表示設定
表示設定
目次 目次




秘密の理科室

ー/ー



「なぁ、知ってるか?」


 お昼休み。

 いつものように忍び込んだ理科室で、一緒にお昼ごはんを食べていたシュウヤがそう話を振ってきた。


 玉子焼きを口いっぱいに頬張ったところだったヒロは「ふぇ?」と間抜けな返事を返す。
同じく焼きそばパンにかぶりついたところだったコテツは、「んー?」と生返事をした。
そんなふたりの様子に構うことなく、シュウヤは楽しそうな表情で話を続けた。


「片目魚の呪いだよ」


校則通りに着こなされた制服。

さっぱりと整えられた黒髪は清潔感があり、黒縁メガネは賢さの演出にひと役買っている。

クールな雰囲気のシュウヤはクラスの女子たちから人気があるのを、ヒロは知っている。シュウヤの顔が最近話題の俳優にちょっと似てると彼女たちが噂しているのを耳にしたこともあるので、そのルックスも彼女たちのお気に召したのだろう。

 ヒロたちが昼休みによく使っている理科室の鍵は、中一の夏にシュウヤが持ってきた。

曰く、涼しいところで飯が食いたい、と。

理科室には、教室と違ってエアコンがついている。

保管されている薬品の影響のせいか独特の匂いがするのと、少々ほこりっぽくて薄暗いのを除けば、理科室は快適な空間だ。

理科室が使われる頻度は低く、どこかの部活の部室にもなっていない。

教室のある棟とは別の棟にある不便な立地も手伝って、他の生徒が近づくことも稀である。

薄暗いのは、誰か人がいると思われないように消灯しているせい。

それとたぶん、理科室のテーブルが真っ黒だから。

しかし、人目を気にせず快適な温度の場所で仲良くご飯を食べられるなら、そんなのは些細なことだ。

食堂か教室で昼食を食べる生徒が多いこの学校で、空き教室を貸し切って食べてる生徒はぼくたちくらいだろうなって、ヒロは思っている。

ちなみに、食堂にも冷房はない。

終始開け放たれた4か所の扉はよく言えば生徒をいつでも迎えてくれてる。

悪く言えば、外の熱気も冷気も害虫も拒まない。

隅に置かれた業務用らしき大きな扇風機が、申し訳程度に食堂内の空気をかき回しているだけだ。

「のろいー?」

興味深そうにその話題に食いついたのは、焼きそばパンを咀嚼し終えたらしいコテツ。

野球部所属のコテツの肌は、健康的な小麦色に焼けている。

ニカっと笑うと見える白い歯がかわいいと、これまた女子たちの噂話で聞いたことがある。

試合の日には黄色い声援が絶え間ないと、これはコテツの部活仲間から聞いた話だ。

ふたりとも、小学校からなんだかんだとつるんでいる幼馴染的親友だ。

「そうだ、呪い。なんでも片目だけの魚がたくさん釣れるらしい。これはぜひ、実際に見に行くべきだと思う。今週の土曜、空いてるか」

「部活の後ならいいぞー」

コテツはそう言って、大きな口をあけて残りの焼きそばパンを全部、口の中に押し込んだ。

「うん、いいよ。シュウヤの家に集合?」

ヒロも頷いて、弁当箱に残っていた唐揚げに狙いを定めた。

「ああ。各自捕獲道具を持参して、自転車に乗って来てくれ」

シュウヤは満面の笑みでチョコレートホイップパンにかじりついた。

メロンパン、クリームパンと既に二つの菓子パンを平らげているのを見ていたヒロは、そっとシュウヤから目をそらし、唐揚げのジューシーさを口いっぱいに感じた。

シュウヤは大の甘党で、時々三コンボの菓子パンをお昼ご飯に披露する。それを目撃するたび、見ているこっちが胸やけしそうだとヒロは思うのだった。




スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む カタメウオを探しに


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「なぁ、知ってるか?」
 お昼休み。
 いつものように忍び込んだ理科室で、一緒にお昼ごはんを食べていたシュウヤがそう話を振ってきた。
 玉子焼きを口いっぱいに頬張ったところだったヒロは「ふぇ?」と間抜けな返事を返す。
同じく焼きそばパンにかぶりついたところだったコテツは、「んー?」と生返事をした。
そんなふたりの様子に構うことなく、シュウヤは楽しそうな表情で話を続けた。
「片目魚の呪いだよ」
校則通りに着こなされた制服。
さっぱりと整えられた黒髪は清潔感があり、黒縁メガネは賢さの演出にひと役買っている。
クールな雰囲気のシュウヤはクラスの女子たちから人気があるのを、ヒロは知っている。シュウヤの顔が最近話題の俳優にちょっと似てると彼女たちが噂しているのを耳にしたこともあるので、そのルックスも彼女たちのお気に召したのだろう。
 ヒロたちが昼休みによく使っている理科室の鍵は、中一の夏にシュウヤが持ってきた。
曰く、涼しいところで飯が食いたい、と。
理科室には、教室と違ってエアコンがついている。
保管されている薬品の影響のせいか独特の匂いがするのと、少々ほこりっぽくて薄暗いのを除けば、理科室は快適な空間だ。
理科室が使われる頻度は低く、どこかの部活の部室にもなっていない。
教室のある棟とは別の棟にある不便な立地も手伝って、他の生徒が近づくことも稀である。
薄暗いのは、誰か人がいると思われないように消灯しているせい。
それとたぶん、理科室のテーブルが真っ黒だから。
しかし、人目を気にせず快適な温度の場所で仲良くご飯を食べられるなら、そんなのは些細なことだ。
食堂か教室で昼食を食べる生徒が多いこの学校で、空き教室を貸し切って食べてる生徒はぼくたちくらいだろうなって、ヒロは思っている。
ちなみに、食堂にも冷房はない。
終始開け放たれた4か所の扉はよく言えば生徒をいつでも迎えてくれてる。
悪く言えば、外の熱気も冷気も害虫も拒まない。
隅に置かれた業務用らしき大きな扇風機が、申し訳程度に食堂内の空気をかき回しているだけだ。
「のろいー?」
興味深そうにその話題に食いついたのは、焼きそばパンを咀嚼し終えたらしいコテツ。
野球部所属のコテツの肌は、健康的な小麦色に焼けている。
ニカっと笑うと見える白い歯がかわいいと、これまた女子たちの噂話で聞いたことがある。
試合の日には黄色い声援が絶え間ないと、これはコテツの部活仲間から聞いた話だ。
ふたりとも、小学校からなんだかんだとつるんでいる幼馴染的親友だ。
「そうだ、呪い。なんでも片目だけの魚がたくさん釣れるらしい。これはぜひ、実際に見に行くべきだと思う。今週の土曜、空いてるか」
「部活の後ならいいぞー」
コテツはそう言って、大きな口をあけて残りの焼きそばパンを全部、口の中に押し込んだ。
「うん、いいよ。シュウヤの家に集合?」
ヒロも頷いて、弁当箱に残っていた唐揚げに狙いを定めた。
「ああ。各自捕獲道具を持参して、自転車に乗って来てくれ」
シュウヤは満面の笑みでチョコレートホイップパンにかじりついた。
メロンパン、クリームパンと既に二つの菓子パンを平らげているのを見ていたヒロは、そっとシュウヤから目をそらし、唐揚げのジューシーさを口いっぱいに感じた。
シュウヤは大の甘党で、時々三コンボの菓子パンをお昼ご飯に披露する。それを目撃するたび、見ているこっちが胸やけしそうだとヒロは思うのだった。