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第一話 人生で最高の日

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 花畑で長く伸ばした黒髪の少女が、くるくると遊び回っている。少女は花を拾い集めて、その茎を繋いでいく。繋いだ花は冠の形になった。
 花で出来た冠を少女はおぼつかない足取りで、ある人のところに持っていく。
 彼女が辿り着いた先には、背の高い男性がいた。少女は笑顔で男性に向かって、ピョコピョコとジャンプして頭に冠を被せようとした。
 
 男性は微笑みを浮かべて、少女の前に跪いて頭を下げ、花の冠を少女から被せられた。
 男性の顔は誰だか分からない。だが、彼はとても優しい表情をしているように思えた。
 彼は手を伸ばし、少女の頭をそっと割れ物でも触れるかのように丁寧に撫でる。その手は人の温かみを感じさせるものだった……。
 少女は男性に向かって笑顔でこう言った。

「絶対に迎えに来てね」……。

 男性が口を開いて、何かを言おうとした瞬間――

 ハッと、ニーナは目を覚まして飛び起きた。

「あ……」と、言葉を口にして彼女は茫然としていた。
 今見えた風景は夢であったのだ。
 懐かしいような、嬉しいような、温かい思い出のような夢だった気がする。
 ニーナは目から涙を流していることに気付き、目をこすった。今日は誕生日だから、早く起きなくてはならない。

 ニーナはベッドから降りて、膝下まである襟付きの白いワンピースに着替えを済まし、階段を降りようとして足を止める。
 振り返って机の方を見た。
 
 「そうだ、あれを着けよう」
 
 そう呟いて、机の方へと向かい、引き出しを開けた。
 その中には、白いツツジを模した髪飾りがあった。それを手に取り、頭の右側に付けて、髪を整える。

「お母さん、おはよう!」

 ニーナの明るい声が響く。一階の食卓に座っていた母は振り向き、「おはよう」と言う。
 母は席から立ち上がろうとしてふらついた。

「お母さん危ない!」

 すぐさま、ニーナは母に駆け寄り、体を支えた。

「あなたの誕生日を祝いたくて…もう15歳になるんだね。さあ、一緒にご飯を食べようね」

 そう言って母は、ニーナを向かいの席に座らせ、共に食事を始めた。
 普段は高価で食べられない羊の肉が食卓に並べられている。
 母は記念の日を噛み締めるかのように、ゆっくりと食事を味わっている。母の食事の様子を見つつ、彼女も味わって食事をしていた。

 アムール村への道端には誰もいない。ニーナは向かい風に心地良さを感じながら、整えられた道を歩いていく。いつもより村に早く着きそうだ。
 今日は時間が速く過ぎていくように感じる。
 ニーナは鼻歌混じりに歩き、アムール村へと下って行った。

 アムール村では村人たちがお祭り騒ぎになっていた。
 
 この村では、村人一人が成人すると村総出で祝う。
 村人たちは皆、どこかゆったりとした動きをしている。
 ニーナの家はアムール村の外れにあったが、家族が村人との交流が活発だったため、ニーナはまるで村の子のように可愛がられていた。
 
「おめでとう!」「もう一人前なんだね」と歓喜の声があげられる。

 ニーナの成人が、これほどまでに喜ばれる理由を、彼女は深く考えたことがなかった。
 村人たちが次々にニーナに話しかけてくる。そして、贈り物を手渡していた。

「はい、どうぞ」「お母さん孝行するんだよ」

 あまりのプレゼントの多さに、すぐにニーナは両手がいっぱいになった。
 贈り物を抱えながらニーナは辺りを見渡していた。

 すると、薄紫髪の青年がニーナの近くに歩いてきた。雑貨屋のイヴだ。彼は袋に包まれた長い、人の背丈ほどある棒状の物を両手に持ってきた。

 「はい、一人前のプレゼントだよ。どうぞ。あ、でもそんなにいっぱい物を抱えていたら持てないか」

 彼はそう言って、困ったような顔をしていたが、コホンと咳払いをすると、「もらったプレゼントはここに入れなよ」と言って、ニーナにかごを差し出した。
 ニーナは礼をして、かごに物を入れていく。それから、イヴはニーナと少し距離を置き、彼は自分からの贈り物であろう両手に持っている物を振り上げた。

