第39話 黒いケモノの覚悟と計画の第一歩
ー/ー 金曜日の夜に大島睦月と浜小春との会談(?)を終えたオレは、もう一度、頭の中身を整理してから、二人のクラスメートに連絡を取ることにした。
一人は、教室の後ろの席で、オレによく話しかけてくる男子生徒。
もう一人は、今回の問題の当事者であるクラス委員の女子生徒だ。
二人とは、土曜日の午後に例の場所で集まるように約束を取りつけた。
このうち、塚口まこととには、少し早めに集合場所まで来てもらい、大島たちとの話し合いが終わったあと、自宅に戻ってから一晩かけて考えたアイデアを説明し、チカラを貸してもらえないか、と要請する。
すると、気の良いクラスメートは、アイスコーヒーを一口すすった後、
「わかった! ボクは、久々知くんに、そのことを伝えるだけで良いんだね? 『泣き虫なケモノのおはなし』みたいで、ちょっと面白そうだし、ムネリンに協力するよ!」
と言って、オレのアイデアに快く応じてくれた。
あとは、この会合のもう一人の参加者である上坂部葉月本人の意志を確認するだけだ。
というわけで、時間差で呼び出した恋に悩める相談主が、会合場所のヨネダ珈琲武甲之荘店にやって来るのを待つ。
「悪いな、こっちの方まで来てもらって」
指定した時間のとおり、少し遅れて入店してきたクラスメートに声をかけると、
「ううん……相談に乗ってもらっているのは、私だから……それに、また、ヨネダのホワイトノワールも食べたかったしね」
と言いながら、上坂部は微笑んだ。
この店を選んだことに間違いは無かったようだが、彼女がオレに気を使っているのか、それとも、喫茶店名物のスイーツを食べることに重きを置いているのかは、追及しないことにする。
「こうして話すのは、テスト前のとき以来だな。あのあと、図書館での勉強会や中間試験があったけど……どうだ、あれから心境の変化はないか?」
「うん……やっぱり、めげてちゃダメだって思ってる。大成のことを簡単に諦めるわけにはいかないもん!」
そう言って、握りこぶしを固める上坂部葉月の瞳には、炎が宿っているようにすら感じられた。
以前からも感じていたことだが、上坂部葉月という女子生徒は、真面目な優等生的イメージとは異なり、かなり図太い性格なのかも知れない。
(うん! その意気やよし!!)
と感じたオレは、同席している塚口まことに視線を送り、クラス委員の意志が前向きであることを無言で確認し合う。
そして、上坂部に対して、テスト明けから考えていたこと、大島や浜と話し合って気づいたことを中心にに話すことにした。
まずは、『彼女がいる男性が本命にしたい女性の特長』についての情報共有を行う。
オレが、彼女がいる男性が本命にしたい女性の特長として、
・聞き上手で癒し系
・自立していて魅力的
・家庭的な一面がある
の三点をあげると、上坂部はスマホを取り出して、熱心にメモを取り出した。
こうした生真面目さは、普段の彼女のイメージ通りだ。
「この特長のうち、聞き上手なところや家庭的な面があるところは、上坂部自身の長所なんじゃないか、とオレは思う。だから、これからも、いまの良い部分を忘れないように久々知に接すれば良いんじゃないか、と考えているんだ」
「そうだね、ぼくも上坂部さんのそう言う部分が、久々知くんとお似合いなんじゃないかと思ってるよ」
オレが、自分の考えをまとめて伝え、もう一人の男子生徒が絶妙なアシストを繰り出すとクラス委員の女子は、「ふんす!」と言わんばかりにドヤ顔を決め、
「ありがとう! 二人にそう言ってもらうと、なんだか、自信が湧いてくるよ」
と、感謝の言葉を述べた。
(いや、もう一つの特長では、名和リッカが勝っていそうなんだけどな……)
という個人的な見解を伝えるのは、避けておくことにする。
そして、オレはさらに、上坂部にとって、最大のアドバンテージである「幼なじみ」という属性の強みをまとめて、彼女に伝えることにした。
・唯一無二の安心感と安定感
・「私しか知らない」という特別感
・阿吽の呼吸とフォロー
・恋愛におけるギャップと成長
・共通の知人や思い出
久々知との間に幼なじみという関係性を持っている上坂部には、これだけの強みがあるのだ、ということを丁寧に説明すると、クラス委員を務める女子生徒は、
