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ー/ー



 腹にずっしりと重みを感じた。息苦しさに、薄目を開ける。


「ん……なに、ふぁっ!?」


 思わず絶叫。待って何どうしたのどういうことなの。
 僕の上には何故か人らしきお姉さんが馬乗りになっていた。なぜ『らしき』って言葉を使ったのかというと、髪と目の色がおかしすぎるから。


「お目覚めかい? 可愛いぼうや」


 あ、声可愛い。よくアニメとかに出てきそうな、ロリ声ってやつ。
 銀色の長い髪、透き通るような青い瞳、ぷるんと赤い唇から覗く、二つの小さな牙。
 待ってやっぱりおかしいから。まじまじと観察してみて、不信感は高まる。声だけじゃなくて見た目までアニメキャラっぽい。


「あの……、コスプレイヤーさんでしょうか? とりあえず重いので、僕の上から……」
「はあ?」


 お姉さんは凄んだつもりなんだろうけど、やっぱりロリ声だ、可愛い。これが萌えってやつかな。


「ごめんなさい……僕あんまりアニメとか観ないから、なんのキャラなのかわからないけど、とっても可愛いです。だからどいて……」


 みぞおちと胸をダイレクトに圧迫されて、そろそろ限界。気持ち悪くなってきた。目の縁に溜まった涙を拭うこともできずに僕は懇願した。


「あにめとかこすぷれとか、さっきから何を言ってるんだいっ!」
「はう……、ぐう、苦しい……ですっ」


 さらに腹についた手に、力が加わった。僕は両手をどうにか持ち上げお姉さんの体を押した。
 ぷにゅん、って弾力。あれ、夢中で押し返そうとした場所は、どうやらおっぱいだったみたいだ。
 ふ、不可抗力だよね、今のは。


「お? ……あんたもようやくその気になったのかい? さあ、観念してその可愛い肉棒をよこしな?」
「へっ?」


 ロリ声なお姉さんの手が、僕の下半身に伸びる。


「わ、わ、わあっ! だめですよ……っ、そんなとこ触らないでっ」


 バタバタと、足を振り回して精一杯の抵抗をしてみせる。


「おや? 抵抗するつもりかい? 人間の分際で、あたしから逃げられるとでも思ってるのかい?」


 ようやく手が、僕の腹から退いた。ふう、と深く息をつく。
 てか、なんだか口調も言ってることもおかしいような。
 役になりきってるのかなあ。最近のコスプレイヤーさんは、とってもレベルが高いんだなあ。
 そんなことを思って黙っていると、お姉さんはニヤリと笑った。


「恐怖で声もでないのかい? 大丈夫、気持ちよく昇天させてから、生気を搾り取ってやるから……」
「ち、痴女キャラなんです? それ。にしては声、可愛いすぎなような……」
「こ、声? 可愛いだと?」


 お姉さんの顔が引きつり、みるみる青ざめていく。
 あれ、僕、なんか気にさわること言っちゃった?


「可愛……くないです……え?」


 いや、それも失礼なんじゃ? どうしたらいいのかわからず、僕は押し黙る。
 お姉さんはしょんぼりとした顔で、ようやく僕の上から完全に退いた。
 そのまま肩を落としてひとりごちる。


「やっぱり……あたしには雪女の才能はないのかえ。声だって高すぎるから、凄んでも迫力は出ないし、おっぱいも小さいんじゃ。そもそも色気が足りん。性欲が一番高まるはずの年頃の男ですら、あたしに誘惑されない……。なぜじゃ。仲間たちはみんな、老若問わず男たちの精液を搾り取って美しさを保つ糧にしているというのに……」
「………………」


 せ、設定かな。


「あの……」
「もうよい、おまえに用はない……」
「あのっ……」
「なんじゃっ! 目障りじゃっ! とっとと帰れっ」


 ぴしゃりと投げつけられて、僕の体もびくりと震える。
 帰れ、と言われてふと思った。そういえば僕はどうしてここに……。
 改めてまわりを見渡すと、そこは洞窟の中だった。人工色のまるでない岩ばかりの場所に、松明の明かりが二つだけ。
 こんな場所、僕の知ってる限りでは無い。
 ……コスプレイヤーさんの撮影場所かな。
 帰れと言われても、家までの道もわからないし。