「ニーナ、誕生日おめでとう!」と、普段は全く出さないような大声を出して、袋を開き、中身を取り出す。
 ニーナは彼の贈り物がとても気になったのか、少し覗き込んだ。

 彼が袋から取り出したのは――
 「杖」であった。
 
 アムール村の雑貨屋で売っていた白い花を頭につけた植物の茎のような杖だ。

「ニーナって、魔法を昔勉強してたんだよね?魔法がずっと好きで、魔導書をたくさん読んでいたって聞いていたんだよ」

「イヴ、それはそうなんだけど、この杖って村の中では見たことないよ。どこで手に入れたの?ずっとこの日のために準備してたの?」

 ニーナは嬉しいような申し訳ないような顔でイヴの表情を伺う。

「そんなこと気にしないでよ。僕のことなんて心配しないで、好意だと思って受け取ってほしいな」

 彼がそう言うと、ニーナは満面の笑みで「ありがとう」と言った。
 イヴはそれを見て、満足げに頷いた。周囲の村民たちがニーナを祝福して拍手喝采を送った。

 今日は人生で忘れられない一番最高の日になるだろうな。ニーナはそう思いながら、村民たちから話しかけられて続けていた。

 ――アムール村付近の川縁。
 騎士たちが馬車を止めて屯っている。

「『闇の子』がいるのは、この先の村か」

「そのようです。今、村はその者の成人の祝いでお祭り騒ぎだとか」

「その者は黒髪で右頬に黒い痣のある少女だな」

「はい。他の村民には危害を加えずに娘を回収しましょう。そもそも王国に逆らえる者などいませんので」

「そうだな。そろそろ出発するか」

 白い鎧を着た騎士たちがぞろぞろと馬に跨って、森の中の緩やかな坂道を登っていく。
 
 その雰囲気は到底良いものとは言えず、殺伐とした、これから怪物の討伐にでも向かうような不穏なものだった。彼らは道なりにアムール村へと辿ろうとする。
 
 その中で一人の青髪の若い兵が青いマントをしている上官と思われる騎士に「しかし、これほど武装して行くものですか?」と、問いかけた。
 
 青いマントの男は振り向きもせず、前に進みながら、「国が命じたことは絶対だ」と唸るような低い声で答える。
 上官に話しかけた兵は恐縮して俯く。
 兵たちはアムール村に着々と進んでいくのであった。

 ニーナへのお祝いが終わって住民たちは自分たちの生活に戻っていった。
 村の広場にはしゃがみ込んで、かごいっぱいの祝い品を整理しているニーナと、その側にイヴが残っている。

 彼は言った。

「プレゼントを運ぶのを手伝うよ。女の子一人じゃ持って帰るのが大変だからね」

 ニーナはイヴに振り返る。

「ありがとう、イヴ。いつも助けてもらってごめんね」

「いやいや、これは僕がやりたくてやってることだから謝る必要なんてないよ。ほら、帰ろう。お母さんが待ってるよ」

 イヴは微笑んで重いかごを両手で持ち上げ、ニーナが立ち上がるのを待った。
 ニーナはスカートの汚れを払ってイヴと一緒に帰り道を歩き始める。

「今日はすごかったね。僕の時よりももっと賑やかだった」

 彼は今日の出来事を驚いた様子で振り返っていた。

「あんなに人が集まったのは初めて見たな」

「私も」と、ニーナは答えた。

 イヴはじっと彼女の顔を見て歩いていた。彼の視線に気付いたニーナが振り向くと、彼は少し微笑んでいるのに気付く。
 それに対して、彼女は少し頬を赤らめて目一杯の笑みを返した。

「良かったね」

 イヴはその一言を放つと、前を向き直して歩く。
 彼らの上にある紫がかった空に浮かんだ太陽が、力強く彼らを照らしていた。

「ただいま」

 玄関の扉を開け、ニーナは家の中に入った。その後に、「お邪魔します」とイヴが続く。

 ニーナの母は食卓の椅子に座って、小物を縫っていたようで、二人が家に入ってくると、にこやかに「おかえりニーナ。イヴくんもわざわざありがとうね」と言って、立ち上がる。

「お母さん、こんなにプレゼントをもらっちゃったのだけど……」
 ニーナはそう言うと、手に持っていた杖を壁に立てかけて、イヴからカゴを受け取り、食卓に置いた。
 そこから贈り物を一つひとつ取り出していく。

