21話 星剣と星刻
ー/ー「大きくなったのう。まあ、一旦座りいや。そこの小僧もな」
「はい。最後に会ったのは、まだ私が天界騎士団に入る前のことなのです。大きくなったのです」
ジィは俺たちを、部屋の中央に置かれたソファーへ案内した。
木の中に居ることを忘れてしまうほど、この部屋は立派な作りをしている。
俺たちが腰掛けたふわふわのソファーを筆頭に、綺麗な木目が付いたダイニングテーブル、明かりを灯すおしゃれなランタン。内壁はもちろん木で作られているが、色はシックな焦げ茶色で仕上げられている。
まるで男のロマンである秘密基地。俺はその部屋に見惚れ、ローズベルクがかなり質素であるように感じた。
「さっきの話の続きなですが、星刻の効果とはなんなのですか?」
「星刻の効果」さっきジィが、俺たちを剣で襲った理由の1つに出てきた。
1つ目の理由は、俺への対応を試すため。これはおそらく、俺が人間だと知った上で、エルシオが俺を庇うのか、それとも見殺しにするのか。それを試したのだろう。
2つ目の理由。それは、星刻の効果を試すため。これも、おおよその意味は理解できた。星刻。おそらく星刻機に関連している。そして、その星刻の機能の1つは、願いを叶えること。その願いは、「エルシオに幸福が訪れますように」といった内容だ。願いが叶っているのであれば、エルシオは幸福を手にしている。
幸福とは何なのか。間違いなく言えるのは、剣が腹にブッ刺さる状況は、幸福とは言えない。
「小僧は何となくわかっているようじゃが……お前さんは星刻機の効果を受けておる。ここから一部始終見ておったが、星刻機の願いは絶対じゃ。星刻機が壊れない限り、願いは継続する」
「つまり?」
エルシオはピンときていないようで、目を顰め簡潔な説明をジィに求めた。
「お前さん自身に攻撃は通らんし、自身に不幸なことは起こらん。星剣と幸福の星刻を持つ天使。まあ、今のお前さんは文字通り無敵じゃ」
そう言い切り、ジィは高らかに笑い声をあげた。星剣とは、エルシオが持っている双剣のことだろうか。ジィの話を聞くに、相当珍しく強い剣なのだろう。
それよりも「無敵」についてだ。本当に言葉どおりなら、とんでもないことを言っている気がするのだが、ジィの楽観的な話し方の前では受け取り方が難しい。
当のエルシオも「そうなのですか」と、ただジィが大きな口を広げて笑っているのを見つめるだけだ。
「ふぅ……で、今度はわしからの質問じゃ。何しにここに来た? なぜ人間を匿ってる? この小僧は何者だ?」
ピタリと笑うの止め、ジィは俺を指差しそう言った。
「この人間は楓くんなのです。楓くんが、あなたに会いたいとしつこくせがんだのでここに来たのです。楓くんは、エフィルロが連れてきた人間なのです。なぜか0ポイントのため、今ポイントを貯めているのです」
エルシオは淡々と全ての質問に答える。
大体合っているが、決してしつこくせがんだ覚えはない。
「ほう……0か。まぁそれは良いとして、どうやってポイントを貯めとる?」
ジィは、エルシオに向けていた視線を、俺の方へ移した。
正直、どこまで話していいのか見当もつかない。だが、エルシオも黙って俺の回答を待っているのを見るに、今はありのままのを正直に話す他ない。
「天使の仕事を……人間に、幸せの粉をかけるのを手伝ってる」
幸せの粉。そう口にした時、明らかにジィの目つきが変わった。何かまずいことを話したのか。だが、エルシオは特に反応を見せていない。
少しの間沈黙が生じる。そして、ジィの返事を待つ間に、エルシオが口を開いた。
「言いたいことはわかるのです。エフィルロが、なぜ楓くんのために粉を使っているのか。もう残りわずかのはずなのです」
「そりゃあそうじゃ。あいつはどちらかと言えば面接を重視しとった。そっちに使うのが利口じゃ。外に出ない分バレるリスクも少ない」
「そうなのです。私がローズベルクに顔を出すようになってから、人間界に行くことはほとんどなかった。つまり、エフィルロは間違いなく楓くんのために今の仕事をしている」
「ちょ、ちょっと待て! 聞いてた話と今の話じゃ、全く整合性が取れない。粉が残りわずかとか、バレるリスクとか、俺の……ためにとか、一体どういうことだ」
確かに、粉が壺から減っている自覚はある。でも無くなれば、どこかにある「幸せの粉作製業者」から仕入れるものだと思っていた。しかし、今の2人の話を聞く限り、限りのある物だとしか思えない。
天使の仕事は粉をかけることだとフィロは言っていた。面接をしていないのは不自然ではあったが、俺のポイントが貯まれば、すぐに再開するものだと思っていた。俺のために、優先して限りのある粉を使っているとは聞いていない。
俺のことがバレるのがまずいのは百も承知だが、今の話ではあたかも、フィロの仕事だけでなく、フィロの存在すらバレたらまずいと言っているように聞こえた。フィロは、ただ天使の仕事を全うしているだけ。何も悪いことはしていないはずだ。
