freeze-sun.03:自動販売機の絶対零度
ー/ー「にゃうにゃ!喉が渇いたのです!騎士、新人!あそこの自動販売機で、最高に『ホット』な飲み物を買うのです!」
咲姫が指差した先には、校舎の壁際にひっそりと佇む一台の自動販売機があった。
しかし、それはもはや家電の姿をしていなかった。太陽の直射日光を真っ向から浴び続けた結果、筐体全体が厚さ十センチメートルを超える透明な氷に覆われ、巨大な氷柱(つらら)が地面に向かって牙のように伸びている。
「……お嬢様。あそこから飲み物を取り出すのは、もはや発掘作業に近いかと。しかも、あのアスファルトの照り返しを見てください。自販機の前だけ、空間が歪むほどの冷気が渦巻いています」
騎士がフルフェイスの兜越しに、絶望的な光景を凝視する。
自販機の周囲だけは、太陽光の「冷却エネルギー」が極限まで濃縮され、空気中の水分が常にダイヤモンドダストとなって舞い散っていた。
「まあ、素敵ですわお嬢様。氷漬けの自動販売機なんて、まるで太古の遺跡のようです。サヤも心躍ります。……こちらの、氷層粉砕用のアイスピックと、防寒・防風魔法が施された特製エプロンをどうぞ」
サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく、鋭く輝く魔導アイスピックを取り出した。それは軽く振るだけで周囲の気温をさらに三度ほど引き下げる、業物(わざもの)だった。
「サヤ、わかっているのです!さすがは私のメイドなのです!新人、記録するのです!太陽光を浴び続けた自販機の中身は、理論上、絶対零度を超えて『逆に熱く』なっているはずなのです!」
「……理論上、そんなことはあり得ません!ですが、計測値が……計測値がマイナス二七三度を指して、そのまま針がへし折れました!咲姫様の仰る通り、もはや未知の熱力学領域です!」
新人は、時給22NkQの労働限界を超えた震えでクリスタルを構えた。
彼の手元では、記録用の魔導装置が過負荷で白い煙――いや、あまりの冷たさに凍結した水蒸気を上げている。
「ギャニャー!早く!早く何か飲み物を出すんだにゃー!舌が!叫びすぎて、口の中が氷河期なんだにゃー!」
凍りついた噴水からサヤの手によって「発掘」され、台車に乗せられて運ばれてきた猫二が、ガチガチと歯を鳴らしながら叫ぶ。彼の毛並みにはまだ虹色の氷晶がこびりついており、歩くたびにパキパキと不吉な音を立てていた。
「猫二、待っているのです!今、私がこの『熱い(冷たい)』ココアを救い出してあげるのです!」
咲姫がサヤから受け取ったアイスピックを構え、氷の要塞と化した自販機へと突撃した。
彼女が氷の表面にピックを突き立てた瞬間、キンッという、鼓膜を突き刺すような高音が響き渡る。
「にゃうにゃー!硬い!硬すぎるのです!さすが太陽さんの恵みを一身に浴びた氷なのです!ダイヤモンドよりも、私の意志よりも強固なのです!」
「……お嬢様の意志より硬いなら、それはもうこの世の物質ではありませんよ。騎士、加勢します!」
騎士が重厚な大剣を抜き放ち、咲姫の隣で氷を叩き斬る。
一撃ごとに、火花ではなく「氷花(ひばな)」が散り、周囲の温度がさらに急降下していく。
「お二人とも、素晴らしい連携ですわ。サヤも、この美しい氷の破片を回収して、後ほどお嬢様のティータイム用のロックアイスにいたしますね」
サヤは飛散する鋭い氷の礫を、蝶が舞うような足取りで避けながら、優雅にカゴへと収めていく。その背後では、ついに自販機の「取り出し口」が、騎士の一撃によって露わになった。
そこから転がり出てきたのは、一本の缶飲料だった。
だが、その缶は、周囲の冷気を吸い込みすぎて真っ赤に発光している。
「出たのです!太陽の魔力を凝縮した、絶対零度ココアなのです!」
咲姫が歓喜の声を上げ、素手でその「赤い」缶を掴もうとした。
「お嬢様、いけません!それは物理的に手がくっついて取れなくなるやつです!」
「大丈夫なのです!私のパッションの方が、このココアより数万倍熱いのです!」
夏の太陽が照りつける中、咲姫と、凍りついた自販機の死闘は続く。
それは、涼を求める人々の営みとは程遠い、極限のサバイバルだった。
