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第16話 城島

ー/ー



 ザファル商会との業務委託契約が締結されると、事態はとんとん拍子で動いた。
 採掘現場の操業主体がヤシマからザファル商会に移管される。
 ヤシマ側の現場人員は不要になる。

 本社から人事担当者が来た。

 城島(ジョウシマ)という若い男だった。
 二十代後半。レベル1のオフィスで一、二度すれ違った記憶があるが、話したことはない。
 小柄で、丸い顔に人懐こい笑みを浮かべている。
 スーツは新品に近く、靴は磨かれ、ワイシャツにはまだ折り目が残っていた。レベル2の空気に一切馴染んでいない。

「お忙しいところすみません、加藤さん。本社人事部の城島です」

 名刺を受け取る。肩書きは「異界資源事業室付 人事担当」。

 城島はナイリザの存在を一瞥しただけで、俺の向かいに腰を下ろした。
 鞄から書類の束を取り出し、手際よくテーブルに並べる。

「採掘部門の業務委託化に伴う人員整理の件です。現地採用スタッフの契約終了通知と、退職手当の支給についてご説明に上がりました」

 丁寧だが早い。この手の業務に慣れている口ぶりだった。

「現場監督のヴォルグ以下、ゴブリンの鉱員が六十二名。コボルトの班長が三名。合計六十六名の契約を今月末で終了します」

「ヴォルグは管理業務担当だ。他の部署でも使えるんじゃないか」

「ああ、彼ね」

 城島は書類をめくった。

「彼、契約社員なんですよ。もう三回更新してるんで、継続はなしです。
 サイトを下請けに出すなら現場監督はお役御免ですし、ぎりぎりまで更新回数を攻める理由もないって判断です。むしろちょうどいいタイミングでした」

 ちょうどいい。
 半年間、壊れた重機を魔法で無理やり動かし、帳簿を偽装してまで産量を維持しようとした男の処遇が、「ちょうどいい」で片付けられている。

「解雇手当は出るのか」

「まあ、お給料一ヶ月分くらいは出しますよ。現地の皆さんの賃金なんて誤差みたいなもんですし、うちも労務トラブルは避けたいんで。
 あとは契約残期間分を出すかどうかですが」

「次の更新予定は3か月後だったか」

「でも普通はそこまでは。だってこれ、サイト閉鎖に伴う人員整理ですしね」

「会社としては出せるのか」

「まあ、金額的には稟議は通るでしょうね」

「出す方向で頼む」

 一瞬の間が空いた。

「……加藤さん?」

 城島の目がこちらを見ている。
 さっきまでの人懐こい笑みが消え、品定めするような目だった。
 人事の人間がする目だ。この人間がどういう価値観で動いているか、どこまで共犯にできるか、そういうことを測る目。

「現地での余計なレピュテーションリスクを取りたくない。誤差なんだろう?」

 城島は一拍置いて、笑みを戻した。

「まあ、そっすね」

 * * *

 書類の処理を終えた後、城島は椅子にもたれて足を組んだ。
 緊張感が消え、雑談のモードに入っている。

「宇田川次長はお忙しいのか。採掘事業の整理のときくらいは、出てくると思っていたが」

 それとなく状況を確認してみる。
 連絡がつかない、報告にも返信がないとは言わなかった。

「宇田川さん?」

 城島は一瞬きょとんとした顔をして、それから合点がいったように頷いた。

「彼、もう退職済みですよ」

「……何」

「ああ。なんとなく現場の混乱の理由がわかりましたよ。伝わってなかったんですね」

 城島は指折り数えるように経緯を話した。

「加藤さんに所長を引き継いで、帰国の内示が出た。その一週間後だったかな。
 無断欠勤で、部屋に行ったらもぬけの殻だった。連絡も取れない。一ヶ月待って、自然退職の扱いです」

