201. 滑稽なモノマネ
ー/ー「くっ……! で、我々と国交を樹立して何をたくらんどる?」
話題を変えようと、レスター三世は鋭い視線でレオンを射抜いた。理想論で勝てないなら、現実の話をするしかない。
「言葉巧みに近寄ってきて、寝首でも掻くつもりなんじゃないのか?」
その問いには純粋な恐怖が込められている。これほどの技術力を持つ国が本気で攻めてきたら――想像するに恐ろしかった。
「安全保障上の懸念をお持ちなのも分かります。ですが、我々から皆様の国へ侵攻する計画はありません」
「そんなの分からんじゃないか! どうやって信じろって言うんじゃ!?」
それは歴史が何度も証明してきた真実だった。平和は長続きしないし、今日の友は明日の敵になる。どれほど美しい理想を掲げても、人間はいつか裏切るのだ。
「正直、我々の技術力は圧倒的です。今この瞬間、王都の宮殿を焼くことすらできる。でもやってないですよね?」
レオンの挑発的な発言に会議場がどよめき、レスター三世はガン! とこぶしでテーブルを叩いた。
「はぁっ!? お主、脅すのか?」
怒りと恐怖が入り混じった声だったが、レオンは首を振った。
「脅してません。そんなことしませんから。技術力を説明しているだけです」
その声には嘘がなかった。本当に脅すつもりはないのだろう。しかしそれがかえって恐ろしかった。脅すまでもなく、脅さなくても事実として圧倒的なのだ。
「力はある、だが攻めない。そんなのどうやって信じろというんじゃ!?」
「んー……あちらを見てください」
レオンは少し考え込んでから窓の外を指さした。そこには青く輝く碧落湖が広がっており、煌めく水面はまるで宝石を溶かしたような美しさだった。
「この湖、碧落湖はどうやってできたかご存じですか?」
レスター三世は訝しげに首をかしげた。湖ができた経緯など考えたこともなく、ただそこにあるものだと当然のように思っていた。
「も、もしかして……十五年前の大爆発……ですかな?」
枢機卿が恐る恐る声を上げる。
「そう、十五年前のこの日、熾天使様が降臨され、神の力で大地を穿ったのです」
「へ?」「はぁ?」「ま、まさか……」
その言葉に会議場の空気が凍りついた。十五年前に大陸を襲った謎の大爆発、あの日空が裂けて大地が揺れ、各国で建物が崩壊した恐怖の記憶が蘇る。世界が終わるのではないかという恐怖だけが人々の心を支配していたあの出来事が、神に連なる最高位の天使によるものだったとは――。
レスター三世は背筋に冷たいものが走るのを感じた。ある意味で神の怒りを意味するそれは、王権神授説を掲げて神の代理人として民を統治してきた諸侯にとって、重大な意味を持つのだ。
「そして……この天の雷は、最初は王都へ向けられていたのです」
「……へ?」
レスター三世は心臓が止まったかというような衝撃を受けた。
「はぁっ!? なななな、なんでそんな話に!? 冗談じゃ済まされんぞ!」
叫び声が喉から絞り出された。
王都へ、自分の国の首都へ、あの天の雷が向けられていた。一歩間違えば十五年前に自分の国は神の力によって消し飛んでいたのだ。声が裏返り、王としての威厳などもはやどこにもなかった。
「熾天使はお怒りでした」
レオンは淡々と、ただ事実を述べているだけだという冷静さで続けた。
「ななな、何にお怒りだったんじゃ?」
震える声で尋ねながら、知りたくない、しかし知らなければならないという相反する思いがレスター三世の胸を締め付けた。
「ん~と、こんな感じでしたよ?」
レオンは肩をすくめ、少し高い声色で当時の言葉を再現した。
『王都にいる人たちって、王侯貴族の言いなりで、旧態依然とした凝り固まった人たちでしょ? 僕からしたら失敗作。意味ないんだよね』
会議場が凍りついて、誰も一言も発することができなかった。
一国の王が女性の声色で再現するその滑稽なシーン。しかし、その滑稽さが逆に中身の恐ろしさを増幅していた。
失敗作、意味がない――創造神たちが自分たちの社会をそう評価し、王都を焼こうとしていたという事実を、どう受け止めればいいのか。
レスター三世は椅子にへたり込み、足も手も震え、世界観が音を立てて崩れ落ちていくのを感じていた。自分たちは神に選ばれた存在だと信じてきた。王権神授説のもと、神が王を選び王が民を導く、それが世界の秩序だと。しかし現実は違った。神は自分たちを見捨てていた。「失敗作」として廃棄しようとしていたのだ。
「ま、まさか……神は本気でこの世界を終わらせるつもり……なのか?」
額に脂汗を浮かべながら問うレスター三世に、レオンは苦笑いを浮かべて答えた。
「いや、ほんと、止めて欲しいんですけどね。彼らなりに何か考えがあって、この世界を廃棄する予定だったそうです」
会議場がどよめき、諸侯たちの顔が蒼白になった。ある者は頭を抱え、ある者は祈りを捧げ、ある者は呆然と虚空を見つめている。廃棄――この世界をゴミのように捨てる。神にとって自分たちはその程度の存在なのかという絶望が、会議場を支配した。