「我が意を得たり」
と言った感じで、大きくうなずきながら、こちらの話に熱心に聞き入っていた。
ただ、ここで同じくオレの話を熱心に聞いていた塚口まことが疑問の声を上げる。
「あれ? でも、ムネリンは少し前に『幼なじみなんてのは、ラブコメの世界じゃ、報われないキャラクターだ』って言ってなかったっけ?」
ムッ……こいつ、オレが何気なく漏らした一言を良く覚えてるな……。
「まあ、たしかに少し前までは、そういう風潮もあったんだが―――実は、ここ数年でその状況も大きく変わってきてるんだ。特にこの一年くらいは、マンガでもラノベでもゲームでも、魅力があって人気のある幼なじみキャラってのも増えてきているからな。情報は常にアップデートしないと……と、オレも反省しているところだ」
「はぇ〜。そうなんだ」
感心したように返答する男子生徒に対して、女子生徒の方は、
「やっぱり、みんな幼なじみの魅力に気づいているんだね」
と、さらに自信を深めているようだ。
そんな二人の反応を確認した上で、オレは前の日の夜、ドーナツ店で浜小春が言っていた現状の懸念点を正直に伝える。
「オトコが、交際相手に見切りをつけて、新しい相手を求めるときには、次の三つのパターンがあるそうだ。『彼女との関係がマンネリ化してる』『異性に刺激を求めるタイプであること』『自分に自身が持てないタイプであること』――――――。上坂部の視点から、久々知に当てはまっていそうな特長はあるか?」
すると、さきほどまでドヤ顔を披露し、熱意にあふれていた彼女の顔色が途端に曇ってしまった。
そうして、自信なさげにポツリとつぶやく。
「リッカと大成は付き合いはじめたばかりだし……大成の性格から考えても、あとの二つのパターンもあてはまってないかも……」
それまで、スマホでメモを取るために動かしていた手が止まってしまった彼女を励ますために、オレは、口を開いた。
「心配するな、上坂部! 少し長期戦にはなるかも知れないが、久々知の気持ちを上坂部に向かせるための作戦も考えているから、前向きな気持ちを忘れるな!」
つい前のめりになり、自分が意図していたよりも、やや大きめの声が出てしまったことに自分自身で驚いていると、他の客に対して、コーヒーの提供を終えたばかりの店員さんが、やって来て、
「他のお客様もおられますので、お静かに願います」
と、注意を受けてしまった。
※
「すみません」
首をすくめながら謝罪すると、
「はい、気をつけてくださいね」
と言ってから、店員さんは笑顔を見せて立ち去った。
(あのヒト、最初に上坂部が号泣していたとき、オレを指名してフォローさせた店員さんだ)
立ち去る女性店員の横顔をチラリと確認したオレが、そんなことを考えていると、上坂部が、
「ゴメンね、立花くん……私のせいで……」
と、恐縮したようすで謝罪する。
「いや、声が大きくなってしまったのは、オレに責任があるから。このあとは、気をつけるよ」
オレがそう返答すると、彼女は、クスリと微笑んだあと、
「でも、大成の気持ちを振り向かせるために、なにか考えがあるっていうことだけど、それって、どんなことをするの?」
と、たずねてきた。
もちろん、当事者の彼女が、オレのアイデアの中身について確認したい、と感じる気持ちは、しごく当然のことではあるのだが――――――。
だが、しかし……。
先ほど協力要請に応じてくれた塚口まこととは異なり、上坂部葉月に関しては、今回の問題の当事者であるがゆえに内容を知らせてしまうと、たとえ、プロジェクトが成功したとしても、コミニュケーションの取り方によっては、彼女の身近な存在でもある久々知に計画の全容を知られてしまう可能性がある。
その危険を避けるためにも、ある程度のリスクを承知の上で、オレは、あえて上坂部には、今回の計画について、その全て(と言っても大した規模ではないのだが)を説明することは避けることにした。
「まだ、詳しく話せないこともあるんだが……最近、上坂部は他の男子から注目を集めているみたいだからな。そのことを久々知自身も気にしているんじゃないか? ってことを耳にしたんだ。オレは、そこを突こうと思ってる」