咲姫が指差した先には、校舎の壁際にひっそりと佇む一台の自動販売機があった。
しかし、それはもはや家電の姿をしていなかった。太陽の直射日光を真っ向から浴び続けた結果、筐体全体が厚さ十センチメートルを超える透明な氷に覆われ、巨大な氷柱(つらら)が地面に向かって牙のように伸びている。
「……お嬢様。あそこから飲み物を取り出すのは、もはや発掘作業に近いかと。しかも、あのアスファルトの照り返しを見てください。自販機の前だけ、空間が歪むほどの冷気が渦巻いています」
騎士がフルフェイスの兜越しに、絶望的な光景を凝視する。
自販機の周囲だけは、太陽光の「冷却エネルギー」が極限まで濃縮され、空気中の水分が常にダイヤモンドダストとなって舞い散っていた。
「まあ、素敵ですわお嬢様。氷漬けの自動販売機なんて、まるで太古の遺跡のようです。サヤも心躍ります。……こちらの、氷層粉砕用のアイスピックと、防寒・防風魔法が施された特製エプロンをどうぞ」
サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく、鋭く輝く魔導アイスピックを取り出した。それは軽く振るだけで周囲の気温をさらに三度ほど引き下げる、業物(わざもの)だった。
「サヤ、わかっているのです!さすがは私のメイドなのです!新人、記録するのです!太陽光を浴び続けた自販機の中身は、理論上、絶対零度を超えて『逆に熱く』なっているはずなのです!」
「……理論上、そんなことはあり得ません!ですが、計測値が……計測値がマイナス二七三度を指して、そのまま針がへし折れました!咲姫様の仰る通り、もはや未知の熱力学領域です!」
新人は、時給22NkQの労働限界を超えた震えでクリスタルを構えた。
彼の手元では、記録用の魔導装置が過負荷で白い煙――いや、あまりの冷たさに凍結した水蒸気を上げている。
「ギャニャー!早く!早く何か飲み物を出すんだにゃー!舌が!叫びすぎて、口の中が氷河期なんだにゃー!」
凍りついた噴水からサヤの手によって「発掘」され、台車に乗せられて運ばれてきた猫二が、ガチガチと歯を鳴らしながら叫ぶ。彼の毛並みにはまだ虹色の氷晶がこびりついており、歩くたびにパキパキと不吉な音を立てていた。
「猫二、待っているのです!今、私がこの『熱い(冷たい)』ココアを救い出してあげるのです!」
咲姫がサヤから受け取ったアイスピックを構え、氷の要塞と化した自販機へと突撃した。
彼女が氷の表面にピックを突き立てた瞬間、キンッという、鼓膜を突き刺すような高音が響き渡る。
「にゃうにゃー!硬い!硬すぎるのです!さすが太陽さんの恵みを一身に浴びた氷なのです!ダイヤモンドよりも、私の意志よりも強固なのです!」
「……お嬢様の意志より硬いなら、それはもうこの世の物質ではありませんよ。騎士、加勢します!」
騎士が重厚な大剣を抜き放ち、咲姫の隣で氷を叩き斬る。
一撃ごとに、火花ではなく「氷花(ひばな)」が散り、周囲の温度がさらに急降下していく。
「お二人とも、素晴らしい連携ですわ。サヤも、この美しい氷の破片を回収して、後ほどお嬢様のティータイム用のロックアイスにいたしますね」
サヤは飛散する鋭い氷の礫を、蝶が舞うような足取りで避けながら、優雅にカゴへと収めていく。その背後では、ついに自販機の「取り出し口」が、騎士の一撃によって露わになった。
そこから転がり出てきたのは、一本の缶飲料だった。
だが、その缶は、周囲の冷気を吸い込みすぎて真っ赤に発光している。
「出たのです!太陽の魔力を凝縮した、絶対零度ココアなのです!」
咲姫が歓喜の声を上げ、素手でその「赤い」缶を掴もうとした。
「お嬢様、いけません!それは物理的に手がくっついて取れなくなるやつです!」
「大丈夫なのです!私のパッションの方が、このココアより数万倍熱いのです!」
夏の太陽が照りつける中、咲姫と、凍りついた自販機の死闘は続く。
それは、涼を求める人々の営みとは程遠い、極限のサバイバルだった。
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