第12話 腐った信仰の匂い
ー/ー 最初に気づいたのは蒼だった。
フィールドワークで訪れたビーチで、珊瑚の白化を記録していた時のことだった。先週まで鮮やかだった場所が淡くなっていた。それも一箇所ではなかった。調査範囲の三分の一が一週間で白化していた。
蒼はしゃがんで珊瑚を観察した。色が抜けた、というより。何かが吸い取っていった、というような白さだった。
フィールドノートに記録をつけながら、まずい、と思った。科学的に、まずい。でも最近は科学的に説明できないまずさも、同じ感覚で分かるようになっていた。
どちらのまずさかは、まだ判別できなかった。
* * *
アパートに帰ると、キジムナーたちがいなかった。
玄関で待ち構えているはずの三体が、どこにもいなかった。部屋に入った。リビングにもいなかった。台所にもいなかった。
「ナビ、キジムナーは——」
「押し入れ」
ナビがリビングから答えた。
押し入れを開けると、三体が奥で固まっていた。丸くなって、互いにくっついていた。毛並みが全員逆立っていた。
蒼は押し入れの前にしゃがんだ。しばらくそのままでいた。一体が恐る恐る跳び出してきた。蒼の膝に乗った。毛並みが逆立ったままだった。震えているような気がした。
「大丈夫だ」
根拠はなかった。でも言っておこうと思った。
キュルル……
残りの二体も出てきた。三体とも毛並みが逆立ったまま、蒼から離れようとしなかった。
「何が来てるんだ」
「まだ姿はない」ナビが押し入れの中を覗いて、静かに答えた。「でも近い」
その夜、ナビが目を覚ました。深夜の二時だった。
布団から起き上がり、何も言わずに窓を開けると海の方から風が来た。普通の夜の風だったが、ナビの表情が変わった。目を細めた。鼻先で何かを確かめるように、ゆっくり息を吸う。
「ナビ?」
「……来てる」
「何が?」
「匂い」ナビが言った。「……腐った信仰の匂い」
蒼はノートパソコンを閉じた。
「腐った……ってどこから?」
「遠い。でも近づいてる」ナビが窓の外を見たまま言った。「石の中にいた時から、知ってた匂い。あの頃よりずっと濃くなってる」
蒼は立ち上がってナビの隣に来た。夜の空気を吸ったが、ナビが言っている匂いまでは分からなかった。でも、確かに何かが変わっていた。触れた空気は少し重かった。湿度とは違う重さだった。
「……ヌシのところに行こう」ナビが窓の外を見たまま言った。「あの木は長くここにいるから、何か知ってるかもしれない」
「今夜か」
「今夜の方がいい。ヌシは夜の方が話しやすい」
* * *
夜、周りが静まり返ったその空間。ナビが言っていたヌシ——サキシマスオウノキの前に二人は立った。
キジムナーたちは蒼の肩と頭に乗ったまま、毛並みを逆立てていた。それでも離れなかった。
ヌシは最初、何も言わなかった。風もないのに葉が揺れた。板根が軋む音がした。古い木が深いところで何かを感じている音だった。
「ヌシ」ナビが言った。「分かってるよね」
葉がざわめいた。
「いつから気づいてた」
枝が一本、ゆっくり傾いた。北の方角を示すように。
「ずっと前から、か」
風が来た。温度が低かった。八月のはずなのに、冷えた風だった。蒼の肌が粟立った。
ヌシがもう一度、枝を動かした。今度は北ではなかった。海の方角だった。
「ヌシ、それは——」
葉が揺れた。返事なのか、警告なのか、蒼には分からなかった。ナビも何も言わなかった。ナビがヌシの葉を手の中で転がした。長い間、見ていた。
「……ウムイ」ナビが言った。
「ウムイ?」
「思いが腐った存在」ナビの声が静かだった。「長く忘れられた守護が、怨念に変わった」
「守護が?」
「かつてここを守っていたものが、忘れられて腐った」ナビがヌシの葉を手の中で転がした。「かわいそうなものだよ、本当は」
キジムナーが肩の上でキュルル……と鳴いた。
蒼はしばらく黙っていた。
