「羽住! 急にゴメンな」
翌日、あまり気は進まないままに約束した待ち合わせ場所に到着した郁は、待ち構えていた大雅が詫びるのに首を振る。
「どーしてもイヤなら断ってるし。別に」
八木の結婚について訊いて来た彼に「会えないか」と問われ、郁に断る選択肢などなかった。
何故大雅がそういう発想になったのか、確かめずには居られない。
──八木と郁の
関係など、表向きは「担任教師とその生徒」以外に何もない、筈なのだから。実際、それ以上でもそれ以下でもない。なかった。
郁の秘めた恋心を除いては。
待ち合わせの場所と時間を決めるためのやり取りの裏で、郁は必死で考えを巡らせた。しかし何ひとつ心当たりはなかったのだ。
あとはもう、直接大雅に尋ねる以外に方法はない。
「羽住、バーガーショップとかでもいい? 他に行きたいとこあったら──」
どういう話になるのか、どの程度時間がかかるのかも不明ではあるが、さすがに真夏に外で済ませる気はない。どこか店に入るのが手っ取り早いだろう。大雅も当然そう考えたようだ。
「どこでもいいよ。腹減ってないし、あんまり洒落たとこよりその方がラクだから」
大雅の問いに素っ気なく答え、話しながら歩いて適当に目についたファストフード店に入った。
「……羽住。八木先生、だけど。お前、先生のこと、好きだった、んだよな?」
ランチタイムを外れているため、座席は半分も埋まっていない。
二人分のドリンクを載せたトレイを持ち、小さなテーブルを挟んだ壁際の二人掛けの席に座ってすぐ、大雅が単刀直入に切り出した。
隣を始め、すぐ傍の席に人影はない。
その上静まり返っているわけでもない店内にもかかわらず、大雅は声を潜めて囁くように訊いて来た。内容が内容だから無理もない。
「……なんで、そう思った?」
どう答えようか、と逡巡して、結局郁は問いで返してしまった。しかし、即否定しなかった段階で肯定しているも同然だと本当は理解している。
「──あー、えっと」
いつになく自信なさげな様子で
口籠る大雅に、郁は理由の見当もつかず内心首を捻った。
「羽住。スマホ見てて」
何の脈絡もない大雅の言葉に、郁はまったく意味がわからなかった。しかし怖いくらい真剣な彼の表情に、黙ってポケットからスマートフォンを取り出す。
ちらりと窺った正面の大雅は、何やら自分のスマートフォンを操作していた。文字入力しているらしい。