 やっと帰れるという時期に。

「事故では」

「失踪ですよ。よくあるパターンです」

 城島はあっさりと言った。

「皆さん、早く帰りたいとおっしゃるんですが、いざ帰れるとなると帰国拒否する方がいるんですよ。
 宇田川さんもこちらに長かったから、日本に居場所がないと感じたのかもしれませんね」

 居場所がない。
 宇田川次長は、キャバクラのソファで女の腰を抱きながら「帰る場所があるからこんな僻地勤務も耐えられる」と言っていた。

「宇田川次長は日本にご家族がいたのでは」

「……あー、そういう設定でしたか」

 城島は鞄から別のファイルを取り出した。

「加藤さんは後任だから一応説明しときますけど、宇田川さんはとっくに離婚されてますよ。
 赴任して三年目だったかな。養育費の差押が来たから覚えてます。
 一時帰国の履歴もないんで、お嬢さんとの面会交流もされてなかったでしょう」

 着任の夜に聞いた言葉が耳の奥に蘇る。
 サピックスだ何だと妻がやかましい。帰るべき現実があるからこそ耐えられる。
 あれは全部、三年前に終わった話だったのか。

 城島は話題を切り替えた。

「そんなわけでうちも人不足、アンカー不足です。
 ここだけの話、加藤さんの提案書、役員受けがめちゃくちゃ良かったですよ」

「そうか」

「現地採掘はコストはともかくリスクが大きい。事故死が多いとどうしても当局に目をつけられますから。
 宇田川さんは接待で躱すタイプでしたけど、今どきそれもコンプラ的にどうなのかっていうのもあって。
 さりとてミスリルの安定供給ルートは手放したくない。
 現地人に業務委託っていうのは絶妙です。どうせ色々抜かれるんでしょうけど、背に腹は変えられない」

 城島は身を乗り出した。

「だからね、加藤さん。あなたは任期終わったら、たぶん本社に椅子があるタイプです。子会社には戻されない。
 ここで潰れたら損ですよ。隔月のメンタルヘルスチェックはちゃんと受けましょうね。健康診断のときだけっていうのはなしです。自分をメンテしてあげないと」

 親切に聞こえる。善意もあるのだろう。
 だが、この男にとって俺は人事ポートフォリオの一項目だ。
 使える駒が壊れるのは、資産の減損にすぎない。

「これから大変ですよ。加藤さん。駐在員にお願いしたい仕事、本当は山ほどあるんです。サイトの巡回みたいな負担がなくなる分、常駐にしかできない業務がいろいろ降ってくるはずです」

 本社に椅子がある。業務は増えると思うが頑張れ。分かりやすいニンジンだ。
 ヴォルグを思い出す。
 空手形ではない保証などどこにもない。

「ところで加藤さん、夜の街もいけます?」

 唐突だった。

「宇田川さんはその道をかなりディープに極めてらしたようですけどね。
 いやあ、レベル2勤務の役得ですよねえ。だってほら、エルフだし。
 なんでもありじゃないですかこっちは」

 ナイリザがデスクの向こうで帳簿をめくる音が止まった。
 城島はそれに気づいていない。

「レベル1の近場でいい店を知っている。手配する」

 それだけ言って、話を切った。

 * * *

 解雇の説明会は翌日、採掘サイトの作業小屋で行われた。

 城島が書類を読み上げ、ナイリザが帝国語に訳す。
 契約終了。退職手当。サイトの引き渡し日程。
 ゴブリンの鉱員たちは、説明の途中から既に興味を失っていた。
 彼らにとって雇用主が変わることは、大した問題ではないのかもしれない。ザファル商会の下で同じ仕事を続ける者もいるだろう。

