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最接近5日後 スーパー

ー/ー



ロングテールバイクの太いタイヤが、ひび割れたアスファルトをゴリゴリと踏みしめる。
ユウゴは前でペダルを踏み、ユズは荷台に座って周囲を見渡していた。
倒れた電柱、潰れた商店、割れたガラス。どこを見ても、人の姿は一つもない。

ロングテールバイクのペダルを踏みながら、ユウゴはずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。
「…ウルゴスって、結局落ちてきてないんだよな?」

荷台に座っていたユズは、周囲を見回しながら小さく頷いた。
「うん。
 もし落ちてきてたら、こんなものじゃ済まないと思う」

ユウゴは前を見据えたまま眉をひそめる。
「だよな。
 街はめちゃくちゃだけど…
 地球が終わったって感じじゃないもんな」

ユズは少し考え、白く濁った空を見上げて言った。

「多分…
 地球のすぐそばを通り過ぎていったんだと思う。
 ほんとにギリギリで」

「ギリギリ…?」

「うん。
 衝突はしなかったけど…
 すごく近かったから、引力とか…なんかそういうので、すごく大きい地震が起きちゃったんだと思う」

ユウゴはペダルを踏む足を少し緩めた。
「…じゃあ、あの地震とか、風とか…
 全部ウルゴスのせいってことか」

「うん…
 多分…そうだと思う」

「でも、落ちてきてないなら、まだ地球は大丈夫ってことだよね?」
今度はユズが問いかける。
ユズにしては、ふわっとした問いだったので、ユウゴは少しだけ笑った。
「まあ生きてるしな、オレら」

ユズも小さく笑った。
「うん、生きてる…」

風が吹き、二人の声が静かな街に溶けていく。
ユウゴは前を見据えたまま、ぽつりと言った。
「…他の人がこんなに見当たらないって、変だよな」

ユズは荷台前方のフレームを握りしめたまま、しばらく黙って考え込んだ。
「うん…
 だって、避難所にもいなかったし…
 街にも誰もいないし…」

ユウゴはペダルを踏む足に力を込めた。
「みんな…どこ行ったんだよ…」
今朝、物置小屋を発つ前にユズが発した問いを、今度はユウゴが口にする。

ユズは少しだけ顔を上げ、昨日見た体育館の光景を思い出すように言った。
「ちょっと考えたんだけど...
 避難所が壊れそうだったから、別の避難所に移ったんじゃないかな。
 …バスとかで」

ユウゴは眉をひそめた。

「バス?
 道路、こんなにぐちゃぐちゃなのに、走れないだろ」

ユズは視線を上に泳がせながら答える。
「…じゃあ、自衛隊の車とか?」

ユウゴは少し考えた。
親の運転する車で高速道路を走っている時、たまに見た車高の高い自衛隊のトラックを思い浮かべる。
「ああいう車なら、こんな道でも走れそうだよな…」

「うん。
 だから、みんなどこかに連れて行ってもらったんだよ。
 きっと…もっと安全な場所に」

ユウゴは前を向いたまま、小さく息をついた。
「…だったら、オレらもそこに行きたいよな…」

ユズは荷台の上で、ぎゅっとリュックの肩ベルトを握った。
「うん…行きたい…
 お母さんたちも、そこにいるかもしれないし」

二人はしばらく黙った。
風が吹き、どこかで看板か何かがグワン、と音を立てる。
街は相変わらず静かすぎた。
ユウゴは少しだけスピードを上げる。
「とにかく、水だな。
 水がないと、どこにも行けない」

「うん。
 スーパー、まだ残ってるといいけど…」


ロングテールバイクを漕ぎ進め、時に降りて瓦礫や大きな亀裂を迂回し、二人はようやくスーパーの建物が見える場所まで来た。
ユズが荷台の上で身を乗り出す。
「あっ、あれ…!」

ユウゴもペダルを緩め、前方の大きな建物を見つめた。
だが、近づくほどに、気持ちが沈んでいく。
スーパーは、四角い屋根がそのまま一階部分を押し潰すように崩れ落ちていた。
看板も、入口も、全部、屋根の下に埋まっている。

ユズが悄然と息を吐く。
「これ、入れないよ…」

ユウゴは自転車を止め、しばらく黙って建物を見上げた。
ユズは荷台から降り、入り口を探すようにうろうろしている。
「完全につぶれてる…
 これじゃ、どうにもならないな…」

ユズは唇を噛みしめる。
「…水、どうしよう…
 ここにあると思ったのに…」

ユウゴは深く息を吐き、気持ちを切り替えるように言った。
「…まだあるだろ。
 ホームセンター。
 あそこなら…ほら、保存用の水とか、ろ過?するやつとか、道具も…なんか残ってるかもしれない」

