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freeze-sun.02:灼熱のクリスタル・リンク

ー/ー



「にゃうにゃ!見るがいいのです、新人!騎士!猫二!学園の誇る大噴水が、太陽さんの恵みによって見事なクリスタル・リンクと化しているのです!」

咲姫(さき)は、ダウンジャケットのフードを被り直すと、中庭の奥にある広場を指差した。
そこには、本来なら涼しげな水を噴き上げているはずの巨大な噴水が、まるで時間を止められたかのように、巨大な氷の彫刻となって鎮座していた。
周囲の石畳も完全に凍りつき、ギラギラと輝く太陽光を反射して、直視できないほどの眩しさを放っている。

「……お嬢様。あれは『恵み』ではなく、ただの『寒波』です。七月の炎天下で噴水が凍りつくなんて、前代未聞ですよ。……そもそも、あの氷、中から虹色の光が漏れていませんか?」

騎士はフルフェイスの兜の中から、信じられないものを見る目で呟いた。
噴水の氷は、ただの透明ではなく、太陽の魔力を吸収して内部で虹色に発光している。その周囲には、冷気が霧となって立ち込め、近づくだけで肌が凍りつきそうだ。

「まあ、素敵ですわお嬢様。虹色の氷なんて、まさに氷上の芸術。サヤも心奪われました。……こちらの、耐寒魔法強化済みのフィギュアスケート靴、どうぞお召し変えくださいませ」

サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく、白とピンクを基調とした、ファーのついた可愛らしいスケート靴を取り出した。その靴からは、明らかに周囲の温度をさらに数度下げるほどの、強烈な魔冷気が漂っている。

「サヤ、わかっているのです!さすがは私のメイドなのです!さぁ、新人!騎士!猫二!今日はこの『灼熱のクリスタル・リンク』で、世界初の『炎天下フィギュアスケート大会』を開催するのです!」

「なっ……この状況でスケート!?そもそも、あそこはマイナス五〇度はあるはずですよ!?靴以前に、人間が凍ります!」

新人は、鼻水を凍らせながら、魔導計測器を片手に絶叫した。
彼の手元の針は、噴水に近づくにつれて「極寒」のさらに先、計測不能の領域へと突入しかけている。

「新人!暑苦しい(寒い)常識に囚われてはいけないのです!暑ければ熱力学的に……こう、ぎゅっとなって、分子運動が停止して、滑るのです!これぞコンセプト・デストラクション!灼熱の滑走なのです!」

「ギャニャー!寒い!寒すぎるんだにゃー!誰か、誰かあそこの『日陰性(あつがしょう)』に焚き火を置いてくれにゃー!」

猫二(ねこじ)は、広場の隅にある校舎の影――直射日光が遮られ、アスファルトが熱気で陽炎(かげろう)を上げている「灼熱のセーフティゾーン」へ逃げ込もうとしていた。
だが、その日陰は、今や広場全体を覆う極寒の冷気によって、逆に「マイナス二〇度の極寒地帯」へと変貌していた。

「猫二、日陰は危ないのです!あそこは温度がマイナス二〇度もある、地獄のヒートアイランドなのです!凍死……じゃなくて、熱中症で干からびてしまうのです!」

「どっちにしたって死ぬんだにゃー!ギャニャー!」

咲姫は、サヤに手伝ってもらってスケート靴を履くと、迷うことなく、虹色に輝く氷の上へと一歩を踏み出した。
「にゃうにゃ!滑る!滑るのです!太陽さんの光が、氷の表面をさらに滑らかにして、まるで雲の上を滑っているようなのです!」

咲姫は、ダウンジャケット姿のまま、華麗に氷上を滑り始めた。
その姿は、確かにフィギュアスケーターそのものだ。だが、その周囲には、彼女の移動に合わせて、新たな氷の結晶がパキパキと形成され、虹色の光を反射して、幻想的な光景を作り出している。

「お嬢様、素晴らしい滑走ですわ。まさに氷上の妖精。サヤも心躍ります。……こちらの、滑走用強化魔法ヒーター付きの上着、どうぞお召し変えくださいませ」

サヤがにっこりと微笑み、さらに厚手の上着を差し出した。

「……いや、サヤさん。妖精っていうか、ただの極寒のモンスターですよ、あれは。……新入社員、あれをデータ化しろと言うのか?」
「……騎士さん、もう僕、22NkQじゃ足りない気がしてきました。……心が、心が凍りそうです」

新人は、震える手で記録用クリスタルを氷上に向けた。
クリスタルは、虹色の光と咲姫の滑走を、そしてその周囲に広がる極寒の世界を、冷徹に記録し始めた。

「……騎士さん、あそこ、見てください。猫二が、噴水の氷の彫刻に……凍りついています」

新人が指差した先には、虹色の氷の彫刻の一部と化した、猫二の姿があった。
彼は「ギャニャー!」と叫んだ姿勢のまま、見事に凍りつき、虹色の光を浴びて、奇妙な芸術作品となっていた。

「……あいつ、さっき日陰に逃げ込もうとしてただろ」
「……きっと、お嬢様の滑走に見とれて、つい太陽光を浴びてしまったんですよ。……猫二さんの、芸術への献身に、サヤも感動いたしました」

