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口裂け 5

ー/ー



 翌朝の教室。霊禍(れいか)は珍しく時間に余裕を持って登校してきた。亘(わたる)の隣に座り、昨日の呪物を机の上に乱暴に置いた。

「コイツはひでぇ呪物だよ。マジでシャレにならない」

「そんなに?」

「外側の紋章はほんの一部。内側を覗いてみろ」

 亘は言われるがままに、箱の中を覗いた。

 ──一瞬(いっしゅん)、言葉を失った。

 隅から隅までビッシリと刻み込まれた、おびただしい数の呪文と紋章。最奥の五芒星を中心に、無秩序な形で並んでいる。一つ一つの文字の大きさは針の穴よりも小さく、それなのに重厚な存在感を放っている。

 本能が警告する。これ以上この空間を覗いてはならない。その拒否感は、難解な専門書を開いたときのそれに似ていた。だけれども、それ以上に何か、説明のつかない生理的な嫌悪感も覚えた。

 知的拒絶と本能的拒絶の板挟みに耐えきれず、亘はすぐさま呪物の口を下向きにして机に置いた。

「これ、まさか解読を⋯⋯?」

「あたりめーだろ。ざっくりとだけど。五時間くらいかけて」

「また徹夜⋯⋯?」

「完徹じゃねーけどな。どっちにせよ、お姉ちゃんが夜中に泣き始めて寝れなかったから、別にいいんだ。
 ──ってかそんなのどうでもよくて、本題は呪物の効果だっての」

 霊禍は呪物をランドセルに放り込み、椅子に深く座り直した。

「この呪物の効果は、『使用者が強く望んだ幽霊を召喚する』ことだ」

 強く望む。亘はその条件に聞き馴染みがなかった。

「理由は知らんが、この呪物を埋めたやつは、口裂け女を呼び出したくてたまらないらしい。そういう強い情熱が、この薄気味悪い箱の原動力だ」

「ってことは、犯人は口裂け女マニア?」

「そんなマニアがいるのか知らねーけど、まぁそうなんじゃねーの?」

「どうやって探そうかな⋯⋯」

「その辺の算段はもうついてる。その呪物、一個だけで作動してるわけじゃねーからな」

「え?」

「これと同じものが、他に四つ。合計五つでこの召喚は完成する。そういう前提の構造になってんだよ。ちなみに今持ってるのは一つ目だな」

「いやいやいやいや、冗談だろ。もう既に一般人に見えるレベルになってるのに、ここからさらに進化するってこと? だとしたら、召喚が終わる頃には、僕たちの手に負えないレベルに⋯⋯」

「残念ながら、そういうことらしいな」

 亘は黙り込んだ。そうしているうちに、教室に先生が入ってきて、朝の会を始めた。

「亘、そんなビビんなよ。見てらんねーから」

「でも、口裂け女が完成したら、どうしようもなくなる⋯⋯!」

「⋯⋯ひとつだけ解決策がある。たった一つだけど、最も確実な解決策がな」

 亘は顔を上げた。霊禍のキメ顔が眩しい。

「今日中にブッ殺す」


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 翌朝の教室。|霊禍《れいか》は珍しく時間に余裕を持って登校してきた。亘《わたる》の隣に座り、昨日の呪物を机の上に乱暴に置いた。
「コイツはひでぇ呪物だよ。マジでシャレにならない」
「そんなに?」
「外側の紋章はほんの一部。内側を覗いてみろ」
 亘は言われるがままに、箱の中を覗いた。
 ──|一瞬《いっしゅん》、言葉を失った。
 隅から隅までビッシリと刻み込まれた、おびただしい数の呪文と紋章。最奥の五芒星を中心に、無秩序な形で並んでいる。一つ一つの文字の大きさは針の穴よりも小さく、それなのに重厚な存在感を放っている。
 本能が警告する。これ以上この空間を覗いてはならない。その拒否感は、難解な専門書を開いたときのそれに似ていた。だけれども、それ以上に何か、説明のつかない生理的な嫌悪感も覚えた。
 知的拒絶と本能的拒絶の板挟みに耐えきれず、亘はすぐさま呪物の口を下向きにして机に置いた。
「これ、まさか解読を⋯⋯?」
「あたりめーだろ。ざっくりとだけど。五時間くらいかけて」
「また徹夜⋯⋯?」
「完徹じゃねーけどな。どっちにせよ、お姉ちゃんが夜中に泣き始めて寝れなかったから、別にいいんだ。
 ──ってかそんなのどうでもよくて、本題は呪物の効果だっての」
 霊禍は呪物をランドセルに放り込み、椅子に深く座り直した。
「この呪物の効果は、『使用者が強く望んだ幽霊を召喚する』ことだ」
 強く望む。亘はその条件に聞き馴染みがなかった。
「理由は知らんが、この呪物を埋めたやつは、口裂け女を呼び出したくてたまらないらしい。そういう強い情熱が、この薄気味悪い箱の原動力だ」
「ってことは、犯人は口裂け女マニア?」
「そんなマニアがいるのか知らねーけど、まぁそうなんじゃねーの?」
「どうやって探そうかな⋯⋯」
「その辺の算段はもうついてる。その呪物、一個だけで作動してるわけじゃねーからな」
「え?」
「これと同じものが、他に四つ。合計五つでこの召喚は完成する。そういう前提の構造になってんだよ。ちなみに今持ってるのは一つ目だな」
「いやいやいやいや、冗談だろ。もう既に一般人に見えるレベルになってるのに、ここからさらに進化するってこと? だとしたら、召喚が終わる頃には、僕たちの手に負えないレベルに⋯⋯」
「残念ながら、そういうことらしいな」
 亘は黙り込んだ。そうしているうちに、教室に先生が入ってきて、朝の会を始めた。
「亘、そんなビビんなよ。見てらんねーから」
「でも、口裂け女が完成したら、どうしようもなくなる⋯⋯!」
「⋯⋯ひとつだけ解決策がある。たった一つだけど、最も確実な解決策がな」
 亘は顔を上げた。霊禍のキメ顔が眩しい。
「今日中にブッ殺す」