 コボルトの班長たちは、静かに書類に署名した。

 ヴォルグだけが、最後まで動かなかった。

 説明会が終わり、鉱員たちが散っていった後も、作業小屋の隅に直立していた。
 蛍光オレンジのベストを着た巨躯が、妙に小さく見える。

「ヴォルグ」

 俺が声をかけると、ヴォルグはゆっくりと顔を上げた。

 黄濁した目が、俺を見ていた。
 怒りでも悲しみでもない。
 捨て犬が、飼い主の背中を見送るときの目だ。

「残期間分の手当は出る。手続きはナイリザが説明する」

 ヴォルグは何も言わなかった。

「パッチワークの件は報告書に書かなかった。調査中のまま、俺が握り潰した。次の仕事を探すのに支障はないはずだ」

 ヴォルグの耳がぴくりと動いた。
 それから、深く、四十五度の礼をした。着任の日と同じ礼。

「カトウ課長代理殿」

 ヴォルグの声は掠れていた。

「オセワニ、ナリマシタ」

 日本語だった。
 いつ覚えたのか。覚えていたのか。
 俺は何も返せなかった。ヴォルグは礼をしたまましばらく動かず、それから背を向けて坑道の闇に歩いていった。

 * * *

 その夜、城島のために一席設けた。

 結局、ニュー・エデンにした。
 城島にもわかりやすい。こちらも勝手がわかる。
 付いたのは小夏だった。レベル2での最初の夜にいた獣人の女だ。
 ちょうど良かったので、鰐淵に連絡をとってもらい、鰐淵と入れ違いで席を立った。
 夜のアテンドは鰐淵に丸投げだ。

 店を出る時、小夏に「カトウさん、ほんとアフターしないよね」と言われたが、適当に誤魔化した。
 サイトを閉めた夜に酒を飲む気分にはなれない。

 城島がどこに行ったかは知らない。

 翌朝、妙に丁寧で長いお礼メールが届いた。
 文面の最後に「何かあればいつでもご連絡ください」と書かれていた。
 人事担当者の社交辞令かもしれないし、本気かもしれない。
 どちらにせよ、鰐淵は必要な仕事をし、使えるカードが一枚増えた。