「ねえ」
「ん?」
「……可愛い声って言われるの、嫌でした? 傷つけてしまったのなら、ごめんなさい。でも僕、お姉さんの声素敵だなって思いますよ? その格好も設定も……」


 励ますつもりで頑張る。口下手なりに。


「ほう、だったらあたしとするかい? セックス。あんたの精液を、搾り取らせてくれるのかい?」


 お姉さんが凄むように言う。だけど相変わらず安定のロリ声。


「そ、そーゆうのは……」


 再び近付いてきたお姉さんの手が僕の股間に。


「あう……っ」


 セックス、の経験なんてないけれど、そこを擦られるのが気持ちいいことはわかっていた。自分で触ったことしかないけど。
 お姉さんの手でされたら……どうなっちゃうんだろう。


「ふふ、可愛い顔になってきたじゃないか。あたしがもっとヨくしてやろう……」


 そう言って、彼女の唇が僕のに……。


「だ、ダメですううっ」


 僕は最後の理性を振り絞って、お姉さんの体を突き飛ばした。
 お姉さんは少しよろけて僕から離れる。


「やっぱり……あたしには色気が」
「じゃなくてですねっ! ああお願いだから落ち込まないでえっ」


 コケとか生えてしまいそうな、肩の落とし具合に焦る。


「色気がないとか声が可愛いからとかではなく……、やっぱり僕にはそういうのまだ早いですし、そういうのは、ちゃんと好きになった人とやりたいので……。そもそもお姉さんが誰かもわからないですし……」


 お姉さんは恨めしげに僕を見つめ、無言。
 いや、無言は逆に怖いんだけど。


「あの……僕はお姉さんの声好きですよ? 可愛いです。細かい設定も演技もすごいと思います。世界一の痴女コスプレイヤー目指して、頑張ってくださいね」


 声を可愛いと思ったのは本音。なんか好き、ずっと耳に残りそうで、ドキドキする。
 お姉さんの無言は続く。


「ふん、言いたいことはそれだけかい?」


 ようやく口を開いたお姉さんは、吐き捨てるように言った。


「……人間の言うことは、よくわからん。……あたしの負けだ。人間の精液を搾り取れなきゃ、その男を殺すことも、記憶を消すこともできない、それが雪女の掟だからね」


 おお、本当に細かい設定だなあ。僕は素直に感心した。
 ふいにお姉さんの右手が僕の目前にまで伸びてきた。
 何かを思う間もなく、強烈な睡魔が襲ってくる。僕の意識はすぐに落ちていった。
 ーー再び聴こえてきたのは別のだった。しわがれているけど聞き慣れた声。


「……あれ、おばあちゃん?」


 目を開けるとそこは、おばあちゃんちだ。自分の家よりさらにド田舎にあって、夏休みや冬休みは毎年泊まりにきている。おばあちゃんちは雪国だ。毎年雪かきを手伝ったり、雪だるまを作って遊ぶ。
 そうだ……今日も僕、雪で遊んでたんだ。いつも禁止されている山の中にこっそり入ったら、帰れなくなっちゃって。寒くて震えていたら、変な格好のお姉さんに……。
 あ、あれ? そういえばお姉さんは?


「お姉さんが、僕をおばあちゃんちに連れてきてくれたの?」
「お姉さん? 何を言っとる。山の入り口に倒れていたんだよ、おまえは。まったく、あれほど山には行くなと言ったのに。それにしても、お姉さんというのは誰だい? 世話になった人なら、礼をしなくてはいけないね。詳しく話しなさい」


 僕は頷いて、お姉さんのことを覚えている限り詳しく話した。外見とか、声とか、変な話し方とか。ロリ声とかコスプレイヤーの意味がわからないみたいで、おばあちゃんは所々首をかしげていたけれど、全部話し終えると、ほっとしたような顔で笑った。


「それは雪女じゃな」
「……のコスプレイヤーさんじゃなくて?」
「ん? なんじゃ、そりゃ。雪女じゃよ。この辺りに伝わる史実によると、雪女は山に迷い込んだ男を連れ込んで、誘惑して精液を搾り取るんじゃ。みんな美しい姿をしとるそうだ。若い頃のワシのようにな」