ユズは顔を上げた。
「…ホームセンター…
 うん…
 アウトドア用品とかもあるし、ライトとか寝袋とか…」

ユズは小さく頷いた。
「…行こう。
 ここにいても、何もないし…」

ユウゴはロングテールバイクのハンドルを握り直し、少しだけ強くペダルを踏んだ。

「よし、ホームセンターだ。
 ここから遠くないし、行こう」

ユズは荷台に座り、前を見据えた。
「うん。行こう」

崩れたスーパーを背に、二人は再び荒れた街の中へと進んでいった。


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ロングテールバイクの太いタイヤが、ひび割れたアスファルトをゴリゴリと踏みしめる。ユウゴは前でペダルを踏み、ユズは荷台に座って周囲を見渡していた。
倒れた電柱、潰れた商店、割れたガラス。どこを見ても、人の姿は一つもない。
ロングテールバイクのペダルを踏みながら、ユウゴはずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。
「…ウルゴスって、結局落ちてきてないんだよな?」
荷台に座っていたユズは、周囲を見回しながら小さく頷いた。
「うん。
 もし落ちてきてたら、こんなものじゃ済まないと思う」
ユウゴは前を見据えたまま眉をひそめる。
「だよな。
 街はめちゃくちゃだけど…
 地球が終わったって感じじゃないもんな」
ユズは少し考え、白く濁った空を見上げて言った。
「多分…
 地球のすぐそばを通り過ぎていったんだと思う。
 ほんとにギリギリで」
「ギリギリ…?」
「うん。
 衝突はしなかったけど…
 すごく近かったから、引力とか…なんかそういうので、すごく大きい地震が起きちゃったんだと思う」
ユウゴはペダルを踏む足を少し緩めた。
「…じゃあ、あの地震とか、風とか…
 全部ウルゴスのせいってことか」
「うん…
 多分…そうだと思う」
「でも、落ちてきてないなら、まだ地球は大丈夫ってことだよね?」
今度はユズが問いかける。
ユズにしては、ふわっとした問いだったので、ユウゴは少しだけ笑った。
「まあ生きてるしな、オレら」
ユズも小さく笑った。
「うん、生きてる…」
風が吹き、二人の声が静かな街に溶けていく。
ユウゴは前を見据えたまま、ぽつりと言った。
「…他の人がこんなに見当たらないって、変だよな」
ユズは荷台前方のフレームを握りしめたまま、しばらく黙って考え込んだ。
「うん…
 だって、避難所にもいなかったし…
 街にも誰もいないし…」
ユウゴはペダルを踏む足に力を込めた。
「みんな…どこ行ったんだよ…」
今朝、物置小屋を発つ前にユズが発した問いを、今度はユウゴが口にする。
ユズは少しだけ顔を上げ、昨日見た体育館の光景を思い出すように言った。
「ちょっと考えたんだけど...
 避難所が壊れそうだったから、別の避難所に移ったんじゃないかな。
 …バスとかで」
ユウゴは眉をひそめた。
「バス?
 道路、こんなにぐちゃぐちゃなのに、走れないだろ」
ユズは視線を上に泳がせながら答える。
「…じゃあ、自衛隊の車とか?」
ユウゴは少し考えた。
親の運転する車で高速道路を走っている時、たまに見た車高の高い自衛隊のトラックを思い浮かべる。
「ああいう車なら、こんな道でも走れそうだよな…」
「うん。
 だから、みんなどこかに連れて行ってもらったんだよ。
 きっと…もっと安全な場所に」
ユウゴは前を向いたまま、小さく息をついた。
「…だったら、オレらもそこに行きたいよな…」
ユズは荷台の上で、ぎゅっとリュックの肩ベルトを握った。
「うん…行きたい…
 お母さんたちも、そこにいるかもしれないし」
二人はしばらく黙った。
風が吹き、どこかで看板か何かがグワン、と音を立てる。
街は相変わらず静かすぎた。
ユウゴは少しだけスピードを上げる。
「とにかく、水だな。
 水がないと、どこにも行けない」
「うん。
 スーパー、まだ残ってるといいけど…」
ロングテールバイクを漕ぎ進め、時に降りて瓦礫や大きな亀裂を迂回し、二人はようやくスーパーの建物が見える場所まで来た。
ユズが荷台の上で身を乗り出す。
「あっ、あれ…!」
ユウゴもペダルを緩め、前方の大きな建物を見つめた。
だが、近づくほどに、気持ちが沈んでいく。
スーパーは、四角い屋根がそのまま一階部分を押し潰すように崩れ落ちていた。
看板も、入口も、全部、屋根の下に埋まっている。
ユズが悄然と息を吐く。
「これ、入れないよ…」
ユウゴは自転車を止め、しばらく黙って建物を見上げた。
ユズは荷台から降り、入り口を探すようにうろうろしている。
「完全につぶれてる…
 これじゃ、どうにもならないな…」
ユズは唇を噛みしめる。
「…水、どうしよう…
 ここにあると思ったのに…」
ユウゴは深く息を吐き、気持ちを切り替えるように言った。
「…まだあるだろ。
 ホームセンター。
 あそこなら…ほら、保存用の水とか、ろ過?するやつとか、道具も…なんか残ってるかもしれない」
ユズは顔を上げた。
「…ホームセンター…
 うん…
 アウトドア用品とかもあるし、ライトとか寝袋とか…」
ユズは小さく頷いた。
「…行こう。
 ここにいても、何もないし…」
ユウゴはロングテールバイクのハンドルを握り直し、少しだけ強くペダルを踏んだ。
「よし、ホームセンターだ。
 ここから遠くないし、行こう」
ユズは荷台に座り、前を見据えた。
「うん。行こう」
崩れたスーパーを背に、二人は再び荒れた街の中へと進んでいった。