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35.コストを支払い、カードをプレイする

ー/ー





「――もう怒りました。今から全力で室井くんをボコボコにしますっ」


 『朱』の読み方を教えてもらえなかったことが、相当頭に来ていたらしい。

 海風は5枚の手札で口元を隠しながら、じっとりとした目だけをこちらに向けて、やたらと辛辣な言葉を浴びせてきた。

 対して俺は未だ跳ねまわる心音を抑えるように、だが決して気圧されることのない毅然とした態度で返事をした。


「――かきゃ……かかってきな。今回だけは、譲れないよ」


 いつも通り噛んでしまった事実から目を背けつつ、俺は顔と耳の熱をじんじんと感じながら、対面で「よろしくお願いします」と挨拶を交わす。
 そして、そのままじゃんけんに移ったのだった。


『ぽいっ』

「……海風、ちょっと出すの遅くなかった?」
「ううん、そんなことないもん」

「……そ、そうか」


 まぁ、チョキだったらコンマ分、手を作るのが遅くなることもあるか。
 そう自身を納得させながら、俺はパーの手をひっこめる。

 こうして、大事な一戦の火蓋は切って落とされたのであった。


 ……あれ、これ大事な返事をしようとしている前なんだよね?


「じゃあ行くね。“黒服の男”をマナにおいて、おしまいだよ」


 そうこうしているうちに、海風はただスーツを着ただけの男が描かれたカードをプレイした。

 なんか久しぶりに見たな、あのカード。
 コストを支払うのに必要なマナを破壊するカードだから、今回もいやがらせ重視のデッキを組んでいるのかもしれない。

 思えば、あれもれっきとした暗黒期のカードだ。
 だけど効果だけは雑にガチなものにしちゃったから、きっと今でも彼女は使ってくれてるんだな。

 そんなことを考えて小さな幸せを感じている間にも、大きなアクションなどが無いままターンは着々と進んでいった。


「“創世の因果律”をつかって、山札からマナを一枚追加するね」


 海風はさっきから、マナをひたすらに溜め続けている。
 これがセオリーに沿った動きなら、この後何か大物の切り札を出そうとしていることは間違いない。

 対する俺も、早期に『朱』と『鬼』を場に出したいからマナ加速はしたいところだが……その前にこいつを場に出しておく。


「――“腐滅戦艦アドミラル・サルモネラ”を召喚します」


 こいつは、『マナを支払わずに召喚されたクリーチャーは場に置かれず、破壊される』という効果を持ったクリーチャー。
 以前の“確定ドラゴンデッキ事件”の悲劇を繰り返させないために生み出した、要はコスト踏み倒し許さないマンなのだ。
 フレーバーテキストには『世界を滅ぼす瘴気を煙突から吐き出し続けている』と書いてある。
 自分で作っといてなんだが、こいつも大概やべー設定だな。


「ターン終了……さぁ、どうぞ」


 俺は口角をニヤリと上げたまま、海風にターンを渡す。
 すると彼女は渋々といった表情で、“オーシャン・ウインド・ドラゴン”をマナゾーンに置いた。

 今のところは、想定通りに事は進んでいる。
 いや、進みすぎている。

 しかし、そんな状況にかまわず、彼女はマナを溜め続けている。
 この動きは――なんだか不気味だ。

 俺はあくまで、海風の踏み倒しをケアしただけに過ぎない。
 ちょうどこちらにターンが渡って来たので、ここでもう一つ手を打っておこう。


「“有限鳳アノマリー・ウイング”を召喚!」
「……っ」


 これは以前、海風が“オーシャン・ウインド・ドラゴン”の対策として何気なく口にした『場にいるだけで、相手がクリーチャーを出せなくなるカードを作るとか!』という無茶苦茶な一言から、ヒントを得て作ったカードだ。

 当然、そのまま効果を採用したわけではないが、こいつは『場のパワー10000以上のクリーチャーはアタックできない』という強力な効果を持つぞ。
 イラストは闇に葬り去ろうとした第5弾の“曼荼羅展開・無限乖離現象統合鳳 インフィニティ・パラドックス・アノマリー・ウイング”のデザインがこっそり流用されているが、海風には内緒だぞ。


「ぷふっ……次は海風のターンだぁ……」


 あぁだめだ、笑いを堪えることができない。

 さぁ、どうするね海風さん。
 これで正規召喚による大型クリーチャーでのカチコミもできない。


 こうなってしまえば、状況を打開できるカードは――そう、フュージョン後の“神代の融合石板獣『朱鬼』”しか存在しないのだ。


 実は、フュージョンする前の『朱』と『鬼』は、パワーが15000あるというだけで、他に効果を一切持たないいわゆる“バニラカード”。
 キラカードの風上にも置けない、いわゆる大味なハズレアカードとして、敢えて調整させてもらった。

 そして、2体がフュージョンした際に追加される特殊能力は、『パワーが30000になり、相手クリーチャーの効果を受けない』というもの。

 正直――手間のわりにあまり強くはない。
 そのうえ彼女が好きな嫌がらせ戦法もできず、何より俺が意気揚々と考えた新要素だ。

 こんなカード、あの海風が使うわけがない。


 そう、この『朱鬼(すき)』を……!

