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お盆の夜の夢

ー/ー



 これは私の見た夢の話である。

 そう、正気の沙汰ではない。
 なにが興味ないって、他人の見た夢の話ほど、どうでもいいものはこの世にない。
 夏目漱石の『夢十夜』があるが、あれは書いてるのが夏目漱石だからだし、面白くなるように、かなり手を加えているらしい。

 だがそれでも、書くのだ。
 どうせ消そうと思えば、すぐに消せる。



 学生時代に住んでいたアパートに、親友が訪ねてきた。
 私の知らない若い男性を一人、ともなっている。
 その人については特に紹介もされなかった。
 私と友人はしばらく話していたが、私はやがて用事があって席を立った。

 しかし突然、ここで時代劇になる。

 私が腰かけていると、背後にピッタリと、私と同年代くらいの男性が座った。姿は同心のようだ。

「振り向かないでいただきたい」
「何用か?」

 私も、なぜか時代劇口調だ。

「伯母上のお加減はいかがか?」
「……残念ながら、もう長くは」
「……さようか。ではこれを進ぜる」

 渡されたのは、ちょっとお高めの彫刻刀セットのような木箱。

 蓋を開ける。二段重ねになっている。
 一段目。
 筆ペンが一本と、名詞サイズのペラ紙が数枚。
 紙にはこう印刷されている。

『( )月( )日、私は自らの意志で旅立ちます。 氏名(      )』

「これは!?」
「……そなたの伯母上には、とても世話になった」
「世話になった。それだけか?」
「拙者のことはどうでもいい。いざとなれば、苦しまれぬよう、下段の薬を」
「そういうことか……」

 遺書ならもうちょっとちゃんとした紙のほうがいいのではないか。
 しかも無造作にクリップで止めやがる。
 と思いつつ、私は下段を開ける。

「でかっっっ!!!」

 思わず叫ぶ。
 確かに錠剤が数個、入っていた。しかし大きい。
 長さ8㎝くらい、太さも1㎝くらいある。

 こんなもの、常人でも飲み込めまい。
 いや頑張ったらギリいける? うーんどうだろう?
 とにかく、身体の弱っている病人が飲み込めるものではない。

 同心は、笑って言った。

「そういうことだ。簡単にこっちに来られては困る。君も、伯母上も。なるべくゆっくりおいで」

 振り返ると、同心はもう、いなかった。
 夏の夕空に、大きく親友の笑顔が浮かんでいた。
 お前だったのか。


 目が覚めてから、その親友が、もうずっと前、若い頃に亡くなっていたことを思い出した。
 シニカルだが、周囲を笑わせるのが得意な男だった。
 なお伯母も、数年前に亡くなっている。私は事情があって葬儀にも参列できなかった。

 ……連れていたもう一人は、結局、心当たりがなかったが、一体誰だったんだろう?
 若い男性だったのは分かったが、それ以外、どんな外見でどんな顔立ちだったか、まったく記憶にないことに、そのとき思い当たった。



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 これは私の見た夢の話である。
 そう、正気の沙汰ではない。
 なにが興味ないって、他人の見た夢の話ほど、どうでもいいものはこの世にない。
 夏目漱石の『夢十夜』があるが、あれは書いてるのが夏目漱石だからだし、面白くなるように、かなり手を加えているらしい。
 だがそれでも、書くのだ。
 どうせ消そうと思えば、すぐに消せる。
 学生時代に住んでいたアパートに、親友が訪ねてきた。
 私の知らない若い男性を一人、ともなっている。
 その人については特に紹介もされなかった。
 私と友人はしばらく話していたが、私はやがて用事があって席を立った。
 しかし突然、ここで時代劇になる。
 私が腰かけていると、背後にピッタリと、私と同年代くらいの男性が座った。姿は同心のようだ。
「振り向かないでいただきたい」
「何用か?」
 私も、なぜか時代劇口調だ。
「伯母上のお加減はいかがか?」
「……残念ながら、もう長くは」
「……さようか。ではこれを進ぜる」
 渡されたのは、ちょっとお高めの彫刻刀セットのような木箱。
 蓋を開ける。二段重ねになっている。
 一段目。
 筆ペンが一本と、名詞サイズのペラ紙が数枚。
 紙にはこう印刷されている。
『( )月( )日、私は自らの意志で旅立ちます。 氏名(      )』
「これは!?」
「……そなたの伯母上には、とても世話になった」
「世話になった。それだけか?」
「拙者のことはどうでもいい。いざとなれば、苦しまれぬよう、下段の薬を」
「そういうことか……」
 遺書ならもうちょっとちゃんとした紙のほうがいいのではないか。
 しかも無造作にクリップで止めやがる。
 と思いつつ、私は下段を開ける。
「でかっっっ!!!」
 思わず叫ぶ。
 確かに錠剤が数個、入っていた。しかし大きい。
 長さ8㎝くらい、太さも1㎝くらいある。
 こんなもの、常人でも飲み込めまい。
 いや頑張ったらギリいける? うーんどうだろう?
 とにかく、身体の弱っている病人が飲み込めるものではない。
 同心は、笑って言った。
「そういうことだ。簡単にこっちに来られては困る。君も、伯母上も。なるべくゆっくりおいで」
 振り返ると、同心はもう、いなかった。
 夏の夕空に、大きく親友の笑顔が浮かんでいた。
 お前だったのか。
 目が覚めてから、その親友が、もうずっと前、若い頃に亡くなっていたことを思い出した。
 シニカルだが、周囲を笑わせるのが得意な男だった。
 なお伯母も、数年前に亡くなっている。私は事情があって葬儀にも参列できなかった。
 ……連れていたもう一人は、結局、心当たりがなかったが、一体誰だったんだろう?
 若い男性だったのは分かったが、それ以外、どんな外見でどんな顔立ちだったか、まったく記憶にないことに、そのとき思い当たった。