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第六話

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 勢いに押されたとはいえ、サインをしたことに早速後悔することになるふたり。
 「兄貴、何考えてんだ。あんな世間知らずの嬢ちゃんの旅に付き合うなんてよ」
 呆れながらドアを見、発言するヤロ。今は男衆しかいない。
 「そう言うな。館の中で平穏に過ごされていたのだ、知らなくて当然だろう」
 そりゃそうかもしんねえけどよ、と質問者は頭をかきながら弱い反論をする。一方のイスモは、少々怒り気味の表情であった。
 「食事は家でするもの、か。兄貴がいなかったらひっぱたいてたかも」
 腕を組みながら、ため息を出すイスモ。悪気がないのは承知していても、立つものは立ってしまう。空腹もあいまって、後押ししてしまっていたのだろう。
 「大丈夫なわけ」
 「ご自分で決められた事だ。耐えてもらう以外にない」
 傭兵は基本、自分の家を持たないものが多い。帰る場所がある者もいるが、滅多にいない。ましてや三人は戦争孤児であり、同じ身分の者たちと一緒に宿や野宿、あるいは所属する部隊の簡易寝所で生活するのが普通なのだ。
 それ故アマンダの感覚が理解出来ず、衝突してしまいそうになったのである。
 「でもあの嬢ちゃん、何だか憎めねえなあ。素直ってえか、なんつうか」
 「召使い相手にごめんなさい、だもんね。あれは驚いた」
 「ライティア家の方々は皆そうなのだ。高飛車な態度がない」
 平民、とくにコラレダ民は貴族嫌いが多い。自分たちが作り上げた小麦や野菜などを奪い取り、手柄はもちろん、人や物を平気で持っていくからだ。
 噂話が呼んだのか、部屋にノックする音が響く。アードルフが、どうぞ、と返すと、騎士風の服から男性平民がまとう布地へ着替えたアマンダが入ってきた。
 「これで大丈夫かしら。どうです、似合いますか」
 「別にさっきどっ」
 ヤロの脛に同じ立場の人間の蹴りが入る。ったく、と口にしたイスモは、
 「よく似合いますよ。さっきより平民に見えます」
 「そ、そうですか。よかったっ」
 では行きましょう、と嬉しそう細剣を持ちながら部屋を出るアマンダ。アードルフは何事もなかったように付いていき、元傭兵のふたりは、やれやれ、と手を腰にやると、
 「オレたちは窓から行く。兄貴、前の店で待ってるぜ」
 「分かった」
 と、お互い部屋から姿を消した。
 アマンダとアードルフが館の出入り口付近に来ると、彼女と似たような格好をした女性が待機していた。
 「お出かけでございますか」
 「はい、外でお食事をしてきます」
 「かしこまりました。では、私もお供させて頂きます」
 「す、すぐ戻りますから」
 「何か、不都合でもおありですか」
 若干うろたえるアマンダだが、呼吸を整え、
 「使いのものと待ち合わせをしていますの」
 「左様ですか。では、食事処の入口までご一緒致します」
 かわすことに失敗した貴族の令嬢は、とりあえず彼女を伴って屋敷を出た。
 目の前に建っている建物に向かって三人で歩いていると、ヤロとイスモが待っていた。
 「お待たせしました」
 「おう、席とっといたがよ」
 「私のことは気にしないで下さい。外で控えております故」
 言葉と同様、物腰は丁寧だった。しかし、目はこの場で目にしたふたりを捕らえて離さない。
 「あなたは何も召し上がらないのですか」
 「お気遣い、痛み入ります。先に済ませてありますので、ごゆっくりと」
 「わかりました」
 行きましょう、とアマンダ。アードルフ、ヤロの順に続き、イスモだけは彼女と目を合わせたまま。
 「ご安心を。背後から襲うのは騎士の恥ですから」
 顔をしかめた彼は、ふん、と言いながら先の集団に合流する。
 その様子を気にしたヤロが、
 「どしたい」
 「気をつけろよ。あの女、俺と同業者だ」
 げ、と前を歩くふたりには聞こえない声でもらす。
 「どうりで油断ならねえワケだ」
 「ま、貴族って感じでもないけどね」
 相方の言いたいことが、何となくわかったヤロだった。
 店に入ると、一番奥のテーブル席につく四人。
 「好きなものを頼むといい」
 「マジかっ。さっすが兄貴っ」
 大きな子供がメニューを見て大はしゃぎしている隣で、はあ、とため息をつくイスモ。どうやら、精神年齢は逆のようだ。
 一方、貴族の令嬢は、周囲を見渡したしており落ち着かない。