 おばあちゃんはにししと笑う。


「……誘惑に打ち勝ち、よくぞ戻った我が孫よ。もし負けていたら、そのまま殺されていたろうからなあ」


 本物……だったんだあ。
 ただただびっくりした。


「雪女って、精液搾り取れないと、死んじゃったりするの?」
「いや、死にはせんじゃろ。雪女にとってのそれは、美しさを鼓舞するためのゲームみたいなものらしいからのう。精液は若さを保つための薬のようなものと聞くが、そもそも雪女の寿命はワシらよりもずーっと長い。人間でいう、一種の女磨きの一環と考えなさい」


 女磨きのために男を殺しちゃうなんて、なんて恐ろしい世界。
 だけど言われてみれば、あのお姉さんは自分の声やおっぱいの大きさにずいぶん悩んでたみたいだった。
 僕はとっても可愛いと思う。もう少し大きくなってから出会っていたら、確実に誘惑されていたかもしれないくらいロリ声は可愛かったのに、雪女の世界じゃあんまり美女じゃないのかもしれない。


「もし、今度お姉さんに会ったら……」
「またおまえは山に入る気か?」
「ち、違うけどっ、もしどっかで偶然、本当に偶然お姉さんを見かけたら……」


 僕は窓の外に目を向けた。そこには、見慣れた銀色が広がっている。お姉さんの美しい髪と同じ色だ。


「ちゃんと、お姉さんは可愛いって伝えるんだ。声も可愛いくて、おっぱいも可愛い。僕はそのままのお姉さんが好きだよって」


 おばあちゃんは腹を抱えて大笑いした。


「初恋は雪女か。これは将来女好きになるのう」


 そういう言い伝えもあるらしい。雪女が初恋だと、女好きに育つとか。ホラ話が好きなおばあちゃんの言うことは、どこまで信用していいかわからないけど。
 所々、作り話っぽいよね。
 そう言って、僕も笑った。