「あら、たくさんいただいたのね。ありがたいことだねぇ」

 母はそう言って笑みを見せる。

「いやぁ、すごくお祝いしてもらって。そういえば、イヴの時も村の人たちはすごく喜んでたなぁ」

「この村にはほとんど若い人がいないからね。ニーナと、イヴくんだけかしら」

 そう話す母娘の後ろで、イヴはニコニコと笑顔を見せて立っていた。

「おばさん、そろそろ僕は家に帰ります。あまりお邪魔するのも申し訳ないので。あとはニーナとゆっくり過ごしてください」

「イヴくん、ニーナを送ってくれてありがとう。これからもよろしくね」

 イヴはその言葉を聞くと、笑顔で手を振って玄関の戸を閉めて帰って行った。
 残されたニーナは母親に、今日の出来事を大きく身振り手振りをして話していた。

「じゃあ、ニーナが壁に立てかけた杖はイヴくんからもらった物だったのね」

「うん、すごく可愛くて良い杖でね。後で試しに使ってみようかなぁ」

 ニーナは母と食卓を挟んで向かい合って座り、プレゼントを開けたり、村の賑わい様を話していた。

「もらった杖を見せてくれるかしら」

 母の問いかけに、ニーナは「いいよ!」と返事をし、喜んで杖を取って、丁寧な包装を解いていく。

「わぁ、すごい……。こんなに良い物をくれたの」

 机に置かれた杖を手に取って、母は感嘆のため息を漏らす。
 
 太陽のような花のつぼみを先端に付けた見た目のその杖は、まさにニーナの明るい性格を表しているようだった。
 イヴがそのような杖をどこで仕立てたのかは分からないが、とにかく店売りの物とは違う特別に作られた物であることに間違いはなかった。

