【2】②
ー/ー
「ほらぁ、きれいでしょ? ダイヤモンド。本物よぉ。絵里ちゃんはこんなの見たことないんじゃなーい?」
中身が見える造りの小ぶりなケースに入った裸石。もちろん当時はそんな言葉知らなかったけど。
ダイヤの指輪なら家にもあったわ。お母さんの婚約指輪。お母さんはとっても大切にしてて、特別な時しか嵌めなかった。
鏡台の引き出しの奥に仕舞われてるのも知ってたけど、勝手に持ち出すどころか引き出しを開けようなんて考えたこともないわ。そこまで頭も行儀も悪くないのよ。親にちゃんと躾けてもらってたからね、わたしは。
そりゃあ綾が見せびらかしてたのとは比べ物にもならない小っちゃい石よ。きっとず~っと安物なんだろうしさ。
だけど、お母さんがあの指輪を見る目はすごく温かくて、わたしもいつか結婚するとき好きな人にもらいたい! って夢見てた。
──まだ全然叶ってないけどさ。相手もいないし。
「パパが預かったんだって! すっごい高いんだよ!」
ダイヤがどうこうより、「そんな大事なもの持ち出していいの? この子、ホントにバカなんだな」ってのが率直な感想。
そう、バカだったのよ。呆れるほどに。
綾が嬉々として見せつけた宝石を、父親の書斎の隅の金庫に仕舞うのをわたしは見てた。
だってわざわざわたしを連れて行って、金庫の鍵まで取り出して目の前で堂々とやったんだから。
それも自慢の一環だったんでしょうね。
パパはお金持ちで金庫だって持ってるのよ~ってか!? わーすごーい、って言ってやんなきゃいけなかったのかもねー。
それからわたしは、綾の部屋で脈絡も何もない、辻褄さえ合わないつまらないお喋り聞いてやってた。
途中で綾が席を外したのは一度。トイレに立ったときだけ。
……わたしは綾の習慣には詳しかったの。別に興味もないけど、嫌でも知る機会多かったから。
トロくてだらしない綾は、三年生にもなって自分の家ではトイレで下、──パンツやタイツ全部脱いでたことだって知ってた。
終わった後、もたもた履くのにやたら時間が掛かることも。
パパの書斎は、綾の部屋からはトイレとは逆方向の階段上がって二つ目。ドアに鍵は掛かってない。金庫の鍵の在り処もわかる。
ダイアルロックもついてたけど、何故か使われてなかったことも。
ほんの一時的に置いておくだけだったのつもりだったか、それとも自宅だから油断した? 見る限りは頑丈そうな金庫だったし、鍵も隠してあったしさ。
娘の頭の悪さを見抜けなくて教えちゃった、あるいは偶然知られちゃったのかもしれないけど。それがパパの失態かしら。
綾がトイレから戻ったとき、わたしはあいつが出ていく前のままベッドの下に座ってた。同じ格好で。
──推し量るなんて上等な能力あるわけない綾の中では、わたしはずっと部屋にいたことになってるのよ。
しばらくしてからわたしは家に帰ったわ。もちろん、綾に送られて部屋から玄関直行でね。
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「ほらぁ、きれいでしょ? ダイヤモンド。本物よぉ。絵里ちゃんはこんなの見たことないんじゃなーい?」
中身が見える造りの小ぶりなケースに入った|裸石《ルース》。もちろん当時はそんな言葉知らなかったけど。
ダイヤの指輪なら家にもあったわ。お母さんの|婚約指輪《エンゲージリング》。お母さんはとっても大切にしてて、特別な時しか嵌めなかった。
鏡台の引き出しの奥に仕舞われてるのも知ってたけど、勝手に持ち出すどころか引き出しを開けようなんて考えたこともないわ。そこまで頭も行儀も悪くないのよ。親にちゃんと躾けてもらってたからね、わたしは。
そりゃあ綾が見せびらかしてたのとは比べ物にもならない小っちゃい石よ。きっとず~っと安物なんだろうしさ。
だけど、お母さんがあの指輪を見る目はすごく温かくて、わたしもいつか結婚するとき好きな人にもらいたい! って夢見てた。
──まだ全然叶ってないけどさ。相手もいないし。
「パパが預かったんだって! すっごい高いんだよ!」
ダイヤがどうこうより、「そんな大事なもの持ち出していいの? この子、ホントにバカなんだな」ってのが率直な感想。
そう、バカだったのよ。呆れるほどに。
綾が嬉々として見せつけた宝石を、父親の書斎の隅の金庫に仕舞うのをわたしは見てた。
だってわざわざわたしを連れて行って、金庫の鍵まで取り出して目の前で堂々とやったんだから。
それも自慢の一環だったんでしょうね。
パパはお金持ちで金庫だって持ってるのよ~ってか!? わーすごーい、って言ってやんなきゃいけなかったのかもねー。
それからわたしは、綾の部屋で脈絡も何もない、辻褄さえ合わないつまらないお喋り聞いてやってた。
途中で綾が席を外したのは一度。トイレに立ったときだけ。
……わたしは綾の習慣には詳しかったの。別に興味もないけど、嫌でも知る機会多かったから。
トロくてだらしない綾は、三年生にもなって自分の家ではトイレで下、──パンツやタイツ全部脱いでたことだって知ってた。
終わった後、もたもた履くのにやたら時間が掛かることも。
パパの書斎は、綾の部屋からはトイレとは逆方向の階段上がって二つ目。ドアに鍵は掛かってない。金庫の鍵の在り処もわかる。
ダイアルロックもついてたけど、何故か使われてなかったことも。
ほんの一時的に置いておくだけだったのつもりだったか、それとも自宅だから油断した? 見る限りは頑丈そうな金庫だったし、鍵も隠してあったしさ。
娘の頭の悪さを見抜けなくて教えちゃった、あるいは偶然知られちゃったのかもしれないけど。それがパパの失態かしら。
綾がトイレから戻ったとき、わたしはあいつが出ていく前のままベッドの下に座ってた。同じ格好で。
──推し量るなんて上等な能力あるわけない綾の中では、わたしはずっと部屋にいたことになってるのよ。
しばらくしてからわたしは家に帰ったわ。もちろん、綾に送られて部屋から玄関直行でね。