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ずっとずっと、君が好き

ー/ー



 2036年7月。
 みーんみんみんみん。

 うるさいと言いたくなる程の蝉の鳴き声が、教室内に響き渡る。
 大事な期末の試験中。だから、それを掻き消す先生の声は、今は無い。

 みーんみんみんみん。

 身体の内からじわりと感じる暑さを、窓から入る風がほんの少しだけ冷ましていく。それでもまたすぐに身体は熱を帯びて、今度はつう、と頬を汗が伝う。

 僕はこの時期になると、必ず思い出す。
 大好きだった君のことを。
 君と過ごした、一夏を。

 みーんみんみんみん。

 また今年も、夏がやって来た。




 2026年4月6日。
 君と出会った。

「鈴木夏帆です」

 自己紹介でそう名乗り、にこりと笑った君に、僕は一目で恋に落ちた。
 あまり一目惚れなんてしないタイプなのに。それでも、そんな僕の中の壁を打ち壊して、君は心に侵入してきた。

 活発で、明るくて、人懐っこくて。でも野菜は嫌いで、ちょっと運動音痴。

 目で追えば追うほど、君のことを知っていった。知れば知るほど、好きになっていった。

 梅雨を迎える頃には、僕はもう、どうしょうもなく君の虜になっていた。

 そして君も、僕の好意には気付いていた。
 初めは訝しげだった僕への視線も、徐々に優しいものになっていった。日を、週を、月を跨ぐ毎に、僕に心を開いてくれる君。
 放課後、二人で課題をしたり。休日、一緒に映画を観に行ったり。野球部の本田君の試合に、応援に行ったりもした。

 君から、僕に向けてくれる笑顔の回数が増えた。
 君から、僕に向けてくれる言葉が甘くなった。

 でも君は、本田君ともすごく仲が良かった。
 幼馴染みということもあって、すごく心を開いているように見えた。

 君を誰かに盗られるのが、次第に僕は怖くなった。
 怖くて怖くて、堪らなくなった。

 だから、夏休みの花火大会の夜、作戦を決行したんだ。


 2026年7月25日。
 期末試験も終わり、夏休みに突入した最初の週末。その日は、地元の祭りと重なっていた。

 試験終わりで浮足立っていたクラスメイトは、昼下がりの放課後、複数人でその祭りに行く計画を立てていた。
 その中に勿論、君と僕も居た。

 そして当日。
 夕方6時に、祭り会場の最寄りの駅で集合だった。
 そこに青い浴衣姿で現れた君は、何とも美しくて。
 ああきっと、僕は君に一生夢中なんだろう、なんてことを思ったりした。

 皆でああでもないこうでもないと屋台を回る。君は常ににこにことしていて、楽しそうで、その笑顔を見られただけでも満足なんだけど、今日の僕にはやることがある。

 夜8時。
 
 パァーン!
  
