第11話 じいちゃんから電話 2

ー/ー



祖父の声だった。いつもと変わらない、低くて穏やかな声。でも何かが違った。蒼はそれが何か、すぐには分からなかった。


「うん。どうしたの、こんな時間に」
「時間か。そうだな、少し遅かったか」
「別にいいけど」


短い沈黙。


祖父が電話をかけてくる時はいつも用件が先だった。近況を聞く時も「元気か、飯は食えてるか」と先に言う。今日はそれがなかった。


「じいちゃん、何かあった?」
「……ニュースは見てるか?神社の石のことだ」


蒼の背中が少し固まった。


「見た。温度差による劣化って——」
「そう報道されてる」祖父が遮った。静かに、でも明確に。「そう報道されてる、というだけだ」



蒼は自分の部屋に入ってドアを閉めた。


「じいちゃん、正直に聞く」
「ああ」
「あの石、本当は何なんだ」


長い沈黙だった。蒼は待った。祖父が考えている時の間を知っていた。急かしてはいけない。子どもの頃から、祖父はいつもこういう間を置いた。


「お前に話す時が来たと思っていた」祖父がようやく言った。「ただ、もう少し先のことだと思っていたんだが」
「何を」
「仲村の家のことを」


* * *


祖父が話し始めた。
仲村の家は代々、ある神社の官司を務めてきた。天照大御神に仕える神使を祀る社。それ自体は蒼も知っていた。知らなかったのはその先だった。


「その社の御神体として祀られてきた石は、ただの石ではない。この列島の霊的な均衡を保つための——」祖父が言葉を選んだ。「結界の要だった」
「……結界」
「陰の結界、と言えば分かりやすいかもしれん。南に対になるものがあって、両方が揃って初めて機能する。何百年も、仲村の家がそれを守ってきた」
「南のやつが先に割れた」


沈黙。
今度は祖父の方が固まる番だった。


「……知っているのか」
「うん」
「どこでだ?」


蒼はどこから話すべきか考えた。石から出てきた少女、泡盛を一気飲みする少女、血で結界を張る少女、神がかりの後に動けなくなる少女。


「じいちゃん、ユタって知ってる」
「知っている」
「封印されてたユタが、石が割れた時に出てきた」


また沈黙。今度はずっと長かった。


「蒼」
「ん?」
「その子は今、どこにいる」


蒼はドアの向こうを見た。薄いドア越しにテレビの音が聞こえた。キジムナーのキュルキュルという声が聞こえた。


「俺の所にいる」


祖父が息を吐く音が聞こえた。安堵なのか、困惑なのか、その両方なのか。


「そうか」
「じいちゃん、知ってたの。南に対になるものがあるって」
「知っていた」
「その石が割れたら何が起きるか、も?」
「……想定はしていた。ただ、まさか同時にとは思っていなかった」
「同時に割れたのは偶然じゃないと思う」
「私もそう思っている」祖父の声が少し固くなった。「お前はどこまで知っている」


蒼は少し考えた。


「内側から腐らせて崩した、ということまで」


長い沈黙があった。


「……どこで聞いた」
「ナビが教えてくれた」
「ナビ、というのか」
「うん。封印されてたユタ。ユタには独自のネットワークがある。別の世界の自分と話せるみたい。良くわからないけど」


また沈黙。今度は短かった。


「……そのようなことが出来るユタがいるとは聞いていたが」祖父がゆっくり言った。「まさか実際にそれで情報を得てくるとは思っていなかった」


「知ってたの?」
「知識としては。別の世界の同じ魂と繋がれると」祖父が小さく息を吐いた。「どちらも正しい場所に落ちたということかもしれんな」
「どういう意味?」
「南の御嶽のユタが、北の結界の家の子に情報を持ってくる」祖父が言った。「繋がるべきものが繋がった、ということだ」


