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第14話【メンバー募集】

ー/ー



 朝の訪れを伝える鳥の囀り。部屋の壁にかけられた時計の秒針が動く音。
 カーテンの隙間から射し込む朝日は、その窓のすぐ下の毛布を照らしている。
 1人用のベッドの上、柔らかい毛布の中で(うずくま)るふたりの少女。互いに互いの体温を求めて身を寄せ合い、静かな寝息を立てている。
 (ひいろ)(あおい)。ふたりの温かな1日は、まず蒼の目覚めから始まる。

 蒼い髪の下、薄目を開ける蒼。瞼の隙間から、明るい星空のような瞳が露わに。
 目と鼻の先にある緋の寝顔。頬に手を伸ばし、顔にかかっている緋色の髪をそっと、細く長い指で退ける。

「おはよう、緋……」

 寝起きの掠れた声をかけ、蒼は緋を抱きしめた。
 その柔らかい温もりを、体全体で堪能する。

「すき……大好き……」

 蒼はその後も、何度も何度も緋をぎゅっと抱きしめ直しては、愛を伝えていた。

 そうしているうちに蒼の意識は覚醒していき、緋も目を覚まし始める。と言っても、まだ呻き声をあげる程度。

「……ん……ぅ……ぁぉぃ……」
「……おはよう。まだ寝ててもいいのよ」
「……ぅん……」
「可愛い……」

 愛する恋人のあまりの可愛らしさに、蒼は我慢できず唇を重ねに行った。

「んっ……」
「……ん」

 甘い声を漏らしながら緋は目を開ける。キラリと光る緋色の瞳に、蒼色の髪を映す。

「……おはよう蒼……」

 緋は蒼の胸の中にうずくまる。

「おはよう緋。起きる?」
「……うん」

 そうは言ったものの、緋はしばらく動かなかった。



◇◇◇



 シャワーを浴び、朝食はお茶漬け。

 土曜日の朝の時間はゆったりと進む。

 リビング横の畳の部屋にて、緋はコーヒーカップ片手に携帯の画面とにらめっこをしていた。
 そこへ蒼もやってきて、緋の肩に寄り添って座る。

「何見てるの?」
「ライブハウス。どこでライブやろっかなって」

 緋が見ていたのは地図アプリで、東京のライブハウスを検索したものだった。

「どれだけ人呼べるかも分かんないし、できるだけ小さい箱にしておきたいと思ってるんだけど」
「そうね……あんまり遠いと大変だし、近場でいいんじゃないかしら」
「それがね、この辺ほとんどジャズバーばっかりなんだよ。で、ライブハウスらしいライブハウスはなんか口コミの評判悪くて……」

 緋は蒼に携帯の画面を見せる。

「……店長がグチグチダメだししてくるタイプ……演者や客が平気で煙草を……ダメ、絶対ダメ」

 蒼は開いたライブハウスの口コミ画面をスワイプして吹っ飛ばす。

「でしょ。やっぱライブハウスって言ったら下北とか新宿になるのかなぁ」

 緋は携帯の画面を消してだらんと腕を下げると、蒼にもたれかかった。

「そうね……でも、今すぐライブ会場決めなきゃいけないわけでもないわよ。オリジナル曲もまだ少ないし、慎重に決めましょ」
「まあ、それもそっか。今はとりあえず、曲作ってファン増やして、ライブハウスの情報集め。あとは……メンバーも欲しいかも」
「メンバー?」
「うん。SKYSHIPS見て、やっぱりロックバンドっていいなって思って。私も蒼もロックバンド聴いて育ったし、やりたい音楽突き詰めたらやっぱりロックバンドになる気がして」
「まあ……確かにそうね。路上ライブでもバンドの曲をツーピースでカバーしてるけど、他にメンバーがいればもっと盛り上がったろうし」
「そ。……特にドラム。ドラムがいれば、ライブも絶対盛り上がるよ」

 緋は先日のSKYSHIPSのライブを思い返していた。
 SKYSHIPSのバンドサウンドの要はドラムだった。
 あの圧倒的なドラムが、全てを引っ張っていた。
 もちろんSKYSHIPSのようなロックがやりたくてドラムを求めているわけではないが少なくとも現状のツーピースでは表現できる幅に限界がある。

「……とりあえず、Twitterでメンバー募集とかライブについて呟いて……路上ライブでもメンバー募集してますって言いながらやってみようと思う」
「ええ」



◇◇◇



 電車に乗り少し都心の方まで。

 幸運なことに駅前の路上が空いており、緋と蒼はそこを今日のライブ会場とした。

 キャリーカートから機材を下ろし、セッティングしていく。

 緋のブームスタンドは、緋の立ち位置の右側に三脚を立て、そこからブームを左へ向け、垂直と言うよりは若干斜め下に伸ばして固定し、その下にピックホルダーをくっつける。
 蒼のブームスタンドは正面から斜め上に伸ばすタイプのセッティング。
 マイクとアンプをケーブルで繋いで、次は楽器。
 緋はジャズマスター、蒼はジャズベースを取り出す。
 エフェクターの少ないボードを置いて、シールドを繋ぐ。
 マイクと楽器の音量を調節し、Twitterに開始ツイート、最後、「バンド『<Chandelier>』メンバー募集中!特にドラム!できれば女子!」なんて貼り紙をマイクスタンドに貼りつけておいて準備完了。

