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プロローグ

ー/ー



 私が一夜(ひとや)と出会ったのは、彼が七歳の頃だった。
 私が祀られているのは、言いたくはないが、人気のない寂れた神社だ。

 そんな辺鄙(へんぴ)な場所に、何か特別な理由があるわけでも、誰かと一緒に来たわけでもなく、彼はやって来た。

 信仰が足りなかった私は、球体状の白いモヤのような姿をしている。もちろん人には見えないが。

 幼い一夜は神社の周辺を探索したが、何も面白みのない神社だったため、すぐに飽きてしまった。

 そのまま、一夜は古札所(こさつしょ)で眠ってしまった。こんな神様でも、御利益があるのだろうか。

 一夜の寝顔はひどく落ち着いていて、子供らしい安らかな表情だった。

 夕方になると、今にも泣き出しそうな彼の両親が迎えに来た。
 しかし、一夜は懲りずに次の日も神社に訪れた。

 驚いたのは、参拝の方法を覚えてきたことだ。両親に聞いたのだろうか。

 それから彼は、毎日のように参拝しに来て、気づけばそれが当たり前の習慣になっていた。

 中学生になっても、一夜は神社に訪れた。

 中学生の彼は、幼さを残しながらも大人に近づいていく、何とも可愛らしい容姿だった。

 ほとんど理由もなく参拝しにくることが大半だったが、勉強や部活の願い事が増えた。

 手を合わせ、静かに願う。その面持ちの中には確固たる意志を感じた。

 「学年で十位以内に入れますように」

 「四百メートルで県制覇できますように」

 など、学生らしい願い事。私は人間のことには疎いが、かなり大きな願いではないのだろうか。

 こんな私を頼ってくれていて、唯一と言ってもいい信者の願い。

 絶対に叶えてあげたい。

 しかし、それはできない。

 信仰心が足りないからだ。神様の力は信仰心によって決まる。一人の信者しかいない私には信仰心が足りなかった。

 ただ、何もできないという事実だけが、そこに残る。私にもっと信者がいたら。

 それでも、一夜ならきっとその願いを自力で叶えられるだろう。

 そう信じて、待っていた。

 しかし、結果は県三位で終わってしまったらしい。彼は泣いていた。悔しさのあまり、服を握りしめ、見えないはずの私にすら涙を見せないように、俯いた。

 私は、あの願いが叶う未来を、疑っていなかった。
 だからこそ、県三位という結果は、私にとっても敗北だ。

 十分頑張ったよ。

 そう伝えてあげたいのにできない。

 そして、一夜は受験期に入った。一夜はある程度勉強ができ、部活でも十分な結果を残していたので、推薦で高校を受験したらしい。

 高校受験の結果を私に伝えると、ぷつりと彼が神社に訪れることはなくなった。

 気になる、彼の行方が。唯一の信者がどこに行ってしまったのか。なぜ、ここに来なくなったのか。

 無いはずの胸が、ざわめいた。

 それが不安なのか、予感なのか、私はまだ知らない。


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 私が一夜《ひとや》と出会ったのは、彼が七歳の頃だった。
 私が祀られているのは、言いたくはないが、人気のない寂れた神社だ。
 そんな辺鄙《へんぴ》な場所に、何か特別な理由があるわけでも、誰かと一緒に来たわけでもなく、彼はやって来た。
 信仰が足りなかった私は、球体状の白いモヤのような姿をしている。もちろん人には見えないが。
 幼い一夜は神社の周辺を探索したが、何も面白みのない神社だったため、すぐに飽きてしまった。
 そのまま、一夜は古札所《こさつしょ》で眠ってしまった。こんな神様でも、御利益があるのだろうか。
 一夜の寝顔はひどく落ち着いていて、子供らしい安らかな表情だった。
 夕方になると、今にも泣き出しそうな彼の両親が迎えに来た。
 しかし、一夜は懲りずに次の日も神社に訪れた。
 驚いたのは、参拝の方法を覚えてきたことだ。両親に聞いたのだろうか。
 それから彼は、毎日のように参拝しに来て、気づけばそれが当たり前の習慣になっていた。
 中学生になっても、一夜は神社に訪れた。
 中学生の彼は、幼さを残しながらも大人に近づいていく、何とも可愛らしい容姿だった。
 ほとんど理由もなく参拝しにくることが大半だったが、勉強や部活の願い事が増えた。
 手を合わせ、静かに願う。その面持ちの中には確固たる意志を感じた。
 「学年で十位以内に入れますように」
 「四百メートルで県制覇できますように」
 など、学生らしい願い事。私は人間のことには疎いが、かなり大きな願いではないのだろうか。
 こんな私を頼ってくれていて、唯一と言ってもいい信者の願い。
 絶対に叶えてあげたい。
 しかし、それはできない。
 信仰心が足りないからだ。神様の力は信仰心によって決まる。一人の信者しかいない私には信仰心が足りなかった。
 ただ、何もできないという事実だけが、そこに残る。私にもっと信者がいたら。
 それでも、一夜ならきっとその願いを自力で叶えられるだろう。
 そう信じて、待っていた。
 しかし、結果は県三位で終わってしまったらしい。彼は泣いていた。悔しさのあまり、服を握りしめ、見えないはずの私にすら涙を見せないように、俯いた。
 私は、あの願いが叶う未来を、疑っていなかった。
 だからこそ、県三位という結果は、私にとっても敗北だ。
 十分頑張ったよ。
 そう伝えてあげたいのにできない。
 そして、一夜は受験期に入った。一夜はある程度勉強ができ、部活でも十分な結果を残していたので、推薦で高校を受験したらしい。
 高校受験の結果を私に伝えると、ぷつりと彼が神社に訪れることはなくなった。
 気になる、彼の行方が。唯一の信者がどこに行ってしまったのか。なぜ、ここに来なくなったのか。
 無いはずの胸が、ざわめいた。
 それが不安なのか、予感なのか、私はまだ知らない。