蒼は少し黙った。


「じいちゃん……石を内側から腐らせたの、誰だと思う」


祖父がまた間を置いた。今度は長かった。


「分からん。でも——」祖父の声が低くなった。「仕掛けられたとすれば、両方の結界を同時に狙える存在だ。北も南も知っていて、どちらにも手が届く」
「そんなものがいるのか」
「いないと思っていた」祖父が言った。「だからこそ、まずい……」


しばらく沈黙が続いた。


電話の向こうで祖父が何かを考えている気配があった。蒼は待った。


「じいちゃん」蒼は言った。「会いに来てくれる?」
「その子に会ってみたい気持ちはある」
「沖縄来たことある?」
「ないな」
「じゃあ来てよ。ナビが色々知ってるから、じいちゃんと話したら分かることあると思う」


また沈黙。


「ノロ出身のユタだけど封印される前は王国時代の人間だから」
「……王国時代」
「うん」
「そうか」祖父の声が少し変わった。何かを納得したような声。「そうか……心当たりが、ないわけではない」
「何か分かったの」
「会った時に話す。それと蒼」
「うん」
「お前が沖縄に行くと言った時、私は止めなかった」
「うん」
「止めなかったのは——」祖父が言葉を選んだ。「お前に、行くべき理由がある顔をしていたからだ」


蒼は少し黙った。


「じゃあ最初から俺が——」
「導かれていたかどうかは分からん」祖父が言った。「ただ、お前が向こうで出会ったものは、偶然ではないかもしれない」
「別のナビが言ってた。どの世界でも蒼は御嶽にいたって」


電話の向こうで祖父が静かに息を吸う音がした。


「……そうか」
「じいちゃん」
「うん」
「次が来ると思う。結界を壊したものが、次を仕掛けてくる」
「私もそう思っている」祖父の声が静かになった。「気をつけなさい」


子どもの頃から、祖父は大事なことをいつもその一言に込めた。旅行に行く時も、受験の時も、沖縄に発つ日も。今日も同じ言葉だったが、重さが違った。


「分かった」
「それと蒼」
「ん?」
「一人でやろうとするな」
「大丈夫。一人じゃない」
「そうか」祖父の声に何か混じった。「なら安心した」


電話を切ってドアに手をかけた。 どの世界でも、蒼は御嶽にいた。ナビの石が割れた時に、そこにいた。じいちゃんは「繋がるべきものが繋がった」と言った。それが偶然ではないとしたら——自分とナビの間には、説明のつかない何かがあるのかもしれなかった。まだ言葉にはできなかった。でも、そう思った。
ドアを開けてリビングに戻ると、ナビが正面を向いて座っていた。


「終わった?」
「うん」
「じいちゃん、どんな人なの?」
「落ち着いてる人。でも今日は少し違った」
「違った?」
「心配してた」蒼が言った。「でも取り乱さなかった。ずっと覚悟してたみたいな感じ」


ナビが少し考えた。


「結界を守ってきた人だから」
「うん」蒼はソファに座った。「来てくれると思う。沖縄に」
「会いたい」
「怖くないのか。陰の結界の官司だぞ」


ナビがこちらを向いた。


「なんで怖いの?」
「……まあ確かに」


キジムナーが肩の上でキュルキュル鳴いた。


「なあ、ナビ」
「ん?」
「別のナビが言ってたこと。どの世界でも蒼は御嶽にいたって」


「うん」
「それって——」蒼は言葉を選んだ。「俺がここに来たのは、最初から決まってたってことか」


ナビが少し黙った。


「決まってたかどうかは分からない」ナビが言った。「でも別のナビが言ってた。どの世界でも蒼は御嶽に来てた。誰かに言われたわけじゃなく、自分で来てたって」
「なんで来てたんだろうな、どの世界でも」
「さあ」ナビが窓の外を見た。「でもきっと、来たかったんだと思う。どの世界の蒼も」


蒼は何も言わなかった。
来たかった。それは本当だった。理由は説明できなかったが、沖縄に来たかった。行かないといけない気がした。志望理由書には書けなかった本当のことが、そこにあった。