 「アマンダ様、こちらから種類を選んでください。店員に頼んで持ってきてもらうのが流れです」
 「そうなのね。うーん、どれがいいのかしら」
 「嬢ちゃんはよく食うのかい」
 と、手元の紙を相方に渡しながら口にするヤロ。彼いわく、ここの料理は、大柄な男たちがよく来るためなのか、量が多いらしい。
 「詳しいのですね」
 「まあな。オレらは世界中を回ってるからよ」
 「世界中を、ですか」
 大きな目をさらに大きくし、まばたきを数回するアマンダ。想像出来ないらしく、また同じ動作をする。
 その様子を見た傭兵組は、思わず噴き出してしまった。
 当然、笑われた当人は顔を真っ赤にして抗議する。
 「悪ぃ悪ぃ。何だか新鮮でよお」
 「まったく。悪気はないよ、ごめんごめん」
 「ヤロ、何かいいメニューはあるか」
 普通の量で良いが、と、アードルフ。受けた彼は、肉料理ならこれで、野菜中心ならこっちで、と指をさす。
 「いっぱいありますね。う~ん、これにします」
 色々な意味での初体験を経験した四人は、多少のぎこちなさを残しつつも、食事を終える。店を出ると、アマンダは店から貰った水を飲み、ひと息ついた。
 「お嬢様、大丈夫」
 「み、みなさん、速いのですね」
 「そりゃ男だしな。戦場でちんたら食ってられねえって」
 「アマンダ様、まだ日の入りまで若干時間があります」
 むせている令嬢を気遣いながらも、第一従者は次の行動を提案する。傭兵たちがいる場所に行こうというのだ。
 「場所なら彼女が知っているでしょう」
 「そうね。教えてもらいましょう」
 と、館から付いてきた女性の元へ小走りで向かっていくアマンダ。一方、後からやって来た従者たちの足には、重りがついていた。
 様子に気づいたアードルフは、
 「心配するな、おかしな真似をしなければ大丈夫だ」
 「どうだろう。監視役だよね、彼女」
 「だろうな。だが逆を言えば、アマンダ様に危害が加わらなければ問題ないという事になる」
 「なるほどね」
 両手を広げて納得したイスモ。彼らのやり取りを見ていたヤロは、黙ったまま。
 十年前は一緒に戦場を駆け抜けた仲だが、今はお互い、油断ならない存在になってしまった三人。
 年長者は以前と同じようになることを願い、若年層たちは迷いの霧に惑いながら少女の後を追う。
 何も知らない無垢な人物は、そんな三人に手を振って早く来るように急かした。少しの安心感と現実に戻り、男たちは集まっていく。
 「案内してくださるそうなの。行きましょう」
 名前をヘルガと言い、追いついた人間たちに一礼をしながら自己紹介をする彼女。ヘルガを先頭に、館とは真逆の方向へと進んで行く。
 市街地から離れ、人気のない、ちょっとした公園のような場所へとやってくる。開けた場所には遊具などはなく、ただ単に雑草が広がっているだけだった。
 ヘルガが振り返ると、全員の足が止まる。
 「ではアマンダ様、試験を行います。ご無礼をお許しください」
 言い終わると同時に、帯剣している剣を抜くヘルガ。同じ動作で答えたアマンダは、細剣を抜き、胸の前で剣先を空へと向け構えた。
 「おいおい、どういうこった」
 「試験ですよ。あなた方に関しては実証済みなので省きます」
 「そうじゃねえよ。嬢ちゃんが戦えるわけね」
 「ヤロ、口を出すな」
 「兄貴っ」
 身長も自らの胸の高さほどしかなく、腕は簡単に折れてしまいそうな程華奢な少女。ましてや貴族の娘で血の臭いすらしない彼女が戦えるとは、彼には到底思えなかったのだ。
 「いいんじゃないの。あの剣がただの飾りじゃないところを見てみたいし」
 「お前、嫌味言ってる場合じゃねえだろ」
 「んなこといってもね。二人がやる気マンマンだし」
 「良いから黙っていろ」
 より強い口調で注意された弟分たちは、ようやく口を閉じる。
 その間、集中力を高めたいた二人は、剣を構え、相手の出方を伺っていた。
 「難しく考えず、模範試合とお思い下さい」
 「わかりました、行きます」
 地面と水平に構えられた細剣が少し後ろに引かれると、はじかれたようにヘルガに向かっていく。
 ヘルガは驚きの顔をしたと同時に右側によけ、彼女の突きをかわす。アマンダの視線は相手を見据え、そのまま左足を軸に再び身体を対峙させる。
 ショートソードが細剣の動きを封じると、小柄な剣は逃げるように下へと移動しそのまま振り上げられる。太いほうの剣が受けると、一度はじき返し、距離を取った。
 思ったより早くて重い、相当訓練を受けられたのか。
