は情報屋の前で防がれたが、創り出されたものも悲鳴をあげ、消えうせる。
 「いってぇっ。うう、シンゾウに悪すぎだっつーの」
 「お、おっかねえな」
 「傭兵さん。直撃したら死んじゃうから、結界の中にいてね~」
 と、彼の傍まで行き杖をかざす。先程と似たような光に包まれたヤロは、アードルフたちが早く帰ってくることを、心底願ったのだった。
 はたしてその願いはかなうのか。
 一方、遠い空で満天の星空と半月とが光り輝く中、ふたつの影が動いている。近くには山脈が連なっており、見方によっては不気味に立ち尽くしていた。
 「思ったより早く摘めそうだな」
 「運がよかったよ。普段ならこんなに生えてないから」
 月も出てたしね、とイスモ。見上げた月は、今にも泣き出しそうである。
 「兄貴、どうしてヤロを残してきたの」
 「お前なら察しているだろう。色々な意味がある」
 「さあ。俺は兄貴のように頭回らないから」
 「よく言う。物覚えが人一倍良かっただろう」
 命の恩人であり、憧れでもある人に褒められ、彼は口元が少し緩む。だが、冷え切った風のせいですぐに現実に戻ってしまう。
 「人質に俺の見張り、かな」
 「そう悪い事ばかり見るな。情報屋のこともある」
 「どういうことさ」
 アードルフは、情報屋とヘイノが繋がっていることを伝え、イスモとヤロのことを見張るように指示を受けている可能性がある、と話した。
 ちなみにヤロが人質というのは、もしイスモが逃げ出した場合、ということだ。いわゆる保険である。
 「ま、信頼されてないからしょうがないか」
 「それに、彼が相手ではアマンダ様も庇いきれないだろう」
 「あの子さ、昔からああなわけ」
 「ああ、とは」
 「お人好し。甘すぎるんじゃないの」
 「平穏の中でお育ちになったのだ、仕方がない」
 そればっかだね、とイスモ。手を動かしている分、つっけんどんになってしまうのだろうか。
 「兄貴、変わったよ。丸くなったっていうか」
 草をかき分ける音が響く。
 「そうかもな」
 彼の口は、嬉しそうに返事をした。