「次が来る前に」蒼が言った。「準備しないといけないな」
「うん」
「じいちゃんが来たら、三人で話そう」
「うん」ナビが窓から蒼に視線を戻した。「蒼のじいちゃんなら、きっとちゃんと知ってる」
「何を」
「次に何が来るか」ナビが静かに言った。「陰の結界を守ってた人なら、向こう側のことも知ってるはず」


蒼は少し黙った。


「ナビ……怖いか?」蒼が聞いた。
「怖くない」
「本当に?」
「本当に」ナビが言った。「石の中で長い間待ってた。何かが来るのは知ってた。だから出てきた」
「俺の所の石が割れるのを待ってたのか」
「待ってたわけじゃない」ナビが少し考えた。「でも、出られる時が来たら出ようとは思ってた」
「それで泡盛を飲んだのか」


ナビが笑った。


「喉が渇いてたから」
「それだけか」
「それだけ!」


蒼も笑った。
キジムナーたちがキュルキュル鳴いた。ミカが「お茶を入れます」と言った。
窓の外のガジュマルが揺れて夜風が海の方から来ていた。次が来る前に、できることをする。それだけだと蒼は思った。
フィールドノートを開いて今日あったことを書こうとした。
今日は書けた。一行ずつ、丁寧に書いた。別のナビのこと、じいちゃんのこと、陰と陽の結界のこと。最後に一行書き足した。


「どの世界の俺も、ここに来たかったんだと思う。」


ペンを置きノートパソコンにデータを移す。
御嶽のデータをまとめながら、蒼はふと手を止めた。 スマホに母親からのメッセージが来ていた。「元気?ご飯食べてる?」 三日前に来ていたのに気づいていなかった。 「食べてる」と返した。 嘘ではなかった。でも何を食べているかは書かなかった。沖縄そばを毎日食べている理由を、説明できる言葉をまだ持っていなかった。