 ナイリザがメールを横から覗き込んで、鼻で笑った。

 何が言いたいのかは聞かなかった。



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 ザファル商会との業務委託契約が締結されると、事態はとんとん拍子で動いた。
 採掘現場の操業主体がヤシマからザファル商会に移管される。
 ヤシマ側の現場人員は不要になる。
 本社から人事担当者が来た。
 城島(ジョウシマ)という若い男だった。
 二十代後半。レベル1のオフィスで一、二度すれ違った記憶があるが、話したことはない。
 小柄で、丸い顔に人懐こい笑みを浮かべている。
 スーツは新品に近く、靴は磨かれ、ワイシャツにはまだ折り目が残っていた。レベル2の空気に一切馴染んでいない。
「お忙しいところすみません、加藤さん。本社人事部の城島です」
 名刺を受け取る。肩書きは「異界資源事業室付 人事担当」。
 城島はナイリザの存在を一瞥しただけで、俺の向かいに腰を下ろした。
 鞄から書類の束を取り出し、手際よくテーブルに並べる。
「採掘部門の業務委託化に伴う人員整理の件です。現地採用スタッフの契約終了通知と、退職手当の支給についてご説明に上がりました」
 丁寧だが早い。この手の業務に慣れている口ぶりだった。
「現場監督のヴォルグ以下、ゴブリンの鉱員が六十二名。コボルトの班長が三名。合計六十六名の契約を今月末で終了します」
「ヴォルグは管理業務担当だ。他の部署でも使えるんじゃないか」
「ああ、彼ね」
 城島は書類をめくった。
「彼、契約社員なんですよ。もう三回更新してるんで、継続はなしです。
 サイトを下請けに出すなら現場監督はお役御免ですし、ぎりぎりまで更新回数を攻める理由もないって判断です。むしろちょうどいいタイミングでした」
 ちょうどいい。
 半年間、壊れた重機を魔法で無理やり動かし、帳簿を偽装してまで産量を維持しようとした男の処遇が、「ちょうどいい」で片付けられている。
「解雇手当は出るのか」
「まあ、お給料一ヶ月分くらいは出しますよ。現地の皆さんの賃金なんて誤差みたいなもんですし、うちも労務トラブルは避けたいんで。
 あとは契約残期間分を出すかどうかですが」
「次の更新予定は3か月後だったか」
「でも普通はそこまでは。だってこれ、サイト閉鎖に伴う人員整理ですしね」
「会社としては出せるのか」
「まあ、金額的には稟議は通るでしょうね」
「出す方向で頼む」
 一瞬の間が空いた。
「……加藤さん?」
 城島の目がこちらを見ている。
 さっきまでの人懐こい笑みが消え、品定めするような目だった。
 人事の人間がする目だ。この人間がどういう価値観で動いているか、どこまで共犯にできるか、そういうことを測る目。
「現地での余計なレピュテーションリスクを取りたくない。誤差なんだろう?」
 城島は一拍置いて、笑みを戻した。
「まあ、そっすね」
 * * *
 書類の処理を終えた後、城島は椅子にもたれて足を組んだ。
 緊張感が消え、雑談のモードに入っている。
「宇田川次長はお忙しいのか。採掘事業の整理のときくらいは、出てくると思っていたが」
 それとなく状況を確認してみる。
 連絡がつかない、報告にも返信がないとは言わなかった。
「宇田川さん?」
 城島は一瞬きょとんとした顔をして、それから合点がいったように頷いた。
「彼、もう退職済みですよ」
「……何」
「ああ。なんとなく現場の混乱の理由がわかりましたよ。伝わってなかったんですね」
 城島は指折り数えるように経緯を話した。
「加藤さんに所長を引き継いで、帰国の内示が出た。その一週間後だったかな。
 無断欠勤で、部屋に行ったらもぬけの殻だった。連絡も取れない。一ヶ月待って、自然退職の扱いです」
 やっと帰れるという時期に。
「事故では」
「失踪ですよ。よくあるパターンです」
 城島はあっさりと言った。
「皆さん、早く帰りたいとおっしゃるんですが、いざ帰れるとなると帰国拒否する方がいるんですよ。
 宇田川さんもこちらに長かったから、日本に居場所がないと感じたのかもしれませんね」
 居場所がない。
 宇田川次長は、キャバクラのソファで女の腰を抱きながら「帰る場所があるからこんな僻地勤務も耐えられる」と言っていた。
「宇田川次長は日本にご家族がいたのでは」
「……あー、そういう設定でしたか」
 城島は鞄から別のファイルを取り出した。
「加藤さんは後任だから一応説明しときますけど、宇田川さんはとっくに離婚されてますよ。
 赴任して三年目だったかな。養育費の差押が来たから覚えてます。
 一時帰国の履歴もないんで、お嬢さんとの面会交流もされてなかったでしょう」
