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1彼女は気まぐれ

ー/ー



「お待たせ! ごめん、待ったぁ〜?」
「ううん、俺も今来たとこ」

 嘘。
 本当は30分も前から待ち合わせ場所にいたとか言わない。
 今日貴女(あなた)に会えるのが楽しみで、朝早く起きて準備したとか、絶対言わない。貴女に会うのだから、本当はもっとカッコよくしたかったところを敢えて気の抜けた寝癖をつけたままとか、外出に似つかわしくないラフな服装にしたとか、貴女は知らなくていい。

 だって俺たちはセフレだもの。
 そんな貴女に本気になってしまったと気付かれてしまったら、もう会ってくれなくなるもの。

 会う時は「お互い楽な格好にしよう」という約束で、彼女も今日はすっぴんで俺と同じような格好だ。お互い背伸びしなくてよくて、軽く外食してからホテルに向かう。

 たまに。たまーに。彼女の気が向いたらお店に寄って服とか見に行く程度。「何処かに行きたい」と過去にリクエストしてみたらその日はお互いにそれなりにおしゃれして水族館に行ったりしたけれど。最後はやっぱりホテルに向かう。

 俺は体の関係なくても、楽しむことが出来たら満足なんだけど。
 思い切って伝えようとしてみる前に「わたしさぁ、恋愛する気はないんだよね〜。たまに遊びに行くくらいならいいけど、束縛されるのとか嫌いだし。相手の機嫌窺うのとか疲れるし。だから、キミといるのは楽なんだ」と微笑まれてしまえば俺は口籠るしか出来ず。「俺もそう思ってた」と返すだけしか出来なかった。

 道端で恋人に裏切られて泣いている彼女に声をかけたことが俺たちの始まりだった。俺は泣いていた彼女に一目惚れしてしまって、笑顔にさせたいと思った時から。恋は始まっていた。

 慰めるようにホテルに向かいただ抱きしめるだけで終わる……と思っていたのに、押し倒されてキスをされた時は驚いた。そこから、ダラダラと肉体関係は続いていき……背伸びをしなくていい彼女は俺の前でよく笑ってくれるようになったけど、恋愛をする気にはならなかったようだ。

「じゃ、行こっか」
「……ねえ、俺あそこ行ってみたい」

 前から気になっていたラーメン屋。早速ホテルに向かおうとしていた彼女を引き留め少し遠くを指差す。今日の待ち合わせが夜じゃなかったのも。昼にしたのも。俺からだった。

「え〜、お腹いっぱいになったら楽しめなくない? 眠くなっちゃいそうだし」
「じゃあ、のんびり昼寝でもしようよ。そのあと散歩したりとかさ」

 俺は普通に貴女との時間が楽しめたらそれでいい。だから、毎回ホテルに向かわなくてもいい。やんわり、伝わったらいいな。

 彼女は少し考えてから「キミって、たまに予測不能な行動するよね」と笑う。

「そうかな?」
「そうだよ。セフレとラーメン屋行ったりする? 普通もうホテル行って発散して終わりじゃない?」

 それを言われたら、何も言い返せない。ホテル以外の場所に誘うのも基本俺だけだ。彼女にとって俺は本当に都合のいい相手なのだろう。

「でも、いいよ。今日誘ってくれたのもキミからだし。ラーメン食べに行こ」
「いいの?」
「実はわたしも前から気になってたんだ」

 側から見たら恋人同士のように。腕を組んで歩いていく。
 そのラーメン屋は〝あっさり〟をテーマにしていて女性客が意外と多かったのも納得がいった。店内もおしゃれだったし、店員さんも女性が多くて。ラーメン屋は女性が入りづらいという概念を覆すような店だった。

「なるほどね〜、これなら今度からわたし1人でも食べにくることが出来そう。良い店紹介してくれたね〜、ありがと」
「誘ってくれたらいつでも一緒に行くのに」
「キミはセフレなんだから。普通のお友達とは違うもん」

 じゃあ、なんで今日は一緒に食べてくれたの。
 そう尋ねる勇気は出ず、苦笑して「ひど〜い」と返すだけで精一杯だった。

 店を出て「じゃ、ホテルに──」と向かおうとする彼女の手をとって、反対方向へ歩いていく。

「お腹いっぱいだし、しばらく散歩しよ」
「……ホテルで昼寝してもいいじゃん」
「いいじゃん、たまには。こうやって歩いているだけでも俺は楽しいし」
「……ふーん?」

 ま、いっか。そう呟く彼女に少し安堵しながら街中を歩いていく。気になる服やアクセサリーがあったら少し寄り道して、気に入ったのならプレゼントしたり。

 夕方になって、満足して帰ろうとしたら「ねえ、今日はしないの?」なんて問われる。

「……俺は、別にいつもじゃなくて良いかなって思ったけど」
「わたしは今日、そのつもりで来たのに。じゃあ、他の人今から誘うから。じゃあね」

 スマホを取り出して他の男と連絡を取ろうとしている彼女の手を──握る。
 何となく勘づいていたけど、気付きなくなかったな。あれから──恋人に裏切られた日から。彼女は不特定多数の人と肉体関係を持っている。俺も同じように装ってるけど、俺は貴女しかいないのに。