遠くで、海の音がした。


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祖父の声だった。いつもと変わらない、低くて穏やかな声。でも何かが違った。蒼はそれが何か、すぐには分からなかった。
「うん。どうしたの、こんな時間に」
「時間か。そうだな、少し遅かったか」
「別にいいけど」
短い沈黙。
祖父が電話をかけてくる時はいつも用件が先だった。近況を聞く時も「元気か、飯は食えてるか」と先に言う。今日はそれがなかった。
「じいちゃん、何かあった?」
「……ニュースは見てるか?神社の石のことだ」
蒼の背中が少し固まった。
「見た。温度差による劣化って——」
「そう報道されてる」祖父が遮った。静かに、でも明確に。「そう報道されてる、というだけだ」
蒼は自分の部屋に入ってドアを閉めた。
「じいちゃん、正直に聞く」
「ああ」
「あの石、本当は何なんだ」
長い沈黙だった。蒼は待った。祖父が考えている時の間を知っていた。急かしてはいけない。子どもの頃から、祖父はいつもこういう間を置いた。
「お前に話す時が来たと思っていた」祖父がようやく言った。「ただ、もう少し先のことだと思っていたんだが」
「何を」
「仲村の家のことを」
* * *
祖父が話し始めた。
仲村の家は代々、ある神社の官司を務めてきた。天照大御神に仕える神使を祀る社。それ自体は蒼も知っていた。知らなかったのはその先だった。
「その社の御神体として祀られてきた石は、ただの石ではない。この列島の霊的な均衡を保つための——」祖父が言葉を選んだ。「結界の要だった」
「……結界」
「陰の結界、と言えば分かりやすいかもしれん。南に対になるものがあって、両方が揃って初めて機能する。何百年も、仲村の家がそれを守ってきた」
「南のやつが先に割れた」
沈黙。
今度は祖父の方が固まる番だった。
「……知っているのか」
「うん」
「どこでだ?」
蒼はどこから話すべきか考えた。石から出てきた少女、泡盛を一気飲みする少女、血で結界を張る少女、神がかりの後に動けなくなる少女。
「じいちゃん、ユタって知ってる」
「知っている」
「封印されてたユタが、石が割れた時に出てきた」
また沈黙。今度はずっと長かった。
「蒼」
「ん?」
「その子は今、どこにいる」
蒼はドアの向こうを見た。薄いドア越しにテレビの音が聞こえた。キジムナーのキュルキュルという声が聞こえた。
「俺の所にいる」
祖父が息を吐く音が聞こえた。安堵なのか、困惑なのか、その両方なのか。
「そうか」
「じいちゃん、知ってたの。南に対になるものがあるって」
「知っていた」
「その石が割れたら何が起きるか、も?」
「……想定はしていた。ただ、まさか同時にとは思っていなかった」
「同時に割れたのは偶然じゃないと思う」
「私もそう思っている」祖父の声が少し固くなった。「お前はどこまで知っている」
蒼は少し考えた。
「内側から腐らせて崩した、ということまで」
長い沈黙があった。
「……どこで聞いた」
「ナビが教えてくれた」
「ナビ、というのか」
「うん。封印されてたユタ。ユタには独自のネットワークがある。別の世界の自分と話せるみたい。良くわからないけど」
また沈黙。今度は短かった。
「……そのようなことが出来るユタがいるとは聞いていたが」祖父がゆっくり言った。「まさか実際にそれで情報を得てくるとは思っていなかった」
「知ってたの?」
「知識としては。別の世界の同じ魂と繋がれると」祖父が小さく息を吐いた。「どちらも正しい場所に落ちたということかもしれんな」
「どういう意味?」
「南の御嶽のユタが、北の結界の家の子に情報を持ってくる」祖父が言った。「繋がるべきものが繋がった、ということだ」
蒼は少し黙った。
「じいちゃん……石を内側から腐らせたの、誰だと思う」
祖父がまた間を置いた。今度は長かった。
「分からん。でも——」祖父の声が低くなった。「仕掛けられたとすれば、両方の結界を同時に狙える存在だ。北も南も知っていて、どちらにも手が届く」
「そんなものがいるのか」
「いないと思っていた」祖父が言った。「だからこそ、まずい……」
しばらく沈黙が続いた。
電話の向こうで祖父が何かを考えている気配があった。蒼は待った。
「じいちゃん」蒼は言った。「会いに来てくれる?」
「その子に会ってみたい気持ちはある」
「沖縄来たことある?」
「ないな」
「じゃあ来てよ。ナビが色々知ってるから、じいちゃんと話したら分かることあると思う」
また沈黙。
「ノロ出身のユタだけど封印される前は王国時代の人間だから」
「……王国時代」
「うん」
