第35話 転校生はサークル・クラッシャー?
ー/ー 午後8時―――。
夕食を終えて、自室に戻ったオレは通話アプリの着信表示にすぐに応答する。
「おつかれ〜! なんか不穏なメッセージが来てたけど……もしかして、アンタ、女の子になにかしたの?」
応答ボタンをタップして聞こえてきたワカ姉の声にオレは即答する。
―――オレが、相手になにかしたんじゃなくて……オレがされた側なの!
「はあ? 宗重が女の子になにかされたって……夢の中の話とかじゃなくて?」
―――失礼だな! いくらオレでも、そんなことワカ姉に相談しないよ。
そう言って、反発したオレは、図書館での勉強会をすることになった経緯と、その勉強会開始直後に起きた出来事について説明した。
「ふむり……宗重が、美少女の転校生ちゃんから、そんなセクハラまがいの行為をされるなんて、にわかには信じられないけど―――そこまで描写が具体的なら、どうやら、夢の話って訳でもなさそうだね」
―――だから、そう言ってるじゃん! とにかく、あの女子のアプローチの仕方がヤバかったんだって! 図書館の休憩スペースで壁際に追い詰められて、「いまは――――――私のことだけを見てほしいな……」なんて言われたときには、旧劇場版『エヴァンゲリオン』の挿入歌が頭の中に流れたレベルだもん!
「あぁ、『甘き死よ、来たれ』か……相手と一緒にドロドロに溶けてしまいたいって? まあ、私たちにとっては、わかりやすい表現だけど、こんな時までアニメの話が出てくるなんて、これは、甥っ子の育て方を間違えたかな?」
―――いや、たしかに、自分でも「こんなシチュでもアニメかよ」って思うけどさ……いまは、そんなことより、こういうヤバいケースの対処方法を教えてよ。マジで困ってるんだから。
「いや、ウチらの友だちの結婚式の新郎新婦入場の時に、この曲が流れたときの居たたまれなさに比べたら、軽いもんでしょ? 歌詞の内容から考えて、『結婚は人生の墓場』って言いたかったのかな? あの曲、バッハのカンタータが原曲になってるカノン進行の楽曲だから、日本人の嗜好にはあってるだろうけどさ……」
―――いや、劇場アニメの挿入歌の思い出話やウンチクはイイからさ……。
「わかったよ。じゃあ、あらためて確認なんだけど……その転校生ちゃんには、交際相手がいるんだよね?」
―――あぁ、前にも言ったかもだけど、転校してきてから2ヶ月足らずで、クラス委員の男子と付き合い始めたことを公言してる。
「あぁ、これはアレだな……」
―――アレって、なにさ?
「大学の部活や社会人サークルで言うところのサークルクラッシャー。高校生で、そう言う存在が居るってのは、あんまり多くないと思ってたけど……」
―――えっ、サークルクラッシャー……?。
その言葉を耳にして、オレは言葉を失ってしまった。まだ、大学生や社会人にはなっていないので、サークル活動の経験は無いのだが、その悪名高さは、高校生のオレでも認識している。
サークルクラッシャー:趣味の集まりなどの閉鎖的なグループ内において、複数の異性と色恋沙汰(恋愛トラブル)を起こしたり、自己中心的な行動を取ったりして人間関係を壊し、グループを崩壊に導く人物を指す俗語。
ワカ姉に指摘されて、その定義をあらためて考えれば、オレが感じている名和リッカの周辺のキナ臭さは、クラス委員の二人との三角関係しかり、オレに対する今日のアプローチの仕方といい、すべて恋愛感情に関わるもので、サークルクラッシャーの行動にモロに当てはまる。
「うん、ボディタッチが多いこと、愛嬌があって甘え上手なこと、ゲーム感覚で異性を落とすこと……他にもあるけど、いま聞いた宗重の話じゃ、転校生ちゃんはサークラ女子の条件に当てはまってる部分があるかもね」
―――そ、そんな相手にターゲットにされたなんて……オレは、いったいどうすれば……。
「いやいや、そんなに怯えなくても大丈夫だって! 八尺様に狙われた男の子じゃあるまいし」
ワカ姉は、インターネット掲示板が起源とされている身の丈2.4メートルの長身の妖怪の名前を挙げて、ケラケラと気楽に笑う。
―――いや、オレにとっては、八尺様に魅入られたくらいの話だって。クラス委員と付き合ってることになってる女子の色恋沙汰に巻き込まれるなんて、呪いそのものじゃん。しかも、こっちには、クラスにほとんど味方がいないって言うのに……。
オレの悲痛な叫びも届かないのか、ワカ姉は「あぁ、はいはい……まだ、高校生なんだし、そこまで警戒することもないと思うけどねぇ」と軽く受け流すのみだ。
それでも、頼りになる親類は、
「ま、どうしても、気になるなら、いまから言うことに気をつけておくんだね」
そう言ってアドバイスを授けてくれた。
・可能な限り接する機会を減らし、物理的、精神的に距離を置く。
・下手に批判して敵意を向けられないよう、相手の自尊心を傷つけない配慮する。
・陰口や嘘が発覚した場合は、事実を記録して証拠を残す。
・相手のペースに乗ったり、感情的にならず冷静に対応する。
・リーダーや信頼できる人に相談する。
ワカ姉の助言をまとめると、以上のようになる。
「触らぬ神に祟りなしって言うけど、本当に転校生ちゃんが警戒する必要のある相手なら、なるべく、そばに近寄らないことが、一番の対策だね」
そう言って会話を切り上げた叔母の一言にはうなずくしか無いが、こちらが避けようとしても、向こうから接近してくる場合には、どう対処すれば良いんだよ……と、オレは頭を抱えるしかなかった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
作者の他の作品
この作者の他作品はありません。
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。