freeze-sun.01:太陽が凍る日
ー/ー「にゃうにゃ! 最高の夏が来たのです! 見るがいいのです、このギラギラと輝く太陽を! 今日の太陽さんは、世界をカチンコチンに凍らせる気満々なのです!」
セミの鳴き声さえも凍りついて粉々に砕け散りそうな、七月の正午。
学園の中庭で、咲姫(さき)はモコモコのダウンジャケットの襟を立て、勝ち誇ったように空を指差した。
彼女の瞳は期待にキラキラと輝き、その口元からは真っ白な吐息が漏れ出している。
その手にあるのは、カップに入った「プリン」だ。だが、それはスプーンが弾き返されるほど、物理的な強度(硬度)を極めた、もはや一つの「宝石」と化した氷塊であった。
「はい、お嬢様。今日も太陽様は素晴らしい冷却効率を見せていらっしゃいますね。まさに絶好のプリン凍結日和、サヤも感動いたしました」
咲姫の隣で、完璧なカーテシーを見せる女性がいた。メイドのサヤだ。
彼女はこの極寒の炎天下にあって、涼しげな笑顔を絶やさない。手には予備のカイロと、カチコチに凍った予備のプリンを山ほど抱えている。
「お嬢様、こちらのプリンの方が、より日光を吸収して強固に仕上がっております。どうぞ、こちらへお着替え……いえ、上着の重ね着をなさってくださいませ」
「サヤ、わかっているのです! さすがは私のメイドなのです!」
「……いや、おかしいだろ。サヤさんも笑顔で重防寒具を差し出さないでください」
かつて限界社畜として荒波に揉まれた騎士が、フルフェイスの兜の中で頭を抱えた。
彼の常識は、この庭に一歩踏み出した瞬間に粉砕されていた。
「お嬢様、日差しを浴びるほど凍るなんて物理法則、聞いたことがありません。そもそも、あそこの木を見てください。枝から氷柱(つらら)がぶら下がっていますよ。夏ですよ? 七月ですよ?」
「騎士、それは貴方の頭が『普通』という概念に汚染されている証拠なのです! 概念破壊(コンセプト・デストラクション) 暑ければ熱力学的に分子がこう……ぎゅっとなって、カチカチになるのです!」
「どんな理論だ……」
「ギャニャー! 寒い! 寒すぎるんだにゃー! 誰か、誰かあそこの『日陰(あつがしょう)』に焚き火を置いてくれにゃー!」
足元では、猫二(ねこじ)が涙目になりながら跳ね回っていた。
うっかり太陽光を浴びた尻尾の先が、パキパキと凍り始めている。彼は必死に、校舎の影――直射日光が遮られ、アスファルトが熱気で陽炎(かげろう)を上げている「灼熱のセーフティゾーン」へ逃げ込もうとしていた。
「猫二、日陰は危ないのです! あそこは温度がプラス三〇度もある、地獄のヒートアイランドなのです! 凍死……じゃなくて、熱中症で干からびてしまうのです!」
「どっちにしたって死ぬんだにゃー!」
そんな阿鼻叫喚の光景を、新人は震える手で記録用クリスタルに刻んでいた。
彼の時給は22NkQ。
この過酷な「夏」のデータを収集し、学園のインフラへと昇華させるのが彼の仕事だ。
「……信じられない。太陽光が電磁波としてではなく、直接的な『冷却触媒』として作用している……。日差しが強ければ強いほど、分子運動が停止し、物体は硬化する。これが、咲姫様の提唱する『真夏のアイス・エイジ理論』……!」
新人は、鼻水を凍らせながら呟いた。
彼の手元にある魔導計測器は、太陽の光を浴びた瞬間に針が「極寒」へと振り切れている。
「新人! ぼーっとしてる暇はないのです! 今日こそ、この『溶けないアイス』をさらに強化して、ダイヤモンドを上回る硬度の『伝説のプリン』を完成させるのです! さぁ、学園で一番日当たりの良い、あの屋上ヘリオス・テラスへ突撃なのです!」
「なっ……あそこは、今、理論上マイナス八〇度に達しているはずですよ!?」
「まあ、素敵ですわお嬢様。マイナス八〇度のテラスでお茶会なんて、とても風雅ですわね」
サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく耐寒魔法が施されたティーセットを取り出した。
騎士のツッコミを華麗にスルーし、咲姫の暴走を加速させる「優しさの極み」
「……騎士さん、これ本当に大丈夫なんですかね?」
「新人。……考えるな。我々はただ、あのお嬢様と、それを全肯定するメイドの背中を追うしかないんだ」
騎士は重い溜息をつき、凍りついた中庭の一歩を踏み出した。