「……小僧、何も知らんのか」
「知らない。と言うより、聞いていた話と……」
「はい。楓くんは知らないのです。今の天界のことも、私たちの仕事のことも、ローズベルクのことすら」
エルシオは俺の言葉を遮る。そして、ジィの方へ目を向けた。
「教えてあげて欲しいのです。エフィルロの許可は降りているのです」
「……小僧、真実を知っても、お前は人間に生まれ変わる勇気はあるか? 粉持ちが望んだことじゃ。おそらく、この小僧に何かしら思い入れがあるんじゃろう。その望みを叶えるために真実を話していないのなら、容易く話すわけにはいかん」
ジィは俺の目を力強く、そして真っ直ぐに見つめた。
人間に生まれ変わる勇気。考えたことはなかった。このまま仕事を手伝っていれば、それなりにポイントが貯まり、人間に生まれ変われると思っていた。
死神になることもなく、記憶を持ったまま虫として生まれ変わるわけでもない。それを俺は望んでいた。だが、話を聞く限りそんな簡単なことではないらしい。フィロは、何かとんでもないことをこの天界でやらかしている。
『とりあえず0ポイントじゃ生まれ変われない、もうこうなったら今からポイントを貯めるしかないわ!』
『私の仕事のお手伝いをしてくれないかしら?』
『幸せにしてあげたい人間は沢山居るんだけどね、まあ、色々あるのよ』
今までのフィロの言葉が、頭の中に過ぎる。
フィロが、どこまで本当のことを話してくれていたかは分からない。でも、俺を人間として生まれ変わらせてあげたいと言う気持ちに嘘は無いはずだ。
それに、フィロから感じた優しさや暖かさは、間違いなく本物だ。
「俺はフィロが望むなら、何が何でも人間として生まれ変わる。フィロが俺のために何かを犠牲にしているのなら、どんな真実が待ち受けていようと、俺はフィロの優しさを踏み躙るわけにはいかない」
「流石、エフィルロが見込んだ人間じゃ。わかった、話そう」
ジィは顎髭を撫でながら、今の天界について語り始めた。
「最初に言っておこうかのう……今現在、死んだ人間は、わしの知る限り皆地獄送りじゃ。誰も生まれ変わってなどおらん」
「……え?」
ランタンの明かりが、ゆらゆらと部屋の中を照らす。
俺は、口を開けたまま呆然とするしかなかった。 そしてそれは、隣に座るエルシオも同じだった。
「はい。最後に会ったのは、まだ私が天界騎士団に入る前のことなのです。大きくなったのです」
ジィは俺たちを、部屋の中央に置かれたソファーへ案内した。
木の中に居ることを忘れてしまうほど、この部屋は立派な作りをしている。
俺たちが腰掛けたふわふわのソファーを筆頭に、綺麗な木目が付いたダイニングテーブル、明かりを灯すおしゃれなランタン。内壁はもちろん木で作られているが、色はシックな焦げ茶色で仕上げられている。
まるで男のロマンである秘密基地。俺はその部屋に見惚れ、ローズベルクがかなり質素であるように感じた。
「さっきの話の続きなですが、星刻の効果とはなんなのですか?」
「星刻の効果」さっきジィが、俺たちを剣で襲った理由の1つに出てきた。
1つ目の理由は、俺への対応を試すため。これはおそらく、俺が人間だと知った上で、エルシオが俺を庇うのか、それとも見殺しにするのか。それを試したのだろう。
2つ目の理由。それは、星刻の効果を試すため。これも、おおよその意味は理解できた。星刻。おそらく星刻機に関連している。そして、その星刻の機能の1つは、願いを叶えること。その願いは、「エルシオに幸福が訪れますように」といった内容だ。願いが叶っているのであれば、エルシオは幸福を手にしている。
幸福とは何なのか。間違いなく言えるのは、剣が腹にブッ刺さる状況は、幸福とは言えない。
「小僧は何となくわかっているようじゃが……お前さんは星刻機の効果を受けておる。ここから一部始終見ておったが、星刻機の願いは絶対じゃ。星刻機が壊れない限り、願いは継続する」
「つまり?」
エルシオはピンときていないようで、目を顰め簡潔な説明をジィに求めた。
「お前さん自身に攻撃は通らんし、自身に不幸なことは起こらん。星剣と幸福の星刻を持つ天使。まあ、今のお前さんは文字通り無敵じゃ」
そう言い切り、ジィは高らかに笑い声をあげた。星剣とは、エルシオが持っている双剣のことだろうか。ジィの話を聞くに、相当珍しく強い剣なのだろう。
それよりも「無敵」についてだ。本当に言葉どおりなら、とんでもないことを言っている気がするのだが、ジィの楽観的な話し方の前では受け取り方が難しい。
当のエルシオも「そうなのですか」と、ただジィが大きな口を広げて笑っているのを見つめるだけだ。
「ふぅ……で、今度はわしからの質問じゃ。何しにここに来た? なぜ人間を匿ってる? この小僧は何者だ?」