 ヘルガの頭に、思考がよぎる。彼女にとっては実戦経験のない身分が格上の相手だが、油断は出来ないと直感した。
 一方、挑戦者の立場であることを認識しているアマンダは、何かを考えている余裕はない。が、表情は変わらず、教えられた通りに動いた。
 姿勢を低くしながら今度は右側に走り、下から突き上げる。左側によけられるが、細剣をそのまま横なぎにする。
 キィンと鳴り響いている最中に、仕掛けた側は細剣を再度引っ込め、相手の胸元に向かって突き上げた。
 しかし、得物によって防がれてしまう。
 だがアマンダの動きは止まらず、左側からヘルガの背後に回り込むと、彼女の右耳から数十センチのところに剣を構えた。
 「わたしの勝ち、でしょうか」
 「お見事です。見切れませんでした」
 息を切らしながら剣を動かし鞘に収めるアマンダ。同じ動作をしたヘルガは、彼女に向き直り、一礼をする。
 「いい師をお持ちなのですね。この実力なら問題ないでしょう」
 と、ヘルガ。始める前と変わらない様子に、勝利者は複雑な表情だった。
 「もうそろそろ日が暮れます。明朝、責任者のところへお連れしましょう」
 本日のところは館にお戻りください、と言われたアマンダは、空を見上げるも、同意せざるを得なかった。
 ヘルガを再び先頭にし歩き始めるアマンダとアードルフ。後者は連れの気配が遠のいたのを感じ、
 「行くぞ」
 「お、おう」
 ヤロは面食らいながら返事をし、イスモは目をぱちくりさせていた。
 アマンダたちが使っている館に戻ってきた一行は、今日の疲れを癒すことになった。途中から合流したヤロとイスモの部屋も用意されており、見張り付き、という条件の下に使用が許可されていたのである。
 「はあ、今日までの命だったりしてね~」
 「面白え冗談だな。そんときゃそんときだ」
 「なにをいってるんですか。そんなはずないでしょうっ」
 まったく笑えませんし面白くありませんっ、とまた顔を真っ赤にして怒るアマンダ。部屋が用意されていたことの不安をかき消すためだったのだが、令嬢には通用しなかったらしい。
 「心配ない。お前たちに何かあったのなら今の状況になる」
 「ふうん。なら安心、かな」
 「何でそうなんだよ」
 「部屋で説明してやる」
 面倒くさそうに返事をするイスモ。ムスッとしたヤロだが、すぐ元に戻り、相棒の後を追う。
 「我々も休みましょう」
 「ええ。おやすみなさい」
 それぞれの思惑を胸に、各々は夜に抱きしめられるのであった。


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 「兄貴、何考えてんだ。あんな世間知らずの嬢ちゃんの旅に付き合うなんてよ」
 呆れながらドアを見、発言するヤロ。今は男衆しかいない。
 「そう言うな。館の中で平穏に過ごされていたのだ、知らなくて当然だろう」
 そりゃそうかもしんねえけどよ、と質問者は頭をかきながら弱い反論をする。一方のイスモは、少々怒り気味の表情であった。
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 「大丈夫なわけ」
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 それ故アマンダの感覚が理解出来ず、衝突してしまいそうになったのである。
 「でもあの嬢ちゃん、何だか憎めねえなあ。素直ってえか、なんつうか」
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 平民、とくにコラレダ民は貴族嫌いが多い。自分たちが作り上げた小麦や野菜などを奪い取り、手柄はもちろん、人や物を平気で持っていくからだ。
 噂話が呼んだのか、部屋にノックする音が響く。アードルフが、どうぞ、と返すと、騎士風の服から男性平民がまとう布地へ着替えたアマンダが入ってきた。
 「これで大丈夫かしら。どうです、似合いますか」
 「別にさっきどっ」
 ヤロの脛に同じ立場の人間の蹴りが入る。ったく、と口にしたイスモは、
 「よく似合いますよ。さっきより平民に見えます」
 「そ、そうですか。よかったっ」
 では行きましょう、と嬉しそう細剣を持ちながら部屋を出るアマンダ。アードルフは何事もなかったように付いていき、元傭兵のふたりは、やれやれ、と手を腰にやると、
 「オレたちは窓から行く。兄貴、前の店で待ってるぜ」
 「分かった」
 と、お互い部屋から姿を消した。