「忘れられた守護が何者か、調べないといけないんだろ」
ナビが蒼を見た。少し驚いた顔をした。
「それは俺にもできることだ」蒼が言った。「古い記録を調べる。フィールドワークで拝所を回る。そういうことなら」
「蒼って」
「ん?」
「ちゃんと考えるんだね」
「当たり前だろ」
ナビが小さく笑った。声に出さない笑い方だった。
「一緒に調べよ」
「最初からそのつもりだ」
「でも蒼」ナビが言った。「一人で北部には行かないで欲しい。ウムイは北から来てる。気が乱れてる場所に一人でいるのはよくない」
「分かった」
帰り道、蒼はヌシが示した二つの方角を考えていた。北と海。その二つが何を意味するのか、まだ分からなかった。でも繋がりそうな気がした。一本の線が、どこかで交わるような予感があった。
帰り道、二人並んで歩いた。
夜の住宅地は静かだった。街灯が足元を照らしていた。
「次は何をすべきか」蒼が考えながら言った。「俺は大学の図書館に行く。琉球史の資料を当たる。北部の、記録から消えた聖域を探すよ」
「私はマカトゥおばあに話を聞きに行く」ナビが言った。「あのおばあなら古い話を知ってる」
「マカトゥおばあ?」
「古老のユタ。九十代だけどまだ現役。口承を持ってる」
「じゃあ二手に分かれて調べよう」
「うん。でも蒼」
「ん?」
「一人で北部には行かないで欲しい」
「なんで?」
「ウムイは北から来てる」ナビが言った。「今は姿がないから直接危害は加えてこないけど、気が乱れてる場所に一人でいるのはよくない」
「お前と一緒じゃないといけないのか」
「一緒の方がいい」
蒼は少し黙って。「分かった」と、納得したように答えた。
キジムナーが肩の上でキュルキュル鳴いた。
毛並みがまだ逆立っていた。でも押し入れにいた時より、少し落ち着いていた。
蒼の肩にいれば落ち着く、ということなのかもしれなかった。
「図書館、行ってみるよ」蒼は言った。「閉館前に間に合うか確認する」
ナビが少し蒼を見た。「今日行くの?」
「行ける時間があるなら今行く。一日でも早い方がいい」
スマホで確認した。閉館まで四十分あった。
「行ける」
* * *
図書館で手を伸ばした本は生態学の棚ではなかった。琉球史の棚だった。端から引っ張り出す。王国時代の祭祀記録、御嶽の配置図、ノロ制度の文献、按司時代の地誌。
司書が少し驚いた顔をしたが何も言わなかった。
座った隣のテーブルに、先客がいた。同じ棚から同じような資料を引っ張り出している。黒髪を後ろで束ねた、蒼と同じくらいの年齢に見える女性だった。こちらには気づいていなかった。ノートに何かを書きながら、眉を寄せていた。
蒼は自分の資料に戻った。
絞り込む条件は一つだった。北部の、按司時代に存在した御嶽。王国統一後の記録に残っていない。現在は忘れられている。
でも問題はその資料が多すぎることだった。
琉球の御嶽は大小合わせると数百箇所ある。そのうち正式に記録されていないものとなると、逆に絞り込めなくなる。
「……地図から当たるしかないか」
独り言を言って気まずくなったが、隣の席に誰も居なくなっていたのでセーフだった。
テーブルの上に何かが残っていた。小さな紙片。古い文字で何かが書いてあるが蒼には読めない。取り合えず蒼はそれをフィールドノートに挟む事にした。気になったから、という理由だけだったが、自分でも何故どうしてそうしたのか分からないままだった。
古い地図を探した。琉球王国時代の地図の写しが何冊かあった。現代の地図と重ねて読む必要があった。
一枚目。北部の地形を確認した。御嶽の印がいくつかあった。全部名前がついていた。でも現代の地図より印の数が多かった。名前のない印が混じっていた。
北部の、山の奥の方に、小さな印があった。他の御嶽は記号が丸だった。その印だけ、形が違った。四角だった。名前がなかった。
「……ここか」
