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口裂け 4

ー/ー



 数分間、グレイヴは土を掘り続けた。

 土の中では、何十匹ものミミズがビチビチと蠢いていた。異様なほど密集しており、亘(わたる)の目では、何がどうなっているのかすら判別できなかった。

「うげー。キモっ」

 霊禍(れいか)がそう腐しているうちに、グレイヴがミミズたちを払い除け、その下に埋まっていた硬いものを引っ張り出した。

 それは、土汚れを纏いながらも銀色に輝いていた。

 金属製の直方体。サイズは箱ティッシュに近い。表面には細く複雑な模様が刻まれており、何かの紋様のように見える。

「なんだこりゃ。人工物だろうけど、意図がわからん」

「表面の模様は呪物っぽいけど⋯⋯」

「なんか嫌な臭いがするんだよな⋯⋯。それ多分中身空洞だから、どこか開かないか試してみてくれ」

 グレイヴが箱の側面を掴み、力強く引っ張ると、片方の面が勢いよく外れた。磁石で封をしていたのか、と理解する間もなく、箱の中身がデロリと嫌な音を立てて外に落ちる。

 亘は一瞬、それがピンク色の粘土の塊かのように見えた。しかし、またたく間に広がった鼻を刺す激臭が、その正体を物語っていた。

 それは、かつて生きていた物の肉の塊だった。

 なんの動物のものかはわからない。だけど少なくとも、哺乳類の小動物だ。皮は綺麗に剥がれており、腐った肉の所々(ところどころ)から、骨の先端が見えている。

「うわっマジか!」

「酷いな⋯⋯これは⋯⋯」

 眼球がゴロリと転がり落ちる。

「生贄⋯⋯まだ新しい⋯⋯。臭いも比較的新鮮だし、肉がまだそんなに腐りきってない」

 霊禍の分析は、超感覚によるものとはいえ、怖いほど冷静だった。

「生贄ってことは、召喚術か?」

「その可能性が高い」

 つまり、口裂け女の幽霊は、何者かによって意図的に呼び出された、ということになる。

 亘の背中に鳥肌が立った。今まで幽霊とは何度も戦ってきた。その背後に人間がいるパターンも少しは経験してきた。

 しかし今回のそれは、あまりにも常軌を逸していた。目の前の真っ赤な死骸が、それを嫌というほど認識させてくる。

 亘は横目で霊禍を見た。

 ──笑っていた。

 精神的ショックに対する防衛機制なんかではない、もっと根源的で、野性的な微笑。

 獲物を見つけた猛獣の表情。

「動物いじめるクズはさ⋯⋯。徹底的にやっちまわないとなぁ⋯⋯」

 冷ややかな声が響いた。霊禍の背後の景色が、一瞬だけ歪んだように見えた。亘はなんの言葉も返せなかった。

 この日の調査はこれで終わった。いくら待っても口裂け女は現れず、かといって他に手がかりも見つからなかった。

 二人はこの動物の死骸を別の場所に埋めた。その後、箱型呪物を水飲み場で洗い、霊禍が持ち帰ることになった。

 亘が公園の方を振り返ると、海風が木々を揺らしていた。



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 数分間、グレイヴは土を掘り続けた。
 土の中では、何十匹ものミミズがビチビチと蠢いていた。異様なほど密集しており、亘《わたる》の目では、何がどうなっているのかすら判別できなかった。
「うげー。キモっ」
 霊禍《れいか》がそう腐しているうちに、グレイヴがミミズたちを払い除け、その下に埋まっていた硬いものを引っ張り出した。
 それは、土汚れを纏いながらも銀色に輝いていた。
 金属製の直方体。サイズは箱ティッシュに近い。表面には細く複雑な模様が刻まれており、何かの紋様のように見える。
「なんだこりゃ。人工物だろうけど、意図がわからん」
「表面の模様は呪物っぽいけど⋯⋯」
「なんか嫌な臭いがするんだよな⋯⋯。それ多分中身空洞だから、どこか開かないか試してみてくれ」
 グレイヴが箱の側面を掴み、力強く引っ張ると、片方の面が勢いよく外れた。磁石で封をしていたのか、と理解する間もなく、箱の中身がデロリと嫌な音を立てて外に落ちる。
 亘は一瞬、それがピンク色の粘土の塊かのように見えた。しかし、またたく間に広がった鼻を刺す激臭が、その正体を物語っていた。
 それは、かつて生きていた物の肉の塊だった。
 なんの動物のものかはわからない。だけど少なくとも、哺乳類の小動物だ。皮は綺麗に剥がれており、腐った肉の所々《ところどころ》から、骨の先端が見えている。
「うわっマジか!」
「酷いな⋯⋯これは⋯⋯」
 眼球がゴロリと転がり落ちる。
「生贄⋯⋯まだ新しい⋯⋯。臭いも比較的新鮮だし、肉がまだそんなに腐りきってない」
 霊禍の分析は、超感覚によるものとはいえ、怖いほど冷静だった。
「生贄ってことは、召喚術か?」
「その可能性が高い」
 つまり、口裂け女の幽霊は、何者かによって意図的に呼び出された、ということになる。
 亘の背中に鳥肌が立った。今まで幽霊とは何度も戦ってきた。その背後に人間がいるパターンも少しは経験してきた。
 しかし今回のそれは、あまりにも常軌を逸していた。目の前の真っ赤な死骸が、それを嫌というほど認識させてくる。
 亘は横目で霊禍を見た。
 ──笑っていた。
 精神的ショックに対する防衛機制なんかではない、もっと根源的で、野性的な微笑。
 獲物を見つけた猛獣の表情。
「動物いじめるクズはさ⋯⋯。徹底的にやっちまわないとなぁ⋯⋯」
 冷ややかな声が響いた。霊禍の背後の景色が、一瞬だけ歪んだように見えた。亘はなんの言葉も返せなかった。
 この日の調査はこれで終わった。いくら待っても口裂け女は現れず、かといって他に手がかりも見つからなかった。
 二人はこの動物の死骸を別の場所に埋めた。その後、箱型呪物を水飲み場で洗い、霊禍が持ち帰ることになった。
 亘が公園の方を振り返ると、海風が木々を揺らしていた。