アスファルトが、パウダースノーのような音を立てて鳴った。
セミの鳴き声さえも凍りついて粉々に砕け散りそうな、七月の正午。
学園の中庭で、咲姫(さき)はモコモコのダウンジャケットの襟を立て、勝ち誇ったように空を指差した。
彼女の瞳は期待にキラキラと輝き、その口元からは真っ白な吐息が漏れ出している。
その手にあるのは、カップに入った「プリン」だ。だが、それはスプーンが弾き返されるほど、物理的な強度(硬度)を極めた、もはや一つの「宝石」と化した氷塊であった。
「はい、お嬢様。今日も太陽様は素晴らしい冷却効率を見せていらっしゃいますね。まさに絶好のプリン凍結日和、サヤも感動いたしました」
咲姫の隣で、完璧なカーテシーを見せる女性がいた。メイドのサヤだ。
彼女はこの極寒の炎天下にあって、涼しげな笑顔を絶やさない。手には予備のカイロと、カチコチに凍った予備のプリンを山ほど抱えている。
「お嬢様、こちらのプリンの方が、より日光を吸収して強固に仕上がっております。どうぞ、こちらへお着替え……いえ、上着の重ね着をなさってくださいませ」
「サヤ、わかっているのです! さすがは私のメイドなのです!」
「……いや、おかしいだろ。サヤさんも笑顔で重防寒具を差し出さないでください」
かつて限界社畜として荒波に揉まれた騎士が、フルフェイスの兜の中で頭を抱えた。
彼の常識は、この庭に一歩踏み出した瞬間に粉砕されていた。
「お嬢様、日差しを浴びるほど凍るなんて物理法則、聞いたことがありません。そもそも、あそこの木を見てください。枝から氷柱(つらら)がぶら下がっていますよ。夏ですよ? 七月ですよ?」
「騎士、それは貴方の頭が『普通』という概念に汚染されている証拠なのです! 概念破壊(コンセプト・デストラクション) 暑ければ熱力学的に分子がこう……ぎゅっとなって、カチカチになるのです!」
「どんな理論だ……」
「ギャニャー! 寒い! 寒すぎるんだにゃー! 誰か、誰かあそこの『日陰(あつがしょう)』に焚き火を置いてくれにゃー!」
足元では、猫二(ねこじ)が涙目になりながら跳ね回っていた。
うっかり太陽光を浴びた尻尾の先が、パキパキと凍り始めている。彼は必死に、校舎の影――直射日光が遮られ、アスファルトが熱気で陽炎(かげろう)を上げている「灼熱のセーフティゾーン」へ逃げ込もうとしていた。
「猫二、日陰は危ないのです! あそこは温度がプラス三〇度もある、地獄のヒートアイランドなのです! 凍死……じゃなくて、熱中症で干からびてしまうのです!」
「どっちにしたって死ぬんだにゃー!」
そんな阿鼻叫喚の光景を、新人は震える手で記録用クリスタルに刻んでいた。
彼の時給は22NkQ。
この過酷な「夏」のデータを収集し、学園のインフラへと昇華させるのが彼の仕事だ。
「……信じられない。太陽光が電磁波としてではなく、直接的な『冷却触媒』として作用している……。日差しが強ければ強いほど、分子運動が停止し、物体は硬化する。これが、咲姫様の提唱する『真夏のアイス・エイジ理論』……!」
新人は、鼻水を凍らせながら呟いた。
彼の手元にある魔導計測器は、太陽の光を浴びた瞬間に針が「極寒」へと振り切れている。
「新人! ぼーっとしてる暇はないのです! 今日こそ、この『溶けないアイス』をさらに強化して、ダイヤモンドを上回る硬度の『伝説のプリン』を完成させるのです! さぁ、学園で一番日当たりの良い、あの屋上ヘリオス・テラスへ突撃なのです!」
「なっ……あそこは、今、理論上マイナス八〇度に達しているはずですよ!?」
「まあ、素敵ですわお嬢様。マイナス八〇度のテラスでお茶会なんて、とても風雅ですわね」
サヤがにっこりと微笑み、どこからともなく耐寒魔法が施されたティーセットを取り出した。
騎士のツッコミを華麗にスルーし、咲姫の暴走を加速させる「優しさの極み」
「……騎士さん、これ本当に大丈夫なんですかね?」
「新人。……考えるな。我々はただ、あのお嬢様と、それを全肯定するメイドの背中を追うしかないんだ」
騎士は重い溜息をつき、凍りついた中庭の一歩を踏み出した。
アスファルトが、パウダースノーのような音を立てて鳴った。
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