サヤがにっこりと微笑み、凍りついた猫二を、ティーセットの一部としてテーブルに並べた。

「……騎士さん、これ本当に‥」
「……新入社員。……考えるな。我々はただ、あのお嬢様の、灼熱の滑走を見守るしかないんだ」

騎士は重い溜息をつき、凍りついた噴水広場の一歩を踏み出した。
アスファルトが、雪原のような音を立てて鳴った。


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「にゃうにゃ!見るがいいのです、新人!騎士!猫二!学園の誇る大噴水が、太陽さんの恵みによって見事なクリスタル・リンクと化しているのです!」
咲姫(さき)は、ダウンジャケットのフードを被り直すと、中庭の奥にある広場を指差した。
そこには、本来なら涼しげな水を噴き上げているはずの巨大な噴水が、まるで時間を止められたかのように、巨大な氷の彫刻となって鎮座していた。
周囲の石畳も完全に凍りつき、ギラギラと輝く太陽光を反射して、直視できないほどの眩しさを放っている。
「……お嬢様。あれは『恵み』ではなく、ただの『寒波』です。七月の炎天下で噴水が凍りつくなんて、前代未聞ですよ。……そもそも、あの氷、中から虹色の光が漏れていませんか?」
騎士はフルフェイスの兜の中から、信じられないものを見る目で呟いた。
噴水の氷は、ただの透明ではなく、太陽の魔力を吸収して内部で虹色に発光している。その周囲には、冷気が霧となって立ち込め、近づくだけで肌が凍りつきそうだ。
「まあ、素敵ですわお嬢様。虹色の氷なんて、まさに氷上の芸術。サヤも心奪われました。……こちらの、耐寒魔法強化済みのフィギュアスケート靴、どうぞお召し変えくださいませ」
サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく、白とピンクを基調とした、ファーのついた可愛らしいスケート靴を取り出した。その靴からは、明らかに周囲の温度をさらに数度下げるほどの、強烈な魔冷気が漂っている。
「サヤ、わかっているのです!さすがは私のメイドなのです!さぁ、新人!騎士!猫二!今日はこの『灼熱のクリスタル・リンク』で、世界初の『炎天下フィギュアスケート大会』を開催するのです!」
「なっ……この状況でスケート!?そもそも、あそこはマイナス五〇度はあるはずですよ!?靴以前に、人間が凍ります!」
新人は、鼻水を凍らせながら、魔導計測器を片手に絶叫した。
彼の手元の針は、噴水に近づくにつれて「極寒」のさらに先、計測不能の領域へと突入しかけている。
「新人!暑苦しい(寒い)常識に囚われてはいけないのです!暑ければ熱力学的に……こう、ぎゅっとなって、分子運動が停止して、滑るのです!これぞコンセプト・デストラクション!灼熱の滑走なのです!」
「ギャニャー!寒い!寒すぎるんだにゃー!誰か、誰かあそこの『日陰性(あつがしょう)』に焚き火を置いてくれにゃー!」
猫二(ねこじ)は、広場の隅にある校舎の影――直射日光が遮られ、アスファルトが熱気で陽炎(かげろう)を上げている「灼熱のセーフティゾーン」へ逃げ込もうとしていた。
だが、その日陰は、今や広場全体を覆う極寒の冷気によって、逆に「マイナス二〇度の極寒地帯」へと変貌していた。
「猫二、日陰は危ないのです!あそこは温度がマイナス二〇度もある、地獄のヒートアイランドなのです!凍死……じゃなくて、熱中症で干からびてしまうのです!」
「どっちにしたって死ぬんだにゃー!ギャニャー!」
咲姫は、サヤに手伝ってもらってスケート靴を履くと、迷うことなく、虹色に輝く氷の上へと一歩を踏み出した。
「にゃうにゃ!滑る!滑るのです!太陽さんの光が、氷の表面をさらに滑らかにして、まるで雲の上を滑っているようなのです!」
咲姫は、ダウンジャケット姿のまま、華麗に氷上を滑り始めた。
その姿は、確かにフィギュアスケーターそのものだ。だが、その周囲には、彼女の移動に合わせて、新たな氷の結晶がパキパキと形成され、虹色の光を反射して、幻想的な光景を作り出している。
「お嬢様、素晴らしい滑走ですわ。まさに氷上の妖精。サヤも心躍ります。……こちらの、滑走用強化魔法ヒーター付きの上着、どうぞお召し変えくださいませ」
サヤがにっこりと微笑み、さらに厚手の上着を差し出した。
「……いや、サヤさん。妖精っていうか、ただの極寒のモンスターですよ、あれは。……新入社員、あれをデータ化しろと言うのか?」
「……騎士さん、もう僕、22NkQじゃ足りない気がしてきました。……心が、心が凍りそうです」
新人は、震える手で記録用クリスタルを氷上に向けた。
クリスタルは、虹色の光と咲姫の滑走を、そしてその周囲に広がる極寒の世界を、冷徹に記録し始めた。
「……騎士さん、あそこ、見てください。猫二が、噴水の氷の彫刻に……凍りついています」
新人が指差した先には、虹色の氷の彫刻の一部と化した、猫二の姿があった。
彼は「ギャニャー!」と叫んだ姿勢のまま、見事に凍りつき、虹色の光を浴びて、奇妙な芸術作品となっていた。
「……あいつ、さっき日陰に逃げ込もうとしてただろ」
「……きっと、お嬢様の滑走に見とれて、つい太陽光を浴びてしまったんですよ。……猫二さんの、芸術への献身に、サヤも感動いたしました」
サヤがにっこりと微笑み、凍りついた猫二を、ティーセットの一部としてテーブルに並べた。
「……騎士さん、これ本当に‥」
「……新入社員。……考えるな。我々はただ、あのお嬢様の、灼熱の滑走を見守るしかないんだ」
騎士は重い溜息をつき、凍りついた噴水広場の一歩を踏み出した。
アスファルトが、雪原のような音を立てて鳴った。