ピタリと笑うの止め、ジィは俺を指差しそう言った。
「この人間は楓くんなのです。楓くんが、あなたに会いたいとしつこくせがんだのでここに来たのです。楓くんは、エフィルロが連れてきた人間なのです。なぜか0ポイントのため、今ポイントを貯めているのです」
エルシオは淡々と全ての質問に答える。
大体合っているが、決してしつこくせがんだ覚えはない。
「ほう……0か。まぁそれは良いとして、どうやってポイントを貯めとる?」
ジィは、エルシオに向けていた視線を、俺の方へ移した。
正直、どこまで話していいのか見当もつかない。だが、エルシオも黙って俺の回答を待っているのを見るに、今はありのままのを正直に話す他ない。
「天使の仕事を……人間に、幸せの粉をかけるのを手伝ってる」
幸せの粉。そう口にした時、明らかにジィの目つきが変わった。何かまずいことを話したのか。だが、エルシオは特に反応を見せていない。
少しの間沈黙が生じる。そして、ジィの返事を待つ間に、エルシオが口を開いた。
「言いたいことはわかるのです。エフィルロが、なぜ楓くんのために粉を使っているのか。もう残りわずかのはずなのです」
「そりゃあそうじゃ。あいつはどちらかと言えば面接を重視しとった。そっちに使うのが利口じゃ。外に出ない分バレるリスクも少ない」
「そうなのです。私がローズベルクに顔を出すようになってから、人間界に行くことはほとんどなかった。つまり、エフィルロは間違いなく楓くんのために今の仕事をしている」
「ちょ、ちょっと待て! 聞いてた話と今の話じゃ、全く整合性が取れない。粉が残りわずかとか、バレるリスクとか、俺の……ためにとか、一体どういうことだ」
確かに、粉が壺から減っている自覚はある。でも無くなれば、どこかにある「幸せの粉作製業者」から仕入れるものだと思っていた。しかし、今の2人の話を聞く限り、限りのある物だとしか思えない。
天使の仕事は粉をかけることだとフィロは言っていた。面接をしていないのは不自然ではあったが、俺のポイントが貯まれば、すぐに再開するものだと思っていた。俺のために、優先して限りのある粉を使っているとは聞いていない。
俺のことがバレるのがまずいのは百も承知だが、今の話ではあたかも、フィロの仕事だけでなく、フィロの存在すらバレたらまずいと言っているように聞こえた。フィロは、ただ天使の仕事を全うしているだけ。何も悪いことはしていないはずだ。
「……小僧、何も知らんのか」
「知らない。と言うより、聞いていた話と……」
「はい。楓くんは知らないのです。今の天界のことも、私たちの仕事のことも、ローズベルクのことすら」
エルシオは俺の言葉を遮る。そして、ジィの方へ目を向けた。
「教えてあげて欲しいのです。エフィルロの許可は降りているのです」
「……小僧、真実を知っても、お前は人間に生まれ変わる勇気はあるか? 粉持ちが望んだことじゃ。おそらく、この小僧に何かしら思い入れがあるんじゃろう。その望みを叶えるために真実を話していないのなら、容易く話すわけにはいかん」
ジィは俺の目を力強く、そして真っ直ぐに見つめた。
人間に生まれ変わる勇気。考えたことはなかった。このまま仕事を手伝っていれば、それなりにポイントが貯まり、人間に生まれ変われると思っていた。
死神になることもなく、記憶を持ったまま虫として生まれ変わるわけでもない。それを俺は望んでいた。だが、話を聞く限りそんな簡単なことではないらしい。フィロは、何かとんでもないことをこの天界でやらかしている。
『とりあえず0ポイントじゃ生まれ変われない、もうこうなったら今からポイントを貯めるしかないわ!』
『私の仕事のお手伝いをしてくれないかしら?』
『幸せにしてあげたい人間は沢山居るんだけどね、まあ、色々あるのよ』
今までのフィロの言葉が、頭の中に過ぎる。
フィロが、どこまで本当のことを話してくれていたかは分からない。でも、俺を人間として生まれ変わらせてあげたいと言う気持ちに嘘は無いはずだ。
それに、フィロから感じた優しさや暖かさは、間違いなく本物だ。
「俺はフィロが望むなら、何が何でも人間として生まれ変わる。フィロが俺のために何かを犠牲にしているのなら、どんな真実が待ち受けていようと、俺はフィロの優しさを踏み躙るわけにはいかない」
「流石、エフィルロが見込んだ人間じゃ。わかった、話そう」
ジィは顎髭を撫でながら、今の天界について語り始めた。
「最初に言っておこうかのう……今現在、死んだ人間は、わしの知る限り皆地獄送りじゃ。誰も生まれ変わってなどおらん」
「……え?」
ランタンの明かりが、ゆらゆらと部屋の中を照らす。
俺は、口を開けたまま呆然とするしかなかった。 そしてそれは、隣に座るエルシオも同じだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。