話題を変えようと、レスター三世は鋭い視線でレオンを射抜いた。理想論で勝てないなら、現実の話をするしかない。
「言葉巧みに近寄ってきて、寝首でも掻くつもりなんじゃないのか?」
その問いには純粋な恐怖が込められている。これほどの技術力を持つ国が本気で攻めてきたら――想像するに恐ろしかった。
「安全保障上の懸念をお持ちなのも分かります。ですが、我々から皆様の国へ侵攻する計画はありません」
「そんなの分からんじゃないか! どうやって信じろって言うんじゃ!?」
それは歴史が何度も証明してきた真実だった。平和は長続きしないし、今日の友は明日の敵になる。どれほど美しい理想を掲げても、人間はいつか裏切るのだ。
「正直、我々の技術力は圧倒的です。今この瞬間、王都の宮殿を焼くことすらできる。でもやってないですよね?」
レオンの挑発的な発言に会議場がどよめき、レスター三世はガン! とこぶしでテーブルを叩いた。
「はぁっ!? お主、脅すのか?」
怒りと恐怖が入り混じった声だったが、レオンは首を振った。
「脅してません。そんなことしませんから。技術力を説明しているだけです」
その声には嘘がなかった。本当に脅すつもりはないのだろう。しかしそれがかえって恐ろしかった。脅すまでもなく、脅さなくても事実として圧倒的なのだ。
「力はある、だが攻めない。そんなのどうやって信じろというんじゃ!?」
「んー……あちらを見てください」
レオンは少し考え込んでから窓の外を指さした。そこには青く輝く碧落湖が広がっており、煌めく水面はまるで宝石を溶かしたような美しさだった。
「この湖、碧落湖はどうやってできたかご存じですか?」
レスター三世は訝しげに首をかしげた。湖ができた経緯など考えたこともなく、ただそこにあるものだと当然のように思っていた。
「も、もしかして……十五年前の大爆発……ですかな?」
枢機卿が恐る恐る声を上げる。
「そう、十五年前のこの日、熾天使様が降臨され、神の力で大地を穿ったのです」
「へ?」「はぁ?」「ま、まさか……」
その言葉に会議場の空気が凍りついた。十五年前に大陸を襲った謎の大爆発、あの日空が裂けて大地が揺れ、各国で建物が崩壊した恐怖の記憶が蘇る。世界が終わるのではないかという恐怖だけが人々の心を支配していたあの出来事が、神に連なる最高位の天使によるものだったとは――。
レスター三世は背筋に冷たいものが走るのを感じた。ある意味で神の怒りを意味するそれは、王権神授説を掲げて神の代理人として民を統治してきた諸侯にとって、重大な意味を持つのだ。
「そして……この天の雷は、最初は王都へ向けられていたのです」
「……へ?」
レスター三世は心臓が止まったかというような衝撃を受けた。
「はぁっ!? なななな、なんでそんな話に!? 冗談じゃ済まされんぞ!」
叫び声が喉から絞り出された。
王都へ、自分の国の首都へ、あの天の雷が向けられていた。一歩間違えば十五年前に自分の国は神の力によって消し飛んでいたのだ。声が裏返り、王としての威厳などもはやどこにもなかった。
「熾天使はお怒りでした」
レオンは淡々と、ただ事実を述べているだけだという冷静さで続けた。
「ななな、何にお怒りだったんじゃ?」
震える声で尋ねながら、知りたくない、しかし知らなければならないという相反する思いがレスター三世の胸を締め付けた。
「ん~と、こんな感じでしたよ?」
レオンは肩をすくめ、少し高い声色で当時の言葉を再現した。
『王都にいる人たちって、王侯貴族の言いなりで、旧態依然とした凝り固まった人たちでしょ? 僕からしたら失敗作。意味ないんだよね』
会議場が凍りついて、誰も一言も発することができなかった。
一国の王が女性の声色で再現するその滑稽なシーン。しかし、その滑稽さが逆に中身の恐ろしさを増幅していた。
失敗作、意味がない――創造神たちが自分たちの社会をそう評価し、王都を焼こうとしていたという事実を、どう受け止めればいいのか。
レスター三世は椅子にへたり込み、足も手も震え、世界観が音を立てて崩れ落ちていくのを感じていた。自分たちは神に選ばれた存在だと信じてきた。王権神授説のもと、神が王を選び王が民を導く、それが世界の秩序だと。しかし現実は違った。神は自分たちを見捨てていた。「失敗作」として廃棄しようとしていたのだ。
「ま、まさか……神は本気でこの世界を終わらせるつもり……なのか?」
額に脂汗を浮かべながら問うレスター三世に、レオンは苦笑いを浮かべて答えた。
「いや、ほんと、止めて欲しいんですけどね。彼らなりに何か考えがあって、この世界を廃棄する予定だったそうです」
会議場がどよめき、諸侯たちの顔が蒼白になった。ある者は頭を抱え、ある者は祈りを捧げ、ある者は呆然と虚空を見つめている。廃棄――この世界をゴミのように捨てる。神にとって自分たちはその程度の存在なのかという絶望が、会議場を支配した。
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