月の呪い
ー/ー「ねえ、あなたは月を見上げて何を思うの?」
彼女は唐突に、脈絡のない質問を僕に繰り出した。
「えっ? えっと……そうだな……」
「早く答えなさい」
「まぁ……『綺麗だな』とかかな」
「愚かね」
「お、愚かって……突然なんだよ!」
「オブラートに包むなら『お間抜けちゃん』ね」
「それはオブラートに包んだとは言わない」
「うるさいわね。私のはゼリー状のオブラートなのよ。飲み込みやすくなればそれでいいのよ」
「だから、飲み込みやすくなってないから言ってんだ!」
彼女は唐突に、脈絡のない質問を僕に繰り出した。
「えっ? えっと……そうだな……」
「早く答えなさい」
「まぁ……『綺麗だな』とかかな」
「愚かね」
「お、愚かって……突然なんだよ!」
「オブラートに包むなら『お間抜けちゃん』ね」
「それはオブラートに包んだとは言わない」
「うるさいわね。私のはゼリー状のオブラートなのよ。飲み込みやすくなればそれでいいのよ」
「だから、飲み込みやすくなってないから言ってんだ!」
しかし、僕の反論は華麗に無視される。
「それにしても、子供の頃って、なんであんなにも『おくすり飲めたね』が魅力的に映るのかしら」
「そうなのか? 僕は普通に薬飲めてたから、よくわかんないな」
「私は『おくすり飲めたね』を味わいたいがために、わざと風邪を引こうとして、真冬に全裸で寝たりしていたわ」
「お前の方がよっぽど愚かだよ……」
閑話休題。
「けどまぁ、たしかに『綺麗だな』程度の感想しか抱けない自分が情けなく思うことはあるよ」
「自分の語彙力の低さを自覚してるとは大したものね」
「どうにも褒められた気がしない」
ていうか絶対褒めてない。
「でもさ、僕の語彙力の低さを擁護するわけじゃないけど、大抵の人間はそんなもんだと思うぞ?」
「違うわ。月を見てどんな感想を抱くかなんてどうでもいいのよ。私が言いたいのは、月を見上げて感慨にふけること自体が愚かだということよ」
「はあ?! それはあんまりなんじゃないか?!」
「いいえ。地球様という格上の相手に衝突したあげくに破壊され、その大部分を失い、情けなく地球様の周りを回ってる月野郎なんか、見上げる価値もないわ」
「いろいろ突っ込みたいところはあるが、地球様ってなんだ?! 天動説信者か?!」
「きっと、月が表側しか地球に向けないのは、そのときに負った大きな傷があるからなのよ。剣士の恥ってやつね。まったく情けないったらありゃしないわ」
「本当に散々な言われようだな……」
月をここまでこけにする人なんて、世界中どこを探したってお前以外いないよ。
「とにかく、月を見上げて感慨にふけるなんて愚かで恥ずかしい行為よ。もうこれきりしないことね」
「へいへい。わかりましたよ」
そうして、仕方なく彼女の暴論を聞き入れると、彼女は不敵な笑みを浮かべて言う。
「残念だったわね。あなたはもうすでに私の術中よ」
「いや、意外性は全くねえよ」
口車に乗せられている実感しかなかったわ。
「たった今、あなたに呪いをかけたわ」
「呪い?」
「ええ、喜びなさい。あなたはこれから月を見るたびに、私を思い出すようになるわ」
「はあ?」
「愚かなあなたはこれからも月を見るたびに、愚かにも感慨にふけるでしょうね。それと同時に、あなたは私がとんでもない暴論で月をめたくそに言って、何かを思う行為を禁止したことを思い出すでしょうね。そうしたら、あなたはきっとこんなことを考えるわ。『あいつ、ものすごいこと言ってたよな』ってね」
「さ、さいですか……」
「ふふっ、大変な恋人を持ったわね。普段の行いを悔いなさい」
「はいはい」
でもさ、と。
僕は言う。
「でもさ、お前も大概愚かだよな」
「あら、それはどうして?」
「だってさ、僕、そんなことしなくたって、よくお前のこと思い出すぜ?」
「…………」
彼女は何も言わず、空を見上げる。
「……どうした?」
そう問うと、彼女は答えた。
「月が綺麗ね」
僕は思わず笑った。
「ははっ、そうだな」
「それにしても、子供の頃って、なんであんなにも『おくすり飲めたね』が魅力的に映るのかしら」
「そうなのか? 僕は普通に薬飲めてたから、よくわかんないな」
「私は『おくすり飲めたね』を味わいたいがために、わざと風邪を引こうとして、真冬に全裸で寝たりしていたわ」
「お前の方がよっぽど愚かだよ……」
閑話休題。
「けどまぁ、たしかに『綺麗だな』程度の感想しか抱けない自分が情けなく思うことはあるよ」
「自分の語彙力の低さを自覚してるとは大したものね」
「どうにも褒められた気がしない」
ていうか絶対褒めてない。
「でもさ、僕の語彙力の低さを擁護するわけじゃないけど、大抵の人間はそんなもんだと思うぞ?」
「違うわ。月を見てどんな感想を抱くかなんてどうでもいいのよ。私が言いたいのは、月を見上げて感慨にふけること自体が愚かだということよ」
「はあ?! それはあんまりなんじゃないか?!」
「いいえ。地球様という格上の相手に衝突したあげくに破壊され、その大部分を失い、情けなく地球様の周りを回ってる月野郎なんか、見上げる価値もないわ」
「いろいろ突っ込みたいところはあるが、地球様ってなんだ?! 天動説信者か?!」
「きっと、月が表側しか地球に向けないのは、そのときに負った大きな傷があるからなのよ。剣士の恥ってやつね。まったく情けないったらありゃしないわ」
「本当に散々な言われようだな……」
月をここまでこけにする人なんて、世界中どこを探したってお前以外いないよ。
「とにかく、月を見上げて感慨にふけるなんて愚かで恥ずかしい行為よ。もうこれきりしないことね」
「へいへい。わかりましたよ」
そうして、仕方なく彼女の暴論を聞き入れると、彼女は不敵な笑みを浮かべて言う。
「残念だったわね。あなたはもうすでに私の術中よ」
「いや、意外性は全くねえよ」
口車に乗せられている実感しかなかったわ。
「たった今、あなたに呪いをかけたわ」
「呪い?」
「ええ、喜びなさい。あなたはこれから月を見るたびに、私を思い出すようになるわ」
「はあ?」
「愚かなあなたはこれからも月を見るたびに、愚かにも感慨にふけるでしょうね。それと同時に、あなたは私がとんでもない暴論で月をめたくそに言って、何かを思う行為を禁止したことを思い出すでしょうね。そうしたら、あなたはきっとこんなことを考えるわ。『あいつ、ものすごいこと言ってたよな』ってね」
「さ、さいですか……」
「ふふっ、大変な恋人を持ったわね。普段の行いを悔いなさい」
「はいはい」
でもさ、と。
僕は言う。
「でもさ、お前も大概愚かだよな」
「あら、それはどうして?」
「だってさ、僕、そんなことしなくたって、よくお前のこと思い出すぜ?」
「…………」
彼女は何も言わず、空を見上げる。
「……どうした?」
そう問うと、彼女は答えた。
「月が綺麗ね」
僕は思わず笑った。
「ははっ、そうだな」
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