 母は「ありがたいねぇ」と何度も言って、杖を隅から隅まで見ていた。

「ニーナは昔から魔導が好きだったよね。最近はあまり魔導の練習をしていないみたいだけど、またやってみてもいいのじゃないかしら?」

 母のその言葉を聞いて、ニーナは頷き、杖を取って玄関の扉に向かおうとした時、ふいに立ち止まる。

 足音がする。
 ひどく急いでいるような足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。

 それに気付いたニーナが一歩、玄関に踏み出したその時――

 何度も短い間隔のノックの後、扉が勢いよく大きな音を立てて開く。
 ドアの先に立っていたのは、汗だくで息の上がったイヴだった。


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 花畑で長く伸ばした黒髪の少女が、くるくると遊び回っている。少女は花を拾い集めて、その茎を繋いでいく。繋いだ花は冠の形になった。
 花で出来た冠を少女はおぼつかない足取りで、ある人のところに持っていく。
 彼女が辿り着いた先には、背の高い男性がいた。少女は笑顔で男性に向かって、ピョコピョコとジャンプして頭に冠を被せようとした。
 男性は微笑みを浮かべて、少女の前に跪いて頭を下げ、花の冠を少女から被せられた。
 男性の顔は誰だか分からない。だが、彼はとても優しい表情をしているように思えた。
 彼は手を伸ばし、少女の頭をそっと割れ物でも触れるかのように丁寧に撫でる。その手は人の温かみを感じさせるものだった……。
 少女は男性に向かって笑顔でこう言った。
「絶対に迎えに来てね」……。
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 ハッと、ニーナは目を覚まして飛び起きた。
「あ……」と、言葉を口にして彼女は茫然としていた。
 今見えた風景は夢であったのだ。
 懐かしいような、嬉しいような、温かい思い出のような夢だった気がする。
 ニーナは目から涙を流していることに気付き、目をこすった。今日は誕生日だから、早く起きなくてはならない。
 ニーナはベッドから降りて、膝下まである襟付きの白いワンピースに着替えを済まし、階段を降りようとして足を止める。
 振り返って机の方を見た。
 「そうだ、あれを着けよう」
 そう呟いて、机の方へと向かい、引き出しを開けた。
 その中には、白いツツジを模した髪飾りがあった。それを手に取り、頭の右側に付けて、髪を整える。
「お母さん、おはよう!」
 ニーナの明るい声が響く。一階の食卓に座っていた母は振り向き、「おはよう」と言う。
 母は席から立ち上がろうとしてふらついた。
「お母さん危ない!」
 すぐさま、ニーナは母に駆け寄り、体を支えた。
「あなたの誕生日を祝いたくて…もう15歳になるんだね。さあ、一緒にご飯を食べようね」
 そう言って母は、ニーナを向かいの席に座らせ、共に食事を始めた。
 普段は高価で食べられない羊の肉が食卓に並べられている。
 母は記念の日を噛み締めるかのように、ゆっくりと食事を味わっている。母の食事の様子を見つつ、彼女も味わって食事をしていた。
 アムール村への道端には誰もいない。ニーナは向かい風に心地良さを感じながら、整えられた道を歩いていく。いつもより村に早く着きそうだ。
 今日は時間が速く過ぎていくように感じる。
 ニーナは鼻歌混じりに歩き、アムール村へと下って行った。
 アムール村では村人たちがお祭り騒ぎになっていた。
 この村では、村人一人が成人すると村総出で祝う。
 村人たちは皆、どこかゆったりとした動きをしている。
 ニーナの家はアムール村の外れにあったが、家族が村人との交流が活発だったため、ニーナはまるで村の子のように可愛がられていた。
「おめでとう!」「もう一人前なんだね」と歓喜の声があげられる。
 ニーナの成人が、これほどまでに喜ばれる理由を、彼女は深く考えたことがなかった。
 村人たちが次々にニーナに話しかけてくる。そして、贈り物を手渡していた。
「はい、どうぞ」「お母さん孝行するんだよ」
 あまりのプレゼントの多さに、すぐにニーナは両手がいっぱいになった。
 贈り物を抱えながらニーナは辺りを見渡していた。
 すると、薄紫髪の青年がニーナの近くに歩いてきた。雑貨屋のイヴだ。彼は袋に包まれた長い、人の背丈ほどある棒状の物を両手に持ってきた。
 「はい、一人前のプレゼントだよ。どうぞ。あ、でもそんなにいっぱい物を抱えていたら持てないか」
 彼はそう言って、困ったような顔をしていたが、コホンと咳払いをすると、「もらったプレゼントはここに入れなよ」と言って、ニーナにかごを差し出した。
 ニーナは礼をして、かごに物を入れていく。それから、イヴはニーナと少し距離を置き、彼は自分からの贈り物であろう両手に持っている物を振り上げた。
「ニーナ、誕生日おめでとう!」と、普段は全く出さないような大声を出して、袋を開き、中身を取り出す。
 ニーナは彼の贈り物がとても気になったのか、少し覗き込んだ。
 彼が袋から取り出したのは――
 「杖」であった。
 アムール村の雑貨屋で売っていた白い花を頭につけた植物の茎のような杖だ。
「ニーナって、魔法を昔勉強してたんだよね?魔法がずっと好きで、魔導書をたくさん読んでいたって聞いていたんだよ」
「イヴ、それはそうなんだけど、この杖って村の中では見たことないよ。どこで手に入れたの?ずっとこの日のために準備してたの?」
 ニーナは嬉しいような申し訳ないような顔でイヴの表情を伺う。