おわり。


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 腹にずっしりと重みを感じた。息苦しさに、薄目を開ける。
「ん……なに、ふぁっ!?」
 思わず絶叫。待って何どうしたのどういうことなの。
 僕の上には何故か人らしきお姉さんが馬乗りになっていた。なぜ『らしき』って言葉を使ったのかというと、髪と目の色がおかしすぎるから。
「お目覚めかい? 可愛いぼうや」
 あ、声可愛い。よくアニメとかに出てきそうな、ロリ声ってやつ。
 銀色の長い髪、透き通るような青い瞳、ぷるんと赤い唇から覗く、二つの小さな牙。
 待ってやっぱりおかしいから。まじまじと観察してみて、不信感は高まる。声だけじゃなくて見た目までアニメキャラっぽい。
「あの……、コスプレイヤーさんでしょうか? とりあえず重いので、僕の上から……」
「はあ?」
 お姉さんは凄んだつもりなんだろうけど、やっぱりロリ声だ、可愛い。これが萌えってやつかな。
「ごめんなさい……僕あんまりアニメとか観ないから、なんのキャラなのかわからないけど、とっても可愛いです。だからどいて……」
 みぞおちと胸をダイレクトに圧迫されて、そろそろ限界。気持ち悪くなってきた。目の縁に溜まった涙を拭うこともできずに僕は懇願した。
「あにめとかこすぷれとか、さっきから何を言ってるんだいっ!」
「はう……、ぐう、苦しい……ですっ」
 さらに腹についた手に、力が加わった。僕は両手をどうにか持ち上げお姉さんの体を押した。
 ぷにゅん、って弾力。あれ、夢中で押し返そうとした場所は、どうやらおっぱいだったみたいだ。
 ふ、不可抗力だよね、今のは。
「お? ……あんたもようやくその気になったのかい? さあ、観念してその可愛い肉棒をよこしな?」
「へっ?」
 ロリ声なお姉さんの手が、僕の下半身に伸びる。
「わ、わ、わあっ! だめですよ……っ、そんなとこ触らないでっ」
 バタバタと、足を振り回して精一杯の抵抗をしてみせる。
「おや? 抵抗するつもりかい? 人間の分際で、あたしから逃げられるとでも思ってるのかい?」
 ようやく手が、僕の腹から退いた。ふう、と深く息をつく。
 てか、なんだか口調も言ってることもおかしいような。
 役になりきってるのかなあ。最近のコスプレイヤーさんは、とってもレベルが高いんだなあ。
 そんなことを思って黙っていると、お姉さんはニヤリと笑った。
「恐怖で声もでないのかい? 大丈夫、気持ちよく昇天させてから、生気を搾り取ってやるから……」
「ち、痴女キャラなんです? それ。にしては声、可愛いすぎなような……」
「こ、声? 可愛いだと?」
 お姉さんの顔が引きつり、みるみる青ざめていく。
 あれ、僕、なんか気にさわること言っちゃった?
「可愛……くないです……え?」
 いや、それも失礼なんじゃ? どうしたらいいのかわからず、僕は押し黙る。
 お姉さんはしょんぼりとした顔で、ようやく僕の上から完全に退いた。
 そのまま肩を落としてひとりごちる。
「やっぱり……あたしには雪女の才能はないのかえ。声だって高すぎるから、凄んでも迫力は出ないし、おっぱいも小さいんじゃ。そもそも色気が足りん。性欲が一番高まるはずの年頃の男ですら、あたしに誘惑されない……。なぜじゃ。仲間たちはみんな、老若問わず男たちの精液を搾り取って美しさを保つ糧にしているというのに……」
「………………」
 せ、設定かな。
「あの……」
「もうよい、おまえに用はない……」
「あのっ……」
「なんじゃっ! 目障りじゃっ! とっとと帰れっ」
 ぴしゃりと投げつけられて、僕の体もびくりと震える。
 帰れ、と言われてふと思った。そういえば僕はどうしてここに……。
 改めてまわりを見渡すと、そこは洞窟の中だった。人工色のまるでない岩ばかりの場所に、松明の明かりが二つだけ。
 こんな場所、僕の知ってる限りでは無い。
 ……コスプレイヤーさんの撮影場所かな。
 帰れと言われても、家までの道もわからないし。
「ねえ」
「ん?」
「……可愛い声って言われるの、嫌でした? 傷つけてしまったのなら、ごめんなさい。でも僕、お姉さんの声素敵だなって思いますよ? その格好も設定も……」
 励ますつもりで頑張る。口下手なりに。
「ほう、だったらあたしとするかい? セックス。あんたの精液を、搾り取らせてくれるのかい?」
 お姉さんが凄むように言う。だけど相変わらず安定のロリ声。
「そ、そーゆうのは……」
 再び近付いてきたお姉さんの手が僕の股間に。
「あう……っ」
 セックス、の経験なんてないけれど、そこを擦られるのが気持ちいいことはわかっていた。自分で触ったことしかないけど。
 お姉さんの手でされたら……どうなっちゃうんだろう。