 一発目の、花火が闇夜に打ち上げられた。
 赤、青、緑、黄。色とりどりの光に照らされた君の横顔を見ていると胸が苦しくて仕方なくて、僕はもう、我慢が出来なかった。






「好きです。付き合ってください」 


 君は驚いたように目を見開き、こちらを見た。
 そして、自己紹介の時のように、にっこりと笑ってこう答えた。



「あなた、誰?」



 僕は、その場をそっと去った。これ以上、君の側には居られないと思った。

 君は、僕のものにはならない。
 君は、僕のことが嫌いだ。
 僕は、それでも君のことが好きだ。

 そんな僕が、君にしてあげられることと言ったら、なんだろう。
 君を不快にさせないよう、これ以上近付かず、それでも君を幸せにするには。


 考えて、考えて、考えて考えて考えて──。

 そして、辿り着いた。

 君を、見守ろうと。
 大好きな君のためなら、僕は何だって出来るんだ。
 だから僕は、君を遠くから見守り続けることにする。





 どんなに苦しくても。どんなに悲しくても。
 ずっとずっと、君が好き。




2026年7月22日。

「試験お疲れ〜!大問五、解けた?」
「無理無理!あんなの考えるだけ無駄!そんなことより、今週末の花火大会の計画立てよ!せっかく明日から夏休みなんだし、目一杯楽しもー!」
「それは勿論なんだけどさ、あの噂、聞いたことある?花火大会の日に出るっていう、男子生徒の幽霊の話」
「なにそれ?聞いたことないけど……、どんな話?」
「数十年前の花火大会で、ある男子生徒が女子生徒に告白したんだけど、酷いフラれ方をしたらしくて。男子生徒、そのままこの学校の屋上から飛び降りたんだって」
「え、酷い……。可哀想」
「それがさ、その男子生徒、ストーカーだったみたいで。その女の子が遊びに行く時とか、彼氏の試合の応援に行く時とかに勝手に付いてきて、じっと女の子を見つめるんだって」
「なにそれ!怖すぎるんだけど!」
「女の子は何されるか分からなくて優しく接してたみたいだけど、告白された時にいよいよ怖すぎて、色々言っちゃったみたい」
「ふんふん、それで?」
「んで、飛び降りた男子生徒は幽霊となって、毎年花火大会の夜に現れるんだけど……」
「え、何、続きがあるの?」
「そう。必ず誰か一人に告白しては、この学校の屋上から飛び降りる、ていうのを毎年繰り返すの」
「え、毎年……?幽霊なのに?」
「そう、毎年。幽霊なのに。その年の春に既にターゲットを決めていて、花火大火の夜に告白する。でも、女の子はそんな男の子、見たこともないから勿論断るよね。そうしたら彼は、その後この学校に来て、屋上から飛び降りる。そのループを、永遠に行なってるんじゃないかって、考察サイトには載ってた」
「なにそれ!!めっちゃ怖いじゃん!!もしかしたら、この中の誰かも狙われてるってこと!?」
「まあ、あくまで噂だから。とりあえず、近くのスタバで会議しよ!」
「賛成!!あ、ちょっと待って、まだ荷物が……」
「もー、早く行くよ!夏帆!」