「なに?」
「……ホテル、行こ」
「今気分じゃないって言ってたのに? 無理はしなくても……」
「んーん。行こ」

 今日くらいは。今日だけは。
 俺だけを見ていてよ。俺しか見ないでいてよ。そんな言葉はきっと彼女は嫌いだろうから言えないけど。

 こうすることでしか彼女を繋ぎ止めるしか出来ない俺が情けない。

 ただただ、欲に負けたようにベッドでもつれ合う。


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「お待たせ! ごめん、待ったぁ〜?」
「ううん、俺も今来たとこ」
 嘘。
 本当は30分も前から待ち合わせ場所にいたとか言わない。
 今日|貴女《あなた》に会えるのが楽しみで、朝早く起きて準備したとか、絶対言わない。貴女に会うのだから、本当はもっとカッコよくしたかったところを敢えて気の抜けた寝癖をつけたままとか、外出に似つかわしくないラフな服装にしたとか、貴女は知らなくていい。
 だって俺たちはセフレだもの。
 そんな貴女に本気になってしまったと気付かれてしまったら、もう会ってくれなくなるもの。
 会う時は「お互い楽な格好にしよう」という約束で、彼女も今日はすっぴんで俺と同じような格好だ。お互い背伸びしなくてよくて、軽く外食してからホテルに向かう。
 たまに。たまーに。彼女の気が向いたらお店に寄って服とか見に行く程度。「何処かに行きたい」と過去にリクエストしてみたらその日はお互いにそれなりにおしゃれして水族館に行ったりしたけれど。最後はやっぱりホテルに向かう。
 俺は体の関係なくても、楽しむことが出来たら満足なんだけど。
 思い切って伝えようとしてみる前に「わたしさぁ、恋愛する気はないんだよね〜。たまに遊びに行くくらいならいいけど、束縛されるのとか嫌いだし。相手の機嫌窺うのとか疲れるし。だから、キミといるのは楽なんだ」と微笑まれてしまえば俺は口籠るしか出来ず。「俺もそう思ってた」と返すだけしか出来なかった。
 道端で恋人に裏切られて泣いている彼女に声をかけたことが俺たちの始まりだった。俺は泣いていた彼女に一目惚れしてしまって、笑顔にさせたいと思った時から。恋は始まっていた。
 慰めるようにホテルに向かいただ抱きしめるだけで終わる……と思っていたのに、押し倒されてキスをされた時は驚いた。そこから、ダラダラと肉体関係は続いていき……背伸びをしなくていい彼女は俺の前でよく笑ってくれるようになったけど、恋愛をする気にはならなかったようだ。
「じゃ、行こっか」
「……ねえ、俺あそこ行ってみたい」
 前から気になっていたラーメン屋。早速ホテルに向かおうとしていた彼女を引き留め少し遠くを指差す。今日の待ち合わせが夜じゃなかったのも。昼にしたのも。俺からだった。
「え〜、お腹いっぱいになったら楽しめなくない? 眠くなっちゃいそうだし」
「じゃあ、のんびり昼寝でもしようよ。そのあと散歩したりとかさ」
 俺は普通に貴女との時間が楽しめたらそれでいい。だから、毎回ホテルに向かわなくてもいい。やんわり、伝わったらいいな。
 彼女は少し考えてから「キミって、たまに予測不能な行動するよね」と笑う。
「そうかな?」
「そうだよ。セフレとラーメン屋行ったりする? 普通もうホテル行って発散して終わりじゃない?」
 それを言われたら、何も言い返せない。ホテル以外の場所に誘うのも基本俺だけだ。彼女にとって俺は本当に都合のいい相手なのだろう。
「でも、いいよ。今日誘ってくれたのもキミからだし。ラーメン食べに行こ」
「いいの?」
「実はわたしも前から気になってたんだ」
 側から見たら恋人同士のように。腕を組んで歩いていく。
 そのラーメン屋は〝あっさり〟をテーマにしていて女性客が意外と多かったのも納得がいった。店内もおしゃれだったし、店員さんも女性が多くて。ラーメン屋は女性が入りづらいという概念を覆すような店だった。
「なるほどね〜、これなら今度からわたし1人でも食べにくることが出来そう。良い店紹介してくれたね〜、ありがと」
「誘ってくれたらいつでも一緒に行くのに」
「キミはセフレなんだから。普通のお友達とは違うもん」
 じゃあ、なんで今日は一緒に食べてくれたの。
 そう尋ねる勇気は出ず、苦笑して「ひど〜い」と返すだけで精一杯だった。
 店を出て「じゃ、ホテルに──」と向かおうとする彼女の手をとって、反対方向へ歩いていく。
「お腹いっぱいだし、しばらく散歩しよ」
「……ホテルで昼寝してもいいじゃん」
「いいじゃん、たまには。こうやって歩いているだけでも俺は楽しいし」
「……ふーん?」
 ま、いっか。そう呟く彼女に少し安堵しながら街中を歩いていく。気になる服やアクセサリーがあったら少し寄り道して、気に入ったのならプレゼントしたり。
 夕方になって、満足して帰ろうとしたら「ねえ、今日はしないの?」なんて問われる。
「……俺は、別にいつもじゃなくて良いかなって思ったけど」
「わたしは今日、そのつもりで来たのに。じゃあ、他の人今から誘うから。じゃあね」
 スマホを取り出して他の男と連絡を取ろうとしている彼女の手を──握る。
 何となく勘づいていたけど、気付きなくなかったな。あれから──恋人に裏切られた日から。彼女は不特定多数の人と肉体関係を持っている。俺も同じように装ってるけど、俺は貴女しかいないのに。
「なに?」
「……ホテル、行こ」
「今気分じゃないって言ってたのに? 無理はしなくても……」
「んーん。行こ」
 今日くらいは。今日だけは。
 俺だけを見ていてよ。俺しか見ないでいてよ。そんな言葉はきっと彼女は嫌いだろうから言えないけど。
 こうすることでしか彼女を繋ぎ止めるしか出来ない俺が情けない。
 ただただ、欲に負けたようにベッドでもつれ合う。