 アマンダとアードルフが館の出入り口付近に来ると、彼女と似たような格好をした女性が待機していた。
 「お出かけでございますか」
 「はい、外でお食事をしてきます」
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 「す、すぐ戻りますから」
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 「左様ですか。では、食事処の入口までご一緒致します」
 かわすことに失敗した貴族の令嬢は、とりあえず彼女を伴って屋敷を出た。
 目の前に建っている建物に向かって三人で歩いていると、ヤロとイスモが待っていた。
 「お待たせしました」
 「おう、席とっといたがよ」
 「私のことは気にしないで下さい。外で控えております故」
 言葉と同様、物腰は丁寧だった。しかし、目はこの場で目にしたふたりを捕らえて離さない。
 「あなたは何も召し上がらないのですか」
 「お気遣い、痛み入ります。先に済ませてありますので、ごゆっくりと」
 「わかりました」
 行きましょう、とアマンダ。アードルフ、ヤロの順に続き、イスモだけは彼女と目を合わせたまま。
 「ご安心を。背後から襲うのは騎士の恥ですから」
 顔をしかめた彼は、ふん、と言いながら先の集団に合流する。
 その様子を気にしたヤロが、
 「どしたい」
 「気をつけろよ。あの女、俺と同業者だ」
 げ、と前を歩くふたりには聞こえない声でもらす。
 「どうりで油断ならねえワケだ」
 「ま、貴族って感じでもないけどね」
 相方の言いたいことが、何となくわかったヤロだった。
 店に入ると、一番奥のテーブル席につく四人。
 「好きなものを頼むといい」
 「マジかっ。さっすが兄貴っ」
 大きな子供がメニューを見て大はしゃぎしている隣で、はあ、とため息をつくイスモ。どうやら、精神年齢は逆のようだ。
 一方、貴族の令嬢は、周囲を見渡したしており落ち着かない。
 「アマンダ様、こちらから種類を選んでください。店員に頼んで持ってきてもらうのが流れです」
 「そうなのね。うーん、どれがいいのかしら」
 「嬢ちゃんはよく食うのかい」
 と、手元の紙を相方に渡しながら口にするヤロ。彼いわく、ここの料理は、大柄な男たちがよく来るためなのか、量が多いらしい。
 「詳しいのですね」
 「まあな。オレらは世界中を回ってるからよ」
 「世界中を、ですか」
 大きな目をさらに大きくし、まばたきを数回するアマンダ。想像出来ないらしく、また同じ動作をする。
 その様子を見た傭兵組は、思わず噴き出してしまった。
 当然、笑われた当人は顔を真っ赤にして抗議する。
 「悪ぃ悪ぃ。何だか新鮮でよお」
 「まったく。悪気はないよ、ごめんごめん」
 「ヤロ、何かいいメニューはあるか」
 普通の量で良いが、と、アードルフ。受けた彼は、肉料理ならこれで、野菜中心ならこっちで、と指をさす。
 「いっぱいありますね。う~ん、これにします」
 色々な意味での初体験を経験した四人は、多少のぎこちなさを残しつつも、食事を終える。店を出ると、アマンダは店から貰った水を飲み、ひと息ついた。
 「お嬢様、大丈夫」
 「み、みなさん、速いのですね」
 「そりゃ男だしな。戦場でちんたら食ってられねえって」
 「アマンダ様、まだ日の入りまで若干時間があります」
 むせている令嬢を気遣いながらも、第一従者は次の行動を提案する。傭兵たちがいる場所に行こうというのだ。
 「場所なら彼女が知っているでしょう」
 「そうね。教えてもらいましょう」
 と、館から付いてきた女性の元へ小走りで向かっていくアマンダ。一方、後からやって来た従者たちの足には、重りがついていた。
 様子に気づいたアードルフは、
 「心配するな、おかしな真似をしなければ大丈夫だ」
 「どうだろう。監視役だよね、彼女」
 「だろうな。だが逆を言えば、アマンダ様に危害が加わらなければ問題ないという事になる」
 「なるほどね」
 両手を広げて納得したイスモ。彼らのやり取りを見ていたヤロは、黙ったまま。
 十年前は一緒に戦場を駆け抜けた仲だが、今はお互い、油断ならない存在になってしまった三人。
 年長者は以前と同じようになることを願い、若年層たちは迷いの霧に惑いながら少女の後を追う。
 何も知らない無垢な人物は、そんな三人に手を振って早く来るように急かした。少しの安心感と現実に戻り、男たちは集まっていく。