少し思わせぶりな雰囲気で、オレがそう語ると、案の定、幼なじみに並々ならぬ感情を寄せている女子生徒は、特定のワードに反応し、
「えっ!? 大成って、私のことを気にかけているの?」
と、ついさっきまで落ち込んでいた表情を一変させ、声を弾ませて、たずねてくる。
「まあ、あくまで、クラスの女子やここに居る男子の意見を信用すると、だけどな……」
久々知と上坂部のカップリングを推している塚口を指差して返答しながらも、期待を持たせ過ぎるのは良くないので、オレは釘をさすが、こちらの言葉は、もう彼女には届いていないようだ。
「へへへ……大成ってば、そうなんだ……フヘヘ」
ダメだ……学年でも三本の指に入ると言われる整った容姿が、制作スケジュールが破綻したアニメ作品のように、作画崩壊を起こしている……。
確信を持てる情報などナニも無いにもかかわらず、幼なじみが、いまだに自分のことを意識している、という認識だけで上坂部葉月の意識は、ファンタジーの世界に転移してしまったらしい。
突然の事故に遭遇したわけでもないのに、意識だけ異世界転移してしまった彼女に、
「まあ、そんなわけで、最初の一手は、オレたちに任せてくれ」
と、声をかけると、ようやく意識が現世に帰還したと思われる彼女は、弾んだ声で返答する。
「うん! ありがとうね、立花くん、塚口くん!」
そして、さらに表情を一変させて、上坂部は、突然こんなことをたずねてきた。
「ところでさ……私のことより、立花くん自身は、クラスや学校で気になっている女子とかは居ないの?」
唐突な質問に面食らっているオレに対して、彼女は、興味津々と言った表情で続けざまに語る。
「私の話をとっても熱心に聞いてくれるし、立花くんみたいに優しい男子なら、女子は放っておかないと思うんだけどな〜」
「あっ、それはぼくも気になるな〜」
なぜか前のめりになっているクラスメートに、オレはあきれながら返答する。
「あのな二人とも……ナニを言ってるか、さっぱりわからないんだが……オレは、クラス内ぼっちの存在だぞ。女子にほうっておかれることにかけては、この校内で負ける気がしないんだが?」
「え〜? そうかな〜? この際だから、照れなくてもイイよ! 私の話をたくさん聞いてくれたから、今度は立花くんのことを聞かせて! 最近、女子と話す機会も増えてるじゃん? たとえば、小春ちゃんのこととかどう思う?」
先日、図書館で怪しげなアプローチを仕掛けてきた上に、上坂部本人にその場面を目撃されかけた名和リッカなら、ともかく……。
なぜ、ここで、いきなり、浜小春の名前が出てくるのか? 意味がわからない。
「えっ、ムネリンは、浜さんと仲が良いの?」
おまけに、教室では後ろの席に座っている男子生徒も女子みたいに話題に食いついて来やがった。
ただ、これ以上、追及されても面倒なだけなので、名前の出たクラスメートについて、思っているところを答える。
「なんで、突然、浜の名前が出てくるのか全然わからないんだが……最近、思ったのは、浜は、良くクラスメートのことを観察してるってことだな。あの特徴的な髪の色もキレイで可愛らしいな、とは思うが……。浜には、他に気になっている男子が居るみたいだぞ? オレなんか、眼中にないよ」
突き放すように返答したのだが、二人は、
「へぇ〜、キレイで可愛らしい髪の色ね〜」
「ふ〜ん、ムネリンは浜さんのことをそんな風に思ってるんだ」
とつぶやき、クラス委員はニヤニヤと微笑む表情を崩さず、一方の男子生徒は何故か少し仏頂面になっている。
なんだか面倒なことに巻き込まれそうな雰囲気になってきたので、
「とりあえず、必要なことは話せたと思うから、準備ができたらプロジェクトを実行するぞ!」
と強引に話を打ち切って、今度の計画をなるべく早く実行に移そうと提案する。
オレは、思わぬ会話の流れから自分に向いてしまった矛先を自身の意識から反らせるため、無理やりにでも、他のことを考えることにした。
そうして、幼い頃に発表会で演じた劇のことを思い出しながら、
(オレは、『泣き虫なケモノのおはなし』に出てきた、黒いケモノのようになれるだろうか?)
と、考えていた。
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