「そうか」祖父の声が少し変わった。何かを納得したような声。「そうか……心当たりが、ないわけではない」
「何か分かったの」
「会った時に話す。それと蒼」
「うん」
「お前が沖縄に行くと言った時、私は止めなかった」
「うん」
「止めなかったのは——」祖父が言葉を選んだ。「お前に、行くべき理由がある顔をしていたからだ」
蒼は少し黙った。
「じゃあ最初から俺が——」
「導かれていたかどうかは分からん」祖父が言った。「ただ、お前が向こうで出会ったものは、偶然ではないかもしれない」
「別のナビが言ってた。どの世界でも蒼は御嶽にいたって」
電話の向こうで祖父が静かに息を吸う音がした。
「……そうか」
「じいちゃん」
「うん」
「次が来ると思う。結界を壊したものが、次を仕掛けてくる」
「私もそう思っている」祖父の声が静かになった。「気をつけなさい」
子どもの頃から、祖父は大事なことをいつもその一言に込めた。旅行に行く時も、受験の時も、沖縄に発つ日も。今日も同じ言葉だったが、重さが違った。
「分かった」
「それと蒼」
「ん?」
「一人でやろうとするな」
「大丈夫。一人じゃない」
「そうか」祖父の声に何か混じった。「なら安心した」
電話を切ってドアに手をかけた。 どの世界でも、蒼は御嶽にいた。ナビの石が割れた時に、そこにいた。じいちゃんは「繋がるべきものが繋がった」と言った。それが偶然ではないとしたら——自分とナビの間には、説明のつかない何かがあるのかもしれなかった。まだ言葉にはできなかった。でも、そう思った。
ドアを開けてリビングに戻ると、ナビが正面を向いて座っていた。
「終わった?」
「うん」
「じいちゃん、どんな人なの?」
「落ち着いてる人。でも今日は少し違った」
「違った?」
「心配してた」蒼が言った。「でも取り乱さなかった。ずっと覚悟してたみたいな感じ」
ナビが少し考えた。
「結界を守ってきた人だから」
「うん」蒼はソファに座った。「来てくれると思う。沖縄に」
「会いたい」
「怖くないのか。陰の結界の官司だぞ」
ナビがこちらを向いた。
「なんで怖いの?」
「……まあ確かに」
キジムナーが肩の上でキュルキュル鳴いた。
「なあ、ナビ」
「ん?」
「別のナビが言ってたこと。どの世界でも蒼は御嶽にいたって」
「うん」
「それって——」蒼は言葉を選んだ。「俺がここに来たのは、最初から決まってたってことか」
ナビが少し黙った。
「決まってたかどうかは分からない」ナビが言った。「でも別のナビが言ってた。どの世界でも蒼は御嶽に来てた。誰かに言われたわけじゃなく、自分で来てたって」
「なんで来てたんだろうな、どの世界でも」
「さあ」ナビが窓の外を見た。「でもきっと、来たかったんだと思う。どの世界の蒼も」
蒼は何も言わなかった。
来たかった。それは本当だった。理由は説明できなかったが、沖縄に来たかった。行かないといけない気がした。志望理由書には書けなかった本当のことが、そこにあった。
「次が来る前に」蒼が言った。「準備しないといけないな」
「うん」
「じいちゃんが来たら、三人で話そう」
「うん」ナビが窓から蒼に視線を戻した。「蒼のじいちゃんなら、きっとちゃんと知ってる」
「何を」
「次に何が来るか」ナビが静かに言った。「陰の結界を守ってた人なら、向こう側のことも知ってるはず」
蒼は少し黙った。
「ナビ……怖いか?」蒼が聞いた。
「怖くない」
「本当に?」
「本当に」ナビが言った。「石の中で長い間待ってた。何かが来るのは知ってた。だから出てきた」
「俺の所の石が割れるのを待ってたのか」
「待ってたわけじゃない」ナビが少し考えた。「でも、出られる時が来たら出ようとは思ってた」
「それで泡盛を飲んだのか」
ナビが笑った。
「喉が渇いてたから」
「それだけか」
「それだけ!」
蒼も笑った。
キジムナーたちがキュルキュル鳴いた。ミカが「お茶を入れます」と言った。
窓の外のガジュマルが揺れて夜風が海の方から来ていた。次が来る前に、できることをする。それだけだと蒼は思った。
フィールドノートを開いて今日あったことを書こうとした。
今日は書けた。一行ずつ、丁寧に書いた。別のナビのこと、じいちゃんのこと、陰と陽の結界のこと。最後に一行書き足した。
「どの世界の俺も、ここに来たかったんだと思う。」
ペンを置きノートパソコンにデータを移す。
御嶽のデータをまとめながら、蒼はふと手を止めた。 スマホに母親からのメッセージが来ていた。「元気?ご飯食べてる?」 三日前に来ていたのに気づいていなかった。 「食べてる」と返した。 嘘ではなかった。でも何を食べているかは書かなかった。沖縄そばを毎日食べている理由を、説明できる言葉をまだ持っていなかった。
遠くで、海の音がした。