 この想いを通すのは、俺――


「じゃあ、えっと。“しんだいの、せきばん……けもの? 『鬼』”を召喚します!」




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「――もう怒りました。今から全力で室井くんをボコボコにしますっ」
 『朱』の読み方を教えてもらえなかったことが、相当頭に来ていたらしい。
 海風は5枚の手札で口元を隠しながら、じっとりとした目だけをこちらに向けて、やたらと辛辣な言葉を浴びせてきた。
 対して俺は未だ跳ねまわる心音を抑えるように、だが決して気圧されることのない毅然とした態度で返事をした。
「――かきゃ……かかってきな。今回だけは、譲れないよ」
 いつも通り噛んでしまった事実から目を背けつつ、俺は顔と耳の熱をじんじんと感じながら、対面で「よろしくお願いします」と挨拶を交わす。
 そして、そのままじゃんけんに移ったのだった。
『ぽいっ』
「……海風、ちょっと出すの遅くなかった?」
「ううん、そんなことないもん」
「……そ、そうか」
 まぁ、チョキだったらコンマ分、手を作るのが遅くなることもあるか。
 そう自身を納得させながら、俺はパーの手をひっこめる。
 こうして、大事な一戦の火蓋は切って落とされたのであった。
 ……あれ、これ大事な返事をしようとしている前なんだよね?
「じゃあ行くね。“黒服の男”をマナにおいて、おしまいだよ」
 そうこうしているうちに、海風はただスーツを着ただけの男が描かれたカードをプレイした。
 なんか久しぶりに見たな、あのカード。
 コストを支払うのに必要なマナを破壊するカードだから、今回もいやがらせ重視のデッキを組んでいるのかもしれない。
 思えば、あれもれっきとした暗黒期のカードだ。
 だけど効果だけは雑にガチなものにしちゃったから、きっと今でも彼女は使ってくれてるんだな。
 そんなことを考えて小さな幸せを感じている間にも、大きなアクションなどが無いままターンは着々と進んでいった。
「“創世の因果律”をつかって、山札からマナを一枚追加するね」
 海風はさっきから、マナをひたすらに溜め続けている。
 これがセオリーに沿った動きなら、この後何か大物の切り札を出そうとしていることは間違いない。
 対する俺も、早期に『朱』と『鬼』を場に出したいからマナ加速はしたいところだが……その前にこいつを場に出しておく。
「――“腐滅戦艦アドミラル・サルモネラ”を召喚します」
 こいつは、『マナを支払わずに召喚されたクリーチャーは場に置かれず、破壊される』という効果を持ったクリーチャー。
 以前の“確定ドラゴンデッキ事件”の悲劇を繰り返させないために生み出した、要はコスト踏み倒し許さないマンなのだ。
 フレーバーテキストには『世界を滅ぼす瘴気を煙突から吐き出し続けている』と書いてある。
 自分で作っといてなんだが、こいつも大概やべー設定だな。
「ターン終了……さぁ、どうぞ」
 俺は口角をニヤリと上げたまま、海風にターンを渡す。
 すると彼女は渋々といった表情で、“オーシャン・ウインド・ドラゴン”をマナゾーンに置いた。
 今のところは、想定通りに事は進んでいる。
 いや、進みすぎている。
 しかし、そんな状況にかまわず、彼女はマナを溜め続けている。
 この動きは――なんだか不気味だ。
 俺はあくまで、海風の踏み倒しをケアしただけに過ぎない。
 ちょうどこちらにターンが渡って来たので、ここでもう一つ手を打っておこう。
「“有限鳳アノマリー・ウイング”を召喚!」
「……っ」
 これは以前、海風が“オーシャン・ウインド・ドラゴン”の対策として何気なく口にした『場にいるだけで、相手がクリーチャーを出せなくなるカードを作るとか!』という無茶苦茶な一言から、ヒントを得て作ったカードだ。
 当然、そのまま効果を採用したわけではないが、こいつは『場のパワー10000以上のクリーチャーはアタックできない』という強力な効果を持つぞ。
 イラストは闇に葬り去ろうとした第5弾の“曼荼羅展開・無限乖離現象統合鳳 インフィニティ・パラドックス・アノマリー・ウイング”のデザインがこっそり流用されているが、海風には内緒だぞ。
「ぷふっ……次は海風のターンだぁ……」
 あぁだめだ、笑いを堪えることができない。
 さぁ、どうするね海風さん。
 これで正規召喚による大型クリーチャーでのカチコミもできない。
 こうなってしまえば、状況を打開できるカードは――そう、フュージョン後の“神代の融合石板獣『朱鬼』”しか存在しないのだ。
 実は、フュージョンする前の『朱』と『鬼』は、パワーが15000あるというだけで、他に効果を一切持たないいわゆる“バニラカード”。
 キラカードの風上にも置けない、いわゆる大味なハズレアカードとして、敢えて調整させてもらった。
 そして、2体がフュージョンした際に追加される特殊能力は、『パワーが30000になり、相手クリーチャーの効果を受けない』というもの。
 正直――手間のわりにあまり強くはない。
 そのうえ彼女が好きな嫌がらせ戦法もできず、何より俺が意気揚々と考えた新要素だ。
 こんなカード、あの海風が使うわけがない。
 そう、この『朱鬼(すき)』を……!
 この想いを通すのは、俺――
「じゃあ、えっと。“しんだいの、せきばん……けもの? 『鬼』”を召喚します!」