「ふふ、可愛い顔になってきたじゃないか。あたしがもっとヨくしてやろう……」
 そう言って、彼女の唇が僕のに……。
「だ、ダメですううっ」
 僕は最後の理性を振り絞って、お姉さんの体を突き飛ばした。
 お姉さんは少しよろけて僕から離れる。
「やっぱり……あたしには色気が」
「じゃなくてですねっ! ああお願いだから落ち込まないでえっ」
 コケとか生えてしまいそうな、肩の落とし具合に焦る。
「色気がないとか声が可愛いからとかではなく……、やっぱり僕にはそういうのまだ早いですし、そういうのは、ちゃんと好きになった人とやりたいので……。そもそもお姉さんが誰かもわからないですし……」
 お姉さんは恨めしげに僕を見つめ、無言。
 いや、無言は逆に怖いんだけど。
「あの……僕はお姉さんの声好きですよ? 可愛いです。細かい設定も演技もすごいと思います。世界一の痴女コスプレイヤー目指して、頑張ってくださいね」
 声を可愛いと思ったのは本音。なんか好き、ずっと耳に残りそうで、ドキドキする。
 お姉さんの無言は続く。
「ふん、言いたいことはそれだけかい?」
 ようやく口を開いたお姉さんは、吐き捨てるように言った。
「……人間の言うことは、よくわからん。……あたしの負けだ。人間の精液を搾り取れなきゃ、その男を殺すことも、記憶を消すこともできない、それが雪女の掟だからね」
 おお、本当に細かい設定だなあ。僕は素直に感心した。
 ふいにお姉さんの右手が僕の目前にまで伸びてきた。
 何かを思う間もなく、強烈な睡魔が襲ってくる。僕の意識はすぐに落ちていった。
 ーー再び聴こえてきたのは別のだった。しわがれているけど聞き慣れた声。
「……あれ、おばあちゃん?」
 目を開けるとそこは、おばあちゃんちだ。自分の家よりさらにド田舎にあって、夏休みや冬休みは毎年泊まりにきている。おばあちゃんちは雪国だ。毎年雪かきを手伝ったり、雪だるまを作って遊ぶ。
 そうだ……今日も僕、雪で遊んでたんだ。いつも禁止されている山の中にこっそり入ったら、帰れなくなっちゃって。寒くて震えていたら、変な格好のお姉さんに……。
 あ、あれ? そういえばお姉さんは?
「お姉さんが、僕をおばあちゃんちに連れてきてくれたの?」
「お姉さん? 何を言っとる。山の入り口に倒れていたんだよ、おまえは。まったく、あれほど山には行くなと言ったのに。それにしても、お姉さんというのは誰だい? 世話になった人なら、礼をしなくてはいけないね。詳しく話しなさい」
 僕は頷いて、お姉さんのことを覚えている限り詳しく話した。外見とか、声とか、変な話し方とか。ロリ声とかコスプレイヤーの意味がわからないみたいで、おばあちゃんは所々首をかしげていたけれど、全部話し終えると、ほっとしたような顔で笑った。
「それは雪女じゃな」
「……のコスプレイヤーさんじゃなくて?」
「ん? なんじゃ、そりゃ。雪女じゃよ。この辺りに伝わる史実によると、雪女は山に迷い込んだ男を連れ込んで、誘惑して精液を搾り取るんじゃ。みんな美しい姿をしとるそうだ。若い頃のワシのようにな」
 おばあちゃんはにししと笑う。
「……誘惑に打ち勝ち、よくぞ戻った我が孫よ。もし負けていたら、そのまま殺されていたろうからなあ」
 本物……だったんだあ。
 ただただびっくりした。
「雪女って、精液搾り取れないと、死んじゃったりするの?」
「いや、死にはせんじゃろ。雪女にとってのそれは、美しさを鼓舞するためのゲームみたいなものらしいからのう。精液は若さを保つための薬のようなものと聞くが、そもそも雪女の寿命はワシらよりもずーっと長い。人間でいう、一種の女磨きの一環と考えなさい」
 女磨きのために男を殺しちゃうなんて、なんて恐ろしい世界。
 だけど言われてみれば、あのお姉さんは自分の声やおっぱいの大きさにずいぶん悩んでたみたいだった。
 僕はとっても可愛いと思う。もう少し大きくなってから出会っていたら、確実に誘惑されていたかもしれないくらいロリ声は可愛かったのに、雪女の世界じゃあんまり美女じゃないのかもしれない。
「もし、今度お姉さんに会ったら……」
「またおまえは山に入る気か?」
「ち、違うけどっ、もしどっかで偶然、本当に偶然お姉さんを見かけたら……」
 僕は窓の外に目を向けた。そこには、見慣れた銀色が広がっている。お姉さんの美しい髪と同じ色だ。
「ちゃんと、お姉さんは可愛いって伝えるんだ。声も可愛いくて、おっぱいも可愛い。僕はそのままのお姉さんが好きだよって」
 おばあちゃんは腹を抱えて大笑いした。
「初恋は雪女か。これは将来女好きになるのう」
 そういう言い伝えもあるらしい。雪女が初恋だと、女好きに育つとか。ホラ話が好きなおばあちゃんの言うことは、どこまで信用していいかわからないけど。
 所々、作り話っぽいよね。
 そう言って、僕も笑った。
おわり。