 着任の夜に聞いた言葉が耳の奥に蘇る。
 サピックスだ何だと妻がやかましい。帰るべき現実があるからこそ耐えられる。
 あれは全部、三年前に終わった話だったのか。
 城島は話題を切り替えた。
「そんなわけでうちも人不足、アンカー不足です。
 ここだけの話、加藤さんの提案書、役員受けがめちゃくちゃ良かったですよ」
「そうか」
「現地採掘はコストはともかくリスクが大きい。事故死が多いとどうしても当局に目をつけられますから。
 宇田川さんは接待で躱すタイプでしたけど、今どきそれもコンプラ的にどうなのかっていうのもあって。
 さりとてミスリルの安定供給ルートは手放したくない。
 現地人に業務委託っていうのは絶妙です。どうせ色々抜かれるんでしょうけど、背に腹は変えられない」
 城島は身を乗り出した。
「だからね、加藤さん。あなたは任期終わったら、たぶん本社に椅子があるタイプです。子会社には戻されない。
 ここで潰れたら損ですよ。隔月のメンタルヘルスチェックはちゃんと受けましょうね。健康診断のときだけっていうのはなしです。自分をメンテしてあげないと」
 親切に聞こえる。善意もあるのだろう。
 だが、この男にとって俺は人事ポートフォリオの一項目だ。
 使える駒が壊れるのは、資産の減損にすぎない。
「これから大変ですよ。加藤さん。駐在員にお願いしたい仕事、本当は山ほどあるんです。サイトの巡回みたいな負担がなくなる分、常駐にしかできない業務がいろいろ降ってくるはずです」
 本社に椅子がある。業務は増えると思うが頑張れ。分かりやすいニンジンだ。
 ヴォルグを思い出す。
 空手形ではない保証などどこにもない。
「ところで加藤さん、夜の街もいけます?」
 唐突だった。
「宇田川さんはその道をかなりディープに極めてらしたようですけどね。
 いやあ、レベル2勤務の役得ですよねえ。だってほら、エルフだし。
 なんでもありじゃないですかこっちは」
 ナイリザがデスクの向こうで帳簿をめくる音が止まった。
 城島はそれに気づいていない。
「レベル1の近場でいい店を知っている。手配する」
 それだけ言って、話を切った。
 * * *
 解雇の説明会は翌日、採掘サイトの作業小屋で行われた。
 城島が書類を読み上げ、ナイリザが帝国語に訳す。
 契約終了。退職手当。サイトの引き渡し日程。
 ゴブリンの鉱員たちは、説明の途中から既に興味を失っていた。
 彼らにとって雇用主が変わることは、大した問題ではないのかもしれない。ザファル商会の下で同じ仕事を続ける者もいるだろう。
 コボルトの班長たちは、静かに書類に署名した。
 ヴォルグだけが、最後まで動かなかった。
 説明会が終わり、鉱員たちが散っていった後も、作業小屋の隅に直立していた。
 蛍光オレンジのベストを着た巨躯が、妙に小さく見える。
「ヴォルグ」
 俺が声をかけると、ヴォルグはゆっくりと顔を上げた。
 黄濁した目が、俺を見ていた。
 怒りでも悲しみでもない。
 捨て犬が、飼い主の背中を見送るときの目だ。
「残期間分の手当は出る。手続きはナイリザが説明する」
 ヴォルグは何も言わなかった。
「パッチワークの件は報告書に書かなかった。調査中のまま、俺が握り潰した。次の仕事を探すのに支障はないはずだ」
 ヴォルグの耳がぴくりと動いた。
 それから、深く、四十五度の礼をした。着任の日と同じ礼。
「カトウ課長代理殿」
 ヴォルグの声は掠れていた。
「オセワニ、ナリマシタ」
 日本語だった。
 いつ覚えたのか。覚えていたのか。
 俺は何も返せなかった。ヴォルグは礼をしたまましばらく動かず、それから背を向けて坑道の闇に歩いていった。
 * * *
 その夜、城島のために一席設けた。
 結局、ニュー・エデンにした。
 城島にもわかりやすい。こちらも勝手がわかる。
 付いたのは小夏だった。レベル2での最初の夜にいた獣人の女だ。
 ちょうど良かったので、鰐淵に連絡をとってもらい、鰐淵と入れ違いで席を立った。
 夜のアテンドは鰐淵に丸投げだ。
 店を出る時、小夏に「カトウさん、ほんとアフターしないよね」と言われたが、適当に誤魔化した。
 サイトを閉めた夜に酒を飲む気分にはなれない。
 城島がどこに行ったかは知らない。
 翌朝、妙に丁寧で長いお礼メールが届いた。
 文面の最後に「何かあればいつでもご連絡ください」と書かれていた。
 人事担当者の社交辞令かもしれないし、本気かもしれない。
 どちらにせよ、鰐淵は必要な仕事をし、使えるカードが一枚増えた。
 ナイリザがメールを横から覗き込んで、鼻で笑った。
 何が言いたいのかは聞かなかった。