 緋と蒼は目を合わせ、ライブを始める。

「初めまして<Chandelier>と言います!今からライブやるので良かったら聴いていってくださいっ!This one's called 『city night』」

 少しの間を置いて、緋は三本指で持ったピックで弦を弾く。
 5弦の解放、から3フレットを抑え、Dサス4、Cアド9コードを抑えたアルペジオからストローク、ベースと合わせてリズムを取る。
 弾き語り(バラード)らしい優しい曲調で、昼の都会に夜の煌びやかな夜景を映し出す。
 緋はマイクに口を近づけ、歌詞を口ずさむ。
 ぴったりと息のあったベースラインとリズムギターに、声でメロディを付ける。

 素通りする人も多いが、少し離れたところでひとり、ふたりと、人の足が止まるのが緋には見えていた。

 緋と蒼は体を揺らし、頻繁にアイコンタクトをとりながら、演奏を進める。

 三本指で持つ三角のピックが6本の弦を上へ下へと撫で続け、その度に柔らかいオーバードライブの音が鳴り響く。
 手の動きと合わせて体全体で動き、サビ前でヘッドを前の方に持ち上げて振り下ろし、その勢いを音に乗せる。

 緋のボーカルに綺麗にハモる蒼のコーラス。ギターとベースの重なり合いと共に、声さえも重ね、ふたりは音を通じてひとつになっていた。

 そんな1曲目『city night』の演奏を終えると、ほんの数人の観客(オーディエンス)からパチパチとまばらな拍手が鳴る。

「ありがとうございました!」

 緋は頭を下げ、「続けて……」と次の曲の演奏に入ろうとした。

 しかしその時、見覚えのある紫髪のボーイッシュ少女が通りかかり、そして彼女は足を止めた。

「──あれお前ら、この前の下北(しもきた)ん時の!」

 ──SKYSHIPSのドラムス、曇紫音だった。



……To be continued


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 朝の訪れを伝える鳥の囀り。部屋の壁にかけられた時計の秒針が動く音。
 カーテンの隙間から射し込む朝日は、その窓のすぐ下の毛布を照らしている。
 1人用のベッドの上、柔らかい毛布の中で蹲《うずくま》るふたりの少女。互いに互いの体温を求めて身を寄せ合い、静かな寝息を立てている。
 緋《ひいろ》と蒼《あおい》。ふたりの温かな1日は、まず蒼の目覚めから始まる。
 蒼い髪の下、薄目を開ける蒼。瞼の隙間から、明るい星空のような瞳が露わに。
 目と鼻の先にある緋の寝顔。頬に手を伸ばし、顔にかかっている緋色の髪をそっと、細く長い指で退ける。
「おはよう、緋……」
 寝起きの掠れた声をかけ、蒼は緋を抱きしめた。
 その柔らかい温もりを、体全体で堪能する。
「すき……大好き……」
 蒼はその後も、何度も何度も緋をぎゅっと抱きしめ直しては、愛を伝えていた。
 そうしているうちに蒼の意識は覚醒していき、緋も目を覚まし始める。と言っても、まだ呻き声をあげる程度。
「……ん……ぅ……ぁぉぃ……」
「……おはよう。まだ寝ててもいいのよ」
「……ぅん……」
「可愛い……」
 愛する恋人のあまりの可愛らしさに、蒼は我慢できず唇を重ねに行った。
「んっ……」
「……ん」
 甘い声を漏らしながら緋は目を開ける。キラリと光る緋色の瞳に、蒼色の髪を映す。
「……おはよう蒼……」
 緋は蒼の胸の中にうずくまる。
「おはよう緋。起きる?」
「……うん」
 そうは言ったものの、緋はしばらく動かなかった。
◇◇◇
 シャワーを浴び、朝食はお茶漬け。
 土曜日の朝の時間はゆったりと進む。
 リビング横の畳の部屋にて、緋はコーヒーカップ片手に携帯の画面とにらめっこをしていた。
 そこへ蒼もやってきて、緋の肩に寄り添って座る。
「何見てるの?」
「ライブハウス。どこでライブやろっかなって」
 緋が見ていたのは地図アプリで、東京のライブハウスを検索したものだった。
「どれだけ人呼べるかも分かんないし、できるだけ小さい箱にしておきたいと思ってるんだけど」
「そうね……あんまり遠いと大変だし、近場でいいんじゃないかしら」
「それがね、この辺ほとんどジャズバーばっかりなんだよ。で、ライブハウスらしいライブハウスはなんか口コミの評判悪くて……」
 緋は蒼に携帯の画面を見せる。