 「案内してくださるそうなの。行きましょう」
 名前をヘルガと言い、追いついた人間たちに一礼をしながら自己紹介をする彼女。ヘルガを先頭に、館とは真逆の方向へと進んで行く。
 市街地から離れ、人気のない、ちょっとした公園のような場所へとやってくる。開けた場所には遊具などはなく、ただ単に雑草が広がっているだけだった。
 ヘルガが振り返ると、全員の足が止まる。
 「ではアマンダ様、試験を行います。ご無礼をお許しください」
 言い終わると同時に、帯剣している剣を抜くヘルガ。同じ動作で答えたアマンダは、細剣を抜き、胸の前で剣先を空へと向け構えた。
 「おいおい、どういうこった」
 「試験ですよ。あなた方に関しては実証済みなので省きます」
 「そうじゃねえよ。嬢ちゃんが戦えるわけね」
 「ヤロ、口を出すな」
 「兄貴っ」
 身長も自らの胸の高さほどしかなく、腕は簡単に折れてしまいそうな程華奢な少女。ましてや貴族の娘で血の臭いすらしない彼女が戦えるとは、彼には到底思えなかったのだ。
 「いいんじゃないの。あの剣がただの飾りじゃないところを見てみたいし」
 「お前、嫌味言ってる場合じゃねえだろ」
 「んなこといってもね。二人がやる気マンマンだし」
 「良いから黙っていろ」
 より強い口調で注意された弟分たちは、ようやく口を閉じる。
 その間、集中力を高めたいた二人は、剣を構え、相手の出方を伺っていた。
 「難しく考えず、模範試合とお思い下さい」
 「わかりました、行きます」
 地面と水平に構えられた細剣が少し後ろに引かれると、はじかれたようにヘルガに向かっていく。
 ヘルガは驚きの顔をしたと同時に右側によけ、彼女の突きをかわす。アマンダの視線は相手を見据え、そのまま左足を軸に再び身体を対峙させる。
 ショートソードが細剣の動きを封じると、小柄な剣は逃げるように下へと移動しそのまま振り上げられる。太いほうの剣が受けると、一度はじき返し、距離を取った。
 思ったより早くて重い、相当訓練を受けられたのか。
 ヘルガの頭に、思考がよぎる。彼女にとっては実戦経験のない身分が格上の相手だが、油断は出来ないと直感した。
 一方、挑戦者の立場であることを認識しているアマンダは、何かを考えている余裕はない。が、表情は変わらず、教えられた通りに動いた。
 姿勢を低くしながら今度は右側に走り、下から突き上げる。左側によけられるが、細剣をそのまま横なぎにする。
 キィンと鳴り響いている最中に、仕掛けた側は細剣を再度引っ込め、相手の胸元に向かって突き上げた。
 しかし、得物によって防がれてしまう。
 だがアマンダの動きは止まらず、左側からヘルガの背後に回り込むと、彼女の右耳から数十センチのところに剣を構えた。
 「わたしの勝ち、でしょうか」
 「お見事です。見切れませんでした」
 息を切らしながら剣を動かし鞘に収めるアマンダ。同じ動作をしたヘルガは、彼女に向き直り、一礼をする。
 「いい師をお持ちなのですね。この実力なら問題ないでしょう」
 と、ヘルガ。始める前と変わらない様子に、勝利者は複雑な表情だった。
 「もうそろそろ日が暮れます。明朝、責任者のところへお連れしましょう」
 本日のところは館にお戻りください、と言われたアマンダは、空を見上げるも、同意せざるを得なかった。
 ヘルガを再び先頭にし歩き始めるアマンダとアードルフ。後者は連れの気配が遠のいたのを感じ、
 「行くぞ」
 「お、おう」
 ヤロは面食らいながら返事をし、イスモは目をぱちくりさせていた。
 アマンダたちが使っている館に戻ってきた一行は、今日の疲れを癒すことになった。途中から合流したヤロとイスモの部屋も用意されており、見張り付き、という条件の下に使用が許可されていたのである。
 「はあ、今日までの命だったりしてね~」
 「面白え冗談だな。そんときゃそんときだ」
 「なにをいってるんですか。そんなはずないでしょうっ」
 まったく笑えませんし面白くありませんっ、とまた顔を真っ赤にして怒るアマンダ。部屋が用意されていたことの不安をかき消すためだったのだが、令嬢には通用しなかったらしい。
 「心配ない。お前たちに何かあったのなら今の状況になる」
 「ふうん。なら安心、かな」
 「何でそうなんだよ」
 「部屋で説明してやる」
 面倒くさそうに返事をするイスモ。ムスッとしたヤロだが、すぐ元に戻り、相棒の後を追う。
 「我々も休みましょう」
 「ええ。おやすみなさい」
 それぞれの思惑を胸に、各々は夜に抱きしめられるのであった。