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 2036年7月。
 みーんみんみんみん。
 うるさいと言いたくなる程の蝉の鳴き声が、教室内に響き渡る。
 大事な期末の試験中。だから、それを掻き消す先生の声は、今は無い。
 みーんみんみんみん。
 身体の内からじわりと感じる暑さを、窓から入る風がほんの少しだけ冷ましていく。それでもまたすぐに身体は熱を帯びて、今度はつう、と頬を汗が伝う。
 僕はこの時期になると、必ず思い出す。
 大好きだった君のことを。
 君と過ごした、一夏を。
 みーんみんみんみん。
 また今年も、夏がやって来た。
 2026年4月6日。
 君と出会った。
「鈴木夏帆です」
 自己紹介でそう名乗り、にこりと笑った君に、僕は一目で恋に落ちた。
 あまり一目惚れなんてしないタイプなのに。それでも、そんな僕の中の壁を打ち壊して、君は心に侵入してきた。
 活発で、明るくて、人懐っこくて。でも野菜は嫌いで、ちょっと運動音痴。
 目で追えば追うほど、君のことを知っていった。知れば知るほど、好きになっていった。
 梅雨を迎える頃には、僕はもう、どうしょうもなく君の虜になっていた。
 そして君も、僕の好意には気付いていた。
 初めは訝しげだった僕への視線も、徐々に優しいものになっていった。日を、週を、月を跨ぐ毎に、僕に心を開いてくれる君。
 放課後、二人で課題をしたり。休日、一緒に映画を観に行ったり。野球部の本田君の試合に、応援に行ったりもした。
 君から、僕に向けてくれる笑顔の回数が増えた。
 君から、僕に向けてくれる言葉が甘くなった。
 でも君は、本田君ともすごく仲が良かった。
 幼馴染みということもあって、すごく心を開いているように見えた。
 君を誰かに盗られるのが、次第に僕は怖くなった。
 怖くて怖くて、堪らなくなった。
 だから、夏休みの花火大会の夜、作戦を決行したんだ。
 2026年7月25日。
 期末試験も終わり、夏休みに突入した最初の週末。その日は、地元の祭りと重なっていた。
 試験終わりで浮足立っていたクラスメイトは、昼下がりの放課後、複数人でその祭りに行く計画を立てていた。
 その中に勿論、君と僕も居た。
 そして当日。
 夕方6時に、祭り会場の最寄りの駅で集合だった。
 そこに青い浴衣姿で現れた君は、何とも美しくて。
 ああきっと、僕は君に一生夢中なんだろう、なんてことを思ったりした。
 皆でああでもないこうでもないと屋台を回る。君は常ににこにことしていて、楽しそうで、その笑顔を見られただけでも満足なんだけど、今日の僕にはやることがある。
 夜8時。
 パァーン!
 一発目の、花火が闇夜に打ち上げられた。
 赤、青、緑、黄。色とりどりの光に照らされた君の横顔を見ていると胸が苦しくて仕方なくて、僕はもう、我慢が出来なかった。
「好きです。付き合ってください」 
 君は驚いたように目を見開き、こちらを見た。
 そして、自己紹介の時のように、にっこりと笑ってこう答えた。
「あなた、誰?」
 僕は、その場をそっと去った。これ以上、君の側には居られないと思った。
 君は、僕のものにはならない。
 君は、僕のことが嫌いだ。
 僕は、それでも君のことが好きだ。
 そんな僕が、君にしてあげられることと言ったら、なんだろう。
 君を不快にさせないよう、これ以上近付かず、それでも君を幸せにするには。
 考えて、考えて、考えて考えて考えて──。
 そして、辿り着いた。
 君を、見守ろうと。
 大好きな君のためなら、僕は何だって出来るんだ。
 だから僕は、君を遠くから見守り続けることにする。
 どんなに苦しくても。どんなに悲しくても。
 ずっとずっと、君が好き。
2026年7月22日。
「試験お疲れ〜!大問五、解けた?」
「無理無理!あんなの考えるだけ無駄!そんなことより、今週末の花火大会の計画立てよ!せっかく明日から夏休みなんだし、目一杯楽しもー!」
「それは勿論なんだけどさ、あの噂、聞いたことある?花火大会の日に出るっていう、男子生徒の幽霊の話」
「なにそれ?聞いたことないけど……、どんな話?」
「数十年前の花火大会で、ある男子生徒が女子生徒に告白したんだけど、酷いフラれ方をしたらしくて。男子生徒、そのままこの学校の屋上から飛び降りたんだって」
「え、酷い……。可哀想」
「それがさ、その男子生徒、ストーカーだったみたいで。その女の子が遊びに行く時とか、彼氏の試合の応援に行く時とかに勝手に付いてきて、じっと女の子を見つめるんだって」
「なにそれ!怖すぎるんだけど!」
「女の子は何されるか分からなくて優しく接してたみたいだけど、告白された時にいよいよ怖すぎて、色々言っちゃったみたい」
「ふんふん、それで?」
「んで、飛び降りた男子生徒は幽霊となって、毎年花火大会の夜に現れるんだけど……」
「え、何、続きがあるの?」
「そう。必ず誰か一人に告白しては、この学校の屋上から飛び降りる、ていうのを毎年繰り返すの」
「え、毎年……?幽霊なのに?」
「そう、毎年。幽霊なのに。その年の春に既にターゲットを決めていて、花火大火の夜に告白する。でも、女の子はそんな男の子、見たこともないから勿論断るよね。そうしたら彼は、その後この学校に来て、屋上から飛び降りる。そのループを、永遠に行なってるんじゃないかって、考察サイトには載ってた」
「なにそれ!!めっちゃ怖いじゃん!!もしかしたら、この中の誰かも狙われてるってこと!?」
「まあ、あくまで噂だから。とりあえず、近くのスタバで会議しよ!」
「賛成!!あ、ちょっと待って、まだ荷物が……」
「もー、早く行くよ!夏帆!」