蒼は地図をスマホで撮影した。現代の地形図と並べた。やんばるの奥。集落から離れた場所。道が通っていない。行けなくはない。でも簡単でもなかった。
ノートに座標を書き込んだ。
閉館のアナウンスが流れた。
蒼はフィールドノートを閉じた。場所の手がかりは掴んだ。でも名前がまだなかった。そこに何がいたのか、何者だったのか、それがまだ分からなかった。
名前のない印が、地図の中で小さく光って見えた。気のせいだった。でもそう見えた。
フィールドノートに一行書いた。
「忘れられた守護がいる。場所は分かりかけている。でも名前が分からない。」
ペンを置いた。遠くで、海の音がした。
アパートに帰ると、ミカが珍しく香炉の外に出て立っていた。
テーブルの端に静かに立っていた。
「何かあったか」
「いえ」ミカが言った。「でも」
「でも?」
「今夜は外に出ないでください」ミカが言った。「家の気を整えます。できる限り」
「ミカが整えられるのか」
「台所の神は家全体を守ります」ミカが言った。「台所だけ見ているわけにはいきません」
ナビがミカを見た。ミカはナビの視線を受けて、少し背筋を伸ばした。見習いなりの、精一杯の顔だった。
「頼む」蒼が言った。ミカが小さくうなずいた。
キジムナーたちはその夜、ガジュマルに帰らなかった。
窓の外を見て、それから蒼を見て、また窓の外を見て、結局蒼の布団の端に三体で固まって丸くなった。
「帰らないのか」
キュルル……
「怖いなら仕方ないな」
キュルキュル。
「怖くないって言いたいのか」
キュルキュル。
「でも帰らないんだろ」
キュルキュル。
ナビが「意地張ってる」と訳した。
「キジムナーが意地を張るのか」
「張る」
蒼は布団に横になった。キジムナーたちが端で丸くなったままキュルキュル鳴いた。
天井を見た。
遠くで何かが動いている気配があった。姿はなかった。音もなかった。でも確かに何かが動いていた。
フィールドワークで訪れたビーチで、珊瑚の白化を記録していた時のことだった。先週まで鮮やかだった場所が淡くなっていた。それも一箇所ではなかった。調査範囲の三分の一が一週間で白化していた。
蒼はしゃがんで珊瑚を観察した。色が抜けた、というより。何かが吸い取っていった、というような白さだった。
フィールドノートに記録をつけながら、まずい、と思った。科学的に、まずい。でも最近は科学的に説明できないまずさも、同じ感覚で分かるようになっていた。
どちらのまずさかは、まだ判別できなかった。
* * *
アパートに帰ると、キジムナーたちがいなかった。
玄関で待ち構えているはずの三体が、どこにもいなかった。部屋に入った。リビングにもいなかった。台所にもいなかった。
「ナビ、キジムナーは——」
「押し入れ」
ナビがリビングから答えた。
押し入れを開けると、三体が奥で固まっていた。丸くなって、互いにくっついていた。毛並みが全員逆立っていた。
蒼は押し入れの前にしゃがんだ。しばらくそのままでいた。一体が恐る恐る跳び出してきた。蒼の膝に乗った。毛並みが逆立ったままだった。震えているような気がした。
「大丈夫だ」
根拠はなかった。でも言っておこうと思った。
キュルル……
残りの二体も出てきた。三体とも毛並みが逆立ったまま、蒼から離れようとしなかった。
「何が来てるんだ」
「まだ姿はない」ナビが押し入れの中を覗いて、静かに答えた。「でも近い」
その夜、ナビが目を覚ました。深夜の二時だった。
布団から起き上がり、何も言わずに窓を開けると海の方から風が来た。普通の夜の風だったが、ナビの表情が変わった。目を細めた。鼻先で何かを確かめるように、ゆっくり息を吸う。
「ナビ?」
「……来てる」
「何が?」
「匂い」ナビが言った。「……腐った信仰の匂い」
蒼はノートパソコンを閉じた。
「腐った……ってどこから?」