「……店長がグチグチダメだししてくるタイプ……演者や客が平気で煙草を……ダメ、絶対ダメ」
 蒼は開いたライブハウスの口コミ画面をスワイプして吹っ飛ばす。
「でしょ。やっぱライブハウスって言ったら下北とか新宿になるのかなぁ」
 緋は携帯の画面を消してだらんと腕を下げると、蒼にもたれかかった。
「そうね……でも、今すぐライブ会場決めなきゃいけないわけでもないわよ。オリジナル曲もまだ少ないし、慎重に決めましょ」
「まあ、それもそっか。今はとりあえず、曲作ってファン増やして、ライブハウスの情報集め。あとは……メンバーも欲しいかも」
「メンバー?」
「うん。SKYSHIPS見て、やっぱりロックバンドっていいなって思って。私も蒼もロックバンド聴いて育ったし、やりたい音楽突き詰めたらやっぱりロックバンドになる気がして」
「まあ……確かにそうね。路上ライブでもバンドの曲をツーピースでカバーしてるけど、他にメンバーがいればもっと盛り上がったろうし」
「そ。……特にドラム。ドラムがいれば、ライブも絶対盛り上がるよ」
 緋は先日のSKYSHIPSのライブを思い返していた。
 SKYSHIPSのバンドサウンドの要はドラムだった。
 あの圧倒的なドラムが、全てを引っ張っていた。
 もちろんSKYSHIPSのようなロックがやりたくてドラムを求めているわけではないが少なくとも現状のツーピースでは表現できる幅に限界がある。
「……とりあえず、Twitterでメンバー募集とかライブについて呟いて……路上ライブでもメンバー募集してますって言いながらやってみようと思う」
「ええ」
◇◇◇
 電車に乗り少し都心の方まで。
 幸運なことに駅前の路上が空いており、緋と蒼はそこを今日のライブ会場とした。
 キャリーカートから機材を下ろし、セッティングしていく。
 緋のブームスタンドは、緋の立ち位置の右側に三脚を立て、そこからブームを左へ向け、垂直と言うよりは若干斜め下に伸ばして固定し、その下にピックホルダーをくっつける。
 蒼のブームスタンドは正面から斜め上に伸ばすタイプのセッティング。
 マイクとアンプをケーブルで繋いで、次は楽器。
 緋はジャズマスター、蒼はジャズベースを取り出す。
 エフェクターの少ないボードを置いて、シールドを繋ぐ。
 マイクと楽器の音量を調節し、Twitterに開始ツイート、最後、「バンド『<Chandelier>』メンバー募集中!特にドラム!できれば女子!」なんて貼り紙をマイクスタンドに貼りつけておいて準備完了。
 緋と蒼は目を合わせ、ライブを始める。
「初めまして<Chandelier>と言います!今からライブやるので良かったら聴いていってくださいっ!This one's called 『city night』」
 少しの間を置いて、緋は三本指で持ったピックで弦を弾く。
 5弦の解放、から3フレットを抑え、Dサス4、Cアド9コードを抑えたアルペジオからストローク、ベースと合わせてリズムを取る。
 |弾き語り《バラード》らしい優しい曲調で、昼の都会に夜の煌びやかな夜景を映し出す。
 緋はマイクに口を近づけ、歌詞を口ずさむ。
 ぴったりと息のあったベースラインとリズムギターに、声でメロディを付ける。
 素通りする人も多いが、少し離れたところでひとり、ふたりと、人の足が止まるのが緋には見えていた。
 緋と蒼は体を揺らし、頻繁にアイコンタクトをとりながら、演奏を進める。
 三本指で持つ三角のピックが6本の弦を上へ下へと撫で続け、その度に柔らかいオーバードライブの音が鳴り響く。
 手の動きと合わせて体全体で動き、サビ前でヘッドを前の方に持ち上げて振り下ろし、その勢いを音に乗せる。
 緋のボーカルに綺麗にハモる蒼のコーラス。ギターとベースの重なり合いと共に、声さえも重ね、ふたりは音を通じてひとつになっていた。
 そんな1曲目『city night』の演奏を終えると、ほんの数人の観客《オーディエンス》からパチパチとまばらな拍手が鳴る。
「ありがとうございました!」
 緋は頭を下げ、「続けて……」と次の曲の演奏に入ろうとした。
 しかしその時、見覚えのある紫髪のボーイッシュ少女が通りかかり、そして彼女は足を止めた。
「──あれお前ら、この前の下北《しもきた》ん時の!」
 ──SKYSHIPSのドラムス、曇紫音だった。
……To be continued