「そんなこと気にしないでよ。僕のことなんて心配しないで、好意だと思って受け取ってほしいな」
 彼がそう言うと、ニーナは満面の笑みで「ありがとう」と言った。
 イヴはそれを見て、満足げに頷いた。周囲の村民たちがニーナを祝福して拍手喝采を送った。
 今日は人生で忘れられない一番最高の日になるだろうな。ニーナはそう思いながら、村民たちから話しかけられて続けていた。
 ――アムール村付近の川縁。
 騎士たちが馬車を止めて屯っている。
「『闇の子』がいるのは、この先の村か」
「そのようです。今、村はその者の成人の祝いでお祭り騒ぎだとか」
「その者は黒髪で右頬に黒い痣のある少女だな」
「はい。他の村民には危害を加えずに娘を回収しましょう。そもそも王国に逆らえる者などいませんので」
「そうだな。そろそろ出発するか」
 白い鎧を着た騎士たちがぞろぞろと馬に跨って、森の中の緩やかな坂道を登っていく。
 その雰囲気は到底良いものとは言えず、殺伐とした、これから怪物の討伐にでも向かうような不穏なものだった。彼らは道なりにアムール村へと辿ろうとする。
 その中で一人の青髪の若い兵が青いマントをしている上官と思われる騎士に「しかし、これほど武装して行くものですか?」と、問いかけた。
 青いマントの男は振り向きもせず、前に進みながら、「国が命じたことは絶対だ」と唸るような低い声で答える。
 上官に話しかけた兵は恐縮して俯く。
 兵たちはアムール村に着々と進んでいくのであった。
 ニーナへのお祝いが終わって住民たちは自分たちの生活に戻っていった。
 村の広場にはしゃがみ込んで、かごいっぱいの祝い品を整理しているニーナと、その側にイヴが残っている。
 彼は言った。
「プレゼントを運ぶのを手伝うよ。女の子一人じゃ持って帰るのが大変だからね」
 ニーナはイヴに振り返る。
「ありがとう、イヴ。いつも助けてもらってごめんね」
「いやいや、これは僕がやりたくてやってることだから謝る必要なんてないよ。ほら、帰ろう。お母さんが待ってるよ」
 イヴは微笑んで重いかごを両手で持ち上げ、ニーナが立ち上がるのを待った。
 ニーナはスカートの汚れを払ってイヴと一緒に帰り道を歩き始める。
「今日はすごかったね。僕の時よりももっと賑やかだった」
 彼は今日の出来事を驚いた様子で振り返っていた。
「あんなに人が集まったのは初めて見たな」
「私も」と、ニーナは答えた。
 イヴはじっと彼女の顔を見て歩いていた。彼の視線に気付いたニーナが振り向くと、彼は少し微笑んでいるのに気付く。
 それに対して、彼女は少し頬を赤らめて目一杯の笑みを返した。
「良かったね」
 イヴはその一言を放つと、前を向き直して歩く。
 彼らの上にある紫がかった空に浮かんだ太陽が、力強く彼らを照らしていた。
「ただいま」
 玄関の扉を開け、ニーナは家の中に入った。その後に、「お邪魔します」とイヴが続く。
 ニーナの母は食卓の椅子に座って、小物を縫っていたようで、二人が家に入ってくると、にこやかに「おかえりニーナ。イヴくんもわざわざありがとうね」と言って、立ち上がる。
「お母さん、こんなにプレゼントをもらっちゃったのだけど……」
 ニーナはそう言うと、手に持っていた杖を壁に立てかけて、イヴからカゴを受け取り、食卓に置いた。
 そこから贈り物を一つひとつ取り出していく。
「あら、たくさんいただいたのね。ありがたいことだねぇ」
 母はそう言って笑みを見せる。
「いやぁ、すごくお祝いしてもらって。そういえば、イヴの時も村の人たちはすごく喜んでたなぁ」
「この村にはほとんど若い人がいないからね。ニーナと、イヴくんだけかしら」
 そう話す母娘の後ろで、イヴはニコニコと笑顔を見せて立っていた。
「おばさん、そろそろ僕は家に帰ります。あまりお邪魔するのも申し訳ないので。あとはニーナとゆっくり過ごしてください」
「イヴくん、ニーナを送ってくれてありがとう。これからもよろしくね」
 イヴはその言葉を聞くと、笑顔で手を振って玄関の戸を閉めて帰って行った。
 残されたニーナは母親に、今日の出来事を大きく身振り手振りをして話していた。
「じゃあ、ニーナが壁に立てかけた杖はイヴくんからもらった物だったのね」
「うん、すごく可愛くて良い杖でね。後で試しに使ってみようかなぁ」
 ニーナは母と食卓を挟んで向かい合って座り、プレゼントを開けたり、村の賑わい様を話していた。
「もらった杖を見せてくれるかしら」
 母の問いかけに、ニーナは「いいよ!」と返事をし、喜んで杖を取って、丁寧な包装を解いていく。
「わぁ、すごい……。こんなに良い物をくれたの」
 机に置かれた杖を手に取って、母は感嘆のため息を漏らす。
 太陽のような花のつぼみを先端に付けた見た目のその杖は、まさにニーナの明るい性格を表しているようだった。
 イヴがそのような杖をどこで仕立てたのかは分からないが、とにかく店売りの物とは違う特別に作られた物であることに間違いはなかった。
 母は「ありがたいねぇ」と何度も言って、杖を隅から隅まで見ていた。
「ニーナは昔から魔導が好きだったよね。最近はあまり魔導の練習をしていないみたいだけど、またやってみてもいいのじゃないかしら?」
 母のその言葉を聞いて、ニーナは頷き、杖を取って玄関の扉に向かおうとした時、ふいに立ち止まる。
 足音がする。
 ひどく急いでいるような足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
 それに気付いたニーナが一歩、玄関に踏み出したその時――
 何度も短い間隔のノックの後、扉が勢いよく大きな音を立てて開く。
 ドアの先に立っていたのは、汗だくで息の上がったイヴだった。