「遠い。でも近づいてる」ナビが窓の外を見たまま言った。「石の中にいた時から、知ってた匂い。あの頃よりずっと濃くなってる」
蒼は立ち上がってナビの隣に来た。夜の空気を吸ったが、ナビが言っている匂いまでは分からなかった。でも、確かに何かが変わっていた。触れた空気は少し重かった。湿度とは違う重さだった。
「……ヌシのところに行こう」ナビが窓の外を見たまま言った。「あの木は長くここにいるから、何か知ってるかもしれない」
「今夜か」
「今夜の方がいい。ヌシは夜の方が話しやすい」
* * *
夜、周りが静まり返ったその空間。ナビが言っていたヌシ——サキシマスオウノキの前に二人は立った。
キジムナーたちは蒼の肩と頭に乗ったまま、毛並みを逆立てていた。それでも離れなかった。
ヌシは最初、何も言わなかった。風もないのに葉が揺れた。板根が軋む音がした。古い木が深いところで何かを感じている音だった。
「ヌシ」ナビが言った。「分かってるよね」
葉がざわめいた。
「いつから気づいてた」
枝が一本、ゆっくり傾いた。北の方角を示すように。
「ずっと前から、か」
風が来た。温度が低かった。八月のはずなのに、冷えた風だった。蒼の肌が粟立った。
ヌシがもう一度、枝を動かした。今度は北ではなかった。海の方角だった。
「ヌシ、それは——」
葉が揺れた。返事なのか、警告なのか、蒼には分からなかった。ナビも何も言わなかった。ナビがヌシの葉を手の中で転がした。長い間、見ていた。
「……ウムイ」ナビが言った。
「ウムイ?」
「思いが腐った存在」ナビの声が静かだった。「長く忘れられた守護が、怨念に変わった」
「守護が?」
「かつてここを守っていたものが、忘れられて腐った」ナビがヌシの葉を手の中で転がした。「かわいそうなものだよ、本当は」
キジムナーが肩の上でキュルル……と鳴いた。
蒼はしばらく黙っていた。
「忘れられた守護が何者か、調べないといけないんだろ」
ナビが蒼を見た。少し驚いた顔をした。
「それは俺にもできることだ」蒼が言った。「古い記録を調べる。フィールドワークで拝所を回る。そういうことなら」
「蒼って」
「ん?」
「ちゃんと考えるんだね」
「当たり前だろ」
ナビが小さく笑った。声に出さない笑い方だった。
「一緒に調べよ」
「最初からそのつもりだ」
「でも蒼」ナビが言った。「一人で北部には行かないで欲しい。ウムイは北から来てる。気が乱れてる場所に一人でいるのはよくない」
「分かった」
帰り道、蒼はヌシが示した二つの方角を考えていた。北と海。その二つが何を意味するのか、まだ分からなかった。でも繋がりそうな気がした。一本の線が、どこかで交わるような予感があった。
帰り道、二人並んで歩いた。
夜の住宅地は静かだった。街灯が足元を照らしていた。
「次は何をすべきか」蒼が考えながら言った。「俺は大学の図書館に行く。琉球史の資料を当たる。北部の、記録から消えた聖域を探すよ」
「私はマカトゥおばあに話を聞きに行く」ナビが言った。「あのおばあなら古い話を知ってる」
「マカトゥおばあ?」
「古老のユタ。九十代だけどまだ現役。口承を持ってる」
「じゃあ二手に分かれて調べよう」
「うん。でも蒼」
「ん?」
「一人で北部には行かないで欲しい」
「なんで?」
「ウムイは北から来てる」ナビが言った。「今は姿がないから直接危害は加えてこないけど、気が乱れてる場所に一人でいるのはよくない」
「お前と一緒じゃないといけないのか」
「一緒の方がいい」
蒼は少し黙って。「分かった」と、納得したように答えた。
キジムナーが肩の上でキュルキュル鳴いた。
毛並みがまだ逆立っていた。でも押し入れにいた時より、少し落ち着いていた。
蒼の肩にいれば落ち着く、ということなのかもしれなかった。
「図書館、行ってみるよ」蒼は言った。「閉館前に間に合うか確認する」
ナビが少し蒼を見た。「今日行くの?」
