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口裂け 6

ー/ー



 今日も先生が不審者情報を話し始めた。

「昨日の不審者だけど⋯⋯昨日もまた出没したらしいです。今度はドラッグストアの手前にいたらしいので、みなさん今日も気をつけて帰ってくださいね」

 朝の会が終わってすぐ、霊禍(れいか)は机の上に地図を広げた。机に収まりきらないほどの広い紙面に幽魔町全域の情報が詳細に記されている。

「ドラッグストアね⋯⋯ひとまず町内でよかった」

 霊禍は油性ペンを取り出し、定規を使って地図の上に線を引いた。

「こっちが昨日の公園で、そっちがドラッグストア。」

「⋯⋯五芒星か」

「そっ。まぁベタだけど、あの呪物の中身的にはこれで確定でしょ」

 (わたる)の脳内には、呪物内部の中央に構えるおぞましい五芒星の影が浮かんでいた。想像するだけでも気分が悪くなり、どうにか映像を頭の隅に追いやる。

 その様子を気にする素振りすら見せず、霊禍のペンが紙面上を走る。

「一筆書きって前提だと、次の設置ポイントは二パターン考えられるけど、片方は海の中に入っちまうな。となると、次にくるのはここだな」

 霊禍のペン先には、川を横切る橋の地図記号が表記されていた。

「ここの橋⋯⋯僕もよく通るところだ」

「今日の放課後、ここで待ち伏せする。それでいいな」

 亘は表情を変えないまま軽く頷いた。しかし、霊禍の目には、亘の頬にじんわりと汗が浮かび上がっているのが映っていた。



 放課後、二人は橋の上に立ち、河川敷を見下ろしていた。

 橋上の車通りは多いが、河川敷の人通りは少ない。かろうじて細く舗装された歩道が通っているものの、たまに犬の散歩をする人なんかが通りかかるくらいで、活気や喧騒とは無縁の場所に感じられる。

「埋めるとしたら、やっぱあの草むらの辺りだよな」

 霊禍はぼんやりとした様子で呟いた。

 その言葉を最後に、しばらく会話が止んだ。

 霊禍が超感覚を働かせ、周囲数百メートルに警戒網を張っている。この状態になれば、亘に手伝えることなどなくなってしまう。話しかけると邪魔になってしまうし、かといってスマホを見たり他のことをしたりすると、霊禍がなんとなく不機嫌になることも学習済みだった。

 そのため、亘には河川敷の景色を眺めることしかできなかった。退屈ではあるが、亘はこの時間が嫌いではなかった。『沈黙の三年間』が終わってしばらく経つが、それでもやはり、静寂を好む彼の性質そのものは変わっていなかったし、隣に霊禍がいるとなれば、なおさらその時間を味わっておきたいと思うのであった。

「誰か来た。多分あいつだ」

 亘にはその人物が見えなかった。目を限界まで細め、やっとの思いで認識できたその人物は、深緑のジャンパーを着た中肉中背の男だった。こちらの方向に歩いてきている。

「確証は?」

「異様に早歩きだし、動きがぎこちない。あと息が荒い」

「そうか? まぁ、ひとまず行こう」

 二人は橋から移動し、坂の上から男を観察し始めた。



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 今日も先生が不審者情報を話し始めた。
「昨日の不審者だけど⋯⋯昨日もまた出没したらしいです。今度はドラッグストアの手前にいたらしいので、みなさん今日も気をつけて帰ってくださいね」
 朝の会が終わってすぐ、霊禍《れいか》は机の上に地図を広げた。机に収まりきらないほどの広い紙面に幽魔町全域の情報が詳細に記されている。
「ドラッグストアね⋯⋯ひとまず町内でよかった」
 霊禍は油性ペンを取り出し、定規を使って地図の上に線を引いた。
「こっちが昨日の公園で、そっちがドラッグストア。」
「⋯⋯五芒星か」
「そっ。まぁベタだけど、あの呪物の中身的にはこれで確定でしょ」
 亘《わたる》の脳内には、呪物内部の中央に構えるおぞましい五芒星の影が浮かんでいた。想像するだけでも気分が悪くなり、どうにか映像を頭の隅に追いやる。
 その様子を気にする素振りすら見せず、霊禍のペンが紙面上を走る。
「一筆書きって前提だと、次の設置ポイントは二パターン考えられるけど、片方は海の中に入っちまうな。となると、次にくるのはここだな」
 霊禍のペン先には、川を横切る橋の地図記号が表記されていた。
「ここの橋⋯⋯僕もよく通るところだ」
「今日の放課後、ここで待ち伏せする。それでいいな」
 亘は表情を変えないまま軽く頷いた。しかし、霊禍の目には、亘の頬にじんわりと汗が浮かび上がっているのが映っていた。
 放課後、二人は橋の上に立ち、河川敷を見下ろしていた。
 橋上の車通りは多いが、河川敷の人通りは少ない。かろうじて細く舗装された歩道が通っているものの、たまに犬の散歩をする人なんかが通りかかるくらいで、活気や喧騒とは無縁の場所に感じられる。
「埋めるとしたら、やっぱあの草むらの辺りだよな」
 霊禍はぼんやりとした様子で呟いた。
 その言葉を最後に、しばらく会話が止んだ。
 霊禍が超感覚を働かせ、周囲数百メートルに警戒網を張っている。この状態になれば、亘に手伝えることなどなくなってしまう。話しかけると邪魔になってしまうし、かといってスマホを見たり他のことをしたりすると、霊禍がなんとなく不機嫌になることも学習済みだった。
 そのため、亘には河川敷の景色を眺めることしかできなかった。退屈ではあるが、亘はこの時間が嫌いではなかった。『沈黙の三年間』が終わってしばらく経つが、それでもやはり、静寂を好む彼の性質そのものは変わっていなかったし、隣に霊禍がいるとなれば、なおさらその時間を味わっておきたいと思うのであった。
「誰か来た。多分あいつだ」
 亘にはその人物が見えなかった。目を限界まで細め、やっとの思いで認識できたその人物は、深緑のジャンパーを着た中肉中背の男だった。こちらの方向に歩いてきている。
「確証は?」
「異様に早歩きだし、動きがぎこちない。あと息が荒い」
「そうか? まぁ、ひとまず行こう」
 二人は橋から移動し、坂の上から男を観察し始めた。