訪問者
ー/ー 冬口のある日。
大学での講義を終え、そのままバイトへ出勤し、宅アパートへと帰宅した夜の二十一時過ぎ頃のこと
夕飯にレトルトのカレー湯煎していた最中、ピーンポーンと部屋のインターホンが鳴る。
受話器を手に取ると、
「三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
訪ねてきたのは隣室に住むササノさんのようだった。
「あー、ありがとうございます。部屋のドアノブに掛けておいて貰っても良いですか?」
「すみませーん。三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
返答が聞こえなかったのか、受話器の向こうからは再度同じ言葉が繰り返される。
「あのー、ドアノブに…「すみませーん、三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
ササノさんは気の良い中年の女性で、こんな訳の分からない悪戯をするような人では無い。
こっちの声、聞こえてないのか?
受話器が壊れたのだろうか。
「…のササノです、回覧板を届けに来ました」
ドアの向こうから漏れてくるのは受話器越しに聞いたのと同じ言葉の繰り返し。
確かにササノさんの声だが明らかに様子がおかしい。
違和感が拭えずドアの覗き穴から外の様子を伺うと、
「すみませーん、三〇一のササノです。回覧板を……」
誰もいなかった。
人影一つとして存在しておらず、ただ声だけがドアを挟んだすぐ向こう側で繰り返される。
途端に恐ろしくなり、声も出せず足が固まった。
ただドアの向こうにいる何かに気付かれないよう、荒くなる呼吸を必死に押し止める。
じっとりと冷や汗が滲み、その場に立ち尽くしたまま五分、十分と時間が過ぎ、ふっと唐突に声が止んだ。
それでもすぐには動けず、暫くその場で息を殺し続け更に五分程。
おそるおそる覗き穴をもう一度覗くが、やはりそこには影一つ存在しなかった。
台所の方でピピピとコンロの安全装置が鳴る。
覚束ない足取りで台所に戻って火を止め、リビングの椅子に座り込んだ。
結局その日は何をする気もおきず、温めたカレーの封もきらぬまま布団へ潜り寝てしまった。
翌週、同じ階の三〇四号室に住んでいた男性が亡くなっているのが発見された。
事件性は無い事故死だったそう。
あの姿の見えない訪問者が関係していたのかは分からない。
大学での講義を終え、そのままバイトへ出勤し、宅アパートへと帰宅した夜の二十一時過ぎ頃のこと
夕飯にレトルトのカレー湯煎していた最中、ピーンポーンと部屋のインターホンが鳴る。
受話器を手に取ると、
「三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
訪ねてきたのは隣室に住むササノさんのようだった。
「あー、ありがとうございます。部屋のドアノブに掛けておいて貰っても良いですか?」
「すみませーん。三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
返答が聞こえなかったのか、受話器の向こうからは再度同じ言葉が繰り返される。
「あのー、ドアノブに…「すみませーん、三〇一のササノです。回覧板を届けに来ました」
ササノさんは気の良い中年の女性で、こんな訳の分からない悪戯をするような人では無い。
こっちの声、聞こえてないのか?
受話器が壊れたのだろうか。
「…のササノです、回覧板を届けに来ました」
ドアの向こうから漏れてくるのは受話器越しに聞いたのと同じ言葉の繰り返し。
確かにササノさんの声だが明らかに様子がおかしい。
違和感が拭えずドアの覗き穴から外の様子を伺うと、
「すみませーん、三〇一のササノです。回覧板を……」
誰もいなかった。
人影一つとして存在しておらず、ただ声だけがドアを挟んだすぐ向こう側で繰り返される。
途端に恐ろしくなり、声も出せず足が固まった。
ただドアの向こうにいる何かに気付かれないよう、荒くなる呼吸を必死に押し止める。
じっとりと冷や汗が滲み、その場に立ち尽くしたまま五分、十分と時間が過ぎ、ふっと唐突に声が止んだ。
それでもすぐには動けず、暫くその場で息を殺し続け更に五分程。
おそるおそる覗き穴をもう一度覗くが、やはりそこには影一つ存在しなかった。
台所の方でピピピとコンロの安全装置が鳴る。
覚束ない足取りで台所に戻って火を止め、リビングの椅子に座り込んだ。
結局その日は何をする気もおきず、温めたカレーの封もきらぬまま布団へ潜り寝てしまった。
翌週、同じ階の三〇四号室に住んでいた男性が亡くなっているのが発見された。
事件性は無い事故死だったそう。
あの姿の見えない訪問者が関係していたのかは分からない。
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