「行ける時間があるなら今行く。一日でも早い方がいい」
スマホで確認した。閉館まで四十分あった。
「行ける」
* * *
図書館で手を伸ばした本は生態学の棚ではなかった。琉球史の棚だった。端から引っ張り出す。王国時代の祭祀記録、御嶽の配置図、ノロ制度の文献、按司時代の地誌。
司書が少し驚いた顔をしたが何も言わなかった。
座った隣のテーブルに、先客がいた。同じ棚から同じような資料を引っ張り出している。黒髪を後ろで束ねた、蒼と同じくらいの年齢に見える女性だった。こちらには気づいていなかった。ノートに何かを書きながら、眉を寄せていた。
蒼は自分の資料に戻った。
絞り込む条件は一つだった。北部の、按司時代に存在した御嶽。王国統一後の記録に残っていない。現在は忘れられている。
でも問題はその資料が多すぎることだった。
琉球の御嶽は大小合わせると数百箇所ある。そのうち正式に記録されていないものとなると、逆に絞り込めなくなる。
「……地図から当たるしかないか」
独り言を言って気まずくなったが、隣の席に誰も居なくなっていたのでセーフだった。
テーブルの上に何かが残っていた。小さな紙片。古い文字で何かが書いてあるが蒼には読めない。取り合えず蒼はそれをフィールドノートに挟む事にした。気になったから、という理由だけだったが、自分でも何故どうしてそうしたのか分からないままだった。
古い地図を探した。琉球王国時代の地図の写しが何冊かあった。現代の地図と重ねて読む必要があった。
一枚目。北部の地形を確認した。御嶽の印がいくつかあった。全部名前がついていた。でも現代の地図より印の数が多かった。名前のない印が混じっていた。
北部の、山の奥の方に、小さな印があった。他の御嶽は記号が丸だった。その印だけ、形が違った。四角だった。名前がなかった。
「……ここか」
蒼は地図をスマホで撮影した。現代の地形図と並べた。やんばるの奥。集落から離れた場所。道が通っていない。行けなくはない。でも簡単でもなかった。
ノートに座標を書き込んだ。
閉館のアナウンスが流れた。
蒼はフィールドノートを閉じた。場所の手がかりは掴んだ。でも名前がまだなかった。そこに何がいたのか、何者だったのか、それがまだ分からなかった。
名前のない印が、地図の中で小さく光って見えた。気のせいだった。でもそう見えた。
フィールドノートに一行書いた。
「忘れられた守護がいる。場所は分かりかけている。でも名前が分からない。」
ペンを置いた。遠くで、海の音がした。
アパートに帰ると、ミカが珍しく香炉の外に出て立っていた。
テーブルの端に静かに立っていた。
「何かあったか」
「いえ」ミカが言った。「でも」
「でも?」
「今夜は外に出ないでください」ミカが言った。「家の気を整えます。できる限り」
「ミカが整えられるのか」
「台所の神は家全体を守ります」ミカが言った。「台所だけ見ているわけにはいきません」
ナビがミカを見た。ミカはナビの視線を受けて、少し背筋を伸ばした。見習いなりの、精一杯の顔だった。
「頼む」蒼が言った。ミカが小さくうなずいた。
キジムナーたちはその夜、ガジュマルに帰らなかった。
窓の外を見て、それから蒼を見て、また窓の外を見て、結局蒼の布団の端に三体で固まって丸くなった。
「帰らないのか」
キュルル……
「怖いなら仕方ないな」
キュルキュル。
「怖くないって言いたいのか」
キュルキュル。
「でも帰らないんだろ」
キュルキュル。
ナビが「意地張ってる」と訳した。
「キジムナーが意地を張るのか」
「張る」
蒼は布団に横になった。キジムナーたちが端で丸くなったままキュルキュル鳴いた。
天井を見た。
遠くで何かが動いている気配があった。姿はなかった。音もなかった。でも確かに何かが動いていた。
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